この『二十三区』に正義も法もない。



ここは隔離されている。
表面上、人々は日本国憲法に基づいて生活しているが、それは無辜の人々、聖杯戦争とは無縁の存在たちだけの話。
聖杯戦争を行うマスターとサーヴァントにとっては大きく異なる。
あるサーヴァントは人々を魔力源にし、あるマスターは人々を利用する。

扱いはどうあれ、それも聖杯戦争での戦略の一つだ。
幾ら残酷で非道で無秩序であっても、彼らは聖杯という願望機を求める為に雌雄を決する。
正義はない。
法もない。
秩序もなければ。
規則もない。

悪い意味で全てが許されている、悪夢のような戦場。
尊い犠牲を惜しむ善意や命奪う行為の躊躇は甘えの世界。
ならば、その全てが無意味に終えるべきなのか?

ここにも一組、非道を尽くさんばかりの主従が存在する。
彼らは運が悪かった。
敵サーヴァントの襲撃を受けたが、周辺は姑息な罠を張り巡らされた陣地なのだ。
その主従のサーヴァント・キャスターは、敵が火に入る夏の虫だと嘲笑っていたが――笑みを浮かべていたのは序盤の内だけ。

敵は想像以上の規格外の強さを誇っていた。

長き銀の髪に黄金色の瞳をした美青年は、月の模様をあしらった銀と白の漢服を靡かせ、無数の紅勾玉を変幻自在に操作し、圧倒する。
その風貌と、宝具を見れば自ずと真名が分かってしまう。
真名が明らかになるのはサーヴァントにとって致命的なのだが、それは関係ない。

何故ならば――時は『夜』だからだ。

そう、夜。
アーチャーのクラスを冠する美青年の真名は『ツクヨミ』。
月の神であり夜を統べるもの。
キャスターが敷き詰めた姑息な罠を物ともしないのは、その絶大な夜の王としての権威。
相手が――時が問題だった。

勝ち目がないと降伏したキャスターだが、ツクヨミは問答無用に勾玉でキャスターを叩き潰す。
聖杯を求めるなら当然の事で、キャスター本人もツクヨミを倒す前提だろうに、降伏したところで意味は為さなかった。

そして、キャスターのマスターもまた。
サーヴァントを失っても再契約の権利を持つ以上、場合によっては始末の対象になる。
だが、このマスターは事情が異なった。

キャスターの敗北を知ったマスターが逃走を図ったところで、どこからともなく青き炎を纏い不気味な仮面とスーツで身を包む怪人が現れる。
普通であれば悪趣味なコスプレ野郎と罵倒できるが、キャスターのマスターからすると立派な死の象徴。
正体不明の怪人は告げる。


「罪深き者よ、裁きの時が来た」


怪人の炎を纏った矢が装填されたクロスボウを向けられ、キャスターのマスターは必死に訴えた。


「ま、待ってくれよ! ただちょっと、女子供に手ぇかけただけでっ、殺しちゃいねぇ! 殺したのはキャスターの野郎だっ!!」


それでも攻撃を止める意思がない怪人に、キャスターのマスターが叫ぶ。


「俺を本気(マジ)で殺す気か!? 殺したところで手前(てめぇ)も――」

「私は、私の正義に基づき裁きを下す。これが私の正義だ」






東京二十三区を騒がす事件の内、謎の連続焼死事件が発生している。被害者に共通点はなく、警察の捜査も難航している旨が報道された。
それを聞き流しながら職務を続ける男性が一人。
名を『ユーリ・ペトロフ』という。

彼は裁判官の役割を担っているのだが、外国人で日本の裁判官の座についているのは不自然……でもなかった。
この東京二十三区では、彼以外にも国籍問わず学生から公務員まで、様々な人種が存在している。
マスターである人間の隠れ蓑なのだろう。
故に日本人ではないからマスターだからという道理はない。
実際、ユーリが昨晩殺害したマスターは日本に在住する極道の端くれである。

昼間に役割を続ける事で周囲に怪しまれないのが目的でもあるが、彼のサーヴァント・ツクヨミは夜にしか真価を発揮できない事も理由がある。
だから、昼間は暇……じゃないのだが。
ツクヨミは念話でこう尋ねる。


『マスターよ。お前にとって「月」とは何か? 何故(なにゆえ)「月」を選んだ』

『……質問の意図が分からないが』

『嗚呼、そうだったな。お前は俺の正体を理解していなかった。俺はこの国では名を知らぬ月の神と扱われているが――実在はしない』


全く以て不可思議である。
ユーリは手を止めて、ツクヨミの話に耳を傾けた。


『神という概念は実在していないと』

『いや、俺だけが実在していない。我が姉・アマテラスは実在し、我が弟・スサノオも実在するが、俺は……後付けだ。
 太陽と対為す存在として、それらしく宛がわれた泡沫(うたかた)に過ぎない』


しかし、今日に至るまでツクヨミの崇拝と信仰は各地に存在する。


『人々の信仰により泡沫が神として顕現し得た。これもまた人の為せる技なのだろう』


勝手に生み出され、勝手に崇められ、勝手に貶められる。
まるで英雄(ヒーロー)のようだ。
全てを理解しユーリは「皮肉なものだな」と呟く。ツクヨミも「そうかもしれんな」と答えた。


