許してはならぬ。
許してはならぬ。
一体いつから戦い合っただろうか、物事ついた頃から殺し合っただろうか。
いつかは分からない。何故も分からない。
気づいた時には、そうしていた。
そういう宿命であり、運命だったから、いや……どうだったのか。始まりすら覚えていない。
物心ついた頃には、目の敵にしていたのだ。
感情というものはない。
敵が常に彼だったから、よく争っていたから、敵対していると噂されたのだろう。
実の所、恨みなどない。
特別な理由や動機があって、狙ってやっていた訳ではないのに勝手に噂されていた。
この先、きっと漠然と争い続けるのだろうと思っていた。
感情を知るまでは。
フツフツと混み上がる激情。
何だ、これは。
何故だか、衝動に駆り立てるこの感覚は。
奴を許してはならぬ。奴を野放しにしてはならぬ。
アレは文明も生命も己の信仰すら無関心だ。
俺の知った素晴らしい芸術も、奴に祈る種族すらも何とも思っていない。
奴が目覚めれば、全ての有象無象を滅ぼす。
ふざけるな。
そんな事があっていいものか。
俺は許さない。
許してはならない。決して――……
☆
東京では一つ話題になっている事があった。
ニュースには取り上げられていないものの、SNSではトレンド入りするほど話題となっている。
『ホワイトナイト』という単語が。
週刊少年ジャンプで流星の如く現れた新人作家の読み切り漫画。
空前絶後の面白さにアンケートは一位を獲得。
早速、連載に向けて打ち合わせが行われ、ネームも三話分まで完成していた。
「あれ」
一人の少女がはたと手を止める。
違和感に気づいたのだ。
『ホワイトナイト』のペン入れを始めようとした少女『藍野伊月』が呟く。
「どうして、私が『ホワイトナイト』を描いているの?」
☆
『ひまわり』があった。
それはかの有名な――恐らく世界中の誰かが必ず知っている『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』の『ひまわり』。
……それを模した杖を携えた黄色の衣を纏った少年が、伊月のサーヴァント。
少年は伊月の話を聞き、静かに言う。
「ほう……つまり、マスターは己の作品を盗まれた訳か」
「いえ、その。私……引きこもりで一日中部屋にいたんです。部屋に鍵もかけてて、それに私の家って高知のド田舎ですし……」
盗作と指摘され、伊月はドキリとなって言い訳する。
自分が描いていた筈の『ホワイトナイト』が、何故か週刊少年ジャンプで連載されていた。
ありない事だった。
内容などに差異はあれど、間違いなく『ホワイトナイト』だった。
でも、どうやって自分の部屋から『ホワイトナイト』を盗んだのか。
何で、よりにもよって自分の『ホワイトナイト』が盗まれたのか。
訳が分からず、真偽を確かめようと東京へ向かった筈の伊月。
そして、いつの間にか東京に住んでて『ホワイトナイト』の連載を始めようとしていた。
何故なのだろうか。
最初は、ファンタジーな出来事などないと思い、きっとあの『ホワイトナイト』を描いたのは自分と同類の人間だから
たまたま
偶然に
伊月と同じ『ホワイトナイト』を完成させたのだと突拍子もない事を考えていた。
そうはないだろ、と突っ込まれても。
だったら、他にどういう理屈で彼女の『ホワイトナイト』がジャンプに連載されているというのか。
こんな――聖杯戦争に巻き込まなければ、伊月は突拍子もない勘違いをし続けただろう。
少年が一蹴する。
「マスターよ。無限に時間があれば
猿がタイプライターでウィリアム・シェイクスピアの作品を打ち出す事は可能と比喩があるが。
現実的ではないだろう。赤の他人がお前と同じ作品を産み出す事は不可能。
間違いなくお前は被害者だ。何等かの手段を用いて『ホワイトナイト』を盗作されたのだ」
「盗作……」
「決して許すな、マスター。
俺は人類の芸術を深く語れはしないが、確かな事がある。芸術を志す者は己の作品に誇りがある筈だ。
己の作品を誰かに見て貰いたい執念で己を駆り立て生涯を尽くす。
それを侮辱したのだ。許してはならない。それと……」
確実な一言を告げた。
「俺はマスターの描いた『ホワイトナイト』を読みたいからな」
藍野伊月は、全ての人類を楽しませる漫画を描きたいと奔走していた。
『ホワイトナイト』は苦節あって構想していた作品だ。
決して、諦めてはいけない、一つの誇りだった。
何より――……
「アヴェンジャーさんにそう言われたら……応えないと駄目ですね。
はい……! 私、『ホワイトナイト』を完成させます!! 必ず描き切ります!
