人の知識は、語り継がれる。
口伝。門外不出の情報は、機密に、秘密裏に、極一部のみに、与えられる。
しかし、人の知識の伝達は、多くは何かの媒体によって為される事が多い。
その媒体とは―――即ち文字であり、図書である。

文字の集合体である本が、さらに利便性を追求されて設立された建造物がある。
図書、雑誌、視聴覚資料等のメディアや情報資料を利用者へ提供する施設。それが図書館である。
そんな図書館も、この殺し合いのステージとして、設置されていた。

もしかしたら、本は本として、図書館は図書館として使われたのかもしれない。
しかし少なくとも、この環境下では、本来の目的を担うことは敵わず。

環境によって、物の本質、目的は変わるのだ。
それは―――本人が望む望まないに関わらず。



     ◆     ◆     ◆



右も左も、身長よりはるかに高い本棚の並ぶ薄暗い空間。
その中央に、薄暗い場所と対照的に、金髪に赤いチャイナ服という格好で、ぽつんと立っている人影がひとつ。
セト=アカルは図書館の2階に飛ばされていた。

「・・・・」

ドクン。ドクン。
心臓がひっきりなしに動いている。鼓動と動揺が止まらない。
自分の小さな胸に手を当てながら瞼を閉じると先程の光景が否が応でも思い出されてしまう。

「リレッド、さん」

殺された。
びしゃりと血が噴出し、頭部を無くした女性を、茫然自失と見て、絶望した。

ドクン。ドクン。
深呼吸をする。冷静さを取り戻せ。クールになれ、瀬戸アカル。
お前のすべきことは何だ。
思い出せ、憎き敵がどんな情報を我々に与えたか。


『優勝者には願いを1つだけかなえてやろう!』


そんなことを言っていた。
ハッと気付く。そうか、その手があった。


「リレッドさんの、蘇生と、復讐・・・」


優勝をすれば、またあの空間に呼び出されるだろう。
そして、願いをかなえさせ、リレッドを生き返させる。次の瞬間に、あいつらを殺す。

そうか、そうすればいい。
最大の難関は、首輪という枷だ。リレッドさんを殺した、憎き凶器。
しかしそれも自分の能力を取り戻しさえすればいい。取り戻せなくても類似する能力はこの戦場にはあるだろう。


なんだ、簡単な事じゃないか。

殺して回れば、大切な物は戻ってくる。
簡単じゃあ、ないか。

私は、殺し合いに乗る事に決めた。


次の瞬間。
彼女の日常からの会話から考えられないほどに目から爛々としていた輝きが失せ、
紫色の瞳から、光が消えたような気がした。




     ◆     ◆     ◆



「む・・・ここは・・・」


目をごしごしと擦るが、夢や催眠術等では無い様だ。紛れも無い、現実。
都会ではあまり馴染みの無い、木の香りが心地よく鼻をつく。
回りが暗いから良く分からないが、どうやら山小屋らしい。
手元にランタンが置いてあったので拝借しながら現状を把握する。


「・・・・・ヴァハー。どこにいるのだ、ヴァハ!」


明日葉月詠(あすは つくよみ)は、自身の護衛龍型ロボットを呼ぶ。
自立行動はするが、緊急時に自分の近くにいないのはおかしい。
おかしいと言えばおかしいことだらけだ。いきなり呼び出された暗い部屋。否応無しに進むストーリー。辻褄が合わない記憶と状況。
いつの間にか彼女の首には銀色の首輪が付けられているのもそうだ。彼女の首に元々ついてあったチョーカーも相まって、少し息苦しい。
そういえば、これを外そうとすると爆発するとか。ならば、デンダイン領域内ではどうだろうか。



―――が、そんな細かいことは彼女は考えもしなかった。
ヨミは基本的にピンチをピンチとして捉えない。そもそもこの状況がピンチだとも思っていないのかもしれない。所謂、楽観主義者。
今までそれがいつも良い結果を生むので何の障害もなく我が道を突き進むことにしている。所謂、唯我独尊。


