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語り:ともさかりえ

北海道、背氷村。
大雪山系の山々に抱かれ、日本有数の寒冷地でもあるこの村には、古くから奇妙な伝説が伝えられていた。
─────雪夜叉伝説。

死んだ赤子を抱え、片手に大斧を持つその姿は、激しい吹雪の中でも冷めやる事のない憎悪の炎を燃え滾らせていたという……


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……また、同じ夢を見た。
墜落した飛行機。その機体に押しつぶされそうになっている母さん。
助けてくれる人なんてだれもいない。
今にも崩れ落ちてきそうな機体を死に物狂いで支える。
それが、無駄な努力だと知りながら。


そうしているうちに、”奴ら”がやって来る。
ごみ溜めにたかるゴキブリの様に、浅ましい犯罪に手を染める奴ら。
奴らに見捨てられ、助かったかもしれない母さんはまた、私の目の前で死ぬ。
あいつらはこの手で殺したはずなのに、私の夢の中では変わらず生きていて。
何度でも母さんは見殺しにされるのだ。


……奴らを殺した事に後悔はない。むしろ生きていたとしたらまた殺したい程だ。
そして、その罪が一人の名探偵によって暴かれたことも。
正しく、完敗だった。
自分の仕掛けた、正真正銘生涯を賭けたトリックは悉く、金田一耕助の孫だという少年に見破られた。
全ての罪を白日の下に晒された時、絶望はなかった。
復讐をやり遂げた殺意の残り滓の様な達成感と、ただ全てが終わったのだなという虚しさだけが私の胸中を占めていた。


……そう、私の物語は終わった筈だった。
後は一生、塀の中で無為な人生を過ごしていく、その筈だった。
それなのに。私は此処にいる。
塀の中ではなく、東京にあるアパートの一室で、こうして目覚めている。


聖杯戦争。
万能の願望器。
それに優勝すれば、あらゆる願いが叶うのだという。


「マスター、大丈夫?また、うなされてた」


私の他には誰もいない室内で、私のモノではない声が響く。
其方へ視線を移してみれば、私が引き当てたサーヴァント…少女が立っていた。
雪の様に白い長髪と肌、宝石の様に紅い瞳。感情を移さない表情。
彼女は自らを弓兵(アーチャー)と名乗った。


「……えぇ、大丈夫よ。アーチャー」
「ん。良かった…マスターは、私が守るからね」


そう言ってアーチャーは、体を起こした私を抱きしめてくる。
氷の筈の彼女の体は、しかし冷たくは感じなかった。
そのまま落ち着くまで抱きしめ返し、彼女の柔らかな髪を撫でる。
こうして撫でていると、本当にこんな子供が英雄なのかと思うほど、彼女は無垢だった。
将軍などという異名が似合わない、穢れを知らず、どこまでも純粋な氷雪だった。
母が死んだ十の歳から、復讐の事だけを考えて生きてきた私が引き当てたのが痛烈な皮肉に感じるほど。


「……ありがとう、アーチャー」


彼女の前なら、穏やかな笑みが浮かべていられる気がした。
もう浮かべることは無いだろうと思っていた笑みを。
実際に上手くできているかは分からないけど、それでも最後に彼女の髪を梳く様に撫でて。
ベッドから降り、玄関の姿見の前へと立つ。
そこに映っていたのは、当然何も変わらぬ私───綾辻真理奈の姿だ。
しかし、そんな私に彼女は声をかけてくる。


「大丈夫、大丈夫だよ。マスター」


その声は、先ほどまでと違ってゾッとするほど冷たくて。


「私は、マスターの味方だから。だからね…………」


あらゆる感情が、彼女の声から感じ取れなくなっていた。


「───みんな、眠らせよう」


彼女の言葉と共に。
鏡の中に映る私の姿はもう、綾辻真理奈のモノではなかった。
アーチャーが一筋の雪風へと姿を変え、私の体を包んだから。
変わっていく、作り変えられていく、変身していく。
綾辻真理奈が、別の何かへと。
女が、夜叉(まもの)へと変わっていく。
恐怖は無かった。不快感も、違和感さえその変貌にはありはしない。
だって。
それは私がかつて、人生の目的であった凶行を果たした時と同じ姿だったから。


「えぇ、優勝しましょう…アーチャー、ジェネラルスノウ」


全ては、終わらぬ悪夢に終止符を打つために。
あの地獄の夢から、母を救い出すために。
その為なら、今一度私は悪魔に魂を売り渡そう。
復讐ではなく、今度は正真正銘の殺人鬼(やしゃ)として。
今一度、この東京の地にて。
雪夜叉伝説殺人事件の幕を上げるのだ―――……


―――人間には幸せに生きる権利があるんじゃないかな……?
―――そうじゃなくて…綾辻さん自身の事だよ。
―――アンタのお母さんは…あんたがこんな事をするのを望んだんだろうか?


