むかしむかしあるところに おじいさんとおばあさんがすんでおりました

おじいさんはやまへしばかりに おばあさんはかわへせんたくにいきました

おばあさんがかわでせんたくしていると かわからどんぶらこ どんぶらこ と 

(省略されました)


「がぼぼぼぼぼぼばばばばばば」

流される流される。
勢いに翻弄されているわけではない。
泳ぐ体力が無かったから、本人にしてみれば異様なほどに流されているのである。
もがけばもがくほど、口に水が入る。しかもなんか水が汚い。山から市街地へと流れてくるにつれ、その傾向が顕著になってきた。
これこのまま大量に水飲んだら、腹の調子悪くなるんじゃないかなー、と他人事のように考えているのはティアマットを握り締めている如月和輝。

「がばぼぼぼぼぼばばばばばぼ」

とはいえそろそろ這い上がらないと話にならない。
水に入っているだけでも体力は使うのに、能力を行使したせいか、異様に身体がだるい。
和輝は水中でずっしりと重くなったバッグにティアマットを収め、本格的に脱出を試みる。

「おおりゃああぁあぁああああ・・・ってあれ」

意外と普通に泳げた。
助けを求めるでもなく、自力で本腰を入れて脱出しようと思えばなんとかなったのである。
無駄な時間と漂流劇を経験してしまったやるせなさで、なんともいえない気持ちになりながらも右側の岸に向かって泳ぐ。
丁度病院の対岸に位置するそこは、土手のような場所になっていた。地図では住宅街と描かれていたが、やはり地図は大雑把な物のようだ。
方向音痴である和輝にとって、あまり地図と自分の居る位置を相対的に覚えて場所を割り出す事は苦手なのだが、それは別の話。

土手には枯れ草が多く流れており、同時に背の高い草が視界を悪くしていた。
川下には大きな橋がある。もしかするとこれ以上流されていたら海まで行っていたのではないだろうか。

ざぱぁ。
疲労困憊にして、身体にまとわり付く水に引きずられながらも、2本の足で川からの脱出を試みた。
だが、なんかもう疲れた。とりあえず岸で寝転がりたい。結果として、四つんばい、つまり丁度ほふく前進のような上陸となった。

そこで、人の気配。
なんということだろうか、ここは人殺しゲームの会場だった。気を、抜きすぎた。
最初の襲撃者でそれを身を以って体感したはずだったのに。
和輝が見たものは。


     ◆     ◆     ◆


「うわあああぁあああああ、止めてぇえええぇえええええ!!」
「え~、何~、聞こえないよ~」
「だからあああああぁあぁ、止めてってばあぁあぁあ!!」
「あ、止まるのね、オッケ~」

ギャリリリリッ!
急ブレーキ。次いで握り締めていた手を離す。
ぜぃぜぃと肩で息するのはうさ耳のアーニャ。そしてアーニャを引っ張りまわしていたのは彼女と同じ茶色の髪のクロード。
彼女たちは、ゲームスタートで遭遇してから(クロードの独断専行により)超ダッシュしていた。そして、アーニャはただただ引っ張られていただけだった。

「えっとね。地図だとココは・・・河の手前だね。うわっ、なんだ、市街地目的に走ってたのにいつの間にか市街地突入してるよ」
「誰のせいだと思ってるんだコラ」
「だいじょぶ、よくあるよくある」
「至近距離で叫ぶ内容が聞き取れない速度で走る事がよくあってたまるかクマーッ!!」

アーニャは涙目になるが、クロードは知った事ではない。唯我独尊というか、純真無垢というか。アーニャの様子に気付いてんだかどうだか怪しい物である。
しかし、仮にアーニャの必死な表情を見ても、アーニャの真意に気付く事は無いだろう。
何故なら彼女は、この殺し合い会場で走り回る危険性を危惧しているのではなく、クロードの浅はかさや無鉄砲さを叱咤しているのでもなく。ただ。

(ト・・・トイレに行かせてよぅ・・・)

もじもじ。涙目。マジ涙目。
ゲームスタート時から既に1時間は経過しただろうか。
ぶっちゃけていえば、アーニャがここまで持ったのは奇跡に近い。奇跡だが絶望的な状況なのは間違いは無い。
1時間の爆走で与えられてしまった振動によって、限界(リミット)までの線引きは限りなくあやふやなものとなってしまった。

