青年の17年の生の中にあって、それは、初めて彼が抱く感情であった。端的に言えば青年は、恋に、落ちてしまったと言う事である。

 彼女は青年が通っている学校から、二駅位離れた所にある、有名なお嬢様学校。そこの生徒だった。
青年の通う公立高校、その男子生徒にとっては、憧れの場所であった。其処では挨拶は徹底して『ごきげんよう』、父母の呼び方は『お父様、お母様』。
そんな、まるで漫画の中に出て来る狙い過ぎた学校そのものである事が、諸人に広く知れ渡っていた。そんな淑やか、かつ、華やかな女性の花園。そうと皆が信じているのだし、実際その世界は、あったのだと。目の前の女の子を見て、確信に至った。

 小柄な身長が特徴的な女性である。今日日の小学生ですら、彼女より育った背丈の少女などザラに見られるであろうと言う確信すら、抱ける程であった。
まるで、中学生の頭ぐらいの時期から、成長が止まってしまったかのようにも、思えてならない。
身長の小ささに反比例するかのように、その身体つきは女性的で豊かだった。胸も、尻も。成程、――卑しくはあるが――大人の女性としての基準を大きく満たしていた。
わけても、その顔立ちだった。精緻な人形を思わせるような整った、左右が完全な線対称。兎に角顔立ちが良かった。
青年の乏しい語彙力は、その顔を見た瞬間、凛々しいと言う言葉と可愛いと言う言葉。どちらを使うべきか、判別に迷った程だった。何れにしても、否定的なフレーズを挟む余地は全くない、綺麗な顔であった。

「さしあたってはこれで良し、ですね」

 女性は、ふぅ、と一息ついて青年に微笑みかけた。
痛さで青年は、呼吸をするのも苦しい程だったが、思い込みの力と言うのは凄まじいもの。
女性の笑みが麻酔か、鎮痛剤にでもなっているかのように、痛みを和らげてくれているのである。魅力的な女性は、ただいるだけで、痛みを抑えてくれるというのであろうか。そうと思わずには、いられなかった。

「私が出来る事は此処までです。後はそちらで、治療費なり入院代なり慰謝料なりを思いっきり分捕ってさしあげて下さい」

 ニッコリと笑いながら言う事とは思えない、大層に物騒な言葉を言い放つ女性。
それを受けて、青年のそばで申し訳なさそうに立ち尽くしていた、見た所大学生位の年齢に見える男が、居づらそうにその肩を縮こまらせた。
よく耳を欹てて見れば、小さな声で、「すいません……」と呟いたのが、聞こえたであろう。

 委縮しているその男性が乗っている自転車と、歩道を歩いていた高校生の男子との、接触事故だった。
自転車を漕いでいた方の男も、接触の際に思いっきりコントロールに失敗し、横転。衣服が擦り切れて身体に傷を負う程の怪我を負ったが、言うまでもなく、自転車にぶつかった男子の方が、
ダメージの度合いとしては深刻であった。自転車に当たった男子にとっての不幸中の幸いだったのは、自転車そのものは大してスピードを出していなかった事であろう。
そして、自転車を漕いでいた側の不幸……と言っても完全なる自業自得なのだが、運転中にスマートフォンを操作しながらの、ながら運転であった事と、
ブルートゥースイヤホンで音楽を更に聴いていながらの運転であったという事であろうか。そして止めに、目撃者が大勢いた。
自転車と歩行者の事故であるのなら、余程、歩行者側に非があった場合を除けば、自転車側が責の多くを被るのが常である。
今回に限って言えば歩行者側の男子高校生には何ら非がなかったばかりか、自転車側にのみ一方的に非があると言う始末である。何せ、ながら運転とよそ見のダブルパンチである。
これで、事故を起こした側の男が大きく出れる筈がない。借りて来た猫さながらに、大人しくなるしかなかった。


 女性は、そんな、事故の瞬間を目撃した人物の一人だった。
男子が事故にあったのを見るや、直ぐに駆けつけ、適切な応急処置を行い、今に至る、と言う訳であった。
幸いにも骨は折れてなかったが、それでもやはり、ぶつかったのが自転車だ。打ち身が酷いし、内出血もかなりしている。尾を引く痛みになる事だろう。
数日、事によっては週単位で、鈍痛と付き合う生活を余儀なくされるであろうし、いやいやもしかすれば、レントゲンを撮ってみたら骨にヒビが……という事もあり得るだろう。

 だからこそ、思いっきり治療費をふんだくってやれ、と言う話だった。
状況はどう見たとて、自転車に乗っていた側に非がある事は明白である。何十万の出費は、最早確定しているも同然だ。
「保険、入っておけば良かった……」と静かに呟く大学生風の男の声を聞きながら、女性は、屈んでいた状態から立ち上がり、思いっきり伸びをする。
道路脇に男子を退かすのと、楽な体勢にする事と、ぶつかった場所の応急処置まで。全部彼女の手腕であった。功労者、と言っても良い。

「本当でしたら、救急車が来るまで待つべきなのでしょうが……。申し訳ございません、急ぎの用事がございますので。この辺りで、失礼させて頂きます」

 そう言って、男子高校生に一礼をし、この場から立ち去ろうとする女性であったが、「あ、待って……!!」と呼び止められる。
疑問気な顔で振り返る。痛みに堪えながら、男子高校生が口にしたようであった。

「そ、その……」

「?」

「れ……、連絡先……こ、交換しませんか……」

 まさかまさかの、このタイミングでの攻めの姿勢。
己の懐をまさぐり、スマートフォンを取り出し、これを掲げ始めた男子高校生を見て、少女は、ニッコリ微笑みながらこう告げた。

「それの修理費も請求した方が良いですよ」

 そう告げてから、少女は背を向け、足早にその場から去って行った。
青年がフラれた事を認識するまで、後七秒程。その間、青年は、自分のスマートフォンの液晶部分がビッシリとヒビで覆われている事に気付いていなかった。


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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 北区は滝野川に建てられているその一軒家は、明らかに、近隣の戸建てよりも1、2グレード程上であろう事が伺える、立派な外観を誇っていた。
先錯覚の類ではないと解る程に、家そのものが、両隣のそれよりも大きい。二回り以上は、優にあるだろう。
庭が、ある。全面天然芝、芝刈り機で丁寧に整えられた青々とした芝生で、これだけで、近隣家屋の敷地面積程度はある程であった。
シャッター付きのガレージがある。つまりは車庫だ。とは言えこれについては、ある、と言うだけで、車は中に収められていない。
海外で仕事をしている父と母が、国外に輸送して仕事に使っているからである。

 名を『胡蝶しのぶ』と言うこの少女が、中学に入学するまでは、揃って貿易商を営んでいる両親は一緒に過ごしていたと言う。
何でも、親の寵愛と目を必要とする最低限の年齢が、小学校の卒業まで、と言うのが両親の持論であったらしく、娘がその年齢に至るまでは、
例え金になると解っていても国外の仕事は断っていたと言うのである。しのぶが中学に入学するや、海外からの仕事も引き受けるようになり、滅多な事では日本に帰ってこなくなってしまった。
今しのぶが通っている中高エスカレーターの女子校に入ってから今に至るまで、両親が揃って、日本の土を踏んだ日はトータルで1ヵ月、あるかなしかと言う程少ないらしいではないか。

