モンスターボールGTその1


「「お邪魔しまーす!」」
この町で最も大きな建物、ウツギポケモン研究所…
のび太とドラえもんがそこに入っていくと、既に先客のジャイアン、静香、出木杉…………おまけにスネ夫がソファーに腰掛けていた。スネ夫はジャイアンの陰に座っていたせいでのび太からは全く見えなかった。身長が小さいというのは不幸なものである。下手をすると存在そのものを忘れられかねないので気をつけなければならない…
「君もポケモン貰いに来たのかい? えっと…君のそれは被り物か何かかな?」
「…違います。僕は22世紀の技術が詰まった新世代の猫型ロボット、ドラえもんです」
「僕は野比のび太です。決して伸びたり縮んだりしないので安心してください」
「あ、ああ、ドラえもん君とのび太君ね。ポケモンならちょっと待っててくれ。今は君達より早く来たお客さんをあっちの部屋で待たせているから…」
眼鏡を掛けた地味な風格を持つこの研究所の博士、ウツギはそう言うなりこの部屋とは別の部屋の方へそそくさ入っていく。
まだポケモンを貰えない…のび太達は拍子抜けし、ジャイアン達が座っているソファーの向こう側に腰掛ける。やはりジャイアンは不服そうだった。
「あの野郎…この俺様を待たせるとはどういうつもりでいやがんだ!俺は天下無敵のガキ大将だぞ!? 客がなんだろうが知らねぇが許さねぇ…」
早くポケモンを貰えるとばかり思っていた彼は特に頭にキていた。自分が世界の中心だと考える者の典型的なエゴイズムである。同年代として見ていて恥ずかしい…のび太とドラえもんはブツブツ愚痴を溢すジャイアンから離れて座った。
「どんなポケモンを貰えるのかな? のび太君はどんなのが良い?」
腰掛けた直後、隣の少年から尋ねられる。その声はのび太の恋敵、出木杉英才のものだった。彼は勉強からスポーツ、ゲームに関しては何から何までパーフェクトで、ゲームに至っては「ゲームも良いけど、簡単すぎるんだよね」という彼の台詞は余りにも有名である。
この美少年の代表みたいな顔を見ると、のび太はつくづく自分が馬鹿馬鹿しくなり、劣等感を持たずにはいられなくなる。だが別に彼を嫌っている訳ではない、寧ろその逆、彼には色んなところで助けてもらっているし、自分もあんな風になれたらなと憧れてすらいる。のび太は愛想良く答えた。
「やっぱり強そうなポケモンが欲しいなぁ… どんな人が相手でも、負けないようなポケモンが良いよ」
「そう… そんなパートナーを貰えたら良いね」
「うん! 出木杉はどんなのが良い?」
「僕? そうだな… 強いポケモンも良いけど、やっぱり僕と相性が良いパートナーが一番良いかな?いくら強くても、使いこなせないと意味を成さないからね」
それは僕に対する嫌味か出木杉君…
出木杉に悪気は無いのだが無意識に人を傷付けてしまうところがある。人付き合いが苦手な性分らしい…

「私はどんな子でも良いけど可愛いポケモンが一番良いわねー」

二人の会話を聞いていた静香は話に横から入ってくる。静香は出木杉とは反対に人付き合いが得意だ。本格派ダメ人間から天下のガキ大将、ボンボンドラ息子に天才少年、挙げ句の果てには未来から来た猫型ロボットという普通ではない連中と仲良く出来る明るさと気さくなところを持っている。のび太は彼女のそんなところに無意識に惹かれたのかもしれない… 第三者としてドラえもんはそう思っていた。

