くそ、話しかけるなよ。
こっちはそれどころじゃないんだ。さっきの惨状が、脳裏にチラついてる。
血に、中(あ)てられてる。普段武器を手に取ったときにしか表に出ない、あの衝動が出てきそうなんだよ。
だから、オマエが何者だろうが構わないが、今、目の前に出てこられると困るんだ。
武器が手元にあったら、展望台の外にいるやつが、ゲームに乗ってようとそうでなかろうと、八つ裂きにしてしまいそうだ。
今両手は震える身体を押さえるので使っている。駄目だ、衝動が、止まらない。思わず身じろぎをする。

「・・・・女の子か?」

来るなと、言ったのに!
一歩下がる。"タメ"る目的で。
外に居た男がトビラに手を触れた、その時―――我慢が、衝動が、限界に達した。

ぐんと後ろにスウェーバックした身体を起こし、勢いの付いた身体で突進跳躍する。
丁度扉の真上あたり、男の頭上を通過し、外に身体が半歩分出る。驚く男にすれ違い様、後頭部にハンマーナックルを穿つ。
ただの拳であるが、意表を突いた突然の攻撃だったため、勝負は一撃で決まった。
男は、倒れた。
その男の後ろで、肩で息をしているのは、「蒼龍騎士団」のレイチェル、その人だった。


     ◆     ◆     ◆


倒れている男、リメイカーは、決して弱くは無い。
むしろこの会場では、身体能力においてかなりの強さを誇るだろう。
しかし、彼自身の能力として再生能力というモノがあった。故に、鍛えようとも、伸びにくいパラメータ。タフネス。
むしろ伸ばす必要性が無かった。レイチェルの渾身の拳だろうとも、一瞬で普段どおりに再生が行われ、反撃に移ることが可能なのだ。
――普段ならば。

今のリメイカーは、時を止める能力も、再生能力も、無い。
故に、予想以上の衝撃に、気を失った。

「はァッ、はァッ・・・」

レイチェルは、赤い覆面にバンダナをした男、リメイカーを見下ろす。
身体が、紙一重のところで衝動に打ち勝った。

(危なかった、あと少しで―――)

―――殺してしまうところだった。
なんとか、寸でのところで追撃の拳を振り下ろすコトを止めることが出来た。
この気絶した男を、踏みつけ、殴り、捻り、極め、締めれば、死に至らしめることが出来るし、それを肯定しようという自分の本能がある。
しかし、それを我慢しようと言う理性が勝った。
支給武器が、純粋な得物でなかったことも理性を保つ事が出来たひとつの要因。もし、自分の勇神を引き当てて手に取る事があったならば、間違いなくそれで、殺していた。
まだ、リメイカーは気絶しているだけだ。起きたら面倒だ。

「何をしているんですか、レイチェル」
「っ!? あ、姉上!?」

扉の淵に寄り掛かった、エヴァが額の緑髪を手で掻き分けて、現れていた。
騎士団のトップ。エリシャや、レイチェルの、姉。まさかこの会場にいるとは。
参加者名簿とやらを確認する暇が無かったとはいえ、こんなに早い形で合流する事になるとは。レイチェルは驚愕した。

「まずはこの惨状の説明をしてもらいましょうか、レイチェル」
「こ、これは、正当防衛で! 別に私が暴走したわけじゃなくて!」
「? 何を言ってるんですか」

エヴァはうつぶせに倒れているリメイカーの元へ歩いていく。
――なんだろう。普段の姉上とは全然違う感じがする。そう、例えるなら、昔の、姉上。今では騎士団長らしい振る舞いは稀になったが、まるでこれは。

「ちゃんと 止めを刺さないと 駄目でしょう?」

リメイカーの首筋に、ずぶりと剣が立つ。
瀧上の双龍(たきがみのそうりゅう)。エヴァ自身が、エヴァ自身の武器を引き当てていた。
いや、それは兎も角、レイチェルはくらりと眩暈に襲われる。

「・・・あ、姉上!?」
「止め、というよりも首輪のサンプルが欲しかったんですよね」
「姉上は、殺し合いに乗ってるのか!?」
「乗るわけ無いでしょう。ただ、脱出して主の下に帰るための最短経路を行くつもりです。主催者に対抗する戦力ならば、私たち騎士団だけで十分です」
「だ、だからって、"コロス"ことなんか無いじゃないか!」
「・・・レイチェル、貴方随分変わりましたね。てっきり私は見境無く殺しまわって、全身返り血を浴びてるかと思ってましたよ」
「姉上こそなんだよ!もっと飄々としてたハズだろ!なんで、そんな、昔みたいに―――」

―――余裕の無い、振る舞いをしてるんだよ。
冗談の言える空気じゃないのは分かる。やるときにはやる、騎士団長であるのも分かる。でも。何かおかしい。
姉上の冗談を、私が呆れながら戒めてたんじゃないか。まるで、『昔のエヴァがそのまま来た』みたいに感じてしまう。

