「ふふふふふ」
恍惚の表情を浮かべながらも、瞳は虚ろ。
パッと見、ふらふら歩いているだけにも見えるが、その実隙が無いようでもある。
住宅地を深夜にこんな子供が1人ふらついていたならば、真っ先に警察官に補導されるだろう。
緑色の髪をした少女は、この殺し合いには不釣合いなほどに幼い外見だった。
「あねうえなら、どーするかな」
あぁ、ドキドキするなあ。
真っ赤な血が目の前で綺麗に咲いた。
頭の中で、カチリとスイッチが入っちゃった。
またあの赤色の花を見てみたくなるなあ。
いつもよりも、ちょっぴりだけ饒舌になってるのかも。
フワフワする。
「あ」
人影発見。
多分女の子。
まだこっちに気付いてないみたい。
女の子と言えば、さっきの赤い髪の子は、死んだんだよね。
ちょっとこーふんしてきた。
あれは綺麗だったなあ。また、見たいなあ。
右手には、普段持っている大きな斧ではなく、大鎌。
支給されたのは、身の丈よりも大きな鎌だった。
武器なのに、愛称があるらしい。
クロア。鎌に名づけられた名前は、まるでぬいぐるみのような名前をしていた。
引きずるとカランカランと小気味のいい音を立てるソレは、愛情を受けるそれとは対極の、命を刈り取る形をしていて。
あ、気付かれちゃった。
別にいいけど。
こっちを見てる。
怯えてるみたい。
カランカラン。
足を速める。
カラカラ。
少しずつ足を速める。
引きずる事でコンクリートに弾かれていた鎌が、カララララララララとその周期を狭めていく。
ひっ、と怯える表情が伺えた。
それは捕食されるものがする表情。
ちょっとイケナイ事をしている気分だ。
でもやりたい事だからいいよね、あねうえ。
もし間違ってたら後で謝ろうっと。
エリシャは赤い花火を見るために、大きく鎌を振り上げた。
◆ ◆ ◆
「ふむ」
ヘカティリア=ラグナ=アースガルズは考察する。
主催者の意図と、目的。それを汲み取れば、ある程度方針は決まる。
料理をするための下ごしらえのように、順序良く与えられた情報を切り刻んでいく。
考え事をすると、妙に頭がキリキリ痛むが、恐らくこの殺し合い故の特殊な環境だからだろう。気にしないことにする。
殺し合いをしろとは言っていたが、単純に力量を推し量りたいのなら、それこそトーナメント形式の試合でも組めばいい。
それをわざわざ、箱庭を用意して放り込むだけといった状況に留めたのはどういうことだろうか。
「サバイバル能力・・か?」
自問自答する。
『整った環境で』『
ルールを設けて』『試合』をする。これが前述したトーナメント形式の闘いの特徴だ。
今回は、互いに公平な、フェアな状況で互いに戦いあうわけではない。
また、ルール等といった弱者を守るための配慮はここには存在していない。
そして最後にこれは殺し合い。試合という生命の保証がされている空間ではないのだ。
即ち、バリトゥード(なんでもあり)。
生き残りを賭けた、まさにサバイバル空間である。
今の状況では、不意打ちから団結、裏切りまでなんでもアリなのである。
自身の手に入れた能力に絶対の自信があったとしても、それは全く持って保障されるわけではない。
また、特殊能力というのも厄介だ。この会場の、恐らく殆どが特殊能力を得ている可能性が高い。
自信のあるものは殺し合いに乗りかねない。新しい能力(おもちゃ)を手に入れれば尚更だ。
故に、先刻つぶやいたのが、サバイバル能力。
生き残るために、特化した力。
「・・・しかし・・・」
本当にそうか?
むしろ主催者は、心躍るような闘いが好きそうなタイプに見えた。
たしかに、命を賭した攻防は、火事場の馬鹿力による実力以上の力を発揮されるケースは多い。
データ上では計れない、予想外の力が発動する。試合ではプライドが、殺し合いでは命が賭けられて。
『前回』よりも、『今回』はそういった意味で、新しいケースだ。
―――・・・?
