「うう・・・なんでこんな事に・・・」
ウサギは ウサギは ウサギは ウサギは
目が 目が 目が 目が 目が赤い (目が赤い!)
アーニャは アーニャは アーニャは アーニャは
うさ耳 うさ耳 うさ耳 うさ耳(うさのみみ!)
気丈な表情をしながらも、どこかそわそわ所在無さ気にしているのはアーニャと呼ばれる少女。
正式名称はマイクロマスター・アーニャ・ラビット・タイプヴェルトール・ウル、と言う様に、ラビット。故に、ウサ耳。
中学生程度の可愛らしい小さな体格に、相応しいような小さな眼鏡。茶髪の間から覗くウサ耳。
が、何時もと違い、何処と無くウサ耳はしょんぼりと頭に垂れ下がってしまっている。
「なんでこんな事に巻き込まれてるんだよ、私は・・・」
不幸体質なのは姉の真骨頂じゃあないのかよ。
心中でシィルに対して悪態をつくと同時に、名簿にあった『シィル』『カティ』の2つの名が気になった。
カティはともかく、シィルはあの性格にしてあの巻き込まれ体質。今頃目をぐるぐる回して倒れているのではないだろうか。
・・・・・。
考えれば考えるほど、心配になってくる。
勿論自分の置かれた状況も芳しくない。視界に写るのは木と草と地面だけ。
夜空の星の光さえ、天を覆う葉に遮られている。ここで誰かに襲われたら、誰に助けを求めるでもなく倒れるだろう。
――――が、目下自分には『緊急の問題』が迫っていた。選択は刻一刻と迫られる、まさに余裕の無い問題。
高度なナノマシン集合体で構成されているのにも関わらず、A.I.O.Nにかけられたプロテクトのせいで普通の中学生程度の身体になってしまっていることを後悔した。
何と言う『人間』の不便さだろうか。
物理的な限界があるというのがコレほどまでに不便だと感じたのは、アーニャ自身初めてだった。
アーニャは朝起きて、食事をして、トイレに行く直前でぶっつり記憶が途切れている。
恐らく、そのときにこの訳の分からない殺し合いに強制拉致されたのだろう。
丁度トイレのドアノブに手をかけて、扉を開こうとした瞬間だったのだ。
―――つまり。
「ト・・・トイレに・・・行きたい・・・・」
尿意が限界だった。
◆ ◆ ◆
クロードは頭に音符を付けながら支給バッグを物色していた。
持ち前のビーダマンのような愛銃―――白騎(びゃっき)・夜皇(やこう)の二丁はやはりというべきか、没収されていた。
代わりの武器を手に入れて武装することが彼女の目下目的であった。
「なにがでるかな、なにがでるかな~・・・と♪」
とはいえ。
彼女は、自身を護る、他人を護る、ゲームを破壊する、といった深い考えを持っているわけではなかった。
つまるところ、彼女にとって今の行為は『RPGで装備をゲットしたら即装備』といった現代っ子的、ゲーマー的な思考故だったのである。
がさごそバッグを漁ると、手に何かが当たった。そのまま外に出す。
「お」
食料に名簿、地図にコンパス、あと時計に―――紙切れ1枚。
折りたたまれた紙を広げてみると2行だけ文章が書いてあった。
―真凰・炎魔―
―バッグからはみ出るため外に立掛けてあります―
「武器の説明じゃないんかい・・・」
ちょっとだけ突っ込みを入れつつ、周りをきょときょと見回すと、確かに2本の刀があった。
手に取ると、やはり銃とは違う重心の重さに、10本もの刀を持つ双子のジーナのことを思い返した。
「でもお気に入りだとか言って触らしてくれないからなぁ」
刀バカの彼女が、クロード自身の武器、白騎と夜皇の二丁を持っているとは露知らず、刀を手元でいじくる。