「それにしても・・・好きな願いを1つ、か」


よく分からないが、何でも願いを叶えてくれるらしい。
ならば、とヨミは妄想する。
食べきれないほどの甘いお菓子。好きなマンガを自由に読み、ゲームをしまくる。
そんな事を一瞬想像し、よだれをじゅるりと垂らすが、それよりも彼女は目指すべき目標があった。それは―――


「―――と言うことは、世界征服も出来るのだな!」


小さく、幼い外見をしながらも、どこか凛とした彼女の表情が、ぱぁっと輝く。
黒く艶掛かった綺麗な髪がなびき、整った顔にある大きな目もまた、自然と緩む。
ヨミは世界征服を目論んではいたが、いい人属性のためにその目的とは全く逆のような生活をしていた。
地道な努力をせずとも、一発で目的が叶う、絶好の機会が不意に訪れたのだ。
千載一遇にして、ラッキーチャンス。

しかし。
いい人属性。


「・・・でも、人殺しになるのは嫌だ」


そう。
その願いをかなえるには、優勝、即ち他の参加者を殺さなくてはならないのだ。
多分、それは、ヒメルも怒るし、それ以前の問題として自分も嫌だ。


いい人属性とは、『他人がされたら本当に嫌なこと』が分かることだ。
その嫌なことは、やってはいけない。
お絵かきばっかりして、魔方陣でとんでも空間を作って迷惑をかけたとしても、やり直しは効く。

けれど、死んでしまったらもうお終い。
でも、もしかしたら、死ななければ、『世界征服に協力してくれるメンバー』になってくれるかもしれない。

楽観主義。
ポジティブシンキング。
彼女の結論は、やはり、小難しいことは考えなかった。



なんだ、簡単な事じゃないか。

人を助けて回れば、協力して世界征服が出来る。
簡単じゃあないか。

私は、殺し合いを止める事に決めた。


次の瞬間。
彼女の目から爛々としていた輝きが増し、光が差した。




     ◆     ◆     ◆





灰楼と呼ばれる巨大組織。
後にヨミは、その幹部である『灰楼十三線』の零施播”黒幻童子”となる。
しかし、それはまだ『今のヨミ』にとっては、未来の話。
今はただ、愚直に野望と変な根性と度胸だけで世界征服を目論み、怠惰な日々を過ごしているヨミに過ぎない。
自分が将来、殺し合いを開催するような組織にスカウトされるとは夢にも思わず。
これは1つのパラレルワールドと分類されるかもしれない。


パラレルワールド。
瀬戸アカルと明日葉月詠は奇しくも、スライドギアとは違う並列世界のアナザータイプ同士である。
しかし。
瀬戸アカルは、殺し合いに乗る道を選び。
明日葉月詠は、殺し合いに乗らない道を選んだ。

2人の考えることは、境遇が違えば、全く逆になったのかもしれない。
が、現実はそうならなかった。
何にでも可能性はあり、環境によって、物の本質、目的は変わってしまう。
それは―――本人が望む望まないに関わらず。
同一人物ともいえる存在が、こうして全く違う道を選んだのは、運命の悪戯か、それとも。





【南 住宅街―図書館2階/1日目/深夜】

【瀬戸アカル@誰かの館】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
(基本):殺し合いに乗り、リレッドを生き返させる
1:支給品をチェックし指針を決める
2:首輪を外す
3:リレッドの傍に居たトーイが心配

(備考)
参戦時期は誰かの館SS2『ただそれだけのために』の直前。


【北西 森―山小屋/1日目/深夜】

【ヨミ@Vulneris draco equitis・basii virginis】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗らず、仲間を集める
1:支給品をチェックし指針を決める
2:他人と接触し、情報を集める
3:夢はでっかく世界征服!

(備考)
参戦時期はウドバニに在籍し、灰楼の総帥からスカウトされる前。


※支給品は次の書き手に任せます



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最終更新:2009年08月21日 00:40