(う、うわあぁあん、もうなりふり構ってる場合じゃ・・・無い・・・よぅ・・・)

プライドと羞恥心から、クロードに告げることが躊躇われていたが、1時間前とは状況が違う。もう、本当に、ヤバい。
意を決してアーニャが周りを見渡すクロードに告げようとする。

「あ、の、さ―――」
「おお~!!」
「ひゃわぁ!? い、いきなり大声出さないで欲しいな!?」
「いや~、見つけちゃったよアーニャちゃん、あの先に橋があるぢゃん」

右手で指を差した先の川には大きな橋が架かっている。
少し距離はあるが、それがどうかしたのか。そんなことよりも尿意をなんとかしたい、本当に。

「よくさ、RPGとかで橋をくぐると敵のレベルが上がるんだよね!」
「う、うん、そうだね」
「でもさ、"橋の上"ってエンカウントはどういう扱いになるか気にならない?」
「ならない」
「なるよねッ!や~、でも橋の上で調べるコマンドとかあったらそりゃもう面白いゲームじゃないかな、と思うんだよ。というわけで」

すちゃっ、と敬礼するクロード。

「ちょっくら行ってきます!」

言うと、ダッシュで去っていった。多分、気になる事は真っ先に調べるタイプなんだろう。
なんかもう殺し合いの危険性とか怖さとかを諭す気もしなくなった。相変わらず爆走していったようで、後姿すらもう見えなくなっていた。
いやいやいや、それよりも、これはチャンス!今ココには誰も居ない!!

(天は、我に味方したクマーッ!)

涙する。急いで内股で河原の方向へ急ぐ。急ぐとは言ったものの、やはり速度は遅い。もじもじしながらの奮闘。
近くに住宅街はあったのだが、河原の方が近い。ぷるぷる震えながらも、一歩一歩土手の階段を下りる。
ウサ耳が萎縮してる。幸い、土手には背の高い草が生えており、回りからは誰にも見られない。川の向こうは距離があるし、暗いから対岸に人が居ても絶対に分からない。
こらえろ・・・まだだ・・・笑うな・・・勝利の瞬間まで・・・!!

頭の中で何度もシュミレーションする。荷物を放りパンツを下げる過程で振動を最小限に。
羞恥心で耳まで真っ赤になるけれど、もう本当に背に腹は変えられない。ぷるぷる震える身体を抱きしめて、目的の場所へ――!!

しゃがみこんで、滑らかにパンツを下ろす。滑らかに、とあるが内心は慌てすぎるほどに慌てているのは言うまでも無い。
そして。プライドを全て捨てて、今彼女にとって至福の瞬間が訪れのだった。

「は・・・はふぅ・・・・・・・」

うっとり。
この世の全ての幸せを詰め込んだような顔はそこにはあった。
強張っていた身体が、一気に脱力していく。若干弛緩した全身に同調するように表情もとろ~んとしてくる。

どれほどの時間が経っただろうか。
幸せな時間が終わって、彼女に外で用を足してしまった羞恥心が襲ってきた。でも、何度も言うように、背に腹は変えられなかったのだ。

「・・・な、なんかすごく情けないな・・・」

まあ誰にも見られなくて良かった。呟き自嘲しながらもパンツを履き直そうとする。とは言っても、パンツを履くにはしゃがんでいる状態から立たないといけない。
しかしながら、彼女はどうにも脱力してしまって、すぐに行動を遷す気が――――

音が聞こえた。
ふと真下を向いていた首を前にあげる。
"大丈夫だ、回りからは誰にも見られない。川の向こうは距離があるし、暗いから対岸に人が居ても絶対に分からない。"
そこには、目をまんまるにした、赤い髪の男が居た。倒れてこちらを見ていた。

川の向こうではなく、川を流れていた人間は警戒の例外。


ウサギは ウサギは ウサギは ウサギは
目が 目が 目が 目が 目が赤い (目が赤い!)
アーニャは アーニャは アーニャは アーニャは
うさ耳 うさ耳 うさ耳 うさ耳(うさのみみ!)

今のアーニャの状態は?

