【西 病院】
結論から言おう、アステリアと交換した支給品一式と一緒に配布された武器は“ハズレ”だった。
剣龍帝が手に入れたのは黒い手袋、カイトの『ダークネイルブレード』――能力は邪眼と光眼。
これと彼の相性は非常に良かった。
第一に、剣龍帝の体質で痛覚がないため、邪眼使用後に強烈な頭痛に侵されずに済むため。(しかし目眩はする)
第二に、殺意などのマイナスの感情と取り込んで力に変える邪眼と感情によって力に変える光眼が、没収された殺意の龍眼の使い方と似ていたためである。
「……まさか過去に倒された奴の能力を使うとは思ってもみなかった」と能力を得た時の剣龍帝の感想。
ある程度邪眼と光眼の特性を理解した剣龍帝は、邪眼を使用した際に力を変えた後どういう方向に還元するかイメージをしながら皇帝だった頃――過去に一度、カイトに敗北したことを思い出す。
その時を思い出して少し殺意を抱いたが、所詮過去の出来事なので忘れることにした。
無論、還元する力の二つは既に決まっている、超自然治癒能力と殺意の龍眼の最終進化――人龍化だ。
特に人龍化は完璧にとまでにはいかないが再現するのは難しくはない。
超自然治癒は人龍化のイメージをしている最中に終えたが、血液だけは足りてないのでそのままである。
そして現在、剣龍帝はアステリアと共に行動をし、病院内を歩き回っている。
因みに1人で行こうとしたら、持っていた本の力で叩き潰すという勢いのアステリアに怒られ、それに圧倒されて承諾してしまった。
(やれやれ……昔の俺に戻った気分だ。天妃のリボンを持っている者と関わること以外な行動はしない決めた結果がこれだ……)
隣に並んでアステリアと一緒に歩きながら、自分に対して内心呆れ返っていた剣龍帝。
ほんの数十分ぐらい同じ参加者、それも異性と話をしたのに、このまま流されて一緒に行動するとは思わなかった。
「それで龍帝さん、これからどこに行くのですか?」
「情報収集だ。が、集めるにしても問題が多すぎる。まずは身近なところから集める」
会話をしながら歩くうちに剣龍帝が立ち止まり、アステリアもその場に立ち止まる。
「ここだ」
「ここって……資料室じゃないですか」
「入るぞ」
「え、あ、ちょっと待ってください」
先に剣龍帝が中に入り、次にアステリアが入った。
2人が入室した資料室はこの病院のオペの記録ビデオや紙に書かれた記録一覧表が整理されており、機材はビデオデッキと3台のパソコンが置かれていた。
剣龍帝は真っ先にパソコンに向かい、着いて早々それを起動させる。
それを見たアステリアは「パソコンの使い方を知っているんですね」とこの時思ったのは秘密だ。
「パソコンを起動させてどうするのですか?」
「この世界についての情報だ。少なくとも、俺たちがいる地名ぐらい分かるはずだ」
「……確かにそうですね。でも、どうしてこの世界を調べようと思ったのですか?」
アステリアは視線を画面に向けている剣龍帝に尋ねた。
キーボードに文字を入力しながら彼女の返答に彼は答える。
「何となくだ」
「そ、それだけですか!?」
「あぁ……」
剣龍帝はアステリアに適当に誤魔化した。
傷が癒えてから情報収集を開始すると決め、真っ先に疑問を持ったのが『殺し合いが許される世界』についてだ。
最初に気付いたのはこの世界の住人が1人もいないこと。
参加者は恐らく主催者含めて全員が別世界の住人たち。
なら、元々住んでいる者はいるのか。
ゲームが開始されて、深夜という時間帯だからかもしれないが、病院に着くまでは誰一人会わなかった。
それから、病院内を歩いて患者がいる病室を除いて見たが、患者がいないく、さらには医者もいなかった。
あろうことか、不気味なほどに整理が綺麗にされており、余計に違和感を持たされる。
恐らく、この病院以外どこに行っても住人はいないのだろう。
最初は『殺し合いが許される世界』だから住人全員が殺し合いをして全滅したのだろうと考えたが、殺し合いをした形跡がないためその考えはない。
ならば、最初からこの世界の住人はいないとしたら……そう考えるのが自然だ。
だが、住人がいない世界をどうやって主催者の灰楼は手に入れた?
