学校とは、教育のための建物、または学生に対して教育が行われる場所のことである。
本来その学校というものは、生徒達の学び舎であり、それ以外の人物を基本的には受け入れない。
一方で、例えば地震等の災害時の緊急避難場所としても機能するよう設計されてある場合が多い。
その際にはその門を大きく広げ被災者達の一時ではあるが心休まる場所となるだろう。
広い校庭には簡易テントが設営され、体育館は雨風凌げる休憩場となる。勿論これは災害時の場合のみである。

さて、今回の殺し合いゲームであるが、これは一種の災害ではないだろうか。
自身の努力では到底克服できないレベルの不幸は、災害と断定しても問題は無いと誰かは言う。ならばまさしく、己が意思に関係なくこの場に拉致されたと言う事は、災害だ。
身に降りかかった天災が起こってしまった。その結果学校に赴く。ここまではいい、災害から逃げる身なのだから。
だがここでは決定的な差が発生する。

赴いたものを、歓迎するか否か。
この殺し合いでは、殺し合いこそが最大の目的であり、そこには正義や助け合いなど有り得ない。
ディアナ=クララベラ=ラヴァーズは、来訪者を歓迎した。
手厚く、圧倒的に、殺害する歓迎パーティーで以って。



     ◆     ◆     ◆



「ぐ・・・ああああああぁ!」
「きゃああぁ!!」

勢い良く吹き飛ばされ、校舎の壁に激突。その慣性を殺しきれずコンクリートが粉砕する。窓ガラスが割れる。
校庭の中央で戦っていたはずなのに、1撃でここまでの距離を吹き飛ばされ尚衝撃が殺しきれていない事実にジーナとヒメルは驚愕を隠せない。
むしろ、吹き飛ばされずにその場に留まっていたならば、ここまでの勢いを身体で受け止め、構成する肉を吹き飛ばし、バラバラになっていたかもしれない。ゾっとする。

「はぁ・・・ヒメル殿、正直どうでござるか・・・?」
「・・・・・・ここまでの化け物だとは思いませんでした・・・2人掛かりなら倒せないまでも、逃げる隙ぐらいは出来ると思ってた自分が腹立たしいですね」
「ディアナ殿に対抗するには無手では不可能、と?」
「武器があったからどうという話じゃないんですけど、確かに素手は無謀ですね。無いものねだりですケド」
「・・・・でござるな」

肩で息をしながら、それぞれが作ってしまった校舎の穴から入り込む夜風をよそに呟く。
机が散乱する無人の教室から、ゆっくりとこちらに向かってディアナが歩き出すのが見えた。2人が逃げ出せない大きな理由として、純粋なスピードが挙げられる。ここまで距離があってしても、瞬時に回りこまれてしまうのが目に見えている。
それがお互い良く分かっているため、ヒメルとジーナは退却せず、ディアナはゆったりと間合いを詰めていく。

既に交戦し始めてから20分が経過しようとしている。20分もの間、あの化物を相手に持ちこたえる事が出来たのはそれだけ2人の能力が高い事が大きな要因だ。
それでも、常に死と隣り合わせ。油断すれば一瞬でその命は吹き飛ぶ。額には常に銃口を突きつけられている感覚。無論安全装置などはとっくの昔にはずした銃で、引き金に指が掛かっている状態のような、緊張感だけで意識がイカれかねない重圧。
彼女達は時計を見る暇すら無く、戦闘に没頭していた。というよりも"没頭せざるをえない"状況だった。
拳、蹴り、抜き手、手刀――防御、回避、捌き、反撃、無効化。無数のやりとりを命を天秤にかけつつもこなすが、全てディアナには通用しない。届かない。
実際に経過した時間は20分なのだが、ジーナとヒメルは10時間以上対峙させられているような疲労感を一身に感じていた。

