「――で、これどうするの」

自身のサーヴァントが持ち帰ってきた『盗品』を前に、凛は呆れた声を漏らした。
拳銃。ライフル。機関銃。挙句の果てにロケットランチャー。
TV番組や映画でしか見たことがないような凶器の数々が大量に積み上げられている。

「君が使うといい。私には不要なものだ」
「いやいや、使えって言われても使えないから……」
「達人のように使いこなす必要はないさ。サーヴァント相手には心許ないが、身を護る術として活用してくれたまえ」

――セイバーのサーヴァント、シャノワールは筋金入りの変わり者だ。
どんな宝でも盗み出すと豪語し、相手を傷つけないという信念を持ち、盗みの前には必ず予告状を出して自己アピールをする。

それを思い返して、凛はふとした違和感を覚えた。
自己愛と自己顕示欲と潔癖症的な拘りがヒトの形を成したようなこの男が、果たして銃火器などを『宝』と見なすのだろうか。

もちろん、本当にこういうモノも盗む対象と認識しているだけという可能性も普通にある。
金額的には間違いなく高額だろうし、この国ではまず手に入らない希少品揃い。
保有している者達も普通の人間ではないので、怪盗がターゲットにしてもおかしくはないのかもしれない。

けれど、そうではなかったとしたら。他にもっと重要な目的があるとしたら。
それはきっと――

「ねぇ、セイバー。これを盗むときに他のサーヴァントと戦ったりした?」
「鋭いな。なかなかの推理力だ。お察しの通り、君が手配写真を受け取ったセイヴァーと暁美ほむらに遭遇した」

セイバーから犯行時の顛末を説明され、凛は息を呑んだ。

「もしかして、他のサーヴァントを誘き出すために予告状を出したの?」
「さぁ、どうだろうね。少なくとも私は、何を盗むとしても予告状を送ることを信条にしているよ」

セイバーは凛からの追求をさらりとかわし続ける。
まるで蜃気楼を掴もうとしている気分だ。どんな角度から触れようとしても手応えがない。
結局、凛はセイバーの意図を聞き出すことを諦めることにした。

「まぁ……こんな危険物が他のマスターの手に渡らなかったんだから、良いことではあったのかな」

事実、暁美ほむらは銃火器の調達を試みていた。
セイバーが先んじたことで失敗に終わったが、そうでなければこれらの凶器は彼女の手に渡っていたのだ。

「(ただの中学生だと思ってたけど、普通じゃなかったんだ……)」

例の手紙を受け取り、討伐令の存在を知ったとき、凛は暁美ほむらのことを無力な少女だと認識していた。
しかし、どうやらそれは先入観による誤認だったらしい。

セイバーが言うには、暁美ほむらは時間を止める特殊な力を持っている。
彼女は被害者になるだけのか弱い存在ではなく、むしろ人間離れした部類に入る存在だったのだ。
しかもそれだけに留まらず、こんなにも物騒極まりない武器を手に入れようとしていたのである。

これはもう認識を改めなければならない。
セイヴァー・DIOだけでなく、そのマスター・暁美ほむらも討伐されるほどの理由がある――のかもしれない、と。

念のため現在時刻を確認しておく。日曜日の午後九時。まだ『本戦』までに余裕がある。
今から現地に向かえば『本戦』開始には余裕を持って間に合うだろう。

「セイバー。一つ頼まれてもらえないかな。手に入れたいものがあるんだけど」
「おや、盗みのリクエストかな。では、まずは予告状につける香水を選ばなければ」
「……待った。学校に行って生徒の情報を取ってきてほしいだけだから。予告状とかはナシでお願い」
「それはできない。どうしてもと言うのなら令呪を使いたまえ。一画では足りないかもしれないがな」

凛は片手で頭を抱えた。筋金入りにも程がある。
この怪盗の価値観は何があっても変えられないという確信を抱かされてしまう。
思い通りに動いてもらいたければ、こちらが態度を工夫するしかなさそうだ。

