実質、見ず知らずの土地に攫われ、殺し合いに強制参加したようなものである。
環いろはも、少なからず不安や恐怖があった。しかし、今はそうじゃない。仲間がいる。
仲間……いいや。
聖杯戦争に参加する以前、魔法少女として奔走していた時代から、ひょっとすれば幼い頃だったか?
何であれ、いろはには信頼しえる存在が居た。

優木沙々
彼女はいろは同じく魔法少女。
偶然、魔女討伐している最中に出くわし、そこから親しくなった経緯がある。
驚いた事に、沙々も聖杯戦争のマスターとして招かれていたのだ。
見滝原中学校にかよっていたらしいが、学年は同じでも彼女とはクラスが違い、すぐに気付けなかったのをいろはは後悔している。
しかし、再度偶然。聖杯戦争開始手前で巡り合えたのは非常に幸運だ。

「ほんっっとうに良かったです! いろはさんと一緒なら、百人力ですよ! 魔女退治でもコンビネーションばっちりなんですから!!」

沙々も、いろは同様に顔見知り――しかも共に闘った仲間と会えた事に安堵しているよう。
彼女らしく煽てた口調は相変わらず。
過剰評価だと思う一方で、いろはは沙々と早期に巡り合えて、心底良かった。
それには理由がある。

「でも会えて良かった。沙々ちゃんは戦闘得意じゃないから……」

「わたしもです~! しかも、召喚したサーヴァントはアサシン。文字通りタイマン勝負に強い型じゃなくて途方に暮れてました」

アサシンは後で紹介しますね。と沙々が付け加える。
魔法少女にも様々に得意不得意。願いによって戦い方や武器も異なる。
いろはの武器がクロスボウ。沙々の武器が杖、という風に。
そして、いろはの魔法は治癒。沙々の魔法は……アレ?といろはが首を傾げた。
沙々の魔法は……いや、とにかく彼女は戦闘特化ではなくてサポート型、典型的な後方支援向きなのは確かだ。

ところで。
早速、沙々が一つ尋ねる。

「いろはさんが召喚したサーヴァントは?」

「私はバーサーカー。真名はシュガーさん。名前で呼んであげたら反応してくれるみたい」

シュガー……砂糖?ですかぁ。分かっても何だかサッパリですね」

「うん。逆に真名が分かっても大丈夫なのかなって」

バーサーカー。
そう、いろはの抱える問題に砂糖喰らいの狂人という切っても切れない英霊がいた。
砂糖なんて素敵な響きで済ませているが、所謂『麻薬』だ。うっかり他のヒトが食っては支障を来す。
成程と沙々が不安そうな顔色でぼやく。

気持ちは分かる。バーサーカーだから意志の疎通が敵わない。暴走だってしかねない。
でも……少なくとも、いろはがシュガーをそのような類のバーサーカーだと判断していた。
狂っているのは恐らく薬物のせいで狂っている意味合いで、砂糖を食わせている内は大人しい筈。

深夜の住宅街を移動する事、しばらくした後。
ゴミ捨て場にあった袋の砂糖に変換するバーサーカー・シュガーを発見した。
沙々が緊張気味なのを見かねて、いろはがシュガーに声をかける。

シュガーさん。お待たせしてすみません」

「………」

片手の掌からサラサラと砂糖を零し、シュガーが不気味に振り返った。
瞬間。違和感ある膠着を起こして、やや遅れた反応を見せる。

「誰?」

「……あ、あの、いろはです。シュガーさんのマスターです」

「私は知らないよ。気持ち悪くてビックリしちゃった。『こんなもの』も居るんだ」

ただでさえ会話が通じなかったにも関わらず、更に対話が困難となっている。
以前は、支離滅裂ながらリズムやノリが合わさっているのを、いろはも感覚を掴めていたのに。
彼女が油断、慢心したせいか。
再びシュガーの心情も、会話も雲を掴むみたいな曖昧さで意味不明だ。
シュガーに慣れていない沙々も不安を隠せずに尋ねた。