「シィルちゃんが逃げ切るまでの時間ぐらいは稼げたみたいですが・・・・」
「・・・・!! 来るでござる!!」

ディアナの姿が消える。次の瞬間にはお互い手を伸ばせば届く距離まで肉薄していた。
咄嗟にバックステップするが後退が前進速度に適う筈も無く、勢い良く拳がヒメルの顔面にめり込まれる――のを机を目の前で盾にすることで緩和。机は文字通り木っ端微塵になったが、それでも拳はヒメルを突き飛ばし廊下へ追いやる。
ジーナが粉々になった机の鉄パイプの部分を空中でキャッチし、擬似的な刀の変わりにしつつそれで突く。ディアナはひらりと回避しジーナに拳をボディに叩き込む。
がふっ、と血反吐を吐きながらジーナは天井に叩き付けられる。ジーナが教室の床に落ちてくる間に廊下へと吹き飛ばされたヒメルへ追い討ちをかけるディアナ。
ヒメルはディアナが来るのは最短距離と予測をつけ、その通りに動いたディアナに対し横っ飛びに攻撃を回避。勢いとともに廊下に風が吹き荒れる。
ヒメルの頬を撫でる風が、不吉を感じさせる。だがそんな事を気にかけている暇は無い。廊下という行動に制約が付きやすい場所ならば、多角的な攻撃よりも一転突破の方が効果的だと踏んだヒメルは、勢いを付けて突撃する。



「■■■君と同じ選択ですか、やはり似てますねぇ」



―――え?
ディアナが何か言った。妙に心地よい発音だった。どうやら人物名らしい。
聞き取れなかったが、その人物と同じ選択をしたというのが何故か嬉しかった。
戦闘中に余計なことを考えてはいけないと思考をスイッチする。でも無意識下に先ほどの名前が頭に響く。なんでだろう。

拳が空を切る。ディアナの着ていた白いコートがふわりと舞い、ディアナが拳を紙一重で回避したことを物語る。
勢いのまま後ろから蹴り飛ばされるが、前進する速度がかなりの物だったため衝撃自体は大したことは無かった。廊下を何メートルも転がる。
全体重をかけ、全精神をかけた一点突破ため、体勢を立て直すのが遅い。なんとか床とキスした状態から立ち上がらねば。
身体が地面から離れてくれない。ひんやりしたタイルが妬ましい。ここにきて、自分が限界にきていることをヒメルは感じていた。ジーナも恐らく瀕死状態だろう。
再び夜風が廊下を通り、ヒメルの髪を靡(なび)かせた。

どこからか、血のにおい。
自分の鼻血かと思ったけれど、そうじゃないようだ。
じゃあ一体何処から? 顔を上げるとそこには男の死体があった。
墓標となるように槍が地面に突き立てられている。 コートが脱がされている・・・というより自分で脱いだのだろうか。
あれ? なんでこの人が普段コートを着ているなんて私は知っているんだ?
振り向くとそのコートを着た人物がいる。なんでディアナさんがこの人のコートを着ているんだ?
先刻ディアナさんが言ってた■■■って目の前にいる男の人の名前じゃないか?
誰だ。良く見ると首輪をしている。じゃあ参加者で、同じ立場の人間だろう。同じ立場?
いやいや、この人は私を導いてくれる人なんだから、対等じゃないだろう。
そう、私を騎士へと導いてくれる”ハズ”だった人。

ああ。
どうして私はこの人の事を忘れてしまっていたのだろう。
喉の奥がからこの人の名前が出そうだ。なのに、喉がカラカラになりへばりついて上手く発音できない。
でも、言わなきゃ。この人がここに居た証を。そして引き継がなくちゃいけないんだ。私が騎士として。

「リット・・・・さん」
「ちょっと前に殺しちゃいました、ゴメンネ☆」

悪びれた様子も無くディアナは言う。
ぞわり。何かがヒメルの背中を駆け抜けた。怒りか、それとも哀しみか。いや、力の無い自分に対しての怒りだった。
なんと力の無いとは愚かな事か。目の前のリッター=シュナイドも力が無いから殺されたのだろう。ヒメルが窮地に立たされているのも力が無いせいだ。

ああ。
どうしてこの人はいつも私を置いていくのだろう。
悲しみで身体が押しつぶされそうだ。もう言葉を交わすことも肩を並べる事も無くなってしまった。
悲劇のヒロインならば叫ぶだろう。泣き叫びながら己の不幸を呪うだろう。

「でも、それが許されないのが騎士なんですよね」
「・・・?」

――ならば。

墓標となっていた大きな槍を引き抜く。ごめんなさいリットさん、少し借ります。

――力が無いものはどうしているのか。

構える。目の前の敵、最強の碧に向かって。

――決まっている。力を合わせるに決まっている!!