『ぱんつ履いてません』


流されてきた男は、和輝。やっとの思いで川から這い上がってきたので、ほふく前進状態。つまり、視線は低い。
目と目が合う。

「え?」
「え?」

現実を見ましょう。
瞬間的に情報がフィードバックされる。アーニャの頭に、急速的にこの状況が叩き込まれる。

「きゃぁあああああああああああああぁあああああああああああああああああああああぁあああああああああッッ!!!!!!!?」
「うわあああああああぁあ、ごめん、ごめんごめんなさいゴメンナサイゴメンナサイ!!?」

悲鳴の次に、アーニャの目じりには涙が溜まり、怒りとも悲しみとも付かない鬼のような形相になる。愛と怒りと哀しみのスーパーモードのような。
もう穴があったら入りたい、という思いよりも、一瞬だった。行動は一瞬だった。

「殺す!!殺す殺す殺すコロスコロスぜってぇーコロス!!!!!!」
「わああ、本当にゴメンってb―――」
「うるせぇええええええええぇえええ、おめーはあたしを怒らせたァアアァーーーッッ!!!」

ごすんっ!!
立ち上がったアーニャが放ったトーキックは見事に円弧を描き、和輝のアゴにクリーンヒットした。
疲労困憊だった彼は避ける事は勿論の事、耐える事すら間々ならなかった。瞳に星が写る。
続いて拳の嵐。ラッシュラッシュラッシュ!!
和輝の頭にはたんこぶが漫画のように量産される事となり、不憫かな、再び川へと流れていった。

「ふーっ!ふーっ!ふーっ!!」

肩で息をし、瞳孔を開かせ、まばたきもせずに、しかし目じりには涙を浮かべながら怒りをあらわにした少女がそこにはいた。


ちなみに、彼の名誉のために言っておくが、これはあくまで偶然の産物であり、彼がラッキースケベだったとかそういう話ではない。
また、和輝はアーニャの用を足しているシーンは目撃していない。あくまで、その直後である。いや、十分だけど。

そんな彼は、今や川の中。
ぷかーっと浮かび、その様子はどざえもんのよう。
彼が行使した能力は、予想以上に体力を蝕んでいたらしい。エネルギーゼロ。



「おや?」

一方、橋の上でうろちょろしていたクロードは川を流れる赤い髪の人間を見つける。
しかし、橋とは言っても、高さは建物2階分以上はあるため、ただその様子をぼけーっと見ていた。

(・・・橋の上で遭遇するのは変な人なんだなあ。こんな時に泳ぐなんて)

自分が俗に言う「変な人」というのには全く該当しないと思っている少女の単純明快な思考。
彼女の持つ2本の刀、真凰・炎魔がまさか今流れている如月和輝のものだとは気付かずに。



むかしむかしあるところに おじいさんとおばあさんがすんでおりました

おじいさんはやまへしばかりに おばあさんはかわへせんたくにいきました

おばあさんがかわでせんたくしていると かわからどんぶらこ どんぶらこ と 

(省略されました)



【西 病院対岸付近の橋/1日目/深夜】

【クロード@T.C UnionRiver】
[状態]:健康
[装備]:真凰・炎魔@如月和輝(希望と絶望の協奏曲)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:騒ぎを見つけて首を突っ込む
1:会場を駆け巡り、イベント事に首を突っ込む
2:良く分からないが市街地を目指す
3:シィルを見つける
4:姉妹が少しだけ気になる
5:橋でイベント起こらないかな、という期待があったが大したイベントではなかった
6:アーニャと合流


【西 病院対岸付近の橋付近/1日目/深夜】

【アーニャ@T.C UnionRiver】
[状態]:健康・興奮状態
[装備]:無し
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない
1:和輝に対して激しい怒り
2:冷静になると見られた事に関して絶望的になる
3:シィルとの合流、保護
4:そういえば支給武器見ていなかったな
5:こんな仕打ちにした主催者を激しく恨む


【西 病院付近の橋下の川/1日目/深夜】

【如月 和輝@希望と絶望の協奏曲】
[状態]:『龍眼発狂』による極度の疲労・気絶・アゴ打撲
[装備]:ティアマット@皇帝(理由のない日記)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:生き残るため、最低限の戦闘は行う。
1:気絶
2:何とかして川から出る
3:知り合いとの合流
4:どこかで休む
5:さっきの事は忘れるべきか・・・


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最終更新:2009年10月30日 22:40