許してはならぬ。


許してはならぬ。


一体いつから戦い合っただろうか、物事ついた頃から殺し合っただろうか。


いつかは分からない。何故も分からない。
気づいた時には、そうしていた。
そういう宿命であり、運命だったから、いや……どうだったのか。始まりすら覚えていない。
物心ついた頃には、目の敵にしていたのだ。


感情というものはない。
敵が常に彼だったから、よく争っていたから、敵対していると噂されたのだろう。
実の所、恨みなどない。
特別な理由や動機があって、狙ってやっていた訳ではないのに勝手に噂されていた。


この先、きっと漠然と争い続けるのだろうと思っていた。
感情を知るまでは。


フツフツと混み上がる激情。
何だ、これは。
何故だか、衝動に駆り立てるこの感覚は。


奴を許してはならぬ。奴を野放しにしてはならぬ。
アレは文明も生命も己の信仰すら無関心だ。
俺の知った素晴らしい芸術も、奴に祈る種族すらも何とも思っていない。

奴が目覚めれば、全ての有象無象を滅ぼす。


ふざけるな。


そんな事があっていいものか。


俺は許さない。


許してはならない。決して――……






東京では一つ話題になっている事があった。
ニュースには取り上げられていないものの、SNSではトレンド入りするほど話題となっている。

『ホワイトナイト』という単語が。

週刊少年ジャンプで流星の如く現れた新人作家の読み切り漫画。
空前絶後の面白さにアンケートは一位を獲得。
早速、連載に向けて打ち合わせが行われ、ネームも三話分まで完成していた。


「あれ」


一人の少女がはたと手を止める。
違和感に気づいたのだ。
『ホワイトナイト』のペン入れを始めようとした少女『藍野伊月』が呟く。


「どうして、私が『ホワイトナイト』を描いているの?」






『ひまわり』があった。

それはかの有名な――恐らく世界中の誰かが必ず知っている『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』の『ひまわり』。


……それを模した杖を携えた黄色の衣を纏った少年が、伊月のサーヴァント。
少年は伊月の話を聞き、静かに言う。


「ほう……つまり、マスターは己の作品を盗まれた訳か」


「いえ、その。私……引きこもりで一日中部屋にいたんです。部屋に鍵もかけてて、それに私の家って高知のド田舎ですし……」


盗作と指摘され、伊月はドキリとなって言い訳する。
自分が描いていた筈の『ホワイトナイト』が、何故か週刊少年ジャンプで連載されていた。
ありない事だった。
内容などに差異はあれど、間違いなく『ホワイトナイト』だった。

でも、どうやって自分の部屋から『ホワイトナイト』を盗んだのか。
何で、よりにもよって自分の『ホワイトナイト』が盗まれたのか。

訳が分からず、真偽を確かめようと東京へ向かった筈の伊月。
そして、いつの間にか東京に住んでて『ホワイトナイト』の連載を始めようとしていた。
何故なのだろうか。

最初は、ファンタジーな出来事などないと思い、きっとあの『ホワイトナイト』を描いたのは自分と同類の人間だから

たまたま

偶然に

伊月と同じ『ホワイトナイト』を完成させたのだと突拍子もない事を考えていた。

そうはないだろ、と突っ込まれても。
だったら、他にどういう理屈で彼女の『ホワイトナイト』がジャンプに連載されているというのか。


こんな――聖杯戦争に巻き込まなければ、伊月は突拍子もない勘違いをし続けただろう。
少年が一蹴する。


「マスターよ。無限に時間があれば
 猿がタイプライターでウィリアム・シェイクスピアの作品を打ち出す事は可能と比喩があるが。
 現実的ではないだろう。赤の他人がお前と同じ作品を産み出す事は不可能。
 間違いなくお前は被害者だ。何等かの手段を用いて『ホワイトナイト』を盗作されたのだ」


「盗作……」


「決して許すな、マスター。
 俺は人類の芸術を深く語れはしないが、確かな事がある。芸術を志す者は己の作品に誇りがある筈だ。
 己の作品を誰かに見て貰いたい執念で己を駆り立て生涯を尽くす。
 それを侮辱したのだ。許してはならない。それと……」


確実な一言を告げた。


「俺はマスターの描いた『ホワイトナイト』を読みたいからな」


藍野伊月は、全ての人類を楽しませる漫画を描きたいと奔走していた。
『ホワイトナイト』は苦節あって構想していた作品だ。
決して、諦めてはいけない、一つの誇りだった。
何より――……


