東京二十三区の一角で歌声が響き渡った。
ストリートミュージシャンなんて、何ら珍しい存在ではない。ここで花開く未来のミュージシャンも一人、二人いる。
だが……金髪ツインテールで、黒羽を基調としたアイドル衣装を纏う少女。
彼女の歌は――破滅的だった。
音痴という意味ではない。
可愛らしくも、カッコ良さもあり、美しい、そんな容姿とは裏腹に、彼女の口から流れて来るのは――デスボイスだった。
極めつけに、単なる絶叫や意味不明な文字の羅列のようではなく、お経か呪詛のような耳に残る歌なのだ。
最早、騒音を通り越して恐怖が勝る。
「ひぃぃぃ! この世の終わりじゃあぁっ!!」
「なにこのお経!?」
「誰か止めてぇ!」
「助けて! 呪われるぅ!!!」
ただ、一人。
少女の傍らに石ころのように佇んでいる存在がいる。
平凡な少女だけど、逃げ出さず、デスボイスのアイドルの為、必死に踏みとどまっている。
彼女の名は『
七草にちか』。
デスボイスのアイドル――ランサーを召喚した聖杯戦争のマスターが一人である。
歌い終えたランサーは、閑散となった場を見て嘆く。
「だ、誰もいない~~~~! 今回も駄目だったわ……ねえ、マスター。今回は何がいけなかった?」
「ええっと、何もかも……」
「基礎がなっていないってこと!? 成程、ね……流石は現役アイドル。指摘内容が違うわ」
そういう事じゃない。
にちかは何と返事をすればいいか言葉がつまった。
自分は――アイドルじゃない。いや、アイドルなのだけど、アイドルに――なってしまったのだ。何かの間違いで。
ふと、彼女はランサーに尋ねた。
「でも、ランサーさん。それって聖杯にお願いすればいいじゃないですか。歌が――魅力的になれますようにって」
ムッとした表情でランサーが反論する。
「魅力的じゃないのは私の実力不足よ? 自分が駄目なところは自分で努力して改善するのがアイドルの筋って奴でしょ。
大丈夫! 神様から依頼されたコンサートの開催まで時間はあるんだから。それまでに上手くなるよう、いつまでも歌い続ければいいの」
「……そう、ですよね。そうですよ」
っていうか。にちか自身も分かってる。にちか自身が言ったのだ。
平凡な自分だからこそ、沢山努力しないといけないのだと。
だけど、ランサーは躊躇なく、無理をせず言ってのけたのを見て、にちか自身は固まってしまう。
「ランサーさん……歌えるんですか。誰からも聴いて貰えなくても」
「歌えるわ……ってのは嘘ね。……昔、一生懸命歌って、歌って、歌い続けても誰も聴いて貰えなくて、誰かの為に心込めて歌ったのに、よ」
遠く懐かしく、悲し気にランサーが語る。
彼女――真名を『
以津真天』と云う妖怪は放置された死体を憐れんで鳴く怪鳥。
だけど、先程のように彼女の歌声は人々に恐怖を与えてしまう。
「それで自棄になって歌ってたせいで射貫かれて殺されてしまったわ」
酷い話である。
しかし、彼女・
以津真天はそこから顔をあげて表情を明るくさせた。
「でもね! 神様は私の歌を聴いて下さってたの!! 地上の人間たちに私の歌を聴かせるコンサートを依頼されちゃったのよ!
凄いでしょ。だからね。私はもう自棄にならないって決めたわ。私の歌を聴いてくれた神様の為にも、未来で待ってるファンの為にも」
だから、いつまでも歌える。いつまでも歌うわ。いつまでも歌えるの。
そんな偶像を見て、にちかは
☆
平凡なのに、アイドルを目指した。
それだけならよくある話で。
アイドルに憧れる少女なんてのも、ありふれた設定で。
平凡だけど努力して頑張って輝こうとする。
それすらも漫画やアニメで聞くような、珍しくもない事で。
きっと、バグか何かだったのだろう。
オーディションに合格できたのが、狂っていたのだろう。
普通はここで不合格の烙印を押されて「あーあ!駄目だったなー!!」って笑って、夢を諦め、普通の生活に戻って……
どうして、合格してしまったのだろう。
どうして、優勝してしまったのだろう。
何もかも嘘だったらいいのに。
いつまで歌い続ければいいのだろう。
いつまで踊り続ければいいのだろう。
――――いつまで?