 別に、薄情だとはしのぶは思わない。
金の為に働くのは当然の事であるし、その為により割の良い仕事を着手するのは当然の成り行きである。
そうするのが当たり前であるのに、儲け話を蹴ってまで、我が身が小学校を卒業するまで一緒にいてくれた、と言うのなら、寧ろ何とも情に篤い父母ではあるまいか。
特に悪し様に言う心算はない。況して、赤の他人なのである。褒めて称えるのが、筋と言うものであろう。

 ――そう。赤の他人。
聖杯戦争の参加者としてこの世界に招かれた折に、しのぶに宛がわれた、医学部受験を控えた女子校生と言うそのロール。
異世界から招かれた彼女にこの役割を強いさせた際に生じる矛盾を解消させ、かつ、ロールを円滑に進ませる為の措置の一つ。
それがこの、本来のしのぶが知る己の両親、『ではない』両親と、本来のしのぶの知る両親が就いていた定職、『ではない』定職に従事すると言う事実な訳だ。

 混乱がなかった訳ではない。
突如脳内に挟み込まれた、存在しない、そもそも聞いた事もない知識と経験の数々。そしてこれを、既知の概念として当然の様に理解して、応用している自分、
今が大正の世から百年近くを経た令和の時代である事も、この時代に於いては最早刀は骨董品の類である事も、スマートフォンなる驚く程便利な代物がある事も、
水を汲みに行く必要はまるでなく蛇口を捻れば飲み水が何処でも飲める事も、都内の至る所に移動出来る電車網が張り巡らされている事も。全部、しのぶは理解していた。

 だがそれよりも特筆し、驚くべき情報が、聖杯戦争なる知識である。
上に挙げた令和の時代に生きる上で必要な知識の後付け。その全てが、聖杯戦争を円滑に遂行する為の付随物に過ぎないのだ。
つまり比率として、聖杯戦争に対する知識の方が遥かにウェートを割かれており、それ以外の全ての知識は、おまけ。スキマや空隙を埋める為のパテ、なのである。

 要は、殺しあいだと言う事を、しのぶは瞬時に理解した。
しかもただの殺しあいじゃない。しのぶが生きた時代よりも過去の時代、或いは、遠い遠い未来の時代。
嘗て活躍したか、或いは今後活躍するであろう何者か達の影を招聘し、彼らに戦わせると言う催しなのだ。
狂っている、としか言いようがない。この言を真に受けるのなら、下手をすれば、神世七代の地神五代の時代に生きていた、言わば神話の住民すら呼ばれ得ると言う事ではないか。
それらの時代からは後に下るとは言え、しのぶの生きていた大正時代の段階でですら既に万夫不当の大英雄であった、ヤマトタケルや源義経、足利尊氏に大楠公。
戦国の世の覇者であった織田信長や太閤秀吉、東照宮の家康も、召喚されるのであろうか。そして、彼らを召喚してまでやる事が、願い一つ叶える為の、殺しあいなのか?

 馬鹿げている、狂っている。非生産的にも程がある。
当初しのぶは、無惨が囲っている鬼の誰かが行使する、血鬼術の類なのかと考えたが、全く違う事を今は理解している。あまりにも、血鬼術の範疇を逸脱しているからだ。
一介の鬼に、もしも順当に世界の歴史が進んでいたら、と言う可能性を推測して、それを此処までの仮想の空間に落とし込む事など、出来る筈がないからだ。
知識の面でも想像力の面でも常軌を逸しているし、何よりも、血鬼術の限界をして既に超えている、神の御業である。たかが鬼の技ではない。
何よりも、しのぶの周りを取り囲む、圧倒的な、リアリティだ。そよ風が頬を撫で髪と戯れる感覚も、水が唇を潤し歯に沁みる感覚も、
住み込みの家事手伝いがくれたケーキのビックリする位の甘さも、風呂に入った時の暖かさや其処に溶かされた入浴剤の嗅いだ事もないフローラルさも。
夢や幻覚の類では断じてあり得ない。全てが全て、真実のものだった。だから、困惑と同時に、怒りを覚えずにはいられない。
まだ、戦えと言うのか? しかも今度の相手は、鬼じゃない。サーヴァントとマスターと言う関係上、当然マスターとも戦う事になる。人と、戦う事になる。この手で人を、殺めろとでも?

「ふざけてる……」

 誰に言うでもなく、小さくそう呟くしのぶ。
帰路の最中、自宅へと続く道を音もなく歩きながら、仄暗い思考に囚われていた時。
微かに、ではあるが、心地よい旋律が流れて来るのを彼女は捉えた。ピアノの音である。

「また演奏してるのね……」

 ピアノの音がする方角に、早歩きで向かって行くしのぶ。その音は、彼女の立派な家から聞こえて来る。

 近所付き合いをする傍ら、近隣の住民は、胡蝶家の事情についてはよく知って居た。しのぶが今、信任が厚い数名の家事手伝いと一緒に過ごしていると言う事も、勿論だ。
そんな一家の住まいから、近頃、ピアノの演奏が流れて来る事があるのだ。しかも、ただの演奏ではない。
どのような素人が聞いても明らかな程、卓越した腕前なのである。世界的にも有名なコンクールで優勝した経験もあるピアニストが、其処にいる。そうと言われても誰も疑いを挟まない程に、美しい旋律か立ち上って来るのだ。

「ただいま戻りました」

 帰宅し、そう告げると、リビングから給仕服を纏った年配の女性がやって来て、しのぶに一礼する。
しのぶが全幅の信頼を置いている、胡蝶家の家事手伝いのリーダーでもある人物だった。

「お帰りなさいませお嬢様。宜しければ、お茶のご用意を致しますが……」

「いえ、大丈夫です。それより、ピアノはいつから……?」

「かれこれ、一時間ほど位ですかねぇ。相変わらず素晴らしい演奏で御座いますので、聞き入って作業の手が止まってしまう位」

「それはそれは……」

 咎めるでもない、静かな微笑みを浮かべるしのぶ。

「でも本当に、お嬢様が仰ったお部屋から一歩も出られないのですね……。気難しい恋人様ですこと」

 その一言に、笑顔がピシリと硬直する。「あ、はは……」と笑い声にも力がない。

「失礼、いい加減換気の一つでもして来いって言って来ますっ」

 そう言ってしのぶは、ハウスキーパーとの会話もそこそこに、階段を駆け上って行った。
その様子を、微笑ましそうに見つめる年配の女性。「早く会いたいのねぇ」と、勝手に変な解釈をしている始末。違う違うとセルフ・突っ込み。

 そもそもの話、それまで誰もピアノを演奏する人物がいない胡蝶邸において、ある日突然ピアノを奏でる音が聞こえてきたら、真っ先にこれについて疑問を覚えるのは誰か?
当たり前の話だが、その家にいる人物。つまるところ、住み込みで働いているハウスキーパーに決まっている。
幻聴でもなければ、オカルティックな霊的現象でも何でもない、真実本当のピアノの音が聞こえて来たのなら、彼らがこれについてクエスチョンを浮かべない筈がないのだ。