「だ、大丈夫ですか? いろはさん」

「ちょっと待ってて。多分、沙々ちゃんと一緒にいるのに警戒しているのかも」

いきなり見知らぬ人間を連れて来たのだ。
シュガーじゃなくても、聖杯戦争なる殺し合いの最中じゃ警戒するに違いない。
いろはは、冷静にシュガーと対話を試みる。

シュガーさん、こちらは沙々ちゃんです。優木沙々ちゃん。私と同じ魔法少女で、一緒にコンビを組んでて――……」

「そんなつまらない前置きで時間をつぶすのはやめにしない?」

いろはの言葉を遮る様にシュガーは呻く。
彼女の錯乱っぷりは、心底気色悪い汚物を前に嫌悪を体現しているかのようで。
バーサーカーらしい狂気の瞳が、いろはに対し向けられていた。
故に、理解できなかった。何故? 今更こう敵意を露わにしたのはどうして??

「見上げてごらんよ。時の神様がぐるぐるしてる、踊らないと怒られそう」

「……?」

見上げる?
確か、そうだ。いろはも思いだす。シュガーには『何か』に反応している節があったような……
いろはの思考を遮るかの如く、沙々が一つ叫んだ。

「いろはさん! ここは一旦退きましょう!!」

「沙々ちゃん……?! でも――」

「とにかく退いて下さい! 私に考えがありますから!!」

「う、うん。わかった」

思えば狂気を振りまくだろう、暴走しかかったシュガーを前に沙々の事を疎かにしてしまった。
そんなつもりはなかった。でも……いろはは後悔する。
多分、沙々も不安に違わないのだ。
アイディアがあるにしても、シュガーから離れたい一心を隠していたのかもしれない。
魔法少女の脚力で逃げるのを、砂糖を掌で弄びながらシュガーは『:-(』な心情を胸に秘める。

「ああ、なんだったのかな。さっきの。イローハに『似た』不気味なアヒルちゃん」

シュガーは、いろはが別人だと理解していた。
狂人でシュガー中毒者であっても、今の今まで共に居たマスターを忘れなかった。
だけど、戻ってきたいろはの様子は『別人』そのもの。険しい顔をして聖杯戦争を考察する少女、ではなく。
脱力し安心し、不自然に心許した様子の少女。

沙々によって洗脳された、とまでは分からず。
あれがいろは本人である、とまでも分からず。
だが、アレがシュガーの知る環いろは『ではない』事だけは感じている。

「本物のイローハはどこにいるんだろう。アヒルじゃなくてウサギちゃんを追いかけて、穴におっこちたのかも :-)」

舗装された道路に設置されているガードレールや手すりを触って、砂糖の山を作って行く。
ギョッとする世界で、彼女は『本物の』環いろはを探しに奇妙な冒険を始めるのだった。






「ごめん。沙々ちゃん」

「いえいえ! 意志疎通できないと聞きますが……やっぱりコントロールは難しそうですね」

シュガーから距離を取った魔法少女二人。
いろはの申し訳なさに対し、沙々は内心舌打ちをしている。

実のところ、沙々といろはは昔ながらの親友でも仲間でもない。それどころか初対面だった。
沙々の魔法――洗脳により、いろはが支配下に置かれているのだ。
完全に沙々を信頼しきっており、先ほどのように沙々の意志を尊重し行動してくれる忠実な僕同然。
しかし、彼女がバーサーカーを引き当てたのは運が悪い。
沙々もいろはも、双方ツいてない訳だ。

「私も油断してたの。シュガーさんと少しは通じ合っているかと思ってた……」

「いろはさんは悪くないですよ! 気を落とさないで下さい」

冷静にクールとなれ。深呼吸し、沙々が話を始めた。

「手っ取り早いのは令呪でサーヴァントの自害を命ずる事だと、アサシンから提案がありました」

「自害……!?」

「暴走しているなら、そうするしかありません……でも
 いろはさんが、聖杯戦争が始まっても無い内にサーヴァントを失ってしまうのは、深い痛手です」

「じゃあ、令呪で私の言う事を聞くようにお願いするのはどうかな」

チラリと、沙々はいろはの『ソウルジェム』を確認した。
穢れは随分とある。沙々と同じく浄化の機会に巡り合えなかったせいか。バーサーカーの魔力消費の負荷かもしれない。
むしろ、沙々にとって好都合の。最高の条件が整っている。
にこっとお人良しな笑顔を浮かべて、沙々は言う。