「………金田一君、ありがとう」


そう決意した矢先に。
何故か脳裏を過ったのは、私の犯行を暴いた、あの少年とのやりとりだった。


「私きっと、あなたに救われてたんだと思う」


そして、ごめんなさい。
私は貴女にかけてもらった言葉を裏切り、もう一度恐ろしい事に手を染めようとしている。
でも、私はこれ以外の生き方を知らない。
赦してくれとは言いません、でもどうか……どうか、ごめんなさい。
何度も心中で謝りながら、もう一度鏡の中の自分の姿を見る。
そこに立っていたのは、蘇った醜い怪物だった。
四人もの人間を殺めた『雪夜叉』がそこに立っていた。
今回も、こ吹雪がやむまで―――殺人は続くだろう。
けれど、あの時違うことがたった一つだけ。


―――その時、最後の力を振り絞って自分の娘を助けたのは……アンタだけでも生き延びて…
―――幸せに、なって欲しかったんじゃないのかな……?


その言葉のぬくもりだけは雪夜叉へと変わり果てた心でも、消えてはくれなかった。




【クラス】
アーチャー

【真名】
冬将軍@史実、自然現象

【属性】
中立・中庸

【パラメータ】
筋力:D 耐久:C+ 敏捷:A 魔力:D 幸運:A 宝具:A

【クラス別スキル】
対魔力:A
 魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
 Aランク以下の魔術は全てキャンセル。事実上、現代の魔術師では傷をつけられない。
ただし、炎属性の魔術に関しては同ランク以上の出力であれば干渉は可能。

単独行動:A
マスター不在でも行動できる。ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。


【保有スキル】

無我:A
自我・精神といったものが極めて希薄であるため、あらゆる精神干渉を高確率で無効化する。

天候操作:A
フィールドの天候を自在に操り、意のままに掌握するスキル。
アーチャーの場合、吹雪や寒波といった寒冷化現象に特化している。
その射程は東京23区を苦も無く覆える広さを誇り、掌握速度も東京の気温を一瞬のうちにシベリアと同じ極地まで引き下げることができる。
猛吹雪を発生させれば一瞬で視界がホワイトアウトし、この条件下でのアーチャーは同ランクの気配遮断能力を得る。また、敵サーヴァントは氷雪によって敏捷値が1ランクダウンする。

魔力放出(氷雪): A
アーチャーの全身を覆う、極寒の氷雪。
極寒の冷気と永久氷壁によって見た目からは想像もできない程の防御力を兼ね備えている。
攻撃を受けた場合はこの氷雪の鎧によって同ランク以下の攻撃を無効化、或いは減退させる。
また、攻撃の面でも冷気を一点に集中して放つレーザーや巨大な氷塊の砲弾、果ては氷精霊(イフリータの亜種)を召喚等攻防一体の性能を有している。



【宝具】
『冬将軍(シベリア・ツァーリ)、或いは雪夜叉伝説殺人事件』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:1000
射程内の範囲にアーチャーが生み出す極寒の世界。
あらゆる生命を拒絶し永久の眠りへと誘う霜と氷の固有結界。
発動時、アーチャーは吹雪以外にも、氷柱・雹・霰・寒波など冬にまつわるあらゆる現象を具現化でき、周囲の大気や水分すら利用してのける。
対抗するには同じ自然現象を主体とする力(太陽や火山噴火)で対抗するか、あるいはこの宝具に匹敵しうる大陸規模での破壊力を持った宝具で吹き飛ばす他ない。

そして、この宝具の最も特筆すべき点は、自我を持たない自然現象であるアーチャーの変わりにマスターの心象風景を映し出す固有結界であること。
その為宝具発動時、任意でアーチャーは自分のマスター己のパラメータ、スキルを付与することができる。
この状態のアーチャーは事実上のマスターとサーヴァントの一体化を果たし、マスターの心が凍てついているほど宝具の出力は増し、より堅牢になる。
一体化時における、マスター及びアーチャーの姿は『雪夜叉』という形をとる。

【Weapon】
マスターの影響により、手斧を持っている。

【解説】
ロシアが誇る自然現象を擬人化した英霊。冬季に周期的に南下する北極気団(シベリア寒気団)。
建国以来ロシアの大陸を守護してきた常勝の英霊であり、ありとあらゆる戦争に勝利を収めてきた。
その在り方は当然人のモノではなく、自我は非常に希薄で精霊のそれに近い。
冬将軍という名前の響きから男性の姿を取って召喚されることが多いが、マスターによっては少女の姿で現れることもある。

【特徴】
紫の軍服と軍用コート、毛皮帽を身に着け、雪の様な白髪に真紅の瞳の少女。

【聖杯にかける願い】
なし。マスターを守り抜く。



【マスター】
綾辻真理奈@金田一少年の事件簿『雪夜叉伝説殺人事件』

【聖杯にかける願い】
子供の頃、墜落した飛行機の機体に押しつぶされた母を救う。

【weapon】

【能力・技能】
卓越した頭脳を誇るエリート警視すら完璧に欺く頭脳と演技力。

【人物背景】
愛する者を失った悲しみと絶望が…ひとりの女を”夜叉”へと変えた───
哀しい夜叉(まもの)に────……


逮捕後より参戦。
最終更新:2022年05月08日 08:25