五人と一匹はそれから一時間近く待ち続けた。なにやってんだウツギ…誰もが痺れを切らそうとしていた。やはり彼らは若いのである…
「ウオオオォォ―っ!!!」
「ジャ、ジャイアン!?」
待ちきれない…この中でもぶっちぎりに短気なジャイアンは訳も無く雄叫びを上げる。とうとう獣になってしまったか…愚かなり剛田武…スネ夫は哀れな少年を思いやる悟り切った瞳を覗かせた。だがそれでもジャイアンは吠え続ける…まるで群れからはぐれてしまった行き場の無い狼のような雄叫びを、いつまでもいつまでも上げていた。
「いくら海のように広い俺様の心でも、これ以上待っていられるか! お客様だかなんだろうが、俺様の方が偉いに決まっている! 俺は行くぞ!!」
ジャイアンは額に無数のシワを寄せてウツギが入っていった部屋に向かおうとする。これは危険だ、まあまあ棒を使えば爆発してしまうような怒りを感じていた。
「ジャイアン!それはいくらなんでも失礼だよ!僕たちは何のアポも無くここに来たんだから、待たされるのは仕方ないって!」
「黙れドラえもん!! 俺は最強なんだ… 天才のガキ大将、ジャイアンなんだぞ!? その俺様を待たせるなど、許される事ではない!」
「とりあえず落ち着いてよ!」
「ウツギ博士の都合も考えて武さん!」
「コノブタゴリラガ…」
スネ夫、静香も彼の暴走を止めようとするがジャイアンはおさまらない。幸運にもどさくさに紛れて言ったのび太の悪口は彼に聞こえていなかった…
「あの眼鏡野郎が!!」
ジャイアンはズシズシと足音を立てながらウツギが居る部屋に近づき、そのドアノブに手を掛ける。勢いのまま開こうとした刹那、彼の手を何者かが掴んだ。物凄い握力だ…ジャイアンは狂気溢れる眼を握っている手の少年に向ける。
「いい加減にしないか武君!」
「出木杉…!」
その少年は出木杉英才…唯一ジャイアンと素手で渡り合える男だ。流石の出木杉も彼の行為には見逃せないものがあったようだ。
「チッ!わかったよ!」
ジャイアンは不服な表情のまま彼の手をほどき、再びソファーに腰掛ける。とりあえず暴走は阻止された…一同はホッと胸を撫で下ろす。出木杉には感謝してもし尽くせない…
「出木杉さん、かっこ良かったわ」
「かっこの問題じゃないよ… 皆だって険悪な雰囲気で旅立ちたくないだろう? 僕だって心地よく冒険を始めたいからね」
「でもすごいわ出木杉さん、あの武さんを落ち着かせるんだもの」
「そうかい?」
出木杉め…やはり君は僕がこの手で倒さなくちゃいけないみたいだな。
のび太はとても良いムードの静香と出木杉を鬼気せまる目付きで睨み付ける。