「・・・まあいいでしょう。我々姉妹がこの戦場を制圧します。エリシャやクロード達と合流して、主催者に殴りこみを。主の知り合いならば、保護します」
「・・・・」
「ですが、それ以外の障害になりそうな人物ならば、即排除です。今回のこの男は、不運だったと言わざるを得ないですが」
「姉上。本気で言ってんのか」
「当たり前でしょう、レイチェル」

眩暈がする。
目の前に居るのは間違いなく自分の姉で、騎士団長であるエヴァその人だ。だけれども、こんなにも非情な人物だっただろうか。
ぐだぐだした日常を、一番享受していたのは、エヴァ自身じゃないのか。なんでこんな―――殺伐とした世界が似合うように見えるんだ。

「どうしちまったんだよ、姉上・・・目的のために手段選ばないなんて、騎士のすることじゃ無いだろ・・・」
「・・・私としては貴女が暴走してない方が驚きですがね。いつのまに成長したんでしょうね、この子は」

リメイカーの胴体と首が離れ、そこに付いていた血で塗れた首輪をエヴァは回収しバッグに入れる。
剣に付いた血を、軽くそれを振るう事で血払いする。床に音も無く血が付着する。
それを見たレイチェルは、また、血に中てられそうになった。本能のままに、誰かを八つ裂きにしたい衝動に駆られるが、それを強引に封印する。
奥歯をギリギリとかみ締め、エヴァを直視する。
姉上は、間違ってる。言ってることは正しいのは分かる。でも、こんなのは、自分の知ってる姉上じゃあない。
自分でさえ本能を押さえ込んでる。ある種の衝動を死ぬ気で押さえ込んでる。それを効率の一言で、否定するなんて、そんなのは―――

「認めない」
「・・・?」
「認めないぞ、姉上! こんな惨殺劇を繰り広げていいなんて事は、世界中の何処でもあっちゃいけないんだ! 騎士ならそれをまずなんとかしなきゃいけないし、そのために人を殺すなんて間違ってる!!」
「・・・レイチェルらしくないセリフですね」
「姉上がおかしいからだ。私1人だったら衝動に任せてたかもしれないけど、姉上見ててそれがいけないことだと分かった」
「ですが、私はやり方を変えるつもりはありませんよ」
「なら、仕方ないな」

レイチェルの雰囲気が変わる。ざわり。
それを察知し、エヴァも自然と身構える。自然とエヴァの前にレイチェルが対峙する構図となった。

「姉上を、私が止める」
「やれやれ。こんな聞き分けが悪い子になったなんて、知りませんでした。こういう時は『殲滅戦だー!』とか言って私についてくるものだと思ってましたけどね。で、どうするんですか?」
「姉上が考えを変えるまで、私がここを通さない」

扉の前に立ちふさがるレイチェル。それを見て、エヴァは多少イラ付いたように髪を掻き分ける。

「私も丁度、聞き分けの聞かない駄々っ子にお仕置きしようと思っていたところです」
「じゃあ、負けた方が勝った方の言うことを聞くって事で」
「異論はありませんが、早めに済ませましょう。お仕置きに時間がかかっても仕方ありませんしね」
「そんなの言うまでも・・・・・・・・無えぜぇえェーッ!!」

今まで抑えていた衝動を解放。瞬間的に、レイチェルの表情が豹変する。獲物を殺しに掛かるときの表情。
対峙するエヴァは瀧上の双龍を構える。龍輝(りゅうき)と龍詩(りゅうし)をそれぞれ右手と左手に。睨み付けるように妹を見る。
エヴァとレイチェル。蒼龍騎士団の壱号機と弐号機。

両者が、激突する。




【リメイカー@吼えろ走馬堂  死亡】



【展望台/1日目/深夜】

【エヴァ@T.C UnionRiver】
[状態]:健康
[装備]:瀧上の双龍@エヴァ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:主催者を潰す。方法は厭わない。
1:レイチェルにお仕置きタイム
2:姉妹と合流
3:危険人物や邪魔者を排除
4:首輪の解析をする
5:主の下へ帰る

(備考)
参戦時期は初期で、名前が『壱』から『エヴァ』に変わった時期。
ぐてーっとした性格が前面に出る前なので、何かとシビア。本気モードの持続が妙に長い。
名前が『壱』の時期に走馬には出会っているが、リメイカーとは別人と判断したため容赦はしなかった。

【レイチェル@T.C UnionRiver】
[状態]:健康・怒り・殺戮衝動(小)
[装備]:不明
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗りたいという本能を押さえつける
1:エヴァを"普段の彼女"に戻すべく戦う
2:姉妹と合流
3:エヴァの行動方針や性格に関して疑問
4:殺戮衝動を抑えられるか自信は無いが、エヴァに対する思いのほうが上回っている

(備考)
参戦時期は極最近。よってエヴァの性格に対しての認識に食い違いが発生している。
殺戮衝動が一定に達すると、エリシャ同様暴走する可能性在り。
血を見たり、武器を持ったりすると状態の殺戮衝動が(微)⇒(小)⇒(中)⇒(大)⇒(極大)となっていく。後者になるにつれ、暴力的な傾向が出る。


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最終更新:2009年11月19日 18:28