『だが俺は聖杯を以てして神霊と成る。泡沫であれ空想であれ、俺は望まれるものへ至る。
 故に――月の神として何を為すべきか。少々、いや、相応に思案している。俺は月の神としてどう有ればいいか』


まるで将来を夢見る子供のようなツクヨミの発言だが、彼は真面目なのだろう。
人々にそう望まれ。
人々に恐れられ。
だが、変な話。どうあるべきかを問われ、ユーリは決して自身の正義を述べることは無く。ただ言う。


『我々は神話の住人ではない。
 どう評価しようが神話に介入する事は許されない。そこに足を踏み入れた者にしか理解できない。
 ……私が答えられるのは、それだけだ』


そして、それは彼自身の事でもあった。自分は英雄には成れない。だが、自らの正義を全うする為、歩みを止めない。
ツクヨミもまた「嗚呼、それはそうか」と無性に納得する。

聖杯は――実在するのか。
それは奇跡か。幻想か。泡沫か。誰も知らない。誰も分からない。ツクヨミという神が実在しなかったという事実と同じ。
それでも戦争が始まる。夢か現か分からぬ内に殺し合う。正義が歩みを止めぬように。


私は私の正義に基づき裁きを下す。
その対象が聖杯であっても。







【真名】
ツクヨミ@日本神話

【クラス】
アーチャー

【属性】
秩序・悪

【パラメーター】
筋力:E 耐久:D 敏捷:D 魔力:D 幸運:E 宝具:A


【クラススキル】
対魔力:A
 魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
 Aランク以下の魔術は全てキャンセル。事実上、現代の魔術師では傷をつけられない

単独行動:B
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 Bランクならば2日は現界可能。


【保有スキル】
うたかたの神:EX
 イザナギの禊にて生まれた三貴子『アマテラス』『スサノオ』そして『ツクヨミ』。
 日本神話において月を司る神とされているが……神霊の彼は実在していない。
 誰かが付け加えた『うたかたの夢』に過ぎなかったが
 今日まで正式な神霊として信仰・崇拝された事により顕現する奇跡に至る。

使い魔(兎):D
 ツクヨミの神使とされる兎の召喚をする。索敵、伝令、団子を作る程度の役割を持つ。

夜を統べる者:A
 月神の権威と夜の食国の主たるスキル。
 夜間に限り幸運以外のパラメーターが全てAランクとなり、魔力に関しては無尽蔵の状態。
 即死耐性、精神耐性が常時付与される状態に。簡単に言えば夜間は無敵。


【宝具】
『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~500 最大補足:1~1000人
 浮遊する紅勾玉。それを自在に操作可能。行動範囲はレンジ内に限られる。
 勾玉が八尺ほどまで形状を大きくでき、勾玉同士を環に繋ぎ合わせ敵を拘束も可能。

 彼の有名な『三種の神器』の一つ。
 八咫鏡に対して月を示しているのではないか?とされるが不明。具体的な形状の詳細すら不鮮明。
 ましてやそもそも『神器は二つ(八咫鏡と天叢雲剣)だった』。
 何故か『八尺瓊勾玉』のみ神器を剥奪されてる。なんて事も多々記述として残されている。
 本来の神器は二つのみだった……かもしれない。


【人物背景】
『月読尊(ツクヨミ)』とは日本神話に登場する夜の国を統べる月の神である。
イザナギの禊で右目から生まれた三貴子の一柱。
アマテラスの弟であり、スサノオの兄。

本来なら相当の重要ポジションながら神話に登場する機会は少なく、スサノオと逸話や役割が被ることが多々ある。
ツクヨミの立場が一部スサノオになった。
あるいは、アマテラスとツクヨミの神話にスサノオが混入にした。
もしくは、アマテラスとスサノオの後からツクヨミが加えられた。
……などなど、非常に曖昧である。

真相は『元よりツクヨミなんて神は存在しなかった』。
太陽の神・アマテラスと対為す存在として後付けで加えられた文字通り架空の神。
しかし、今日まで正式な神として崇拝・信仰された為、不可思議ながら『うたかたの神』として召喚する事ができる。
これはツクヨミ自身も認知しており、故に彼の願いは『正式な神霊になる事』である。


【外見】
ロング銀髪の金目の美青年。
ツクヨミの逸話やイメージのせいか、髪の一部が兎耳のような触角になってる。
服装は月の模様があしらわれた銀と白の漢服。


【サーヴァントとしての願い】
正式な神霊になる




【マスター】
ユーリ・ペトロフ@TIGER&BUNNY


【聖杯にかける願い】
自身の正義に基づき行動を果たす。
そして、聖杯が悪であるなら――……


【能力・技能】
NEXTと呼ばれる特殊能力。
青い炎を自在に操り、ジェット噴射して飛行する事も出来る。


【人物背景】
表ではシュテルンビルト司法局のヒーロー管理官兼裁判官。
裏では自身の正義に基づき粛清を施す番人を自称する犯罪者。あるいはダークヒーロー・ルナティック。
最終更新:2022年05月05日 15:35