 ――だから苦肉の策として、しのぶが用意した方便は、『ボーイフレンドを此処に住まわせている』と言うものであった。
家業を継ぐと言う夢に反発し、ピアニストを目指そうとした所、実の父親が大変立腹し、絶縁を叩き付けられたので、付き合っていた自分の家を貸してあげている。
そして、家族に夢を反対されたのがショックで、余り人と話したくない状態のようなので、部屋には誰も入らないように、と言う事も、家事手伝いの面々には厳命していた。
以上が、しのぶの考えた絵図であり、プランであった。話だけを聞けば、ボーイフレンドに対して好意的な感触を抱く者は、少なかろう。
好意的に見れば夢追い人だが、否定的な物言いをするのならば、実績を上げてないし然るべき大学も卒業していないピアニストなど、ただの無職のプー、フーテンの類である。
普通であれば、如何なものか、だとか、追い出した方が……と遠巻きに誰かが言いそうなものだが、これを、その件のボーイフレンドはピアノの演奏の実力だけで跳ね返した。

 上手で当たり前だ。卓越していて当然である。
何せ、胡蝶しのぶが引き当てたサーヴァントは、音楽家としての才能この一点で、英霊の頂に上り詰めた、人類史上最高の音楽家の一人なのであるから。

「入ります」

 ノックもせずに、ドアを開け放つと同時にそう言って、しのぶは件の音楽家がいる部屋に立ち入った。 

「ノックすら、とうとうしなくなったね」

 呆れ返った様子で、その男は言った。男を見るしのぶの目にも、呆れの光が灯っているのだった。


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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 家族4人と、其処に、数人の使用人も含めさせて、不自由なく快適な家。それが、しのぶの両親が信頼出来る建築士及び施工会社に提示した条件だった。
実際彼らはその通りの家を建て、家族は十分過ぎる程の満足を得、何一つ不自由のない生活を送って来たのである。
ただこの家、胡蝶家の中でまともに住まいに使っているのは現在しのぶだけである。両親は先述のように、海外に仕事に出ている為戻って来る事は滅多にない。
要するに、1人で住むには広すぎるのである。生活の為に使うスペースなどリビング、バス、トイレ、私室、たまに勉強がてらに書斎などを使う程度だ。
それ以外の部屋は、使う為の家族がいない以上は、最早デッドスペースにも等しいのである。

 其処は嘗て、子供達のプレイルームとして使われる事を想定した部屋だった。
昔は幼稚園児向けの大がかりな遊具などが置いていたようだが、成長してからは片付けられ、ピアノと、嘗て子供達が遊んだ玩具がしまってある段ボール箱が数箱。
置いてあるに過ぎない部屋である。今となってはもう物置と言う事だ。しのぶが小さい頃――と言う、この世界での設定――には、講師を招いて、
情操教育の一環として弾かせていたピアノが、部屋の真ん中に鎮座しているそれである。つまりある時期までは、しのぶとその姉の為の教育の部屋だったと言う事になる。
そのピアノも、しのぶが中学に入る頃には使われなくなり、思い出の一品として其処に残していて……その流れで、家族の思い出の品をどんどん置いていった結果が、現状と言う訳なのだった。

 そのサーヴァントは、物置同然のこの部屋に籠っていた。
籠っていたと言うよりは、しのぶが押し込んだも同然なのだが、彼は文句一つ言わずにこの部屋に閉じこもっていた。それで良い、そうと言って、しのぶの行為に反論しなかったのである。

「僕の耳が聞こえないからと不精したのだろうが、動きと態度で解る物だよ。君も年頃のダーメなのだ、弁えなさい」

「お心遣い感謝致します、キャスターさん。アレだけ止めろって言ったピアノの演奏を聞いて、襲撃されてないか心配でしたもので」 

 単刀直入に言うと、しのぶの引き当てたサーヴァントは、話にならない程に弱いサーヴァントだった。 
先ず、マスターであるしのぶよりも遥かに身体能力の面で劣る。尤もこれについては、しのぶ自身が、鬼を屠る為の組織である鬼殺隊の中でも最強の特記戦力、
柱である為、まだフォローの範囲内である。柱どころか、鬼殺隊に入って間もないド新人の隊士にすら劣る程に、キャスターの身体能力はダメダメだった。
キャスター、つまり魔術師のクラスであり、肉弾戦が不得手と言う事は勿論理解しているが、それにしたとてこれは酷過ぎる。

 それに、既に述べた通りキャスターは、音楽家である。これは文字通りの意味であり、彼の異名でも何でもない。真実、彼の生業が音楽家である事を意味する。
翻って、彼は本職の魔術師でも何でもなく、そもそも魔術のまの字も知らない人間なのだ。であるのにキャスタークラスとして召喚されたのは、単純明快。他に、彼を象徴するクラスが存在しなかったからに他ならない。

 極めつけに、彼の身体的特徴だ。
耳が聞こえない、と言ったが、これは、事実であった。このキャスターは本当に、耳が聞こえない。
読唇術と、彼自身に備わる独自の魔眼。この二つを駆使して会話が成立しているように見えるだけで、彼の聴覚は如何なる音をも捉えはしないのである。

 ――聾唖と言う音楽家にとって致命的過ぎるハンディキャップを強いられてなお。
英霊として昇華される程の偉大な業績を残した音楽家。このような存在、洋の東西の歴史を紐解いて見ても、たった1人しか、該当者は存在しない。

「僕に演奏と作曲を止めろと言われても、それは無理だぞ。骨身に染みついている習性なんだよ。僕も止めたいと思っているのだが、逃れられないんだよ」

 『ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン』は、音楽室に飾られている肖像画通りの、神経質で、不健康そうな出で立ちの男だった。
くすんだ様な銀髪は伸び放題のボサボサで、櫛も通してない事は一目瞭然だった。
気難しそうな、険の強い顔立ちで、目の下には不健康の象徴のような隈が出来ていて、大変に人相が悪い。目つきも鋭い上に、剣呑な光を宿しているではないか。
良く知られている肖像画で、彼が着ているタキシードに赤いスカーフは今は身に着けておらず、よれよれのカッターシャツを袖口まで巻き上げ、同じく、アイロンを掛けていないのが明白な黒ズボンを穿いていた。

「……それで、良い曲、出来たんですか?」

「マスターの耳には、如何聴こえた」

「えぇ……私の質問は……。いや、答えますけれども……」

 やや、時間を置いた後、しのぶは言った。

「私の耳には、素晴らしい演奏に聴こえましたよ。私にとってその、ピアノの音色は異国の聴き慣れない楽器ですけど、心に訴えかける何かは、感じました」

「……成程な」

 ベートーヴェンは、やおら、と言った様子で、譜面台に置いてあった楽譜を手に持ち、矯めつ眇めつ眺め初めた。
そう言った事を数秒続けた後、「うん」、と一人で納得。その後、口を開いてこう言った。

