去にし辺よりの復讐者


去にし辺よりの復讐者


era4、嘗て海底に没した旧時代の戦艦に触れた賢人レドールは、思い出した。
遥か過去に「境井夢子」という一人の少女であった自身と、大切な人達に起きた悲劇の記憶が流れ込む。
その時、レドールはこの村が悠久郷に取り込まれてからずっと見続けていた『苦しみ』の意味、そしてここへ来た際の幻聴の答えを得た。


それは惨劇の記憶――


精神トランス装置を介して偶然にも観測してしまった《向こう側》――


死して後、魂だけの存在となった時に見た望郷の夢――

全ては過去に起こった事、魂の奥底に閉じ込め、忘れていた記憶。
思い出させたのは――『私』自身。
この艦には、境井夢子の魂を持つ者の接近と共に発動する魔術が施されており、村諸共に悠久郷に取り込まれて以来、ずっとレドールに呼び掛け続けていたのだ。
――思い出せ――と。

艦の入り口に掛けられた空間移送魔術は、紛れもなく彼女の得意とする『境界』の能力であった。
ただし、レドールが用いるマナを媒介とした魔術ではなく、艦に施されていたのは霊力を用いた旧き魔術だった。

此処で、旧き魔術の特徴を説明せねばならない。
一つ、旧き魔術には「術の発動に必要な霊力」と「術の持続に必要な霊力」の2つを、術の発動までに「全て」用意し、消費する先払い方式が取られている。
「術の発動に必要な魔力」とは別に「術の持続に必要な魔力」を「逐次」用意するか、周囲から取り込む機構を要するマナを媒介とした魔術とは性質が異なる。
『利便性』――術の発動に多大な時間か自身の身を切る方法を取る旧き魔術が廃れ、自然現象を具現するという点で圧倒的に扱いやすい現在の魔術が広まった一因である。
そしてもう一つ。旧き魔術最大の特徴は、一度発動された魔術は「持続に必要な霊力」が尽きるまで、永続して効力を発揮するという点だ。
例え術者が死亡しようと、世界から霊力が消えようと、貯蔵した霊力が続く限り何百年だろうと持続する。

こうして、艦は境井夢子の境界の能力を以って、この時代、悠久郷に現れるまで隠匿され続けた。
長らく村外れの砂漠に在りながらも、村人に発見されたのがつい最近だったのは、術の維持に必要な霊力が尽きたからであり、
境井が煩わされていた『苦しみ』や幻聴の理由が判明しなかった原因でもあった。

加えて、レドールが境界の能力で悠久郷と外界を結界で隔てた直後に入り込んだ村の謎にも説明が付く。
艦の入り口に施された『進入と通過の境界』を操作する結界の作用が、空間の歪みに引き摺られて、空間の距離という形で『時間』にも影響を及ぼしていたのだ。
艦内部への侵入が可能な全ての個所に同様の魔術が仕掛けられ、これが空間と時間の歪みを引き起こした為に
『魔力の伝播に数ヶ月を要する距離の短縮』という形で世界は収束した。

こうして、全てを思い出したレドール/境井夢子は、この地球(ほし)の遍くを救うべく偽りの神抗い、敗北した――。

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era4 事件
最終更新:2025年01月01日 13:37