「・・・・・遠いな、オイ」
銀色の髪をした少年、アージェントは開始地点から見えた建物を目指して歩いていた。
西と東に見えた2つの建物・・・・彼は東に見えた建物に向かって進んでいた。
距離で言えば明らかに西の建物の方が近いハズだった。
それにもかかわらず、彼は距離のある東の建物を選んだ。理由としては、2つ。
一つは『暗い森の中を独りで進むのは危険』と判断したため。
樹の上から見た光景と、支給品の地図を見て、東に進んだ方がすぐに森を抜けられる。
そして、森を抜ければ住宅地。誰かに遭遇する機会がきっとあると思ったからだった。
「まぁ、その分『ゲームに乗ってるヤツら』に出会う可能性も否定できなくは無いけどな」
きっと、こうしてる間にもどこかで誰かが戦い、命を落としているのだろう。
自分の元々持っていた能力が誰かの命を奪っている可能性もある。
知り合いが死んでいるかもしれない。想い人が・・・・・・
「いや、参加してるとは限らないんだ・・・・・落ち着け、落ち着け、俺」
自分の考えがどんどん最悪の方向に進んでいることを自覚しながらも、それを否定した。
その割りに彼の歩調がどんどん速くなっているのは変に動揺しているからか、
自分が思いの外、気が弱いんじゃないかと思考している間に、森を抜けていた。
「さて、そんじゃま、目的地に向かうとするか・・・・・・ッ?!」
弩ッ!!
アージェントが一歩を踏み出そうとしたとき、目の前を何かが高速で通り過ぎていった。
そしてそれが金属棒だったというのは、すぐそばの壁を見ればすぐにわかった。
「やっぱり狙いをつけてもダメね・・・・全然思ったとおりに行かないわね」
「!?」
声の方を振り返ると、住宅の屋根の上に黒いマントを身に着けた女が立っていた。
手には弓。どちらかというとアーチェリーで使う物に近いそれを持っている。
―――――――――――――――――――――――――
「いたた・・・・なんなのよ、もう・・・・」
女は、自分が寝ていた(寝かされていた?)ベッドから落ちた様子で、呻いた。
どうやら寝返りをうった拍子に落ちたらしい。こんな状況でよく寝ていられたものだ、と内心思う。
その女は黒い衣服に黒いマントという出で立ちで、髪で左目が隠れていた。
エリニュース・レブナント。侵略を企む組織、『クォ・ヴァディス』の一員。
本来は『アムンゼン』と呼ばれる形態になる事が可能だが、今は無理だった。
「全く・・・・バイトしてる途中で突然気を失って、気付いたら殺し合い?一体なんなの・・・・」
先程も同じようなことを呟いていたが、彼女の思考能力はかなり低下していた。なぜなら・・・・
きゅるるるる・・・・
「・・・・・うぅ。」
彼女はここ数日間、ほとんど何も口にしていなかった。貧乏だから。
そしてふと、近くの棚にデイパックが置いてあることに気付き、中を確認した。
「こ、これは・・・・・」
支給品の中には食料が入っていた。袋に入った味の無いパン。しかし、食べ物。
数日間空腹状態の彼女にとっては十分過ぎる食べ物だった。
袋に手をかけるのは一瞬だった。そして、開けてから口に運ぶまではさらに早かった。そして・・・・
「・・・・あ。」
少しだけ、少しだけなら。そう思いながら食べ進めるうちに、全てを平らげてしまっていた。
男性にして二日分の食料。それを完食してしまうほど、彼女は空腹だった。
しかし、そのおかげで思考能力が徐々に回復してきた。
「過ぎてしまった事は仕方ないわね・・・・・でも、考えてみればチャンスじゃない・・・?」
あの『会場』で、金髪の女が言っていた。『優勝者には特別に、どんな願いでも叶えさせてやろうじゃあないか!』
つまり、『侵略』も叶えられる、という事だろう。
自分の組織にとって最大の利益になりうるであろうこのチャンス、活かさない手は無い。
それにはまず、このゲームに勝ち残る事そしてその為の自分の武器を確認しなくてはいけない。
しかし、デイパックの中にそれらしきものは入っていなかった。その代わり、1枚の紙。
「『速射遠弓 サトゥルヌス』・・・・・?」
それは、奇しくも本来の自分の武器と同じ名前の、そして、自分が嫌うとある女の、武器。
彼女本来の武器は大鎌であり、少々分の悪い武器かもしれない。さらに、能力も特に無いようだ。
幸い、射出する矢(と言ってもただの金属棒)が10本ほど用意されていたため、それを使って
エリニュースは屋内にもかかわらず、長い廊下で試射する事にした。しかし・・・
「狙ったところにまっすぐ飛ばないじゃない・・・・欠陥品・・・・」
落胆したまま、彼女は武器を睨んだ。