ねぇ、"兄さん"。私、貴方の姓を貰えるって聞いて嬉しかったんだよ。もう果たせない約束かもしれないから、私の心に刻ませて。

――力を、貸して!!


「ヒメル改め―――

 Vulneris draco equitis・basii virginis ヒメル=シュナイド! 参る!!」


もう満身創痍なんかじゃない。ゆらりと立ち上がった彼女は槍を構え、声と共に全身を叱咤。
勇猛邁進。その名の通りに突き進む。
勇神を駆り深夜の廊下を神速で駆け抜ける。
今まで余裕一貫だったディアナの目が見開かれる。
気迫が違うだけでない。武器が合わさったことでヒメル本来の力が引き出されている。鼻であしらえるような代物じゃない。
ここでディアナは初めて身構える。今まで棒立ちだった事も驚かれるが、ヒメルを身構えるに値する敵と断定したのだろう。軽く腰を落とし、しっかり相手を見据える。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

拳と違い、槍は後ろに持った手の握りひとつで軌道を変えることが出来るため、生半可な回避では避け切れない。この狭い廊下ならば尚更。
リットの時同様に指先だけで止める事など不可能。だが、勢いはつけど同じ武器ならば両の手で受け止められぬ道理は無い。
刹那。
槍の先端とディアナの手が接触し、交錯する。
火花が散り、ガリガリガリと凄まじい音を奏でる。
完全に受け止められたがそれでも進むことは止めない。ここで諦めてなるものか。
名前を受け継ぎ、武器も受け継ぎ、騎士としての心が貫けずに何が隊長だ。
叫ぶ。足に力を込める。両者の足元のタイルが削げ落ち、ヒビが生まれ亀裂となる。
だが、一手届かない。どうしようもなく、厚い壁。突撃による推進力は既に失った。ギリギリと拮抗する。

「・・・ひ、ヒメル殿、援護いたす!」

ここでジーナの持つ白騎と夜皇が銃弾を飛ばす。無論ディアナに向かってだが、そもそも狙いを付けても当たらない事はジーナ自身が良く分かっている。だからこそ、牽制。少しでも集中力を割けさせればそれでいい。ジーナは先程のボディブローで深刻なダメージを受けていたため、駆け出すことは愚か、未だ床に突っ伏して気力で意識を繋ぎ止めているに過ぎない。碌な援護が出来ないとは思っていたが、自らの武器が銃であることが幸いした。
一瞬だが、ディアナが銃弾に目を奪われた。だが拮抗した状態から脱する事は叶わず。

届け。
届け!
届け!!!

「届けぇええぇええええぇえええッッ!!」

ヒメルが持つ勇神の柄。アンチビームコート付き飾り布が輝く。
ジーナの拳銃から放たれた銃弾が飾り布に接触したのだ。
彼女の持つ銃は、クロードの白騎と夜皇。形状は一昔前に流行ったボンバーマンキャラクターをモチーフにしたビーダマン。射出される弾は実弾(ビー玉)だが、これに"意思"の力を上乗せした螺旋力が付随し威力が底上げされている。
コーティングされた緑色のオーラに反応した勇神の飾り布は、それを無効化せんと発光する。この武装の特性は、猪突猛進にして周囲を見ないレイチェルの防御壁としてのビーム兵器無効化処置だ。つまり、今回のように回りからの横槍を気にせずに突撃出来る効果を持つのである。