*1
この時、のび太とジャイアンの心は重なっていた。普段は越えられない壁でも、ポケモンバトルならという可能性を信じる彼らは似た者同士なのかもしれない。

それから20分ぐらいの時間が経過して、ようやくウツギが部屋から出てきた。彼の手には五つのモンスターボールが抱えられている…
のび太達は長らく待ったこともあり、思った以上に興奮したようだ。一斉にウツギの元に集まる。
「いやあ、随分待たせてしまったね。何の連絡も無しに来たもんだから驚いたよ、さあここにある五つのボールの中から1つずつ… ってあれ? ひいふうみぃ… なんと!一つ足りないじゃないか!」
「おいおい…」
「頼りないのは見た目だけにしてほしいぜ」
のび太達はウツギの事を完全に呆れていた。ジャイアンはもう怒る気にもなれないようだ…
ボールが一つ足りない…確かにのび太達はドラえもんを含めた数は6人、何を間違えたのかウツギが持ってきたモンスターボールは明らかに数が不足している。
(やっべ、あの子が目に入らなかった。しっかりしなきゃ駄目だなぁ…)
ウツギにはスネ夫が小さくて姿が見えなかったのだ。存在を忘れられてしまうとは実に憐れな少年である。当の彼はそんな事を知る訳もないが…
「参ったな…今研究所にはこのポケモン達しか用意してないんだ」
「「それはひどい!」」
五人と一匹は口を揃えて言い返す。余りにもウツギの対応が酷すぎるからだ。確かにアポ無しで来たので対応しきれないのはあるかもしれないが、それぐらいの事態は研究所を任された者として予想するべき事だ。大体ポケモン研究所なのに五匹しか用意出来ないというのはおかしい。それがどれ程彼が無能であるか疑わせた。
「あの人絶対友達居ないよね…」
「ああ、きっといつもクリスマスの夜を一人で過ごしてるんだぜ?」
「つーかあの人ボタン外れてね?2つほど…」
「本当だ、あの状態でさっきまでお客さんと話してたんだ… やだね~」
ウツギの目の前でこそこそ話し合っているジャイアンとスネ夫とのび太、しっかりその会話を聞いているウツギはもはや涙目だった。少し大袈裟なんじゃないか…出木杉は1人だけ彼に同情した。
「あのー、何でしたら僕はポケモンいいですよ。空のモンスターボールでも貰えば適当に野生のポケモンを捕まえますから…」
「良いのかい? …すまない… 僕の対応が悪かったばかりに…」
「いえ、僕は気にしませんよ」
気が弱いけどウツギは優しい人だ…出木杉はそんな印象を受けた。彼から空のモンスターボールを受け取ると、一人野生ポケモン探しに研究所から出て行った。
「流石出木杉君だなぁ…」
思わずのび太はそう口漏らす。まるで同年代とは思えないぐらい立派だ。いつか僕もあんな事を言えたら良いなと思った。
「じゃあ俺様から選ばせてもらうぜ」
それに比べてこのブタゴリラは…もう少しだけ謙虚になれないのだろうか?ジャイアンは眼力でのび太達を押さえつけ、意気揚々とウツギが差し出したボールから一つを貰い受ける。
「コイツは何だ?」
「出してみなよ」
「おっし、出てこい俺様のポケモン!」
ジャイアンはウツギに勧められ、早速受け取ったポケモンを繰り出した。そのポケモンは青い身体に白い腹、粒羅な瞳にまん丸な耳をしている。スネ夫を始め一同は噴出した。そのポケモンはこのガキ大将に素晴らしいぐらい似合わないポケモンだったのだ。

「マ…リルだとォォッ!!」

青きそいつの名はマリル、可愛らしい容姿をしている為、ペットとして接する人が続出しているらしいポケモンだ。静香は可愛い!と絶賛しているが、天下のガキ大将のパートナーとしてはミスマッチもいいところ、ジャイアンの顔は面白くなさそうだった。
「フフッ、ジャイアンにしては意外なポケモンだったね」
「なんだと? チッ、お前もさっさと選べよ」
「ウフフ、良いだろう、これが僕のパートナーだ!」

スネ夫はジャイアンと入れ替わる形でウツギからポケモンを貰い、そのまま素早くボールを投げつけた。
「タッツーか…」
中から現れたそのポケモンを見て、スネ夫はクールに名前を呟いた。だが、彼は自分のポケモンがタッツーで、内心舞い上がっていた。
(やった…僕はタッツーという力を手に入れた! キングドラになれば安定して強い!勝てる! 僕は最強の力を手にしたんだー!!)
良いポケモンを貰った。スネ夫は元々尖っている口をさらに尖らせ、不気味な笑みを浮かべていた…
「ジャイアン…君が叩きのめされる時が来た。この僕によってね」
「フンッ、強気だなスネ夫。良いぜ、表に出ろ。ポケモンバトルでギッタンギッタンのメタメタにしてやる」
ポケモンを貰った二人は早速バトルをしに外へと出ていった。どちらが勝つのだろうか…
今度は静香が前に出る。そしてのび太とドラえもんの目を交互に見やり、私が先で良いかと許可を貰った。ウツギからボールを受け取る…
「えい!」
掛け声を言い放ち、ポケモンを繰り出す。そのポケモンはトゲピー、のび太の個人的な意見ではマリルより可愛いポケモンだ。静香は当然のようにトゲピーを気に入り、同じくトゲピーも静香が気に入ったらしい。彼女に抱き抱えられ、嬉しそうな顔をする。
(あいつ…オスだな…)
こんな時にだけのび太の感性はよく働く。トゲピーの様子を一目見て性別を読み取った。だがのび太とてポケモンに嫉妬するほど小さい男ではない、というかどうでも良かった。静香がトゲピーをボールに戻して、研究所を去るのを見送った後、彼もポケモンを貰った。早速出してみる…
「…ポッポ…」

