虚ろな目で虚空を見つめ、ぶつぶつと呟くまどか。
後悔に打ちひしがれ、声すらかけられない篤。
潤んだ眼でまどかを見つめるほむら。
おろおろと戸惑うたま。

各人各様の思いが部屋中で交差する。

誰もが前向きでいられない。
誰もが後悔しかできない。
誰もが誰よりも己を責めたてたくなっている。
呪いを振り撒く魔女などいないというのに、いまこの部屋にはそんな後ろ向きで陰鬱な空気が充満していた。

そんな中、最初に動いたのは暁美ほむらだった。

「わたしが...わたしのせいで...」
「違う」

まどかに歩み寄り、そっと背中から抱きしめる。

「鹿目さんのせいじゃないよ」
「わ、わたしが家を離れたから、だれも、護れなかった」

ほむらはまどかの言葉を否定するように身体にまわす手に力を込める。

「鹿目さんのお母さんの傷、塞がってるよね。...鹿目さんの魔法で、治したんだよね」
「......」
「護れたものはあるよ。鹿目さんは、無力なんかじゃない」
「...ママは、わたしを庇って...」
「鹿目さんだって、逆の立場ならきっとそうしてた。でも、そうなってたら誰も助からなかった。
だからね。護れたものを否定しないで。あなたは被害者だから...泣いていいんだよ」

まどかはキョトンとしながら、しかしやがて光の消えていた目は潤み、身体が徐々に震えだす。
ほむらの言葉が染み渡るかのように、徐々に嗚咽が漏れだし、やがては大粒の涙と共に叫びへと変わる。

「パパ...タツヤ...わぁぁぁぁぁぁぁぁ」

怒りも悲しみも憎しみも後悔も。
今まで押し殺してきたものを解放するかのように、ただ、ただひたすら泣き続ける。
誰が悪いだとか。どうして護れなかっただとか。そういったものは置き去りにして、ただただ残酷で非情な喪失に泣き喚き続ける。

ほむらは、まどかの掌に己の掌を重ねつつ、ただただその嘆きを受け止め続けていた。

「...サーヴァントさん。少し、彼女のことをお願いします。すぐに戻りますから」
「あ、ああ...」

ほむらはまどかから離れ、篤に彼女を看るよう頼み部屋から去っていく。

そして残されたのはまどかと篤とたまの三人となった。

ほむらに代わり、その胸をまどかに貸す篤。
泣きじゃくるまどかを慰めようと近づくたまに、篤は鋭い殺気と共に刀を突きつける。

「...ほむらちゃんがなにを思ってお前をここまで連れてきたかは知らない。だが、俺はお前を信用などしていない」
「ひっ」
「大方、あの連中に脅迫されたんだろう。だが、そんな事情はどうでもいい。お前があいつらの駒であることには変わらない」
「あ、あの、わたし...ごめんなさい...」
「......」

まどかを己の胸に寄せつつ睨みつける篤と、おどおどと縮こまり言い返すことすらできないでいるたま。
やがて静寂が訪れても、二人の関係は進展などせず。
空気が変わったのは、ほむらが再び姿を現してからだった。

「お待たせしました」
「どこに行ってたんだ?」
「病院に連絡と、念のため周囲の見回りを。...鹿目さんは、だいぶ落ち着いたようですね」

泣き疲れたのか、ぐったりと頭を垂れているまどかの身体をほむらは背負う。

「なんで背負うんだ?」
「少し場所を変えるからです。ここでは鹿目さんのソウルジェムを浄化できないので」
「ソウルジェムの浄化?」

篤が眉を潜めて聞き返す。

「鹿目さんから聞いたと思いますが、魔法少女は魔力を消費するとソウルジェムが濁るんです。あっ、このソウルジェムは聖杯戦争のものとは違いますからね」
「浄化ってのは、つまりそのソウルジェムの濁りとやらを取るってことか。つまりは、ソウルジェムが濁りきると魔法が使えなくなると」
「はい。本来、ソウルジェムは魔女が落とすグリーフシードを用いて浄化します。しかし、この街ではまだ魔女の出現は確認できていません」
「そういえばまどかもそんなことを言ってたな。なら、どうやって浄化するんだ?」
「現状、ソウルジェムの穢れを取る方法はひとつ...セイヴァーに頼むことだけです」



