上記の本田透に代表されるような、「やむを得ず型」の「おたく」の特徴を探る。「やむを得ず型」に限るのは、「夢追い型」の「おたく」はおそらくいつの時代にも一定数存在しただろうし、現代若者の愛情生活の特徴を浮き彫りにするためには「やむを得ず型」に注目するほうがよいと判断したからである。
「おたく」の特徴を論じる前に、本田透も愛好していた『エヴァ』を紹介しておく[*24]。この作品は「おたく」史上最も話題になったものであり、現代の「おたく」を語る際には触れないわけにはいかない。
『エヴァ』は『機動戦士ガンダム』[*25]とよく比較される。どちらも少年がロボットに乗り込んで敵と戦うというスタイルである。前者と後者には15年ほどの隔たりがあり、その間に冷戦構造の解体やバブル崩壊があった。「
はじめに」でも書いたように、本論文で扱う現代は『エヴァ』の時代のほうであり、『ガンダム』と照らし合わせることによって現代の特徴を浮き彫りにする。
『ガンダム』と『エヴァ』との最大の相違点は、東の言葉を借りると、「大きな物語」の有無である(東 2001: 58-62)。『ガンダム』では作品内に統一された歴史や世界観が存在するのに対し、『エヴァ』では敵とされる使徒の動機なども不明であり、わけのわからなさが強調されている。それゆえ、『エヴァ』の魅力はストーリーや世界観よりも、キャラクターへの萌えにあると考えられる。その側面が顕著に表れているのは、TV版の最終2話、通称「学園エヴァ」である。そこではそれまでの話とは独立した形で、シンジがアスカやレイと学校での日常を過ごすという別の世界が描かれる。
現在では「おたく」の愛好する典型的な作品分野とされる「ギャルゲー」などと呼ばれる恋愛シュミレーションゲームは、この「学園エヴァ」にその原型が見られる。そこでは妹、幼なじみ、メイドといった登場人物が主人公であるプレイヤーを好きになっていく。「ギャルゲー」においては、東が指摘しているように、ポルノグラフィックな描写が必須なのではなく(東 2001: 114)、純愛が強調されることが多い(東 2001: 123)。先ほど挙げた、妹、幼なじみ、メイドなどが示すように、自己決定による選択の結果生じる関係ではなく、運命的、強制的な関係性が好まれる。また、強制的な関係であるとともに、安定的な関係である。言うまでもないことだが、キャラクターは予期せぬ反抗をすることはない。強いて言うなら、グッズを買うためのお金が必要なだけである。「おたく」の人の中には、自らの生活を切り詰めてまで可処分所得の大半をグッズに使う人がいるが、彼らの姿は家族を養うために必死で働くという一昔前の理想像と重なるところがある。こうした強制的で安定的な関係は母親との関係をモデルにしているのではないだろうか。『エヴァ』においてははっきりと表れているように、これらの「萌え」の対象となるキャラクターは母親をモデルにしていることが見て取れる。
その強制的な関係と安定的な関係には本田透の言う「恋愛資本主義」への対抗が含まれている。自由競争の支配する「恋愛資本主義」の下では、自分たちは不利益を被るので、昔のような強制的で安定的な関係を希求するのである。「おたく」がときに保守的に見えるのは、昔の規範を持ち出すためだろう。
また、一つの作品内で考えると強制的な関係ではあるが、その実「おたく」たちは複数の作品からキャラクターとの関係を自由に選択しているのである。一つの作品内に限ったとしても、東が指摘しているように、複数の視点を持っている(東 2001)。さらに、その中で一つの視点に限れば、プレイヤーとキャラクターは等しく強制的な関係にあるように見えるが、プレイヤーが圧倒的に有利な状況にある。ある意味では「おたく」たちも、自由に愛情の対象を選ぶという現在支配的な価値観を受け入れているのである。もちろん、それを現実世界で追求するのと、あくまでも虚構の世界にとどめるのとでは違ってはいるが。本田透に「やむを得ず型」と「夢追い型」の同居が見られたのもこの理由による。
以上の「おたく」の特徴は、主として男性を想定している。女性は、男性キャラクター同士の同性愛関係を描く「やおい」を好むと一般に言われるが、本論文ではこれ以上論じない。
[*24]
基本的な情報は脚注15を参照。
[*25]
1979年4月7日から1980年1月26日にかけて、全43話がテレビ朝日系列で放送された連続アニメ作品。監督は富野由悠季。映画や続編なども多数作られている。
物語は、主人公の少年アムロ・レイが、ジオン軍の攻撃に巻き込まれ、ジオン軍と対立関係にある連邦軍のモビルスーツ(人が乗り込んで操縦するロボット型の兵器)に乗り込んで戦うことから始まり、その後も戦闘を重ねる。宿敵であるジオン軍のシャア・アズナブルを始めとする様々な人との出会いを通して、アムロ達が成長してゆく姿が描かれる。
以下では『ガンダム』と略す。
最終更新:2007年05月14日 11:17