刀を扱ったことの無い彼女だが、これは刀とはまた違った使い方が出来るな、と思った。
炎の剣。単純にそう理解した。単純明快。
「クロードは 魔法剣、ファイアソードを 装備した !」
なんてね、と付け加えながらも、目を妙に光り輝かせながら2本の剣を両手に天へと翳(かざ)す。
普段感性で物事を進めるが故に、今回の殺し合いに対して何も考えることなく、『そういうものなのだ』と解釈した。
彼女は、戦場を駆け巡るつもりではある。
しかし、それは闘いを求めてという動機ではなく、弱者を護るためでも無い。ただ、野次馬精神というべきなのだろうか、彼女の心が身体をそうさせていた。
遊び半分と言っては、騎士の名が廃るだろう。
が、彼女の本心は、行動のベクトルは、普段とはまた違う環境において、遊び尽くせる事が重要だった。
何か問題があればぶち当たってから考えればいい。それでいいのだ、彼女にとっては。
「そいじゃ早速・・・」
炎魔を両手で握りしめ、炎を出すべく集中する。
手にした玩具はついつい使いたくなってきてしまうのがお子様の心情である。
一応森の中なので、火力は抑えて山火事にならないように注意する。普段、愛銃に込めたビー玉を発射する時、破壊力が増すよう力を込めるあの感覚をほんのちょっぴり使ってみる。
「うわぉ!」
ぼふっ!
剣先からチロっとだけ出た炎が15センチ程度の火柱を上げた。
ちょっとびっくりした。が、それ以上にクロードの目は輝く。そりゃもう、らんらんと。
一瞬だけ周りを明るく照らし、すぐさま元の闇が訪れた。
ほんの一瞬の出来事ではあったが、クロードは初めて火遊びをした子供のようにドキドキしていた。
――――が、それ以上にドキドキ、びっくりした人間が近くに居た。
「う、うひゃぁあ!?」
ガサガサッ。
茂みの向こうから叫び声が聞こえた。
今の炎にびっくりしたらしい。
クロードが声のした方向へ顔を向けると、自分と同じ茶髪をした女の子がいた。
頭には大きな耳。ウサギの耳であるのにも関わらず、回りの風景が森であることと、彼女が茶髪をしていたこと。
クロードはとりあえず思ったことをそのまま、叫び声を出し口をパクつかせている張本人に向かって尋ねてみた。
「クマ?」
「クッ、クマって言うなぁあぁああああ!!」
◆ ◆ ◆
アーニャは周りを超入念にチェックしながら茂みへと入る。
地図を見たが、ここはエリア最西の山の中。市街地へ行ってトイレを探すには移動距離が長すぎる。
無茶苦茶悩んだ末、エリア端ということもあり、誰も居ないと踏み、1人で行動しているうちに用を足してしまおう。そういう結論に至った。
誰か仲間を作ることも先決だが、仲間を作ったらそれこそトイレに行きたいだなんて格好悪い事言えないし、言えるわけが無い。
こんな殺し合いに参加していて間抜けかとも思われるかもしれないが、そこは一応女の子。生きるか死ぬかの極限状態になり、論理が破綻しているようだが、彼女自身はもうそれどころではない。
涙目になりながら、周りの気配を探りながら、なるべく人気が無さそうな茂みの中へと歩みを進めていく。ヨタヨタと。内股で。
「う・・・うう・・・・」
な、なんでこんな事に、と冒頭でも思ったことを再び呟きながら、バッグを下ろす。
ストライプのニーソックスに、ワイシャツとプリーツスカート。そしてアースガルズのジャケットを羽織っているアーニャだが、その機能性に優れていそうな格好とは裏腹に、全く持って移動はヨタヨタとしたものだった。反面、ものすごく焦っていた。
「も、もれるぅ・・・」
羞恥心と戦いながらも、パンツを下ろそうとした、その時。
ぼふっ!
