(有り得ぬ・・・!これは、何の間違いだ!?)
黒が強い茶髪の少女、シュヴァルツは目の前で起こっている事態をまだ飲み込めないでいた。
恐怖に体が震える。背中の傷が熱い。そして、周りの空気も・・・熱い。
「ははっ、こりゃいいや。随分とイイ能力だな。」
シュヴァルツと対峙する男・・・白髪のその男は、紫色の炎を身に纏い、その手に持つ剣の切っ先をシュヴァルツへと向けていた。
◆ ◆ ◆
「はぁ・・・はぁ・・・ぐっ・・・うぅ・・・!」
時刻は深夜3時半。
背中から走る痛みをこらえつつ、シュヴァルツは建物へと寄りかかり、呼吸を整えていた。
あの大鎌を持った少女と自分の間に、あの男が乱入して、その隙をついて逃げ出したシュヴァルツだったが、ここにきて傷の痛みに耐えられなくなってきた。
(再生能力がないというのも、厄介だな・・・最も、我自身の傷は前から癒せなかったが・・・)
荒い呼吸を落ちつけるべく、目を閉じて深呼吸する。
そんなとき、頭に浮かんだのは、自らの主、如月 和輝、神堂 美咲、そして愛する彼の姿だった。
(ふ・・・我としたことが・・・走馬灯とはこの事か・・・)
意識が遠のく。傷の痛みもどんどん薄れてきた。決して傷が癒えているわけではない。感覚が消えてきているだけ。
(せめて死ぬときは・・・あいつの胸の中が・・・よかったのだがなぁ・・・)
そんなことを想っている時だった。手に握りしめていた自らの支給品。携帯電話が振動しはじめた。
着信というわけではない。だが、何かに反応しているようだった。
この携帯電話に付加されていた能力を思い出す。その能力は
「テレポート・・・!?」
直後、その場から、シュヴァルツの姿は消え去った。
◆ ◆ ◆
同時刻、ゲイザーは学校を目指して歩いていた。
自らの武器、手甲のテストをする為、出来る限り交戦したかった彼だが、不運にも、あの風を使う男以来誰とも遭遇できていなかった。
(あえて中心を避けると思ったんだが、読みが外れちまったようだな。)
時間にして2時間。随分と歩いたが、誰にも出会わない。
途中、物凄い音と共にロボットが見えたが。あの時、迷わずそちらへ向かえばよかったか。
などと後悔しつつも、ゲイザーは学校へと向かっていた。
その学校では現在、ディアナがデンダイン領域によって足止めを食らっている最中なのだが、勿論彼にそのことを知る由もない。
そんな時
「・・ぁぁぁぁぁぁ・・・」
どこからか声が聞こえたような気がした。
辺りを見渡す。だが姿はどこにも見えない。
気のせいか?
そう油断した直後だった。
ゴンッ
という鈍い音と共に後頭部に痛みが走る。ゲイザーの後頭部を直撃したものの正体。それは飛び道具でも何でもなく、空から降ってきたシュヴァルツのかかとだった。
辺りを見回しても見あたらないはずである。あの声の主は、上にいたのだから。
「いたた・・・まさかテレポートが発動するとは・・・だが、我の思いに反応したのならば・・・!!」
空中落下かかと落としという荒業を決めた少女、シュヴァルツは嬉々とした表情でゲイザーの顔を見た。
想いに反応したのならば、和輝か美咲の傍にテレポートした筈だと。
「って誰だおぬしはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
理想と現実のギャップに傷の痛みなど忘れて大声でつっこむ。仕方ない。そこには見知らぬ顔の男がいたのだから。
否、見知らぬ男・・・という訳では無かった。
「おぬしは、先ほどの・・・!?い、いや違う、髪の色が・・・」
「・・・テメェ・・・やってくれるじゃねぇかよ・・・!!」
ゲイザーの手甲から、雷が迸る。突然後頭部にかかと落としをかまされたのだ。普通は怒る。つーか普通は倒れる。
雷をシュヴァルツに向けて放つ。だが後頭部に一撃を入れられたせいか視界が揺らぎ、雷はシュヴァルツには当たらなかった。
「その手甲で雷。02のものか!」
武器と能力に見覚えのあったシュヴァルツは、急いでゲイザーと距離を取る。至近距離で雷を打たれては避けようがないからだ。
事実、後頭部にいい一撃を貰ってしまっているゲイザーには、遠距離攻撃を的中させるのはかなり困難だ。
そして、それはゲイザー本人も承知の上。では次の戦法はどうする。接近戦?それとも一旦退く?