【クラス】
ランサー
【属性】
混沌・悪
【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:C++ 幸運:A 宝具:E(A)
【クラススキル】
対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
【保有スキル】
飢饉:-(A)
以津真天の歌声を聞くもの全てから生命力や魔力などを吸い上げ、挙句、
歌に魅了され、精神と肉体を意のままに支配される。
……のだが、誰かを想って歌う
以津真天の歌声ではこれらのスキルは発揮されない。
無辜の世界:-
『飢饉』に対する人々の恐れが生み出した色濃く反映されたスキル。
他の四騎士はプレーンな存在で召喚されるのだが、
以津真天の場合は特例で妖怪として顕現できる。
戦闘続行:EX
名称通り戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
いつまでも歌うわ、いつまでも歌うの、いつまでも歌えるの、いつまでも、いつまでも
【宝具】
『来たれ、飢饉よ、来たれ(ドゥームズデイ・カム)』
ランク:E 種別:対界宝具 レンジ:99 最大補足:999
本来はマスターのイメージに引きずられる結界世界を構築する宝具だが、
以津真天の場合は近代的なコンサート会場を展開する固有結界に改造してしまった。
『剣、饑饉、死、獣(エンドレスソング)』
ランク:E(A) 種別:対軍宝具 レンジ:99 最大補足:999
他者に『飢餓』を与える数多の物を具現化させ、その力を行使するスキル。
環境が完全に整えば、神話における『終末』を魔力が許す範囲でのみ再現する事も可能。
以津真天の場合は、終末にて披露する渾身の歌を奏でる。
所謂、破壊音波を放つだけなのだが、
以津真天が本来の姿を取り戻すと、
相手の内部にあるエネルギー(魔力など)に音波を反響させ、エネルギーを強制消耗させる最悪の歌へと変貌する。
【その他】
『
以津真天』
宝具ではなくランサー本来の在り方、隠された真の実力。
誰かの為に歌わず、自暴自棄となり歌う時、姿が現れる怪鳥。
人間の顔のまま、曲がった嘴に鋸のような歯が並ぶ、胴は蛇のように、両足に鋭い爪が生える。
スキルや宝具のランクが()内のものに変化し、終末の四騎士の力を発揮する。
【weapon】
スタンドマイク(天秤)
ブラックライダーが持つとされる天秤……をスタンドマイクに改造してしまったもの
よーく見ると、天秤の原型が残っている。
当然ながら食料を測る為ではなく、歌う為にしか使わない。
【人物背景?】
ヨハネプロダクション所属、ボーカル担当のブラックライダー・
以津真天!
誰かの為を想って、いつまでもいつまでも歌い続け幾千年。
ひょんなことから見守って下さった神様から、終末コンサートの開催を依頼されちゃった!
地上四分の一スケールでお届けする最初で最後のオンステージ!
いつか来るその日まで、いつまでも努力して、いつまでも歌い続ける永遠の偶像(アイドル)!!
応援よろしくお願いするわ! マスター!!
【真・人物背景】
戦乱、疫病、飢餓などで死んだ死体を放置すると現れる怪鳥。
死体の近くにとまり「いつまで死体を放っておくのか」と鳴くと云われている。
彼女は死者を哀れみ、死者の為に歌い続けたが、誰も彼も彼女の歌を、鳴き声を恐れて逃げ去ってしまう。
誰かを想い歌っても誰からも聴いて貰えず、ついに自暴自棄になった彼女が歌うと
それは誰も彼も魅了し、彼らは宴を始め、それのせいで飢饉を引き起こす魔の歌であった。
『太平記』では魔の歌で人々に疫病が流行しても、ほったらかしにさせ、ある弓の名手によって退治させられた。
それを見た神が彼女にある役割を宛がう。
『ヨハネの黙示録』に記述されている終末の四騎士の一人。
神から地上を分割統治する権利と地上の人間を殺す権利を与えられし死の天使。
小羊が解く七つの封印の内、三番目に登場するブラックライダー。
人類の『飢饉への恐れ』を象徴するもの。
神は彼女の歌声を『終末』にて利用する為に、特別に『飢饉』の象徴として宛がった。
以津真天は、自分を見てくれた神様からライブステージと観客を貰ったと解釈しているが
彼女が歌わされるのは、飢饉を引き起こす終末の歌。
永遠に偶像(アイドル)になれない彼女は、それでも偶像となる為、歌い続ける。
いつまでも
いつまでも――……
【外見】
金髪ツインテールでツリ目が特徴の少女。黒羽を基調としたアイドル衣装を着ている。
【サーヴァントとしての願い】
ライブ会場のセッティング費用
【マスター】
七草にちか@アイドルマスターシャイニーカラーズ
【聖杯にかける願い】
???
【能力・技能】
彼女は平凡である。
【人物背景】
偶像になろうと形の合わない靴をはいて駆けあがった少女。
平凡なのに沢山の努力をして――優勝をしてしまった。
偶像になってしまった。
【捕捉】
『W.I.N.G.』の優勝ルート後の参戦
最終更新:2022年04月29日 11:12