「駄作だな」

 後ろに楽譜を放り捨ててから、更に言葉を続ける。

「何らの魂も本音も情動も込められていない作品だ。見るに値しない酷い作品だが、それでも、余人を感動させるに足る力はあるらしい。哀しい事だよ」

「……私に、審美眼がないような言い方ですよそれ」

 しのぶとしては、面白い話ではない。
実際、ベートーヴェンが演奏していたピアノ曲は、ピアノ、と言う楽器に対する知識が全くないしのぶが聞いてですら、魂を震わせるような何かが内在されていたのである。
審美眼がないと拗ねた様にしのぶは言ったが、その通りの話であり、しのぶは楽器に対する知識も疎いし、音楽に対しての蘊蓄だって、何のこっちゃ、なのだ。
そんな彼女にですら、今ベートーヴェンが弾いていた曲が、大変に優れた出来である事が解るのだ。全く、芸術とは訳が分からなくなる。

「何百曲も作っているとね、どのようなテーマ、どのようなメロディの、どのような旋律、どのような楽器の組み合わせなら、大衆を感動させられるのか。それが理解出来るようになるし、これを小手先の技術で作れるようになる」

「それはそれで、凄い事なのでは?」

「ある種の到達点だと僕も思うよ。ハイドン先生やモーツァルトさん、サリエリ先生にシューベルトくんも、同じ事が出来る。僕が素晴らしいと思う音楽家の殆どは、まぁ当たり前の事だけれども、社会と繋がりを持たねば生きて行けない人達だ。だから、魂を込めた傑作以外にも、締め切りと格闘しながら、即興的に、良い曲を作らなければならないものさ。要するに、日銭の為だよ。生活の為、とも言えるね」

「今の曲は、まさにそうだと」

「本人が何の気なしに作ったものが持て囃される、と言うのは僕らの世界でもある事だ。そして、往々にして、その評価に納得が行かないものだよ。僕もそうだ」

「め、面倒臭い……。生前のしがらみから解き放たれてるんですから、自由になったら良いじゃないですか」

「良く言うぜ」

 言いながら、鍵盤を撫でるベートーヴェン。その何気ない仕草で奏でられたピアノの音。メロディを意識すらしていない、ただ、奏でられただけの音。
それすらも、美しいと錯覚させるのは、ひとえに、彼が歴史にその名を刻む程の楽聖であるからなのか。神の高みに上った男の勇名は、ただの音すら神韻を孕ませるのか。

「マスターの見立て通りだよ。英霊全部を見渡しても、僕より弱い存在なんてそうはいない。君に腕相撲で勝てないんだからね。だから、足手まといと一緒じゃない方が、今の時点じゃ動きやすいって言うのも、解るよ」

 聖杯戦争の参加者であるにもかかわらず、しのぶが常に、ベートーヴェンと行動していない訳はそう言う事だった。
音楽家としてのベートーヴェンの業績については、疑いを挟む者などこの地球上に存在などするまいが、荒事や喧嘩、殺しあいとなると、何から何までダメ。
本人が言ったように、召喚されて間もなく、力量を簡単に測ると言う名目で行われた、極めて単純な腕相撲の勝負ですら、3秒持たなかった程である。

 ――あっこれダメですね……――

 しのぶがそう思うのも無理はない。
このベートーヴェン、一緒に行動していて、守り切れる自信がない。足手まといも甚だしい。
と言うより、マスターを守るサーヴァントと言う構図が一般的なのに、それが逆転する時点で意味不明である。話にならない。
早い話が、ベートーヴェンを此処に閉じ込めておくのは、生存戦略の一環なのだ。一緒にいられると面倒なら、隔離しておけば良い。
バディを組まねばならない状況に於いて最も最悪の結末が、共倒れだ。しのぶとしても、サーヴァントと離れ離れにならねばならないと言う状況は、宜しくないと認識しているとは言え、こうでもせねばならない程ベートーヴェンは弱いのだ。彼自身も理解しているだろうが、しのぶに苦肉の策を断行させねばならない彼の弱さが、如何考えても悪であった。

「僕が弱いのが悪いのは良いさ。だが、音楽家を閉じ込めるピアノを置いておく君も悪いんだよ」

「開き直りですか?」

「そうとも言えるしそうとも言えない。ピアノの前に座って、弾く気もないのに鍵盤を叩いてしまうんだよ。職業病みたいなものさ」

 成程、職業病か。
馬鹿馬鹿しい、と切り捨てられなかった。ベートーヴェンの言葉を聞き、しのぶは、ふっと笑みを零してしまう。自嘲とも、自らに対する呆れとも、とれる。そんな力ない笑みだった。

「貴方からすれば、私は何ともまぁ、男勝りで腕っぷしの強い、大和撫子らしくない女に見えるのでしょうね」

「そう言う娘が良いと言う男もいるさ。況して君は綺麗だ、何を言わずとも、男の方からやって来るだろうよ」

「私、その権利を捨てちゃったんですよ」

 窓の方へと歩いて行くしのぶ。足と床とが触れる時、まるで、音が立たない。とてもじゃないが、意識しないと出来ない歩き方であった。

「幸せな時間って、いつまでも続く物だと思ってたんです。大切な家族や友達とは、ずっと仲良く睦まじく、一緒にいられるのだって」

 窓際に、しのぶが着いた。窓は、思いっきり開かれていて、気持ちの良い風を微かに運んでくる。

「……本当に、ビックリする位簡単に、幸せなんて壊れるんですね。それも、呼吸する刹那よりも、ずっと早く」

 こんな日々が、ずっと続けばいい。誰もが抱く夢であり、渇望であろう。
楽しい時を、永遠に過ごしていたい。しのぶに限った話じゃない。この国全体、どころか、世界中の多くの人間が抱く、不変の思いであろう。
だが、実際は誰もが知っている。永遠などあり得ないという事を。人はこの世に生きる以上、どうしても、『命』と言う縛りの範囲内で生かされる。
即ち、死ぬ事からは逃れられない。また、人間的な生き方をするという事は、社会の則(のり)を守って行かねばならないという事でもある。
そうした約束事を遵守する中で、転居を迫られる事もあるであろうし、昔日の如き気兼ねないやり取りが出来ない程誰かが偉くなったり、落ちぶれたりする、等と言う事も往々にして起こり得る。楽しい瞬間だけを切り取って、いつまでも、という事は出来ない。そんな事、しのぶだって解っている。

 ――だが、その楽しい瞬間が、悪意を持った誰かの手によって壊されたら? 仕方がないねと、諦められるのか?
しのぶは、無理だった。だからこそ、殺す道を選んだのである。自らの幸せを、家族の前途を奪った、鬼の者共を一匹残らず屠る道を、自分の意志で歩むと決めたのである。

「本当の両親はいません。思い出すのも嫌になる程残酷に殺されましたから。姉もいましたが、殺されました。死の間際に、自らを殺した者に憐みの言葉を残しながら」

 目線を、ベートーヴェンから、窓の外の風景にしのぶは変えた。

「正直、本当にこんな世界が何時かやってくるのかな、と疑問に思う位平和な世界だと思います。こんな便利な生活、味わっていて良いのかって葛藤する位、生活しやすい世界だとも思います」

 実際にしのぶは、令和の世、21世紀の生活と呼べるものを体験しているが、大正の世界の常識に照らし合わしてみれば、もはや異世界と言っても過言じゃないレベルで、
発展した当世の生活は、近い未来に到来するものとは到底思えないほどに、現実離れしたものであった。本当に、水と平和が空気の如し、なのである。