そう、無効化。本来なら銃弾を落としてそれで終わりだったはずだろう。
"純粋なビーム兵器"だったならば。
ジーナの放ったオーラをビーム属性として飾り布が反応したのなら、"残りのビー玉は一体どうしたのだろうか"。
許容量以上のエネルギーに対処したビームコートは、役目を果たして燃え尽きる。そこに加速した物体が接触し―――爆ぜた。

飾り布は発光し、爆発し、推進力と化した。
この灰楼ロワイアルでは能力は最初に触れた人間のみにしか適応されない。勇神はリットの所有物だったため、ヒメルがそれを使ったとしても特性が発動することは無いハズだ。
しかしあろうことか、流星のように光り輝く飾り布がそれを否定し、発動している様を闇の廊下を照らす事で表している。

リットが死んで間も無いからだろうか。
リットの血液が柄に付着していたためだろうか。
ヒメルがシュナイドと名乗りリットに近づいたからだろうか。
彼女の力が欲しいという思いが叶ったからだろうか。
純粋に灰楼のプログラムミスなのだろうか。

答えは分からない。だが、ヒメルに課程などを考える必要は無い。
爆発的な推進力は、まるで背中を誰かが押しているような感覚に似ていた。その勢いは留まる事を知らず、ディアナが握り締めていた槍の先端部分へと伝わり、彼女は目を見開く。


次の瞬間。
廊下には、ぐらりと頭から血を噴出しながら倒れるディアナと、彼女から後方5メートルで立ち止まるヒメルがいた。


「一本―――取らせていただきました」


全力を出し切り、力を全て使い果たした。最早満身創痍。だが、心は満たされたまま。
ヒメルは、倒れて気絶した。


     ◆     ◆     ◆



「や、やったでござる・・・」

気絶したヒメルを心配しながらも、最大にして最強の敵を撃破できた事に安堵するジーナ。
直ぐにヒメルを介抱してやりたいが、ジーナも身体中がボロボロである。いたるところから打撲の跡や血が見受けられ、骨の1本や2本は折れているだろう。

「・・・拙者も暫く動けないでござるな」

やれやれ、と溜息を付く。
目の前の廊下はヒメルが通過した部分はタイルが全て剥がれ、外壁も見事にヘコんでいる。
ソレほどまでに凄まじい推進力を頭に受けたディアナは恐らく即死。台風のような突進に巻き込まれなかった事に今更ながらジーナは頬に汗を垂らした。
そこに、とてとてという足音。
一瞬敵かと身構えるジーナだったが、ひょっこり現れたネコミミに胸を撫で下ろす。

「シ、シィル殿か・・・」
「だ、大丈夫ッスか!」
「シィル殿・・・逃げたんじゃなかったでござるか?」
「いや、近くの民家で隠れてたッス。双眼鏡が置いてあったから窓から見てたッス。他にも雑貨が色々あったから調達してきたッスよ」
「そうでござったか。・・・済まぬがヒメル殿を介抱してくれぬか」
「お安い御用――――――」


「やれやれ、油断しましたね。いや、油断というよりも私の"覚悟"を一瞬でも上回ったということでしょうか。
 命を賭した攻撃というのはやはり範疇に留まらないというか。ほら見てくださいよ、頭から血が出ちゃってますよ。女は顔が命なんですから、ね☆」


ディアナがふらりと、立ち上がっていた。
ジーナとシィルは驚愕する。
馬鹿な。ヒメルが正真正銘、全身全霊、正面突破した結果、信じられない爆発力を見せた一撃が生まれたのだぞ。
こんな、キャッチボールでエラーしてしまったみたいな顔でこちらを見て笑っている、だと? ふざけるな。
ダメだ、力が入らない。倒れているヒメルだけでも、庇わなくては―――。


「獲物も1人増えたみたいですし。それじゃあ纏めてあの世行き――ですねッッ!」
「で、『デンダイン領域(フィールド)』ッッ!! ボク以外全部止まれぇえぇえッッ!!!」


ピタリ。今まで舞っていた埃も、シィルが叫んで飛んだ唾も、ジーナが倒れながら流した汗も、既に一瞬でジーナの真後ろに回り込んで首を捻ろうとしたディアナも止まった。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・『デンダイン領域』――今描かれた魔法陣を中心に5メートルはボクの世界ッス。発動したら解除するまでボクがルールッス」