だがゲイザーの取った行動は、そのどちらでも無かった。
「・・・仕方ねぇなぁ、この能力も知ってるみたいだし。」
ゲイザーはそう呟くと、右手を背中へと回した。そして何かを掴み、それをシュヴァルツへと向けた。
「こいつの力を・・・試してやるぜ。」
直後、ゲイザーの体を、紫色の炎が包んだ。
◆ ◆ ◆
同刻、トーイは森の上空を飛んでいた。
美咲の武器がアレで、カノンも素手当然のため、トーイが空から偵察しているのである。
もっと高く飛べば森全体を見回す事も出来るのだろうが、トーイは木より少し高く飛ぶ程度の低空飛行を続けていた。
(ま、美咲たちの周辺を見回せれば十分ある。)
そんな理由をつけて、低空飛行を続ける。トーイは何故だか、高く飛ぼうという気になれなかった。
とはいえ、生い茂る木々が邪魔で見通しは悪いのだが。それでも、やらないよりはマシである。
(とりあえず、近くに人影は見当たらなそうある。いったん戻って・・・ん?)
美咲とカノンの元に戻ろうとしたとき、トーイの眼にあるものが映った。
「あ、トーイ。どうだった?」
ナワノツメに座り休憩していた美咲が、戻ってきたトーイに駆け寄る。無論、ナワノツメ置きっぱ。しょうがない。重いもん。
「人影は見当たらないある。ただ、面白いモノ見つけたあるよ。」
『面白いもの?』
「目的地のエリア中央部から少し離れるけど、そこまで遠くないある。行ってみるあるか?」
美咲とカノンは一度顔を見合わせて、トーイの言葉に頷いた。
面白いものって何だろう?
その好奇心に、二人は逆らえなかったのだ。
「これ・・・剣?なんか一杯あるけど。」
トーイに連れられた先には、数えて6本もの剣が落ちていた。とくに特徴のある形では無い、極一般的な剣が6本。
ゲーム開始直後、リースが10本の内から選ばなかった「六行」である。
『これって、持っていっても大丈夫なんでしょうか?』
カノンがメモ帳へとペンを走らせる。確かに、今この一行にはまともに戦える武器というものが存在しない。
ナワノツメは重量ゆえ満足に振るえず、トーイも武器が重く捨ててきている。カノンに至ってはもう武器ですらない。
そんな彼らに、ただの剣とは言え普通に使える武器が手に入るというのはまさしく僥倖。
「問題無いでしょ、捨ててあるんだし。それじゃあ、早速貰って」
「ちょっと待つアル。」
武器を手に取ろうとする美咲を止めたのは、トーイだった。
「どうしたのよトーイ。折角だし、使わせてもらいましょうよ。それとも、何か問題でもあるの?」
「連れて来ておいてなんだけど、一つだけ気になっていることがあるネ。」
トーイが気になっていたこと。それは、前にセリナの死体の傍にあった、時計が消えた事だった。
「持ち主が死ぬと時間差で消えるのか、具現化系の能力だったかはわからないある。けれど、前者の可能性がある以上そこらへんの武器持つのは危険ある。」
『戦闘中に突然消えられたらお終いですもんね。』
カノンの言うとおり、誰の持ち主かわからない以上、前者の場合いつ消えても不思議じゃない。それはかなりのリスクになる。
しかしそうだと仮定すると、持ち主とはどのようにして決められるのかという問題も浮上してくる。
「初めにナワノツメ持った時、頭の中に直接使い方とか能力の情報が入ってきたんだけど・・・その時とか?」
「それか、開始時点で決まってるかあるね。前者の場合だと、下手するとかなり危険な人物が生まれることになるある。」
『危険な人物?』
かなり確率は低いだろう。しかし、持ち主を決めるのが、『手に取った時』というのならば、あり得ない話ではない。
つまりだ
「手に取る前に殺されて、本来の支給品を殺した相手が使うって事ネ。」
現に、カノンは二人に出会うまで支給品の確認をしていなかった。同じように、支給品を確認する前に殺される人がいてもおかしくないのである。