「死んだ両親と姉さんが、この世界にいるって聞いて……実際にこうして、遠く離れた場所にいてもやりとりが出来て、夢みたい、って思いました」

 「――だけど」

「やっぱりこれは、夢なんです。私の父も母も、姉も。既に過去の住民で、遠い天国で暮らす人なんです」

 胡蝶しのぶは、この世界での安寧を、偽りの物だと思った。
父母、そして姉である胡蝶カナエも、実際に話してみて、間違いなく当の本人なのである。だが、違う。
限りなく彼らは当人でありながら、当人でない。生きて、いるからである。本当の彼らは、しのぶの思い出の中にしか生きていないのである。

「……私にとって、怒りを溜める事こそが、職業病でした。……いえ。私の知っている人達は皆、怒りと付き合う事を余儀なくされてる、可哀そうな人達ばかりでした」

 鬼殺隊とは、怒りと哀しみが影のように付きまとっている者達の集まりであった。
親兄弟を不当に殺され、喰らわれ。将来と前途と幸福とを、まるで狼が家畜の腸を食い散らかすが如くに、台無しにされる。
そんな者達の集まりが、鬼殺隊であった。鬼に人生を滅茶苦茶にされ、その怒りと哀しみを原動力に、命を惜しまず鬼を殺す為に在る者達だった。そしてそれは、柱と称される程に達した人物である、胡蝶しのぶですら、例外ではなかった。

 人生を滅茶苦茶にした者が、人であれば、どれだけ良かったか。
無論、良くはない事は間違いない。人生を、破壊されているのだから。だが、人であるのなら、人の世の法で裁く事が出来る。この世に残された者の留飲を、下げる事が出来る。
鬼は、違う。剥き出しの本能のままに人を殺し、理性をあざ笑い欲望のままに行動し、保身の為に嘘も吐き。そして、その責任を取らない。取らせる事も出来ない。
人間社会に寄生し、清く正しく生きる者達を貪り喰らいながら、受けるべき応報を受けぬ者達。それが、胡蝶しのぶから見た、鬼であった。生かす事すら憚る、最低の生き物であった。

「怒りを溜めて、鬼に出会えばいつでも鬼を殺せるようにする。……そんな習性が、すっかり、こんな形で染みついちゃってるんですよ、私」

 そう言ってしのぶは、今の今までずっと背負っていた竹刀袋から、得物を取り出した。
竹刀、ではない。さりとて、刀――でもなかった。確かに、刃は備わっていたし、日本国の銃刀法に抵触する程の刃渡りを優に超えるものでもあった。
奇形みたいな、刀だった、先端から十数㎝が、まるで包丁のような形状をしていて、残りの刃渡りの全ては、単なる、細い棒。糸鋸数本分程度の細さしかない。
辛うじてその棒部分は、刃は備えている物の、人を切り裂くだけの最低限の太さを有していないが為に、飾り程度の切れ味しかないであろう。うっかり指で触って、切れてしまうのではないか、程度の心配しかなかろうか。

 この、平和が当たり前の世界でですら、しのぶは、この得物を捨て切れないでいた。
染みついた習性を超えて、最早病理の領域に入っている。安心安全の余生を奪われ、そして今後、これを送る可能性の一切を捨て、人ならぬ怪物との戦いに身を投じる。
その決意と偏執が、刀を帯びると言う事なのであり、そしてこれが、鬼の姿など何処にもない21世紀の時代にすら、常態化してしまっている。
これが正常な筈がない。まごう事なき、異常な在り方。胡蝶しのぶは、己の意志で、幸福になる権利を捨てているのである。

「本当に怒っている事を悟られたくないから、隠して、隠して、隠して。溜めて、溜めて、溜めて――」

 ――怒ってますか?――

「……簡単に、見抜かれてしまって」

 ――俺と一緒に地獄に行かない?――

「………………フフッ。スカッとして、爽やかな気分で、居られる筈だったんですけどねぇ」

 そう口にするしのぶの表情は、何とも爽やかで、この世のしがらみの一切から解き放たれたように、晴れ晴れとしたものだった。

「成すべき事を成し終えて、さぁやっと、楽になれる、って思った矢先に、これなんですよね」

 そう言ってしのぶは、己の右手甲に刻まれた令呪を、ベートーヴェンに見せつけた。
交差する二本のタクト。その交差している点に、一匹の胡蝶が、羽を広げているような構図の令呪であった。

「忘れたかった業病を、思い出してしまいましたよ。怒りを抱き続ける何て、もう御免なのに、それでも、まだ強いられる」

 開け放たれていた窓から、風が舞い込む。カーテンが、乙女のスカートのようにはためいた。

「単刀直入に申し上げまして、私……すっごく、腹が立ってます。ムカついてます。安息を奪われて、立腹なんて話じゃないんですよ」

 発言の内容とは裏腹に、しのぶの表情は、笑みであった。……目は、全く笑っていなかったが。

「だからつきましては、この聖杯戦争を企てた誰かを……そうですね、人ならば、大変に痛めつけます」

「人でなかったら?」

「きさつたい、って何て字を当てるか知ってますか? 鬼を殺す、って書くんですよ」

 成程、解りやすい。如何言う結末を齎すつもりなのか、即座にベートーヴェンは理解してしまった。

「聖杯は、欲しいと思わないのかい?」

「思いません」

 しのぶは即答した。

「私の個人的な復讐は、もう果たしました。そして、鬼殺隊全員の悲願は……果たされると、確信してますから」

 鬼は、殺せる。しのぶが、20にも満たない短い生涯の中で、得られた答えがそれだった。
しのぶは、戦う才能がなかった。何につけても、腕力だった。その白木を削ったような細腕からは、見た通りの力しか発揮されないし、鬼を殺す為に最も必要な、頸を斬り落とす腕力、
と言う基礎も基礎すら彼女にはなかった。鬼の頸を落とせない、唯一の柱。自嘲気味に昔自分を紹介した事もあったが、どれだけ血の滲む鍛錬をしたとて、
力を得られぬと言う事実に切歯扼腕し、悔しさで眠れぬ夜を過ごしたか。それを知っているのはしのぶだけだ。その事実に、何処までも腸が煮えくり返る思いをしていたのは、誰ならぬ彼女自身だった。

 力がないから、毒に頼って。その毒ですら、仇を殺すには至らなくて。
だから結局、自分の身体に毒を溜め込み続け、自ら、生贄になり、その上で、自らの志を理解した者に、襷を渡し、頸を刎ねて貰う。
――倒した。倒せたのだ。澄ました態度の仮面を被り続けるのが出来ない程憎くて、そして、唾を吐きかけたくなるほど強い鬼は地獄に堕ちた。
身体能力の面で、人が鬼に勝てる要素など何一つ介在しない。だが、人には、思いを受け継ぎ、それを糧に立ち上がれると言う、何よりも強大な力がある。
鬼には、それがない。生きる為に人を喰らい続けねばならない鬼は、人間から疎まれ続け、繋がりを切り離され続けるからだ。まだいける、もう少し頑張ろう。それが、出来ない。
この、正しい力がある限り。鬼殺隊は、負けない。人は、勝つ。1000年以上の永きに渡り、人の世に怒りと殺意と哀しみを播種し続けた、鬼舞辻無惨は、殺せる。地獄に堕とせる。それが解っているのなら、自明の理であるのなら。聖杯など、しのぶは求めないのであった。