「だったら、私を見滝原中学校の職員室まで連れて行って。誰にも気付かれないように」
「フフ、自分が盗みを試みるから援護してほしいということか。いいだろう、それならば君の流儀を尊重するとしよう」
「泥棒しにいくわけじゃないからね。必要な情報を集めにいくだけだから」

そして凛は、セイバーの支援を受けて見滝原中学校の職員室への侵入を果たした。
正直、びっくりするくらいに簡単だった。
セイバーは物理的な施錠も電子警報も容易く無力化し、誰に気付かれることもなく凛を目的地へ送り届けたのだ。

「さて、私のマスターのお手並みを拝見するとしようか」
「だから泥棒じゃないってば」

凛はこの行為を悪行だと考えていないし、他の誰が見ても同じ意見になるだろうと思っていた。
何故なら、暁美ほむらとセイヴァーの情報を少しでも多く手に入れることは、少しでも多くの犠牲を減らすことに繋がるからだ。

これは『仕方がないこと』ですらない。
『やらなければならないこと』なのだ。

彼らと交戦したときの顛末は、セイバーから何度も繰り返し聞き出した。
暁美ほむらは自らの意志で兵器を盗み出そうとしていて、セイヴァーはそんなマスターを囮に使ってセイバーを待ち受けていた。
武器の入手はセイバーによって阻止されたが、だからといって「もう武器の入手は諦めよう」と思うだろうか。
答えは、恐らく否。別の手段で武器を手に入れようとするに決まっている。

ひょっとしたら暁美ほむらには何かしらの事情があるのかもしれないが、それでもやるべきことは変わらない。
彼女が加害者だろうと被害者だろうと、情報を集めなければどうにかすることはできないのだから。

「引き出しには……ないか。やっぱりこれしかないかな」

暗い職員室を一通り漁ってから、教師が使っていたと思しきパソコンの電源を入れる。
当然ながらセキュリティは万全でパスワードもしっかりと設定されていた。

「セイバー、こういう鍵って解除できる?」
「数文字入力による施錠か。任せたまえ。電脳空間であろうと華麗に『侵入』できることを証明してあげよう」

セイバーは淀みなくキーボードをタップし、一連の文字列を入力した。
たった一度の入力でロックが外れ、デスクトップ画面が表示される。

「すご……本当に解いちゃった」
「援護はここまでだ。さぁ、盗み出したいものを盗むといい」
「だからそういうのじゃ……」

訂正を諦め、情報収集に集中する。
狙いは生徒名簿と住所録。写真もあればなお嬉しい。
やがてそれらしいファイルを複数発見したので、内容を軽くチェックしてから全ページをプリントアウトしておく。

「……これでよしっ」
「良い手際だ。しかし中身は検めなくていいのか?」
「見るのは後で。他のマスターも同じことを考えてるかもしれないんだから、鉢合わせないうちに脱出しないと」

凛の判断を聞いて、セイバーは満足そうに頷いた。
まるで新人の仕事ぶりをチェックする業界人のような反応である。
何だか怪盗としての才能を評価されている気分になってきてしまう。

用件を済ませたらすぐさま見滝原中学校を後にして、人通りの少ない街灯の下で紙の束に目を通す。
情報の精査は家に帰ってからする予定なので、今は暁美ほむらの名前が名簿にあるかを確かめるだけのつもりだった。

何年生なのかも分からなかったから、とりあえず一年生から確認していく。
――その最中、凛は名簿に予想外の名前を発見した。

「えっ……嘘……」

白菊ほたる。同じ事務所に所属する中学生アイドルの名前だった。
同姓同名なのではとも思ったが、一緒にプリントアウトしていた写真に映った姿は、あの薄幸を絵に描いたような少女そのものだった。

彼女がマスターなのかどうかは分からない。
予選を通過できずに終わった候補もいるというから、それなのかもしれない。

「まさか他にも……!」

大急ぎで名簿の名前を隅々まで確認する。暁美ほむらの名前も見つけたが今はそれどころじゃない。
結局、見滝原中学校の学生名簿には見知った名前はこれ以上なかったが、それでも凛の不安は全く薄れなかった。