「......」

ほむらの背負うまどかは息をしていない。どころか、心臓や脈すら止まっている。
一般的に言えば、これは死者だと判定してもいいだろう。
だが、その回答は不適切だ。
鹿目まどかは、確かに生命活動を止めているが、死んでいるわけではない。
現状を引き起こした原因は、明美ほむらの行動である。

(本来ならこんな手は使いたくなかった)

ほむらはまどかを抱きしめたとき、さり気なくソウルジェムを掠め取っていた。
泣きじゃくるまどかも、端から見ていた筈の篤やたまですら、まどかの涙に注意が向いていたため、その行為に気がつけなかった。

それからほむらがとった行動は簡単だ。
篤にまどかを託した後は、100m以上離れる。それだけのこと。
それだけで、魔法少女の身体と魂のリンクを一時的に切断することができる。

(鹿目さんの感情を吐き出させることは大切だけれど、あのままだと濁りきってしまうかもしれなかった)

ソウルジェムの穢れは魔力の消費だけでなく、感情にも左右される。
だから、一度リンクを切った。
多少の魔力の消費はあっても、ずっと涙を流しているよりは消費も少ない筈だからだ。

(鹿目さんが濁りきる前にセイヴァーと合流しなくちゃ...)

セイヴァーとまどかを会わせるのは避けたかった。
しかし、ことここにまで至ってしまえば、もはや避けられぬ選択だ。
まどかとセイヴァーを会わせて穢れを取ってもらうか、まどかを見捨てるか。
前者しかありえない。まどかを見捨てることなど絶対にできない。

(セイヴァー...お願い、助けてください)

それが、最悪の結果を招く可能性があったとしても、彼女は選ばずにはいられない。


(...すごいや、ほむらちゃんは)

たまは己とほむらを比べ、自らを矮小に思う。
彼女は、カーズ相手にも立ち向かい、ヴァニラアイスにも対峙してみせた。
現場に着くなり、真っ先にまどかを気遣い、きっと彼女が欲しかったであろう言葉をかけてみせた。
一旦離れたときは、なにをしていたかはわからないけれど、それもまどかに必要なことだったのだろう。

それに比べて自分はどうだ。
カーズやXに数度痛めつけられただけで、完膚なきまでに降伏し毒まで埋め込まれた。
狙われているのは自分だというのに、ヴァニラ・アイス相手に怯えるだけだった。
現場に辿り着いても、ただただ恐怖し困惑しているだけだった。
篤の警戒を解くことすらできず、突きつけられた言葉と刃に慄いただけだった。

(ほむらちゃんは、恐くないのかな)

恐いのはいやだ。
家族やクラスメイトからの侮蔑の視線も。
いつも優しくしてくれたお祖母ちゃんがいなくなった時の孤独感も。
初めての友達のルーラを裏切ってしまった時の後ろめたさも。
ユナエルやミナエルを失ってしまった時の無力感と恐怖も。
クラムベリーを殺してしまった時の底知れぬ罪悪感も。
スイムスイムに斬られた時の理解不能さも。
痛みも。拒絶も。

なにもかもが恐いから、たまはいつだって怯えて竦んでしまう。

けれど、それが恐くなくなったら。
恐いものなんてなくなったら、ほむらみたいに色んなものに立ち向かえるのだろうか。

もしそうなれていれば、ルーラを裏切ったり、ミナエルとユナエルを失ったり、スイムスイムに捨てらたりするようなこともなかったのだろうか。

(...変われるかな)

ぎゅっと己の服の裾を握り締める。

(私も、ほむらちゃんみたいになれるかな)

ほむらは敵の立場であるはずの自分に手を差し伸べてくれた。
事情は話せなかったけれど、それでも幾分かは信用してくれた。

そんな彼女と一緒にいれば、なにかが変わることができるのだろうか。
いまは恐くても、彼女のように立ち向かえるようになるのだろうか。


...彼女は気づいていない。

明美ほむらは決して恐怖をしていないわけではなく、むしろ誰よりも臆病で、元来はたまよりも弱い少女であることに。
たまを殺さなかったのは、決して救済やかつてのルーラのような面倒見の良さなどではなく、単に同情からの気の迷い程度であることに。
なにより、善にしても悪にしても、たまが望む『他者との信頼関係』からは、遠く離れた存在であることに。