「……そうか」

 しのぶの話を聞き終えてから、数秒が経過した後だった。
ベートーヴェンはピアノの方に向き直り、鍵盤に、指をそっと置き始めたのである。
そして、実に手慣れた様子で、指を動かして見せた。見れば見る程、不思議な指の動きだとしのぶは思う。
これも人体の持つ可能性の一つ、鍛錬の末に会得出来る技術の形なのであろう。軽やかで、弾むような指運びで、人体から切り離された、全く別の生き物の踊りでも見ているかのような動かし方であった。

 奏でられている音楽は、心の全てを、何らかの形で揺さぶるような、美しいものであった。
上っ面の部分から、その一枚下、そして、内奥。核だとか、芯の部分。そう言ったものを揺れ動かし、感動させる、神秘的な力をその曲は有していた。
感動の度合いは、個人の在り方に左右されるだろう。その曲を聴いて、良い曲ではないかとだけ思う者もいるであろう。流そうなどとは思ってないのに、意思とは関係なく涙を流す者もいるであろう。それらを越えてーー人生を変えられてしまう程の感動を覚え、音楽の道を志そうとする者だとて、いるであろう。

 しのぶは、良い曲であると先ず思った。
物悲しげで、寂しさを感じさせるメロディでありながら、決して、それだけではない。
その中に、確かな温かみがあった。在りし日の、楽しかった思い出。幾度となく、それこそ、幾十年もの時を経てから思い出しても、尚褪せぬ。そんな、煌めく刹那の一瞬間。
その刹那に対する賛美が、そのメロディにはあった。過去を捨てるのではなく、抱きしめる。そんな叙情が、旋律からも溢れていた。

 しのぶは、この曲を知らなかった。

 ――『エリーゼのために』を、知らなかった。

「……まいったな」

 顔を抑え、心底やり切れないと言う声音でベートーヴェンはそう漏らした。演奏は、中途でやめていた。
指と指の間から垣間見れる表情は、やはり、声音との乖離がない。困ったようなそれだった。

「君の事が好きになりそうだ」

「は?」

 唐突なプロポーズに、しのぶも当惑する。タイプではないのだが…。

「困難と逆境に耐えられ、立ち向かえる者が好きなんだよ。僕も、そこだけは…大衆と変わらない」

 長く、息をベートーヴェンは吐き出した。
溜息とは、また違う趣の感情が、その、たっぷり7秒はあった息には込められていた。

「幾度、音楽が嫌いになったか分からない」

「嫌いって…音楽で歴史に名を刻んだ英雄なのですよね?」

「それは、僕が音楽を好きでいられる理由にはならないよ」

 ハハハ。乾いた、笑い。

「好きを仕事にすると、大抵の人間は好きだった事が嫌いになる。自由に伸び伸びやっていた事に、拘束され、納期が定められ、その出来の善し悪しを評価されるからね。先ずそこで篩にかけられる。それで終わりじゃない。一定の水準の質をいつだとて要求されるのに、今度はこれを、沢山に出力しなければならないんだ。勿論、有名になればなるほど、しがらみから来る、行きたくもないイベントにだって行かされるし、付き合いたくもない奴と交流もしなくちゃならない。仕事と私事に使える時間の境があやふやになって行き、次第に、作品の質が落ちて行く。そうして行く内に、仕事も名声も、泥棒に金庫を盗まれたようになくなるのさ」

 「――そして極め付けが」

「この領域に至れる才能の持ち主の多くが、幼少の頃より、多くの時間をレッスンに割かれているのだと言う事。僕も例外じゃない。親父には、随分としごかれたよ。音楽が、嫌いになりそうな程にね」

「今も、嫌いですか?」

「秘密、だ。だが、君が思う以上に、嫌いになった回数は多いとだけ言っておくよ」

 暫しの、沈黙。風がまた、窓から、カーテンを揺らめかして入って来た。妙に、風が冷たい。寒気を、覚える程に。

「耳の聞こえない音楽家に如何程の価値があると思う」

 言われてみれば、その通りだとしのぶは思う。
作曲者、演奏者にとって、聴覚とは命の次に大事にしなければいけない感覚である。
優れたヴァイオリニストは、他の演奏者が奏でるヴァイオリンの響きを聞いて、音が落ち込んでいる、気分が優れていない、と言う事を聞き分けられる。
五体満足の人間にとって、音が聞こえると言う事は当然の感覚であり、音楽家にとってはある意味で、優れた演奏技術、作曲能力よりも、大事な事実なのである。大前提にも程があるから、忘れられているのである。

 ベートーヴェンは、世間でも良く知られている通り、酷い難聴である。ともすれば、全く音が聞こえないと言うレベルなのである。
音楽家としては致命的、いやそれどころか、その道を完全に断たれたも同然の、ハンディキャップ。
心無い誹謗中傷など数え切れない程投げ掛けられたし、事実として彼の名声は地に落ちた。それでもなお諦めず、その状態からでも、不朽の名曲をいくつも手掛けて来たからこそ。彼は、数百年語り継がれる大音楽家なのである。

「神域に至る曲と言うのはね、本当に追い詰められ、狂う寸前の者にしか手掛けられない」

 先程無造作に放り捨てた楽譜の方に、一瞬だけ、ベートーヴェンは目線をやった。

「良い曲を作るなら、僕も出来る。多くの人間が求めるもの、その要素を拾って行けばいいからね。だが、魂を震わせ、心を揺さぶり、運命を変える程の曲は、それではダメだ。摩耗し切って消えてなくなる程に己の魂と心を鉋にかけ続け、身体から肉が落ちきって骨と皮だけの有様になり……。そして、其処からですら、妥協しなかった者。逃げず、諦めず、芸術に縋った者。そう言った者が作る曲はいつだとて……うん。美しい」

 言葉を此処でベートーヴェンは切り、じっと、しのぶの顔を見つめた。
真顔だった。彼も。彼女も。この間互いに、茶化す言葉を一切発する事がなかった。

「……若いなぁ。それに、綺麗だ」

「……」

「君に、どれ程悲愴な運命が降りかかったのか、僕には知る事は叶わないし、語る事もしなくて良い」

 「だけど、ね」

「もがいて、足掻いて、頑張って、何かをやりぬく姿は、男女の隔てなく僕は美しいと思う。崇高だとすら言って良い」

「……昔、似たような事を、言われた事があるんです。貴方が言う、必死に頑張る私の姿を見て、です」

「そうか。多分、驚く程無責任なダメ人間だったんじゃないかな」

「うふふ、物凄い控えめな評価ですね」

 しのぶは、能面の様だった無表情から、花咲くような笑みになって言葉を告げた。

「とびっきりの、糞野郎でしたよ」

「なるほどな、僕はその糞野郎と同じになるな」

 苦笑を隠しもせず、ベートーヴェンは言葉を更に続ける。

「僕は君に不変の美を感じた。僕の、好きな美しさだ。尊崇に足る美を持つ君に、曲を捧げたい」

「……最期を看取る曲以外なら、聞いても良いかな、と」

 仕方がなさ気に、しのぶがそう口にすると、また、風が舞い込んで来た。
――ああ、冷たい。今の季節、こんな寒い風が吹く物なのだろうか?

