太陽は沈み、道に光が無くなる。真っ暗な空の下で、のび太と赤帽子の青年は薪を燃やして、ショップで販売しているような缶詰食品を開けて食べていた。もちろんこの食料は青年が用意した物であって、のび太の物ではない。のび太は冒険する上で食料を持っていくことを忘れていたのだ。
「美味しいですねこれ…」
「だろ?これは木の実から出来ているんだ」
「へぇ~、もしかしてこの世界の人っていつも木の実を食べてるんですか?」
「まあそうだな、僕達は木の実と野菜を食べて暮らしている。この世界にはポケモンと人間以外存在してないからね。最近まで数種類動物が居たんだけど全て絶滅してしまった… だからもう、ここには食べれる肉なんてないんだ。」
「肉が無いんですか…」
それを聞いてのび太はぞっとする。つまりこの世界にはハンバーグステーキは愚かフライドチキンも何も無いのだ。正直言って肉の無い食生活など彼には想像出来なかった。
「はは、慣れればそんなに気にならないよ。木の実って言っても種類がたくさんあって、その中には肉みたいな種類のだってあるんだ。取れるカロリーやたんぱく質も充分だし、食の栄養バランスも崩れない。むしろ余分な脂肪が入らなくてバランスが良くなってるぐらいだ」
「そ、そうなんだ…」
とりあえず肉が無くても苦にならないようだ。栄養がどうのこうのいうのは彼の知能では全く分からないがそれだけ分かった。
「…………………」
「…………………」
話題が無くなったことで、その場に沈黙が走る。クチャクチャと食べる音しか聞こえないこの空気はなんとも気まずいものである。
「さてと…」
赤帽子の青年は缶詰めの中身を綺麗に平らげ、持参しておいたゴミ袋の中へ押し込む。布で口元を軽く拭くと、同じくこれを食べ終えたのび太と目を合わせる。
「…あの… ダメですか?」
始めにのび太が口を開く。青年からはなんとも表現しにくい表情が垣間見えた。
「ああ、弟子入りの話だったな… 残念ながらそれは断る。今の君の実力では僕の修行に着いてこれない」
「着いていけるように頑張ります!だから僕を弟子にしてください!」
「ほう、随分と弟子入りに執着するな。何故なんだ? 君は元々別の世界の人間だ。ポケモンバトルが強くなったとしても、意味があるのか?」
「それは… それは……」
上手く答えられないのび太は言葉を詰まらせる。確かに自分はこの世界の者ではない。どうせ元の世界に帰るのだから、ポケモンバトルが強くなっても何の役にも立たないだろう。だがのび太は退くつもりはなかった。それは出木杉やジャイアン達には負けたくないという強い思いがあるからなのだろうか、彼の意志は固く強い。
767 :モンスターボールGT ◆XbJjp4HhQQ:2009/04/15(水) 21:11:05 ID:5/btAyDI
「…僕は元の世界ではいつもいじめられて、友達に助けてもらっていた。自分じゃ何も出来ないし言いたいことも何も言えない… だから変わりたいんです!ひょっとしたらポケモンが強くなれば弱虫なんて言われなくなって、ドラえもんにも信じてもらえるかもしれないから…」
「きっかけ作りか、理由にはなっているな。子供がポケモントレーナーになった理由を聞くと大抵そんな意見が出てくる。君もそんな子供の一人というわけか…」
「もう泣き虫で、弱虫の野比のび太なんて言われたくないんです! だからお願いします!僕を弟子にして、ポケモンバトルを教えてください!!」
普段では考えられないほど強い口調になったのび太はコラッタの時と同じように深々と土下座する。彼の熱意は誰が見ても明らかなものだ。赤帽子の青年はしばし無言な状態だったが、一歩二歩と彼の元に踏み寄った。
「僕がいつ君にバトルを教えないと言った?」
「へっ?」
青年から放たれた言葉は予想から大きく外れたものだった。顔を上げるのび太の顔はきょとんとして、実に間抜けだ。それが可笑しく見えた青年は思わず噴出してしまう…
「ははは、土下座までするとはな!やっぱ君は色々凄い奴だ」
「じゃ、じゃあ弟子にしてくれるんですか?」
「だが断る」
「はっ?」
赤帽子の青年はあくまでのび太の弟子入りは認めないようだ。 どっちなんだよ…段々と苛立ってきた。しかしここで怒ってはいけない、ここは我慢の時だ。のび太は自身にそう言い聞かせる事で心を落ち着かせる。
「弟子入りを認める気はさらさら無い。だが君にポケモンバトルというものを教える気はある。良いだろう、明日から修行だぞ」
「えっと… ええっ!?」
状況がさっぱり把握出来ない少年が一名…野比のび太は混乱する。
(って事はあれか… 弟子にはなれないけど、この人から色々教えてもらえるって事なんだよね?)