世界そのものを管理する存在『真神(まがみ)』または『管理者』を服従させたのか?
それとも灰楼の中に『真神』または『管理者』がいるのか?
疑問が疑問を呼びさらに謎が深まる。
(考えてもしょうがない、まずはこの世界を知らなければならない)
インターネットの検索サイトを開いて剣龍帝は“灰楼ロワイアル”と入力する。
調べるとしたらこのキーワードしかないのだ。
画面に映る検索ボタンを押すと案の定検索結果に灰楼ロワイアルのホームページが出た。
「……一般公開するものですか?」
「……知らん」
思わず突っ込みを入れてしまったアステリアに突っ込む剣龍帝。
気を取り直して剣龍帝はホームページを開いて適当に目を通す。
その中で、“死亡者一覧”と書かれた項目があり、それをクリックして開いた。
「現在の死亡者――リレッド=ルーヴィス、トリガー=マークレイド、セレナーデ=コランダム(セリナ)、リッター=シュナイド(リット)、レミエル、リメイカーの6人か……」
「お義姉様……」
「身内がこの中にいるのか?」
「はい、先ほど爆破された女性のことです……」
暗い声で答えるアステリアに剣龍帝はこれ以上何も聞かなかった。
それからリレッド以外の死亡者の隣に殺した者の名前を見つける。
死亡者:トリガー=マークレイド 殺害者:ゲイザー=ランブル(雷殺)
死亡者:セレナーデ=コランダム 殺害者:リース(刺殺)
死亡者:リッター=シュナイド 殺害者:ディアナ=クララベラ=ラヴァーズ(銃殺)
死亡者:レミエル 殺害者:メシア(投擲殺)
死亡者:リメイカー 殺害者:エヴァ(斬殺)
「そんな……」
「どうした?」
「ディアナ=クララベラ=ラヴァーズ、私のもう1人のお姉様です……。でも、どうしてお姉様が……」
殺された義姉を見た後に、殺し合いに乗っている義姉を知ったアステリアは混乱に陥る。
流石に錯乱されては拙いと感じた剣龍帝は彼女を落ち着かせようとする。
「落ち着け、お前の義姉が参加者の一人を殺したのは事実だが、理由があって殺さなければならなかったと思うならそれを信じろ」
「で、でも……!」
「迷うな。お前はディアナとやらの義妹なのだろ? なら、義姉を疑ってどうする。仮にディアナが己の心を殺しているのなら、その心を救うとしたらお前しかいない」
真剣な表情でアステリアを見つめる剣龍帝。
彼の眼を見た彼女は小さく頷く。
「(そうでした、自分の義姉を信じなくてどうするんですか)……ありがとうございます龍帝さん」
「気にするな」
冷静になったアステリアに満足したのか剣龍帝は微笑んだ。
が、直ぐに無表情に戻して再びホームページのページを見る。
次に目を付けたのは地図だった。配布された地図と同じものだが、唯一異なる点は参加者の名前が場所によって表示されているのである。
2人の名前は直ぐに見つかり、他の参加者はどうなのか確認しようとするが、
「ちっ、完全リアルタイムで更新されて誰がどの場所にいるのかランダムで表示されている」
「でも、一瞬ですが私と龍帝さんがいる病院の近くに同じ参加者が2人いました」
「そのようだな。かなり遠くにはレミエルを殺害したメシアがいるみたいだが」
「合流しに行きましょう! まだ近くだから間に合うはずです、それに今見えた2人は私の知り合いですし」
「…………一応聞くが、俺も一緒にか?」
「当たり前です! それとも貴方は助けられそうな人を見捨てるような悪魔ですか!?」
アステリアに好き勝手言われて剣龍帝は少し苛っとした。
そこまで言われてしまえば断るわけにはいかない。寧ろ、助けられそうな人間を見捨てるほどの冷酷さなど持ち合わせていないのだから。
頼みを受けよう、条件付きで。