ギリギリ廊下で倒れているヒメルまで入った魔法領域。デンダイン領域は、魔力の無いシィルを蝕みながらも発動した。
領域内ならば『ディアナは死ね』と思っただけで彼女の息の根を止める事が出来る。だがしかし、領域を解除した瞬間にそれが"無かった事"にされてしまうため結局は同じ事なのだ。

「つまるところ――時間稼ぎですか、下らない」
「その通りッス。この領域が解除されればディアナさんは自由になる。だから打てる手は―――今打っておくッス」
「・・・?」
「し、シィル殿・・・?」
「『ジーナ・ヒメル両者の凍結を解除』ッス」

これでこの場ではディアナを除いて全員が動く事が出来るようになった。だが、ジーナは瀕死、ヒメルにいたっては気絶していて起きる気配も無い。
一体どうしようというのか、というジーナの疑問を他所に、このゲーム最初――対ヒメル戦にて召喚されたクマが光と共に出現する。

「斜め45度に風穴よろしくッス」
「グルアァアァアーッ!!」

咆哮と共に、教室の黒板が剥がされ、校庭へと続く壁を粉砕した。夜空に広がる星が見える。月も右手に顔を覗かせている所から察するに、どうやら南の方向のようだ。
この命令をした当人のシィルは、ヒメルに何かリュックのような物を背負わせている。それが完了すると今度はジーナに取り付ける。

「シィル殿、これは一体・・・」
「防災用パラシュートッス。逃げ込んだ先が探検家みたいな趣味の人の家だったみたいで、色々あったんで拝借してきたッスよ」
「というか、何をするつもりでござるか?」
「・・・・」

沈黙。しかし手先はそのまま動き続け、パラシュートが装着された。高度と落下速度から自動で開くタイプのパラシュートだ。
次にディアナをキッと睨んだ。

「このままじゃ全滅ッス。だから、ボクが2人を逃がして足止めするッス。最初に2人に助けられた・・・ボクの恩返しッスね」
「ッッ! まさかシィル殿!!?」
「クマさん、『射出準備』ッス」
「くッ、離せ、離すでござる!」

クマに持ち上げられるヒメルとジーナ。恐らく投擲目標は先程空いた、校庭へと続く夜空。
そう、シィルはいざという時のプランを既に考えていたのだ。自分が足止めをし、2人を逃がす、領域の使い方。
領域から出てしまうと、強制的に魔法が解除されてしまうため、シィルはそこに留まる必要がある。だから、2人しか逃げられない。
そして恐らくディアナの脚力なら一瞬で射出速度を上回るスピードで落下地点まで回りこむだろう。シィルがまさに足止めを行う必要があった。

「ジーナさん、ヒメルさんをヨロシクッス。あと、カティ様達に会ったらよろしく伝えて欲しいッス」
「自分の口で言えばいいでござろう! 諦めるには早いでござる!!」
「・・・諦めたんじゃないッスよ。託したッス」
「シィル殿!」
「・・・クマさん、『射出』ッス」
「グルアァアァアアァアアアアアアアアアアアァーーーッッ!!」

咆哮と共に投げられた。夜空へ一直線に。ジーナが最期に見せた表情は、今にも泣きそうだった。
そんな顔されても困るのに。

「で、私に殺される覚悟があってここまでやるってことですよね」
「・・・そうッス。領域を解除されたら貴方は動けるようになるから、ボクに為す術は無いッスよ」
「そうですか」
「逆に言えば領域を解除さえしなければ、ずっと拘束することが出来るッス。2人が無事に逃げ出すぐらいの時間は耐えてみせるッスよ」

最初は数十分と持たなかったが、アレは精神的に参っていたから。弱かったからだ。
だが、今は一本の筋を持って障害と対峙している。命を賭して、まるでヒメルが行ったかのように、全力でディアナを止める。彼女にしか出来ないこと。