問う者は誰も居ない、だがのび太は自身で勝手にそう解釈する。すると奥の底から喜びが込み上がっていき、元気が沸いてきた。自然と彼の顔に笑顔が浮かぶ。
「やったー!!」
純粋な彼は心から歓喜する。彼のような強いトレーナーから指導を受ければ、自分も強者の一人となれるかもしれない… そう思ったからこそ、彼はとても嬉しかった。
(あの喜び方、まるで子供だな… あっそうか、彼は11歳だった…)
リュックサックの中から寝袋を取り出し、赤帽子の青年はフッと笑う。この時の彼の心情には何処か深いものがあった。
「もうこんな時間だから、これで寝ろ。どうせ寝袋も持ってないんだろ?」
「は、はい… ありがとうございます…」
青年から寝袋を渡され、のび太は両手でそれを受け取る。野宿の事を考えてなかった彼は準備が手薄過ぎたなと少し後悔した。
「あなたはここで寝ないんですか?」
ふとのび太は尋ねる。何故なら彼が持っていた寝袋は一つだけ、もう一つ足りないからだ。それに気づいたのび太は普段より頭が冴えている気がした。
「寝袋なんて僕には必要無い。僕はキキョウシティのポケモンセンターで一泊してくるよ」
「えっ? 今なんて…」
再び理解出来ない発言をした赤帽子の青年はそれを聞き返すのび太をスルーする。そして懐から赤と白の球体、モンスターボールを取り出した。
「悪いが頼む、リザードン」
青年が繰り出したポケモンはオレンジ色の身体、巨大な翼、炎が燃える尻尾、竜のような姿を持つポケモン、リザードンだった。突然現れたそのポケモンの風貌にのび太は圧倒される。そんな彼を他所に青年はリザードンの背にすっと乗り込んだ。
「野宿なんて御免だからな、明日の朝ここに来る。」
「“そらをとぶ”ですか? それなら僕を乗せてっても…」
「甘えるな、旅での野宿も一つ経験になる」
「そんな…」
理不尽である… のび太としても野宿などしたくないに決まっている。それなのになんて気前の悪い人だ。のび太は心底そう思った。
「悪いな、このリザードンは一人乗りなんだ。のび太は無理だよ」
「スネ夫みたいなことを… 二人くらい乗れるじゃないですか…」
「朝6時には起きろよ、またな」
「無視ですか」
なんとも考えている事が分からない人である。彼から受けた印象はそれが最も強い気がする。しかしのび太から見て彼は悪い人ではない雰囲気を感じた。
リザードンのそらをとぶで今まさに飛ぼうとする彼を見て、のび太はあることを思い出した。まだ聞きたい事があるのだ。
「あの、あなたの名前、何ですか? 教えてください!」
これからバトルを教えてもらう者として、彼の名前ぐらい知らねばならない。それが常識というものだろう。今まで聞かなかったのが不思議かもしれない… 赤帽子の青年はのび太に背を向けたままその名を名乗る。
「僕の名はレッドだ。少しの間だがよろしく」
リザードンは巨大な翼を大きく羽ばたかせ、足元の砂が巻き上がる。そして空高く飛び上がると一瞬にしてこの場所を飛び去っていった。のび太はその速さに呆気に取られてしまう…
「すごい…」
ポケモントレーナーレッド、自分はとんでもない人を相手にしてしまったのだ。一気に心拍数が上がる。
「それにしてもあの人、やっぱり似ているよなぁ…」
レッドから渡された寝袋の中に入りながら小さく呟く。実を言えば最初会った時から気にかかっていた…
レッドという青年は自分がプレイした事のあるゲームソフト、リーフグリーンの主人公とよく似た面影を感じたのだ。もしかしたら…
「まっ、どうでもいいや、寝よ」
細かい事は考えない、考えても仕方ない。のび太は1日の疲れを癒す為、ぐっすりと眠りについた。
最終更新:2010年01月17日 18:57