この弓自体は俗に言うレールガンの要領で矢を射出する物である。
しかし、武器自体の欠点として、『射出時に弓自体がブレる』と言う最大の欠点があった。
"今現在は"『誘導速射遠弓』へと修正されているが、これはそれ以前のサトゥルヌスのようである。
だが、これはまた別の話。
「落ち込んでも仕方ないわね・・・・当たらなくても牽制くらいにはなるでしょうし・・・・」
いざとなれば弓本体で殴ればいい。金属製だ。普通の人間相手なら撲殺くらいはできるだろう。
その欠陥品を手にしたまま、彼女はその家から出て行った。
―――――――――――――――――――――――――
二人は対峙していた。屋根の上と、路上とで。
アージェントの本来の戦闘手段は魔法による風の発生・自分への追い風。そして拳による打撃。
能力を奪われている今、その方法は使えない。よってこの状況は明らかに彼に不利だった。
彼女の武器は弓。狙った場所に飛ばなくとも飛び道具。距離があればアドバンテージ。
だが、彼は馬鹿だった。すこぶる程に、馬鹿だった。
「出来れば乗ってる参加者に会いたくは無かったんだけどな・・・・やってやるよ」
アージェントは片手に持っていた鞘から刀を抜いた。
『黒血刀 月之焔』――姉であるアスフェルレイトの刀。
彼自身、剣の心得は無くは無い。姉に劣る、その一点を理由に、彼は剣を使うことを避けていた。
その彼が、姉の刀で戦うと言うのはどれほど自分にとって苦痛だろうか。
「あら?これだけの距離、高さの違いがあるのに弓に対して剣で挑む気?」
「あぁ、距離だの高さだの俺には、関係ないね。」
「随分な余裕じゃない。そんなにいい力でも引き当てたのかしら?」
彼女は余裕を見せながら彼に照準を合わせ、弓に矢を宛がった。
アージェントも余裕を見せながら、両手で持った剣を左に振りかぶった。
「あぁ、最高の能力を・・・・・なッ!!」
「?!」
彼は左に振りかぶった剣をフルスイングした。
エリニュースは何かが来る、そう思い一瞬身構えた。
――が。
「・・・・・・は?」
次の瞬間、その男はその場にいなかった。
辺りを見回すと、遠くの方へと走っていく銀髪男の後姿が見えた。
「逃げ・・・・た・・・・?」
アージェントはフルスイングをした勢いで、ちょうど左バッターが打った後のように、
その場を走り去っていた。距離だの高さだの関係ない――それは、戦う意思が無い事を示していたようだった。
「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!ちょっと!!待ちなさいよおおおおおおおぉぉぉぉ!!」
エリニュースは屋根の上から、辺りに他の参加者がいるかなんて関係なく、叫んだ。
身構えた自分が馬鹿らしく、何やら滑稽に思えたと言うのもあるし、かつ、相手に馬鹿にされた気分である。
「あんなん持ってる相手に、わざわざこんなんで挑む馬鹿がどこにいるよ・・・俺は先を急いでるんだからな・・・」
その場をハッタリで潜り抜ける――そんな事を考えたこの馬鹿は、そんな事を呟きながら市街地を、
目的地である病院に向かって走って行った。
【中央 病院南の住宅街/1日目/深夜~早朝】
【アージェンナイト・クロノクル@INACTIVE OF SAFEHOSE】
[状態]:健康
[装備]:黒血刀 月之焔@アスフェルレイト・クロノクル(INACTIVE OF SAFEHOSE)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本・『殺し合い』と言う催し自体に参加する気持ちは現状無し
1 ・完全な状態の
参加者名簿の確認
2 ・とある男との合流(一方的)
3 ・戦いになったら何とか避ける(ハッタリ使用含む)
4 ・問題解決後の事はまだ何も考えていない
(備考)
参戦時期は灰楼杯終了数ヵ月後。
黒血刀 月之焔
アスフェルレイト・クロノクルの刀。
能力として雷を発生させる事ができるようになる。(魔法)
【中央 病院南の住宅街/1日目/深夜~早朝】
【エリニュース・レブナント@LunaLowe-ルーナレーヴェ-】
[状態]:健康
[装備]:速射遠弓@織夢(INACTIVE OF SEFEHOUSE)
[道具]:支給品一式(食料以外)
[思考・状況]
基本・ゲームに勝ち残り、『侵略』を叶える
1 ・見かけた相手にまずは弓を飛ばす。当たれば儲けモノ
2 ・食料の確保
3 ・最初に遭遇した相手に逃げられて、ご立腹
(備考)
参戦時期は灰楼杯終了後、貧乏生活時
最終更新:2009年12月28日 23:12