例えば、開始直後に不意を突かれて殺された人間とか。
◆ ◆ ◆
そして、話は冒頭に戻る。
ゲイザーがシュヴァルツに向けているのは紫色の片手剣【ディブレード】。付加されている能力は、【紫炎の発生】と、もうひとつ。
ゲイザーの姿がシュヴァルツの視界から消える。直後、背中と腹部に痛みが走る。
眼をやると、自分の体から、一本の剣が突出しているのだ。血に濡れてよく分からないが、先ほどまでゲイザーの持っていた剣に見える。
「こいつぁいい。これなら、あの野郎をぶっ殺せる・・・!!」
後ろから声が聞こえる。声の主は間違いなく先ほどまで前方にいたゲイザー。一瞬でゲイザーは、シュヴァルツの背後まで移動したのだ。
これがディブレードに付加されたもう一つの能力。【シフトドライブ】。ようは瞬間移動である。
勿論、色々な制限はあるが、簡潔にいえばそうである。
元々、この武器が支給されていたのはトリガーだった。しかし、トリガーは支給品の確認の前にガレットに出会い、そしてゲイザーに殺された。
その際、ゲイザーが武器を回収していたのである。
(一人の人間に二つの支給品・・・化け物・か・・・主・・・美咲・・・頼む、無事で・・・)
薄れゆく意識の中、シュヴァルツは和輝と美咲の無事を祈りながら、紫炎に焼かれていった。
【シュヴァルツ@希望と絶望の協奏曲 死亡】
【学校付近森/1日目/深夜】
【ゲイザー@紫色の月光】
[状態]:後頭部にダメージ
[装備]:手甲(翔也@キボゼツ)、ディブレード(斎@ガタ荘)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:ゲームに乗り、支給品の力をテストしつつカイト抹殺
1、ディブレード解禁。シュヴァルツを殺害。
2、カイト最優先
3、参加者を見つけたら支給品のテスト名目で殺す
【シフトドライブ】
瞬間移動。可能範囲は半径10m内で視覚できている場所。
詳しくはガタ荘参照。
【南東 山中/1日目/深夜】
【神堂 美咲@希望と絶望の協奏曲】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ナワノツメ@吼えろ走馬堂(リメイカー)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:仲間を集めてゲームを破壊、あるいは脱出する
1:この重いのをなんとかしたい
2:和輝との接触
3:トーイと共に他の参加者と接触する
4:危害が加わるようならば対抗して戦う意思あり
5:カノンをやや警戒
【トーイ@誰かの館】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:無し(地図と名簿はHDに書き込んであります)
[思考・状況]
基本:仲間を集めてゲームを破壊、あるいは脱出する
1:美咲とカノンと共に安全そうな参加者に接触
2:首輪の解除をする
3:ケーブルを奪還。無ければ代用品を探す
4:エリア中心部へ向かう
5:アカルに対して警戒しながらも接触したい
6:リースという名に対して警戒
【カノン@紫色の月光】
[状態]:顔面に痣
[装備]:黄色いリボン@理由のない日記(剣龍帝) *まだ装備していないので能力は把握していません
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:仲間を集めてゲームを破壊、あるいは脱出する
1:トーイと美咲と共に参加者への接触を図る
2:身内(カイト、ガレッド、トリガー、メシア)との接触
3:出来ればマスクを回収したい
4:黄色いリボン以外に支給品が無いかやや現実逃避気味
備考:六行を発見しましたが、まだ持っていくかは決めていません。
最終更新:2010年01月03日 23:00