「窓……閉めましょうか? 換気も済みましたし……何だか、寒いですし」

「……ああ、頼むよ」


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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ――浮気 シタナ……――

 ――お前も見て来ただろう。僕は生涯童貞で未婚の、女日照りのダメな男だ――

 ――私以外ノ女ニ 曲ヲ捧ゲル何テ……――

 ブツブツと、僕の身体に纏わりつく女は、恨めし気な目線をマスターに向け続けていた。
五線紙が纏わりついたような豊満な女性の身体を持った、ギョロ目の女は、サーヴァント言う身になってもなお、僕に憑いて来ていた。
全く、何とも悪趣味な、ストーカーであろうか。いや、パトロンって言ってやらないとこの女は怒るんだったな。気が短いし、嫉妬深い。酷い女に僕も好かれてしまった。

「あの、やっぱり。寒くないですか……?」

 妙だな、と言う風にマスターが訊ねて来る。冷房なんて付けてないのに、この寒さは……。

「……君に音楽の才覚がなくて、良かったと思うよ」

「? 挑発ですか? やっちゃいますよ」

「その方が、素晴らしい曲の作り甲斐があるって事だよ」

 ――ホラ 浮気!! 浮気!!――

 部屋の温度がまた下がる。本当に……何とかならない物か、この悪霊は





【クラス】キャスター
【真名】ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
【出典】史実、クトゥルフ神話
【性別】男性
【身長・体重】171㎝、61㎏
【属性】秩序・中庸
【ステータス】筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A+++ 幸運:E 宝具:B+++

【クラス別スキル】

道具作成:D+++++
キャスター自身に、魔術的な道具の作成能力はない。
代わり、彼は楽譜の作曲に特化している。人心を震わせ、魂すら掌握する程の名曲を、彼はその手で作り上げる事が出来る。

陣地作成:B+
上述の道具作成スキル同様、本職の魔術師ではない為このスキルも通常持たない。
代わりに、キャスターは、タクトを構える、或いは、鍵盤に手を当てる事で、音が届くその範囲内を『ステージ』へと変えてしまう。

【固有スキル】
難聴:A
耳が聴こえない事を証明するスキル。ランクAは、一切の音を拾う事が出来ないレベル。
現在の説では、キャスターは辛うじて音を聞き取る事が出来たのではと言う可能性も示唆されているが、世界的に著名な音楽家であり、
かつ、難聴でありながら数多の名曲を輩出して来たと言う事実に一切の揺るぎがない。従って、後世の人間の、『本当に耳が聞こえないのにあんな名曲を作ったんだ』と言う幻想がモロに反映される形となってしまった。有体に言えば、生前よりも難聴の度合いが酷い。真実、全く音が聞こえない。

演奏続行:EX
難聴と言うハンディを背負ってなお、音楽家であろうとし、権威や名声の失墜や、愛する女との破局等を味わってすらも、折れず、名曲を作り続けた、その証明。
世界的にも有名な、交響曲第5番『運命』や、交響曲第9番は、キャスターが難聴を患ってから作成された曲であり、真実、障害を彼は克服してしまったのである。
高い精神的強度を保証するスキルであり、一度、これと言った曲を作り上げると決めたのなら、命を奪われない限りその曲を作ろうとし、指揮棒を握らせ指揮を執らせたのなら、内臓が体外に弾き出され、心臓を抉り出されても、タクトを振る手を止めはしない。

楽聖:EX
キャスターの、異名。語るまでもなくキャスターは著名な音楽家であり、事実、音楽史に於いて彼が刻んだ業績は計り知れぬ物であり、後世の音楽家にも絶大な影響を与えている。
キャスターの作曲した音楽、奏でる音楽は、震える人心を捕らえ、感動の境地に忽ち達させてしまう力が内在されている。
この力と言うのは、一切、魔力や特別な力が内在されていない、『音楽』と言うものそれ自体が含んでいる、人を感動させる強大なエネルギーそのものの事を指す。
哀しみの音楽を奏でれば相手は忽ちそう言った気分になり戦意を喪失し、激情の音楽を奏でれば意気軒高の状態になり勇猛果敢な戦士と化す。要約すれば、味方陣営を鼓舞する為のスキルである。

狂える音の神:EX
――キャスターが悪霊、タチの悪いパトロンと称する、彼に付きまとう謎の存在。即ち、『トルネンブラ』に纏わりつかれているかどうかを証明するスキル。
ランクEXはもうゾッコンもゾッコン。べた惚れマジ惚れガチ恋【推しの子】状態である。無論、トルネンブラがベートーヴェンに送る感情が、である。

音見の魔眼:A
上述のトルネンブラが、耳の聞こえないキャスターに送り給うたスキル。ランクは黄金。
キャスターは音が聞こえないが、発された音が『視認』出来る。どれだけ感情を押し殺し、欺いていようが、言葉を発してしまえば、最後。
キャスターはその視覚化された声から、嘘を吐いているのか、真実を話しているのかを明瞭に察知出来る。また、卓越した読唇術の技と、この魔眼の合わせ技で、耳が聞こえないにもかかわらず、健常者と同じような会話を交わす事が可能となっている。


【宝具】
『苦悩よ、歓喜と化せ(ベートーヴェン・ヴァイラース)』
ランク:B+++ 種別:固有結界 レンジ:音楽の届く範囲 最大補足:音の届く範囲にいる人間全て
物心ついた時より、音楽と共に在り、耳が聞こえなくなって尚、音楽に寄り添い続けたキャスターのその道程や生き様が、宝具となったもの。
指揮棒を構える、或いはピアノの鍵盤を投影する事が発動の条件であり、宝具の真名を解放すると同時に、宮廷音楽を披露するコンサート場が展開される。
このコンサート会場は、キャスターが指揮或いは演奏する演目、その音が届く範囲でしか展開出来ず、例えば、ピアノ単体しか使わない物を演奏するのであれば、
その固有結界範囲はこじんまりとしたものになり、逆に、極めて大規模な交響曲を演奏するのであれば、固有結界の規模は跳ね上がる。
宝具としての効果は、スキル・楽聖の最大開放。極めて強力な精神感応或いは鼓舞であり、固有結界内にいる、キャスターが味方と判定した物には特大級のバフを与え、
反対に敵対する者には特大級のデバフを付与させると言うもの。宝具の起点は、言うまでもなくキャスター自身であるのだが、この宝具を発動している間、
キャスターはスキル・演奏続行により、演目が終了し終えるまで一切演奏を止める事がなく、無我夢中で曲の終わりまで突き進み続ける。
演奏規模が大きいものであればある程、バフの効果量も凄まじいものとなって行き、最大級のバフが掛かるものは、交響曲第5番と第9番となる。勿論、そう言う曲になればなる程に、多大な魔力が入用になる。