そんなことは露知らず、たまはまるで子犬のようにほむらの後をついていくのだった。



「......」

セイヴァーに会う。
その言葉に、篤は眉を寄せずにはいられなかった。
それは言ったほむら自身がそうだったようで、彼女の面持ちからも『できればとりたくなかった手段』であることは容易に察せた。

写真越しにも感じたあの邪悪さは間違いではなかったのだろう。

(しかしセイヴァー...救世主、か)

邪悪を体現したような存在である一方、彼を救世主であると拝む者もいる。
篤も似たような男を知っている。そう、彼岸島のボス、雅だ。

(たしかあいつも、多くの吸血鬼に敬われ拝まれていたっけな。それこそまるで英雄や救世主なんかみたいに)

頭の中で比べてみれば、なんとなくセイヴァーと雅もどこか似通っている雰囲気は感じられる。
ほむらが殊更に嫌がりつつも、接触自体はそこまで拒絶していない様を見る限り、雅と違い性的な関与はしていないのだろうが。

(もしもセイヴァーがヤツと同類ならば...)

ほむらには悪いが、即座にセイヴァーの首を刎ねさせてもらう。
セイヴァーを斃せば、指名手配の報酬でまどかを元の世界に帰すことができる。
この聖杯戦争で呼ばれた彼女の家族がコピーで、本物が無事である可能性がある以上、そちらの方が彼女にとってもいいだろう。

聖杯戦争も、巻き込まれた友人たちも、虐殺された家族も、赤い箱も、怪盗Xなんてものも、全て『悪い夢』だったで済ませればこれ以上のことはないのだから。

(なんにせよ、まずはセイヴァーに会ってからか)

如何な判断をするにせよ、まずは彼に会わなければ話が進まない。
篤はいつでも抜けるよう、ひっそりと懐に刀を差した。




【D-2(まどか宅)/月曜日 早朝】
※鹿目詢子はソファに寝かされています。傷は塞がっており、救急車も呼んであるため、命に別状はありません。



【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]疲労(中)、精神的疲労(絶大)、ソウルジェムとのリンクが切れている仮死状態
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金] お小遣い五千円くらい。
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯戦争を止める。家族や友達、多くの人を守る。
0:――――
(1):ほむらと情報交換する。
(2):聖杯戦争を止めようとする人がいれば手を組みたい。
※(1)と(2)については精神的に落ち着かなければ不可能です。


【ランサー(宮本篤)@彼岸島】
[状態] 全身に打撲(中~大)、疲労(大)、精神的疲労(大)、腹部裂傷
[装備] 刀
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯は手に入れたいが、基本はまどかの方針に付き合う。
0.まずはセイヴァーに接触し、どういう奴かを見極める。雅と同類であれば殺す。
1.怪盗X及びバーサーカー(カーズ)は必ず殺す。
2. 怪盗X・セイヴァー(DIO)には要警戒。予告場所に向かうかはまどかと話し合う。
3.たまにも警戒を緩めない。


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]疲労(小)、魔力消費(小)、魔法少女に変身中
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]見滝原中学校の制服
[道具]学生鞄、聖杯戦争に関する資料、警察署から盗んだ銃火器(盾に収納)
[所持金]一人くらし出来る仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得。まどかを守る。
0.まどかのソウルジェムを浄化するためにセイヴァーと合流する。
1.鹿目さん...
2.学校には通学する
3.セイヴァーに似たマスターは一体…?
4.またセイヴァーのそっくりさん...あと何人いるんだろう
5.バーサーカー(カーズ)には要警戒
[備考]
※他のマスターに指名手配されていることを知りましたが、それによって貰える報酬までは教えられていません。
※セイヴァー(DIO)の直感による資料には目を通してあります。
※ホル・ホースからDIOによく似たサーヴァントの情報を聞きました。
※ヴァニラ・アイスがDIOの側近であることを知りました。




【たま(犬吠埼珠)@魔法少女育成計画】
[状態]身体に死の結婚指輪が埋め込まれてる。全身に軽い怪我。X&カーズへの絶対的な恐怖。
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具] 警察署で手に入れたトランシーバー
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
0.いまの自分を変えたい。
1.ひとまずほむらちゃんについていく。
※カーズが語った、死の結婚指輪の説明(嘘)を信じています。
最終更新:2018年11月17日 10:30