全人類も――神様も楽しませる漫画を描いてみます!」
読みたいと願う誰かがいるなら、描くものだ。
藍野伊月は笑顔で宣言した。
☆
決して許してはならぬ。
この先にある未来の輝きも、残してゆくべき美しさも滅ぼす奴だけは――
復讐心を抱いた『黄衣の王』が往く。
まだ、世界は壊すべきではない。
――継続――
【真名】
ハスター@クトゥルフ神話+『黄衣の王』+史実?
【クラス】
アヴェンジャー
【属性】
秩序・悪
【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:A++ 魔力:A 幸運:C- 宝具:B
【クラススキル】
復讐者:E+++
恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
本来、ハスターは憎悪も復讐心もなかったが、
クトゥルフと敵対する逸話から
その憎悪と復讐心を得た。一種の『無辜の怪物』。
忘却補正:E+++
誰も彼もが忘却しても、復讐者は決して忘却しない。
ハスターはクトゥルフと敵対しているが、憎悪や復讐心はない。
だが、サーヴァントとなった事で憎悪と復讐心を得て、それらが常に加速している。
自己回復(魔力):D-
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。
微量ながらも魔力が回復する。
【保有スキル】
魔力放出(風):B+++
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
芸術審美:E-
芸術品・美術品に対する理解、あるいは執着心。ごく低い確率で真名を看破できる。
ハスターは人間の芸術を理解し始めたばかりなので、懐疑的。
黄の印:A-
ハスターを象徴する紋章。
印を見たものの精神に狂気と破壊を与える……のだが、ある理由により
印をつけたものに加護を与える支援スキルとなった。
ただし、加護だけでなく呪いも与えてしまう。
【宝具】
『黄衣の王(デ・ステーレンナフト)』
ランク:B-- 種別:対陣宝具 レンジ:30 最大捕捉:100~500人
ヒアデス星団のカルコサの地を舞台に、美しくも恐ろしい言葉で埋め尽くされた詩劇。
狂気と恐怖の戯曲を再現する大魔術。固有結界ではない。
……なのだが、ハスター自身の願望を形にした為、本来の戯曲とはかけ離れた表現が使われている。
天井にはかの有名な『星月夜』が広がり、『黄色い家』が並び、『ひまわり』が一面を咲き誇る。
【weapon】
『ひまわり』の杖
どこかで見た事ある『ひまわり』が杖状になったもの。
『ひまわり』部分が回転して攻撃できる。
【人物背景】
名状しがたきもの、名づけられざりしもの、星間宇宙の帝王、邪悪の皇太子。
そして――『黄衣の王』の異名を持つ怪物。
クトゥルフとは異母兄弟であり敵対関係。
敵対する理由は諸説あるが、少なくとも安息所を巡って争ったのは事実らしい……
かつて宇宙を自由に駆け巡り、地上にも君臨したが、現在はヒアデス星団の『黒いハリ湖』に幽閉されている。
刹那の合間だけ、別宇宙を観測した際、一人の芸術家の作品をお気に召し
宝具や武器、スキルにも影響がバリバリ出ている。
ぶっちゃけると『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』のファンなのだ。
このハスターは芸術面を強く影響した存在であり、
神格ではなく、あくまで『黄衣の王』に登場した怪物としての側面。
クトゥルフと敵対する逸話による復讐心。
人間への関心を組み合わせた奇跡的な『複合』サーヴァント。
クトゥルフという共通の敵を持つ意味もあり、人間には友好的である。
【外見】
金と黒が混じった短髪の少年。
サイズの合っていないフード付きの黄衣を纏っている。
【サーヴァントとしての願い】
クトゥルフの打倒
【マスター】
藍野伊月@タイムパラドクスゴーストライター
【聖杯にかける願い】
『ホワイトナイト』を完成させる
【能力・技能】
天才的な漫画の才能と顧みない行動力。
行動力が行き過ぎて、ある世界線では……
【人物背景】
自分の漫画で全人類を楽しませたい少女。
最終更新:2022年03月31日 22:17