「……セイバー。ごめん、もう一つお願い。見滝原高校にも連れて行って」
「私は構わないが、時間は問題ないのか? もうすぐ日付が変わる頃合いだ。本戦が始まってしまうぞ」
「いいからお願い。早く確かめなきゃ……」

凛が求めているのは『安心』だ。
見知った人物がこれ以上この地にいないことを確かめて、不安を少しでも解消したいと願っていた。

しかし、中学校と同じように事を済ませた凛は、その期待が淡い幻想だったと知ることになった。

島村卯月。同じユニットで活動するあの少女の名前が、学生名簿にハッキリと記されていた。
しかも書類には、ここ数日ほど無断欠席が続いていると書かれている。
卯月は無断で学校を休むようなタイプじゃない。そんな不真面目さとは無縁なのだ。

万が一、卯月が学校を無断欠席することがあるとすれば、それは学校どころではない状況に追い込まれてしまったからに違いない。
例えば――そう、聖杯戦争のマスターになってしまい、サーヴァントに戦いを強要されてしまったなら――

「……卯月……」

無邪気な満面の笑顔が脳裏をよぎる。
彼女が進んで聖杯戦争に関わっているという可能性は、最初から思慮の外だ。
そんなことはありえない。絶対に。卯月に他人を傷つけることなんかできるわけがない。

「私が、何とかしないと……」

二つの学校で得られた情報は、凛の方針を変えるには至らなかった。
それどころかより一層思いを強くした程であった。

「セイバー、DIOっていうサーヴァントは、どんな印象だったの?」
「『悪』と形容するより他にない。詳しいやり取りはこれまでに何度も伝えたとおりだ」
「あんたのパラメータも『悪』だけど、それとは違うの?」
「サーヴァントのアライメントは一義的ではない。聖人も独善も『善』となり、邪悪も剣客も『悪』となる。その上で、あれは『邪悪』であったと断言しよう」
「そう……」

そして凛は、聖杯戦争に対する決意を己のサーヴァントに向けて宣言した。

「セイヴァーは何とかしなくちゃ。討伐令とかそんなの関係ない。あれは放っといたらいけないものだと思う」
「私もあのような存在は赦すことができない。だが、たとえどれほどの邪悪だとしても――」
「――決して殺さない、でしょう? 分かってる。だから……」

プリントアウトした資料から抜き取った二枚の紙に視線を落とす。
島村卯月。白菊ほたる。お互いによく見知った仲の二人の少女。

「……仲間を集めよう。一緒に戦ってくれる仲間を」

時計の針が十二時ちょうどを指し示す。
この瞬間、渋谷凛の聖杯戦争が幕を開けた。








【B-2 見滝原高校近隣/月曜日 午後0時 未明】

【渋谷凛@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態] 無傷
[令呪] 残り3画
[ソウルジェム] 有り
[装備] なし
[道具] 生徒名簿および住所録のコピー(中学、高校)
[所持金] 女子高生の小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:セイヴァーを討伐する
1. 方針が一致する仲間を探す
2. 島村卯月、白菊ほたるの安全を確保する
[備考]
  • 見滝原中学校&高校の生徒名簿(写真込)と住所録を入手しました
 誰がマスターなのかは現時点では一切把握していません

【セイバー(シャノワール)@グランブルーファンタジー】
[状態] 無傷
[装備] 初期装備
[道具] 多数の銃火器(何らかの手段で保管中)
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:怪盗の美学を貫き通す
1. 美学に反しない範囲でマスターをサポートする
2. セイヴァーを警戒する
[備考]
  • 盗み出した銃火器一式をスキル効果で保持し続けています
 内訳は拳銃、ライフル、機関銃、グレネードランチャーなど様々です
最終更新:2018年06月16日 11:22