はた、と気付く。
前回・・・?今回・・・?
「―――ぐ!?」
頭痛。
割れそうなくらいに痛く、思考が続かなくなるぐらい痛く、よろめき木にもたれ掛るぐらい痛い。
カティの頭の中に、まるでコンピュータがError表記を常に手前に表示するがごとく、思考を埋め尽くす。
「ッ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・!!」
収まった。
なんだったのだろうか、今の頭痛は。
普段、頭が冴えてくると、頭の中がよく回転していることを告げるかのように、思考がクリアになっていく経験はある。
だが、今回は逆だ。何故だろう。
そこで考えるのを一度やめ、深呼吸した。
先程の事態に陥りそうになったからだが、まずは行動しなくてはならない。
頭が万全の状態になったら、また考えればいい。それまでに私がすること、すべき事は。
「よし、行くか」
他参加者との接触。
危険人物もいるかもしれないし、自衛や恐怖のために殺し合いに乗った者もいるだろう。
それでも情報は必要だ。1人では何をするにも決定力も欠ける。
もたれ掛った木から身体を起こし、人が集まりそうな場所――市街地を目指し、カティは歩き始めた。
◆ ◆ ◆
「ひっ」
住宅街の一角。夜も更けているが、街灯はあるため道を歩くのには不便は無い。
強制的に転移させられ、くらくらと立ちくらみをしていたようだった。
ただでさえ一般人である彼女が、こういった厄介ごとの『当事者』になるのは体力的には勿論、精神的にも無理がある。
そして先程見た、彼女と同じ赤色の髪の少女が殺された現場。
セーラは混乱の真っ只中から、さらに崖っぷちへと追い込まれた。
始まって丁度10分が経過したが、彼女は動けずに居た。
心臓が高鳴っている。
落ち着け、落ち着け。
自分に言い聞かせて、なんとか上辺だけの平静を保てる程度だ。
兎に角、安全な場所に避難しないと。
幸い、住宅地なため、どこかの家に隠れる事は出来る。
ここは交差点で、暗がりからだと余計に目立つ。近場の目立たない家にお邪魔しよう。
―――そう、考えた矢先だった。
カランカラン。
音が聞こえた。
ビクッと身体が強張るのが自分でも分かる。
誰かがこっちに向かっているのだ。
慌てて音のした方を見るが、丁度向こう側は街灯の死角に当たるので、姿形を見ることが出来ない。
カラカラ。
不吉な音だった。
まるで、練習帰りの野球少年が金属バットを気だるそうに引きずるような音だが。
カラカラ。
いや、金属バットならまだいい。野球少年が近づいてくるのならまだいい。
向こうが背丈が小さな子供だと認識は出来たが、同時に見えたシルエットで、持っているものがバットでないことが分かった。
カララララ。
鎌。小さな姿とはアンバランスな大きな鎌が街灯に照らされてギラリと光った。
「ひっ」
思わず身体が膠着する。
恐怖で身体が萎縮する。
そんな彼女を見て、緑色の髪をツインテールにした、可愛らしい女の子が、凶器を狂喜に狂気でもって振りかざしてきた。
怯えた表情を見るのがたまらない、といった笑みで。
セーラが最初の会場説明で見た、総帥の笑みとはまた違った種類の底知れない恐怖がそこにはあった。
ヒュオッ!!
鎌を横に一閃。
目に見えない速度で鎌が移動する。
しかし、エリシャが狙っていた箇所であるセーラの首は、切っ先よりもはるか下。
セーラの頭部よりも遥か上に、スカしてしまった鎌を見て、エリシャは気付いた。
「あ~・・・そっか、斧より軽いもんね」
己の持つ、大天斬(だいてんざん)を冠する大斧と比べて、鎌は大きいとはいえ、重量は桁違いに軽かった。
横に薙ぐ意識だけでも、つい癖でフルスイングになってしまう。
失敗失敗、と笑みを漏らすが、その表情はあまり読み取る事が出来ない。
一方セーラは、動くことが出来ない。
ここまで純粋な殺意を、個人で、単体で、セーラ自身に向けられた事が無かった。
蛇ににらまれた蛙とはこのことだな。セーラは遠い視線でそんなことを考えていた。
「それじゃあ、ていく・つー」
再び大きく鎌を振りかぶる。縦に一閃。これならば力を入れようが入れまいが、問題なくスパッといける。
ああ、楽しみだな。よっこら・・・しょ!
