「・・・迷ってなんか無いぞ」
ヨミは迷子になっていた。本人は否定しているが、"迷っている"子供なのだから、迷子以外の何者でも無い。
ゲーム開始からかなりの時間をかけて山中をうろうろしている。
唯一の救いは、ヒメルのヴァルグラウズを持ち歩いているため、ゲームに乗った人間に会うほど活発な動きが出来なかった事だろうか。
逆に言えば、ヨミの目的とするヒメルへの接触も果たしにくくなる訳なのだが、結果として1人で長時間山中を移動する事となっていた。
最初に目標としていた雷は、残像をヨミの瞼に落としながらも、既に消えてしまっている。
一瞬見えただけの目標点にひたすら進んで行こうにも、夜中で山道である事、さらに自分の身体には不釣合いな武器のせいで、目的の場所にたどり着く事は出来なかった。
ヨミにとっては無意識ではあるが、身体は山を下る道を選んでいるようだ。
というのも、剣を持ったまま山を登るのは彼女自身の体力が許してはくれなかっただけなのだが。ともあれ、ずるずると山道を下る事になっているヨミ。
「迷ってなんか無いぞ」
はいはい。
●
(ゲーム開始から2時間経ってから戦闘。そしてまた2時間。誰もココには気付かない)
アカルは黙して図書館の隣にある民家に留まっていた。
リースの戦闘から約30分ほど経過すると、遠くから地響きが聞こえた。
正体は分からないが、それを調べに行く気にはならなかった。人が密集している場所に行く気にはならない。
まとめて始末できれば良いが、返り討ちにされては困る。
先程の戦闘で失った体力を回復させるべく、周囲を警戒しつつも待機していた彼女は、今後の方針を考え直す。
優勝するためには。
私、セト=アカル以外の人物を全て排除しなくてはならない。
だがそれをするのは私本人でなくとも構わない。殺し合いが加速するその輪から外れ、最後に1人を殺せばそれで優勝だ。
論理的に考えれば、それが一番楽な道筋だ。
おそらく対主催者の意を持つ正義感溢れる人間もこの会場にはいるだろう。ならば、その正義感を利用すれば少なくとも簡単に味方は増やせる。
リースとの戦闘で分かったが、かなりの戦闘力を有する人間がいるようだ。
幸いにして、彼が殺し合いに乗った"ゲームを促進させる"要因として優秀な人材だったし、その事を早期に知れたのは僥倖だ。
ならば放っておけば、隠れてさえすれば、殺し合いは勝手に集結する。
しかし。
殺し合いゲームで淘汰されていく人間は兎も角、生き残る人間は、てだれが多いだろう。
ならばグループ・・・なるべくお人よしで戦闘能力が高い人間がいい、そういった集団に紛れ込んでおきたい。勿論善良な一般人として。
そして、最後に裏切る。
ここで名簿を開きなおす。
「トーイと蒼龍騎士団、ヨミちゃんに、アステリアさん」
アカルが優勝を狙っていると予測する人物がこの会場にいるとすれば、胸中を知るトーイとアステリアぐらいか。
他の人物はアカルの事を知っていても、深くは詮索しないだろう。なぜなら普段は"ひとあたりはいい"のだから。
役に立つかどうか分からない名簿の名前一覧を頭に叩き込み、少しでも殺し合いを有利になるように努力する。全ては優勝するために。
「リレッドさんを、生き返らせるために・・・」
●
「おおっ、これは芸術だ!」
後ろを向くと自らが歩いてきた道に線が引いてあるでは無いか。
そしてその線はあっちへ行ったりこっちへ行ったり、直線ではなく曲線、交差はせずとも交錯する様をいかんなく示している。
なんということはない、その線はヨミが引きずっていたヴァルグラウズが作り出した芸術であり、単純に彼女の足跡であるだけなのだが。
まさにその足跡を見る限りだと、目的地へ一直線というよりも、時折曲がっている事から、どうみても"迷子"を演出している。
そんなこんなでヨミは山を脱出することができた。
彼女の背後には、くっきりと残った足跡が。誰かに見つかれば、それが何か重いものを持って不自由している様が手に取るように推測されてしまう。
彼女にとって大きな痛手になるのかは、まだ分からない。
だが、時間は刻々と刻まれていく。ヴァルグラウズをヒメルに渡す事も出来ずに。ヒメルがまさに今、満身創痍で戦っていたなどと知らずに。
ヒメルは、トンネルの脇を抜け、このあたりで一番高いホテルを目指す事にした。
高い所から周りを見渡すために。
彼女がホテルにたどり着き、遠くで地響きがしたのを感じたのはそれから10分後。
時刻にして2時40分の事だった。
果たしてこの迷子はヒメルと遭遇することが出来るのだろうか。
「だから迷ってなんかないぞ」
はいはい。
【北西 ホテル/1日目/深夜】
【ヨミ@Vulneris draco equitis・basii virginis】
[状態]:健康・疲労(弱)
[装備]:ヴァルグラウズ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗らず、仲間を集める
1:ホテルの最上階から周りを見渡す
2:ヒメルのヴァルグラウズを返す
3:夢はでっかく世界征服!
【南 図書館横の民家/1日目/深夜】
【瀬戸アカル@誰かの館】
[状態]:健康
[装備]:ウサ耳@アーニャ(T.C UnionRiver)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
(基本):殺し合いに乗り、リレッドを生き返させる
1:対主催者を利用し最後に裏切る
2:首輪を外す
3:リレッドの傍に居たトーイが心配
4:リースを警戒
5:しばらく民家に留まる
(備考)
参戦時期は誰かの館SS2『ただそれだけのために』の直前。
刀は武器に出来ないのでそのまま放置する事にしました。
首輪は伸縮することが分かりましたが、解除の糸口にはなっていません。
最終更新:2010年01月17日 20:54