この気持ちを何と表現すれば良いのか、長い間憧れていたポケモン世界…そこに自分はこうして来る事が出来た。そして貰った最初のポケモン、それがポッポなのだ。この世界ならどこにでも居るようなポケモン、ポッポ…GBAソフト、リーフグリーンを何度もプレイした事のあるのび太はこのポケモンの希少価値の無さを随分知っているつもりだ。まさか本物のポケモン世界を冒険する上でのパートナーがそのポッポになるとは夢にも思わなかった。否、思いたくなかった…
「はあ…」
ため息が漏れてしまう…横ではドラえもんが貰ったポケモンを頭に乗せていた。そのポケモンはイーブイだった。残り物には福があったということか…
「ポポ…」
ポッポは先程からのび太の方を見ている。その目付きはとても穏やかで、のび太が理想とする強そうなポケモンの目とはかけ離れていた。
「ポッポ…」
のび太は覚悟を決めた。ポッポが強くないポケモンだとしても、自分の力で強くしてあげれば良い、何事も見た目で判断してはならないのだ。よく見れば結構カッコいいではないか、のび太はそう自らに言い聞かせた。
「一緒に頑張ろう!」
ポケモンはどんなのでも良い、一緒に頑張れる仲間ならどんな強さでも関係無いのだ。ポッポはのび太を受け入れ、力強く頷く。その目付きは今度は頼もしく見えた…

「ドラえもん!」
「ん?」
ポッポをボールに戻し、のび太はドラえもんの元に歩み寄る。彼と一緒に冒険しようと思ったのだ…
「ドラえもん、一緒に…」
「のび太君、僕は1人で旅をしたいって思ってるんだ」
「えっ?何言ってるの?」
ドラえもんに話しかけようとしたが、逆に話しかけられた。のび太の反応は天地がひっくり返ったかのようだった。
「のび太君、実は君を成長させる為にポケモン世界に連れて来たんだ…」
「えっ?どういうこと?」
「君はちっとも成長していない… それは僕が君を甘やかしすぎているからだと最近思ってた。だから君はこれから1人で旅をするべきなんだ。僕が居なくても良いようにする為に…」
「…わかったよ…ジャイアン達も1人で旅するんだろうし、僕も君に頼りすぎてたからね…」
「ありがとう」
のび太は割とすんなりドラえもんの提案を受け入れてくれた。彼自身、このままではいけないと感じているのだ。今こそ自分を変えるチャンス、ポッポと共に成長してみせると胸に誓った。
「それじゃあね、また会おう!」
「うん!」
ドラえもんは勢い良く研究所のドアを開き、そして表に飛び出した。続いてのび太も…
未知なる世界での冒険…それが生み出すのは何か?答えはまだ、誰も知らない…しかしこれから巻き起こる少年少女の冒険は、後に歴史に刻まれる事となるだろう…
「…色々と変わった子達だったなぁ…」

研究所に残る青年、ウツギ博士はやっと出ていったかと疲労を露にしていた。まさかポケモンを渡すだけでこんなに疲れるとは思ってもみなかった。

「彼ら、きっと素晴らしい才能を持っていますよ」

その時、背後から若い男の声が耳に入った。ウツギはのび太達にポケモンを渡すまで、彼と話をしていたのである。
「才能って… 君はあの子達の顔すら見てないじゃないですか」
「顔なんか見なくても潜在能力くらい感じれますよ。それにしても彼ら、どうやらこの世界とは違う場所から来たようだ…」
声の主はもう帰るのか、研究所を出ようとドアを開く。赤い服を着た170cmぐらいの若い男、彼の特徴を言ったらそんなところだろう。
「ウツギ博士、今日は長い時間を頂戴してもらってすまなかった。もう会うことはないでしょう…」
「そうかい、君と話せて楽しかったよ。そんな事言わないでまた来なよ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
赤服の男は無言のまま研究所を後にする。その表情は複雑な事を考えているように見えた。
「レッド君…」
離れていく後ろ姿…ウツギはやるせない気持ちで彼の名を呟く。「赤」の名を持つ青年はのび太達が向かった方向へと消えていった…

最終更新:2009年10月21日 23:18
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*1 出木杉…ポケモンバトルで負かしてやるからな…