『エリーゼのために(フュール・トルネンブラ)』
ランク:EX 種別:自律宝具 レンジ:- 最大補足:-
キャスターに取り憑いている、悪霊。自律行動をしている存在。これが、宝具として登録されているもの。
その正体は外なる神の一柱、トルネンブラである。姿としては、五線紙を大量に巻き付かせた、豊満な肉体の女性をとる。
神性ないし特別な魔眼の持ち主でもない限り、彼女は最低でも、キャスターレベルの音楽的才能を持った人物でなければ視認する事は勿論、気配を感じ取る事も出来ない。
キャスターの音楽が齎す精神操作や感応は、魔力などの力を介さないものであるが、トルネンブラが使う物は正真正銘本当の魔力現象。
極めて強力な精神操作を可能としており、強固な自我を持っていようが、判定次第で彼女の言いなりになるレベル。
また、彼女の囁きや奏でる音は、耳を塞いでいようが、心を閉ざそうが、耳が初めから聞こえなかろうが、脳の中枢、心の深奥を掌握する。
戦闘時に於いては、トルネンブラは音の速度で移動する事が出来、また、強烈な音波を発し相手を爆散させる事も出来る他、音とは空気の振動現象でもある為か、簡単なものであるが風の魔術の行使や現象すらも引き起こす事も可能となっている。

 トルネンブラが持つ中で最大の大技は、心を掌握した人物の精神を、強制的に、『大いなる神・アザトースに接続させてしまう』事であり、これをやれば最後。
接続された者は発狂の後、消滅する。超大技だが、ダウンスケールされた現在では大幅に魔力を喰うものになっている他、キャスターを推す時間を増やしたいが為、滅多な事では使う事がない。


【weapon】
タクト:
投影可能な物品その1。指揮棒

鍵盤:
投影可能な物品その2。鍵盤のみを投影させる事が出来、これを弾く事で、ピアノの音色をどこでも奏でさせられる。
本人曰く、味気ないらしく、どうせやるなら本物のピアノの方が良い、との事。


【解説】
偉人としてのベートーヴェンの知名度は、今更語るまでもない程に有名なそれである。
古典主義とロマン主義のはざまに産まれ、その橋渡しをし、難聴でありながら様々な曲を手掛けた彼の業績は、まごう事なき偉人である。

 ――トルネンブラとは、強大な力を持つ存在である外なる神に分類される。姿形を持たずに生きる音そのものであり、恐怖に満ちた音楽として現れる。
天才的な才能を持つ音楽家に関心を持ち、音楽家の下に現れて歌いかけるとされている。トルネンブラにとり憑かれた音楽家は音楽の技量と知識を得るが、その代わりに正気を失っていく。
最終的にその魂は肉体を残したままトルネンブラによってアザトースの宮廷に連れ去られ、そこで永遠に音楽を奏で続ける事になる。

 ……ベートーヴェンも、トルネンブラに目を付けられた音楽家だった。
ベートーヴェンのエピソードの中に、明らかに、正気のものとは思えない狂行が混ざっているのは、このトルネンブラに纏わりつかれていたからであり、
何とか正気を保とうとしていてノイローゼになっていたからである。彼の難聴の原因こそが、このトルネンブラであり、正義と狂気のはざまに揺れ動き、
トルネンブラの声を聞きたくないと、自ら、タクトで鼓膜を穿ってしまい、そのやり方が悪かった為、ベートーヴェンは死の際まで難聴に悩まされる事になってしまった。
狂える醜い神の為に、音楽を捧げ続けたくないと、一度期は自殺を思い立とうとするも――敬愛する師であるハイドンや、サリエリ、尊敬する偉大な音楽家だった、
モーツァルトとの思い出が、過ちを踏み止まらせた。其処からベートーヴェンは、トルネンブラの誘惑に負けない、自分だけの音楽を作ろうと決意した。
当初は自ら破った鼓膜の影響で、思い通りの曲を作れずにいたが、そうした逆境を跳ね除け、様々な名曲を彼が手掛けた事は、歴史が証明する通り。

 そうして――ベートーヴェンと言う人物が、自らの想像を超えた人物であり、最早自分の力の及ばぬ人物になった事を悟ったトルネンブラは、
彼から身を引こうとする。そのころにはベートーヴェンは、疑いようもない最高の音楽家としての名声と地位を得ていた。
だが――彼は、自らを堕落させようとした、トルネンブラをも救おうとした。

 ――お前も、曲がりなりにも音楽を司るのだろう――

 ――お前は酷い奴で、心底許す気にもなれないが、今の僕がいるのはお前のおかげでもある――

 ――僕はお前の名前すら知らないが、つい最近フラれてしまった女の名をくれてやる――

 ――この曲を、お前に捧げてやるよ。エリーゼ――

 トルネンブラの去り際に、ベートーヴェンは、狂える音楽の集合体に、一つのピアノ曲を捧げた。それが、『エリーゼのために』であった。
その曲を聞いた瞬間、トルネンブラの理性は蒸発・崩壊。一気に彼に夢中になり、彼以外に一切の浮気をしないと決意。
また、アザトースにもくれてやらないし、そもそもアザトースの下に帰還する事すら、トルネンブラは拒否。
最後まで所帯を持てなかったベートーヴェンの事を思い、女性の姿を真似、トルネンブラは生涯彼に添い遂げた。かくて、彼は恐るべき音楽の神を人知れずに封印した、偉大なる人物ともなったのだった。

【特徴】

神経質で、不健康そうな出で立ちの男。くすんだ様な銀髪は伸び放題のボサボサで、櫛も通してない事は一目瞭然。
気難しそうな、険の強い顔立ちで、目の下には不健康の象徴のような隈が出来ていて、大変に人相が悪い。ついでに目つきも鋭い。
よれよれのカッターシャツを袖口まで巻き上げ、同じく、アイロンを掛けていないのが明白な黒ズボンを穿いている。

トルネンブラは上述のように、五線紙を身体に巻き付けた、豊満な女性の姿をしている。解りやすく言うなら、漫画・キガタガキタ!に出て来る恐怖新聞みたいなもの。

このベートーヴェンは、難聴を患い初めて数年、交響曲第5番を作成した、38歳ごろの姿で召喚されている。
自分の全盛期が、自業自得とは言え耳を悪くした時期である事には、正直言いたい事が山ほどあるらしい。でもやったのはお前だしね、殴りたくても殴れないよね。

【聖杯にかける願い】
マスター、胡蝶しのぶの為に曲を作る
トルネンブラちゃん「アイツ 殺ス」




【マスター】

胡蝶しのぶ@鬼滅の刃

【マスターとしての願い】

元の世界への帰還……もとい、聖杯戦争を仕組んだものを倒す

【weapon】

日輪刀:
刀鍛冶の里の長である鉄地河原鉄珍が自ら製作した一刀。
刀身は反りが極めて浅く、切っ先と柄付近を残して物打の部分を大きく削ぎ落していて、西洋で言うレイピアに似た細剣のような特殊な形状をしていて、刀身を通じて毒を注入出来る。

【能力・技能】

全集中・蟲の呼吸:

【人物背景】

常に怒りを抱き続け、溜め続けていた女。
才能がなく、姉からも鬼殺隊を辞めろと言われても、それでも辞めず、諦めず。そして、悲願を達成した女。

とっととくたばれ糞野郎後から参戦。

【方針】

今は日常を送る。と言うか、このサーヴァント……弱すぎ……。後なんか凄い最近寒気を感じる
最終更新:2022年05月21日 17:34