「私の言う通りに令呪を使っていただけませんか? いろはさん」

「うん」

疑いもなく、いろはは安堵の表情で沙々に従っていた。これから自分が至る運命を知らず。
いろはに背を向けた沙々が、あくどい不敵な表情を露わにした。
沙々のソウルジェムも、大分穢れが進行している。

考えた。
ソウルジェムを浄化するには、やはりグリーフシードが必要となる。胡散臭い救世主は信用ならない。
グリーフシードを落とすのは『魔女』だ。
だけど『魔女』の正体は……そう。沙々は考えたのである。



『魔女』がいなければ『産み出せば』いいじゃない、と。






魔女は魔法少女のなれの果てだ。
この聖杯戦争では、ソウルジェムに魂が収められた少女たちの事を指し示す。
沙々といろはを含めた。
鹿目まどか美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子。そして……暁美ほむら。彼女達はソウルジェムを浄化できなければ魔女となる。
だが、念話で一つ聞くアサシン・マジェント。

『そいつが魔女になっちまったら、サーヴァントの方は消えちまうんじゃあねぇのか』

『分かってます。だから、令呪を使わせるんです。あのバーサーカーを利用するんです』

沙々の狙いは一つ。混戦だ。
複数のサーヴァントが乱闘するカオスで、アサシンの宝具とスキルを生かし、魂だけを回収する為。
卑怯だが、戦闘力が乏し過ぎる彼らにとってはこれが限られた戦術の一つ。

沙々はサーヴァントを洗脳できない。
故に、マスターを洗脳し、令呪を使わせる事で相手のサーヴァントをコントロールする。
いろはが令呪を使用し終えて、一息つく。

「これで大丈夫かな」

「あ、いろはさん。念の為、もう一画使って欲しいです。重ねて命ずることでバーサーカーは必ず従うので」

「じゃあ……重ねて命じます。シュガーさん『見るもの全てを砂糖にして下さい』」

令呪を二画。これでいいと沙々は不敵に嗤う。

(バーサーカーを倒しにサーヴァントが必ず現れる。規模を考えれば……複数現れることでしょう)

魔力の枯渇でいろはが倒れても構わない。
遠くから、沙々たちはバーサーカーの暴走を見守れば良い。
見境なく砂糖まみれにする狂人が完成されたのを、観客席より嘲笑う魔女が居た。



【C-4 住宅街/月曜日 未明】

環いろは@マギアレコード】
[状態]沙々の洗脳下、魔法少女に変身中
[令呪]残り1画
[ソウルジェム]有
[装備]いろはのソウルジェム(穢れ:中)
[道具]
[所持金]おこづかい程度(数万)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の調査。戦いは避ける。
1.沙々と共に行動する。
[備考]
※洗脳されていることには気づいていません。沙々が負傷を受ければ、洗脳は自動解除されます。
※沙々の洗脳を受けている為、沙々の意志を尊重し行動します。
 しかし、沙々が何も誘導しなければ、基本方針に変化はありません。


優木沙々@魔法少女おりこ☆マギカ~symmetry diamond~】
[状態]魔法少女に変身中、『悪の救世主』の影響あり
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]沙々のソウルジェム(穢れ:中)
[道具]
[所持金]一人くらし出来る程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い
1.バーサーカーを暴走させ、願わくばいろはを魔女にさせる。
2.セイヴァー? 討伐令の報酬が狙えればいいんですがね…
3.見滝原中学には通学予定。混戦での勝ち逃げ狙い。
[備考]
※『悪の救世主』の影響がありますが、本人は無意識です。
シュガーのステータスを把握しました。


【アサシン(マジェント・マジェント)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い。ディエゴの殺害優先。
1.魔女ってどんなんだ?
2.Dioに似てるセイヴァーの奴は殺しておくかぁ
[備考]



【バーサーカー(シュガー)@OFF】
[状態]現界による魔力消費(砂糖食いで補い中)、令呪『見るもの全てを砂糖にして下さい』(2画分)
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:砂糖を食べる
1.本物のいろはを探す
[備考]
※時の神(杳馬)の存在を気付いているか言動的には怪しいです
※洗脳されているいろはを『本物』ではないと判断しています。
※無意識に令呪に従っている状態です。本人はまだ令呪の支配下にある事に気づいてません。
最終更新:2018年07月07日 21:37