「良いだろう、ただし、」
椅子から立ち上がり、剣龍帝は瞬時に邪眼を発動。
そしてイメージしたものを具現化させ、背中から龍翼が生えさせた。
「面倒だからお前を抱いて飛ぶ」
「はいぃぃぃッ!?」
無駄のない動作で剣龍帝はアステリアを抱き上げ(体勢:お姫さま抱っこ)、資料室の窓を蹴破って外へと飛び出す。
「いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「喋るな、舌を噛むぞ」
龍翼を羽ばたかせ、剣龍帝は上空へと飛翔する。
アステリアは必死に落ちないようにしがみ付く。
やがて遠くの森が見えるぐらいまで上昇し、一時停止する。
「アステリア、どの辺だ?」
「え、えっとぉ……あ! あの橋辺りです」
「分かった」
「もう少しゆっくり飛んでくださいね」
「無理だ、邪眼の効力が切れる」
「そ、そんな……ってひゃああああああああああああっ!?」
深夜の上空にアステリアの声が木霊した。
因みに地上に降りて早々、アステリアは本気で泣いて剣龍帝は深く反省したらしい。
【西 川―病院 付近/1日目/深夜】
【剣龍帝@理由の無い日記】
[状態]:良好
[装備]:ダークネイルブレード@カイト(紫色の月光)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
(基本):終盤まで傍観しつつ黄色いリボンを探す。隙あらば主催側を壊滅する。
1: 能力把握完了。
2: 済し崩しにアステリアと共に行動。
3: 邪眼の力を使って飛行中
【アステリア@T.C UnionRiver】
[状態]:健康
[装備]:グラビィの操作書「ケフェウス」 @アステリア(T.C UnionRiver)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
(基本):殺し合いに乗らない、誰かが殺しに来ても殺さない。不殺。
1:自身の知り合いと合流。
2: お姫さま抱っこされて飛行しています。(急に飛んだので恥ずかしさはなし)
◆ ◆ ◆
剣龍帝とアステリアが病院の資料室から飛び出したその後。
入れ替わりに人影が1つ、資料室の本棚から音を立てて出て来た。
その顔には鉄のマスクが装着されており、外見は10代前半の少年。
そして何より驚かされるのは灰楼ロワイアルの主催者の1人――学ランのような帽子とオーバーコートを来た少女に似ているのだ。
無論、少女と少年の関係は姉弟。似ているには似ているが、違うのは髪の色だけ。(少年は紫に近い色)
彼に関わった者は、最初にリタイアしたリレッド、美咲とカノンと共に行動しているトーイ、暗黒面に堕ちたアカルの3人である。
少年もまたこの殺し合いのゲームに参加させられたのだ。
「シュコー……シュコー……」
口からはマスク越しに息を吸って吐く独特の呼吸音が洩れている。
少年は極度の興奮状態になっており、冷静な判断が出来ていない。
さらに思考は“血”を欲していた。真っ赤な血を――全身に潤わしたいほどに。
後一歩、剣龍帝とアステリアが出遅れていたらそのまま殺し合いが始まっていただろう。
「シュコー……シュコー……」
少年は散歩するようなゆっくりとした動作で資料室から出て行った。
己の欲を満たしてくれる獲物を求めて……。
【???(仮名:総帥弟)@誰かの館】
[状態]:極度の興奮状態
[装備]:デスマスク @カノン(紫色の月光)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
(基本):サーチ&ジェノサイド
1: オレノ拳ガ血ヲ求メテイル
最終更新:2009年12月09日 03:01