「アヴェンジャーさんにそう言われたら……応えないと駄目ですね。
 はい……! 私、『ホワイトナイト』を完成させます!! 必ず描き切ります!
 全人類も――神様も楽しませる漫画を描いてみます!」


読みたいと願う誰かがいるなら、描くものだ。
藍野伊月は笑顔で宣言した。






決して許してはならぬ。



この先にある未来の輝きも、残してゆくべき美しさも滅ぼす奴だけは――



復讐心を抱いた『黄衣の王』が往く。




まだ、世界は壊すべきではない。




――継続――




【真名】
ハスター@クトゥルフ神話+『黄衣の王』+史実?

【クラス】
アヴェンジャー

【属性】
秩序・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:A++ 魔力:A 幸運:C- 宝具:B


【クラススキル】
復讐者:E+++
 恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
 本来、ハスターは憎悪も復讐心もなかったが、クトゥルフと敵対する逸話から
 その憎悪と復讐心を得た。一種の『無辜の怪物』。

忘却補正:E+++
 誰も彼もが忘却しても、復讐者は決して忘却しない。
 ハスターはクトゥルフと敵対しているが、憎悪や復讐心はない。
 だが、サーヴァントとなった事で憎悪と復讐心を得て、それらが常に加速している。

自己回復(魔力):D-
 復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。
 微量ながらも魔力が回復する。


【保有スキル】
魔力放出(風):B+++
 武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。


芸術審美:E-
 芸術品・美術品に対する理解、あるいは執着心。ごく低い確率で真名を看破できる。
 ハスターは人間の芸術を理解し始めたばかりなので、懐疑的。


黄の印:A-
 ハスターを象徴する紋章。
 印を見たものの精神に狂気と破壊を与える……のだが、ある理由により
 印をつけたものに加護を与える支援スキルとなった。
 ただし、加護だけでなく呪いも与えてしまう。



【宝具】
『黄衣の王(デ・ステーレンナフト)』
ランク:B-- 種別:対陣宝具 レンジ:30 最大捕捉:100~500人

ヒアデス星団のカルコサの地を舞台に、美しくも恐ろしい言葉で埋め尽くされた詩劇。
狂気と恐怖の戯曲を再現する大魔術。固有結界ではない。
……なのだが、ハスター自身の願望を形にした為、本来の戯曲とはかけ離れた表現が使われている。
天井にはかの有名な『星月夜』が広がり、『黄色い家』が並び、『ひまわり』が一面を咲き誇る。



【weapon】
『ひまわり』の杖
  どこかで見た事ある『ひまわり』が杖状になったもの。
  『ひまわり』部分が回転して攻撃できる。



【人物背景】
名状しがたきもの、名づけられざりしもの、星間宇宙の帝王、邪悪の皇太子。
そして――『黄衣の王』の異名を持つ怪物。
クトゥルフとは異母兄弟であり敵対関係。
敵対する理由は諸説あるが、少なくとも安息所を巡って争ったのは事実らしい……
かつて宇宙を自由に駆け巡り、地上にも君臨したが、現在はヒアデス星団の『黒いハリ湖』に幽閉されている。

刹那の合間だけ、別宇宙を観測した際、一人の芸術家の作品をお気に召し
宝具や武器、スキルにも影響がバリバリ出ている。
ぶっちゃけると『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』のファンなのだ。

このハスターは芸術面を強く影響した存在であり、
神格ではなく、あくまで『黄衣の王』に登場した怪物としての側面。
クトゥルフと敵対する逸話による復讐心。
人間への関心を組み合わせた奇跡的な『複合』サーヴァント。
クトゥルフという共通の敵を持つ意味もあり、人間には友好的である。


【外見】
金と黒が混じった短髪の少年。
サイズの合っていないフード付きの黄衣を纏っている。


【サーヴァントとしての願い】
クトゥルフの打倒





【マスター】
藍野伊月@タイムパラドクスゴーストライター


【聖杯にかける願い】
『ホワイトナイト』を完成させる


【能力・技能】
天才的な漫画の才能と顧みない行動力。
行動力が行き過ぎて、ある世界線では……


【人物背景】
自分の漫画で全人類を楽しませたい少女。
最終更新:2022年03月31日 22:17