「我慢比べッス」

結論から言おう。
彼女が堪えている時間でヒーローが助けに来るでもなく、奇跡の大逆転が起こるでもなく。
3時間もの間、精神をすり減らしながらもディアナを足止めしていたシィルは、ついに力尽きた。
領域が解除され、全身汗まみれになった彼女は、次の瞬間にはディアナに殺された。

小さき海賊の1メンバーの物語はここで潰える事になる。



「よく頑張ったな」
「か、カティ様!? どうしたッスか、こんな所で」
「いや、他人を庇うまでに成長したお前を褒めたくてな」
「そうッスか・・・ありがたいッスね」
「じゃあ行くか」
「はいッス!」


【シィル@T.C UnionRiver 死亡】




【北東 学校/1日目/深夜】

【ディアナ@吼えろ走馬堂】
[状態]:額に裂傷・魔力消費(極小)・疲労(中) ・多少の苛立ち
[装備]:グラム・ガルム@リット
[道具]:支給品一式、コート@リット
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗る
1:ヒメルとジーナを優先的に始末する
2:優勝して願いで『自分以外の全員を元に戻して』もらう
3:センライ達を殺す
4:会場を歩き回り、全員を殺して優勝する
5:罪悪感はあるが表には一切出すことは無い


(備考)
参戦時期不明。
最強の核兵器。 最凶の碧。
首輪盗聴の可能性があると予想。
何らかの方法で観戦していると予想。
主催者に感付かれるような発言はしません。
ヒメルとジーナを警戒しています。



     ◆     ◆     ◆


夜空を旅しながら、ジーナは思う。
自分の力の無さを。刀があれば勝てただろうか。
刀が無い状態を言い訳にしている自分に腹が立つ。

パラシュートのゆりかごに揺らされながら、横のヒメルをちらりと見る。

(あの力は、想いから来るものでござった。そしてあの光は―――)

能力はそれぞれ特徴があるものの、"意志力"や"魔法"、そして"想い"を糧にして発動している。
そこに突破口があるかもしれないとジーナは考えたが、そこで考えを中断する。
そろそろ降下も終わり、丁度民家のベランダへと着地できそうだ。ヒメルを介抱してやらねば。
自身も満身創痍だが、死力を振り絞ってでもヒメルの命は繋げねばとジーナは決意していた。




【東 学校の南 民家3階/1日目/深夜】

【ヒメル=シュナイド@Vulneris draco equitis・basii virginis】
[状態]:顔面出血(鼻血)・疲労(極大)・全身打撲・精神疲労(大)・気絶
[装備]:勇神@T.C UnionRiver(レイチェル)  & 騎士甲冑
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:弱者を護る、ゲームには乗らない
1:ディアナさんに・・・勝った・・・!
2:兄さん・・・
3:殺し合いに乗った人間の無力化
4:弱者の保護をする
5:仲間と合流したい
6:首輪の解除・ゲームからの脱出案を練る


(備考)
参戦時期:『BRAVE DRAGON』後、『Get Your NAME』前
ヒメルからヒメル=シュナイドと名乗る事にしました。
装備は小道具系統。能力は取得済みだが不明。
勇神を装備しました。今回何故能力が発動したかは不明。飾り布は半分で千切れています。
今後能力が発動するかも不明です。後の書き手に任せます。


【ジーナ@T.C UnionRiver】
[状態]:刀不所持による不安・顎損傷・吐血(大)・疲労(極大)・全身打撲・腹部内蔵損傷
[装備]:白騎(びゃっき)・夜皇(やこう)@T.C UnionRiver(クロード)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:ヒメルを介抱する。回復し切るまで民家に隠れる
2:刀を探す
3:姉妹達との合流
4:他人と接触し、情報を集める
5:主催者に天誅!
6:・・・もう手合わせとか言ってる場合じゃ無いでござるな
7:シィル殿・・・
8:ディアナを警戒
9:己の無力さに後悔

(備考)
それぞれの能力について疑問。
ヒメルが他の人間に割り当てられた能力を使えた事から、何かそれが突破口になるのではと考えているが根拠が希薄。


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最終更新:2009年12月28日 23:05