というこもった音と共に赤い光が景色を照らした。
心底驚き、身体が硬直する。ちょっとチビった。
「う、うひゃぁあ!?」
声を出してしまった。
なんで!回りには十分注意していたはずなのに!?
アーニャにとって不運は3つ。
1つ、クロードの戦闘技術が一般人のソレを上回っていた事。
一般人よりも優れているが故に、本人の自覚無しに動きの無駄が削減されていた。そしてアーニャが戦闘に関してド素人である事も拍車をかけていた。
「クマ?」
「クッ、クマって言うなぁあぁああああ!!」
面識があるのにも関わらず、普段いじられる時に付属するクマという単語が出てきた。一応私ウサギなんだけどな。
いやいや、そんなことはどうでもいい。今はこの下げかけたパンツをいかにして元通りにするかだ。ちょ、ちょっとちびったけど、大丈夫、バレ無い。絶対。・・・多分。
「んなトコでどうしたの」
「い、いや・・・アタシはその・・・」
「?」
ズ、ズズ・・・
もごもご言いながらもパンツは完全に戻した!やったぜ私!! クマー!!いや、クマじゃないってば。
クロードが目をらんらんとさせて、刀を持っている。正直怖い。つうかコイツ、ゲーム乗ってるんじゃ無いだろうな!?
うわ、こっちに来てるよ!刀下ろせって怖いから、うわー、やめっ!
「アーニャちゃんさ、一緒に行動しない?」
「うわわ、切らないで・・・え?」
頭を庇って、後ずさった自分が急に恥ずかしくなった瞬間だった。
「ほら一期一会っていうぢゃん。旅は道ズレズレ」
「いや、意味分かんねーよ」
一応突っ込みは入れておく。いや、よかった、心臓の動悸は止まった。
冷静にはなれたようだ。が、尿意は正直やばい。
・・・・なんか全然殺し合いとは関係ないところで戦ってるなワタシ。
「わ、ワタシはとりあえずシィルを探したい・・・あと市街地へ行きたいんダケド」
「? 市街地? 良く分からないけどオッケー!」
「で、出来れば早くてゆっくりなのが最高にいいんだけど、さ・・・」
「? いそげばいいんだよね、分かった」
「いやえっと、違うくて、その」
「レッツゴー!!」
ぐいっと手を引っ張られる感触がして、身体がふわりと浮いた気がした。
というか引きずられていた。
慌ててバッグを掴んで前を見ると、刀をしっかり装備し、バッグも身につけたクロードが全速力で走っていた。ワタシの右手を掴んだまま。
「ちょ・・・待っ・・・・!!!?」
「~♪」
聞いちゃ居ない。
アーニャの不運、残りの2つ。
1つ、クロードの尋常足らぬ行動力。
出会ったのがクロードで無ければ、冷静に方針や話し合いが出来ただろう。あわよくば、トイレに行きたい旨を察してくれるという可能性もあったが、クロードにそれは全く持って無理だった。
そして最後にして最大の不幸はこの1つ。
(もっ・・・漏れるぅうううぅう・・・・・・ッッ!!)
尿意だった。
【西 山から東の住宅街へ/1日目/深夜】
【クロード@T.C UnionRiver】
[状態]:健康
[装備]:真凰・炎魔@如月和輝(希望と絶望の協奏曲)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:騒ぎを見つけて首を突っ込む
1:会場を駆け巡り、イベント事に首を突っ込む
2:良く分からないが市街地を目指す
3:シィルを見つける
4:姉妹が少しだけ気になる
【アーニャ@T.C UnionRiver】
[状態]:健康・尿意がヤバイ
[装備]:無し
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない
1:トイレに行かせてぇえええお願いだからぁああぁああ!!
2:止まってぇええええぇえええぇ!!
3:シィルとの合流、保護
4:そういえば支給武器見ていなかったな
5:こんな仕打ちにした主催者を激しく恨む
最終更新:2009年09月21日 01:41