森の中だった。
少し先には住宅街のようなものが見える。おそらく町外れの山の中なのだろう。
周りはあの説明会場同様に暗い。時計によると、今現在は24時。丁度日付が変わった瞬間だと言う事が分かった。
この時計はいわゆる支給品であった。
目が覚めてから周りを見ると、自分の隣にはバッグが1つだけ。
混乱した頭で、バッグの中を改めてみると、センライと抜かした女の言ったとおり、殺し合いをするための道具がそこには入ってあった。
見覚えのあるペアの銃が2丁。
これから戦場になるであろう会場の地図。
方位方角を確かめるためのコンパス。
そして
参加者名簿に筆記用具。
最後に簡単な携帯食料と水。
「・・・」
しかし、『彼女』は悩んでいた。
もといそれは悩みというよりも、生理的な不安感なのかもしれない。
普段から持ち歩いている、アレが無い。
彼女の最も愛すべき、そして彼女にとって必要不可欠な、ある意味自分よりも大切な―――
「拙者の刀が・・・無いでござる・・・・・」
蒼龍騎士団が1人、ジーナは青ざめながら頭を抱えた。
◆ ◆ ◆
ジーナは刀を愛し、愛でる。彼女の刀はいわゆる彼女にとっての宝である。
その依存ぶりは、幼少期の子供が自分のタオルケットを常に握り締めているような状況と似ている。
龍輝天陣(りゅうきてんじん)。
合計10本にもなる彼女が『離してやまない』刀剣セットなのだが、今回の灰楼ロワイアルでは残念ながら没収されてしまっていたようだった。
「戦に狩り出されるのは騎士としては本望でござるが・・・拙者の刀が・・・刀が・・・・」
武士言葉で話しているが、決して武士ではなく、騎士。本人はそう言い張っている。
個性豊かな彼女の姉妹に比べ、『比較的』常識人と言われるジーナ。が、愛用の刀が没収された今、ただオロオロする限りであった。
しかし。
姉妹。その言葉でピタリと動きを止める。
思い出すのは先程の惨劇。
首輪から上を一瞬で破壊されてしまった、女の子。
そして彼女を義姉として慕う、メイドの姿も会場に見えた。
「・・・リレッド殿・・・・アステリア殿・・・・」
いつぞやか、ジーナは赤い髪をしたメイドの住まう館に泊まったことがある。
一宿一飯の恩義。その時のやり取りは些細な日常ではあったが、それゆえに覚えている。
しかし、リレッド=ルーヴィスはもういない。センライと総帥と名乗った連中に、殺された。
無残に、みせしめとして。
そしてそれを目の前でむざむざと見せ付けられたアステリア。
彼女の精神的苦痛は生半可な物ではないだろう。
「・・・不甲斐ない! 恩義を返す所か、何も出来なかった!」
そしてその後悔の次に胸にこみ上げてくるのは、主催者に対する激しい怒り。
彼女は決心した。人の命を何も感じずに、ただ踏み潰した主催者に、一太刀入れる、と。
「―――まずは拙者の刀。そしてエヴァ殿たちとの合流でござる」
参加者名簿に目を通した所、彼女の姉妹もこの殺し合いに巻き込まれている事が分かった。
戦闘力も備え、自身と同様である、蒼龍騎士団(コバルト・ドラグーン)の彼女たちならば、この殺し合いを打開する術があるのではないか。
我々姉妹が力をあわせれば怖い物など何も無い。
そしてジーナに支給されたのは、銃。
それだけ見れば確かに殺し合いの銃であろう。
しかしそれはその実、見慣れたものでもあった。
「―――白騎(びゃっき)・夜皇(やこう)」
蒼龍騎士団では双子に位置する姉妹、クロードの武器である。
確かに、心強くはあるが、それでも彼女にとって銃よりも、まず刀であった。
白騎(びゃっき)・夜皇(やこう)と同様に一般的な刀も支給されている可能性が高い。
その中にはもしかしたら拙者の剣も混ざっているかもしれない。
方針は決まった。後は行動に移し、姉妹共々この戦場を駆ければよい。
そんな彼女の懸念する所は。
(・・・果たして本当に力を合わせることが出来るのでござろうか・・・?)
個性豊か過ぎる姉妹のキャラクターについて若干の不安を抱えたまま、彼女は森を抜けて人がいそうな住宅街へと降りていった。
【北東―住宅街と森の境目/1日目/深夜】
【ジーナ@T.C UnionRiver】
[状態]:健康 刀不所持による不安
[装備]:白騎(びゃっき)・夜皇(やこう)@T.C UnionRiver(クロード)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:刀を探す
2:姉妹達との合流
3:他人と接触し、情報を集める
4:主催者に天誅!
5:・・・ほんの少し他の参加者と手合わせしたいでござる・・・
最終更新:2009年08月27日 04:00