ヒュオッ!!
瞬間。
セーラは死を覚悟する間も無く、右と左に分かれて無残にもリタイア―――
「・・・だれ?」
していなかった。
エリシャの不服そうな声に、彼女の足元には包丁が2丁落ちていた。
両方ともエリシャに向けられて投擲されたものらしい。それを、エリシャは鎌の動きを中断させて、柄頭で弾いた。
状況が把握できずにうろたえるセーラの元に、青い髪をした人影が颯爽と現れた。
「大丈夫か、一度退くぞ!」
「え!? あの・・・ きゃぁッ!?」
凛々しい声。
カティは、包丁を投げた後に、セーラの元へ駆けつけながら耳元で声をかける。
そして次の瞬間には、彼女は担ぎ込まれて暗闇の中へと消えていった。
「逃がすと思う・・・?」
「逃がしてもらいたいのだが、ね」
思わぬところで邪魔の入ったエリシャは少し苛立ちながらも、鎌を握りなおした。
カティは、暗闇へと、気だるそうに歩みを進めるエリシャに向かって最後の包丁を1本牽制で投げる。
キィンと甲高い音がし、再び静寂が訪れた。
静寂。
誰もいない。
再び夜の街に時間に相応しいような静けさが戻った。
「・・・逃げられちゃった」
残念。
失敗。
うーん、残念。
さてさて、どうしようかな。
どうしよう。
「殲滅戦だね」
原点に返り、とりあえず徘徊する事に決めた。
歩き回ってれば誰かに会って、そしたらやりたいことをやればいい。
「ん、出発」
殺人鬼は、歩き出した。
ゆっくりと、しかし、身長に不釣合いな鎌を携えて、カラカラ、カラカラと音を立てながら。
「ふふふふふふふふふふふふ」
◆ ◆ ◆
ぐったりするセーラを抱えながら、カティは夜の街を走る。
流石に人を抱えたまま走るのはキツいものがあるし、誰かに見られたら誘拐かと疑われるかもしれない。
そして不幸な事に、安心のせいか、心労のせいか、セーラは気絶してしまっている。
いざと言うときに料理できるよう、とある住居の台所から包丁を3本拝借したのだが、早速意にそぐわない形で使ってしまった。
料理人として、包丁を粗末に扱うなどとは失格だな、と苦笑する。
さて、まずは安全な場所に急がねば。
カティは夜の街を駆ける。
【中央 住宅地/1日目/深夜】
【エリシャ@T.C UnionRiver】
[状態]:健康
[装備]:クロア@NOVELS ROOM(死神リースの鎌)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗る
1:会場を練り歩き、参加者を殺して回る
2:自分の武器、大天斬を見つけたらそちらに乗り換える
3:セーラとカティを少し意識
(備考)
クロアは息の根を止めた、あるいは弱った人間から刃を介して強さを吸い取る事が出来ます。
エリシャのステータスが少しだけ上乗せされる可能性があります。
【中央 住宅地から東へ移動中/1日目/深夜】
【カティ@T.C UnionRiver】
[状態]:健康
[装備]:不明(包丁は使い尽くしました)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗らず、仲間を集める
1:安全な場所へ移動
2:セーラを介護し、話し合う
3:他人と接触し、情報を集める
4:エリシャを警戒
(備考)
参戦時期は、灰楼杯終了後。
支給武器はチェックし手に取りました。内容は次の書き手に任せます。
【セーラ@Tower Of Babel】
[状態]:気絶・精神的疲労(小)
[装備]:不明
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:???
1:混乱
2:安全な場所へ避難
(備考)
参戦時期は、灰楼杯終了後。
支給武器は何もチェックしないまま戦闘となりました。
最終更新:2009年08月24日 22:58