ゲーム開始から5時間以上が経過。
 そろそろこのバトルロワイヤルが始まってから6時間が経とうとしていた。

(大分日が昇って来たな)

 当初は暗闇で視界が良好ではなかったが、この時間帯からは太陽が出てくる。
 これによって生じてくる『視界の勝手の違い』が少なからずともゲームに関わってくるだろう。
 特に身を隠そうとする者にとっては、だ。
 それは森を移動しながらもその影に隠れつつ進んでいるカイトにも同じ事が言えた。

(震源地はどの辺なんだかな)

 彼の目的は2,3時間ほど前に会場全体を文字通り揺るがせた『振動』のチェックだった。
 あれは地震と言うよりも、何か巨大なものが落ちた、もしくは崩れたという感じがした。

(地図で言えば、この方向の筈だ)

 大凡南西。
 展望台や橋がある方角と見られる。
 中央に居た自分が知覚できる程の振動だったのだ。
 この近辺にいる者が気付かないはずがない。
 それ故に遠回りしながらも隠れつつ移動していたのだが、

(だが、誰とも遭遇しなかったってことは……)

 『振動』の存在はこの近辺にいる者に牽制になっているのかもしれない。
 もしくは『存在そのものを認識し、脅威となる』と感じたか。

(何れにせよ、だ)

 この先脅威になる存在の可能性が高い以上、無視はできない。
 せめて何が起きたのかくらいは目で確認したい。
 各所に散らばっている身内の危機と言うこともある以上、彼は動かずにはいられなかった。

 ○

「…………!」

 崩れ落ちた展望台に真っ先に辿り着いたのはカイトだった。
 少なくとも、彼の視界には他の参加者の姿は見られない。
 しかしこの場で起きたであろう『震源』が何なのかはある程度予想を立てる事が出来た。

(展望台が崩れている)

 脳内に刻み込んでおいた地図の中にある展望台に×マークが刻まれる。
 後で支給された地図そのものにもつけておく必要があるが、その前に気になることはとことん追求しておく。

(問題は展望台で何が起きたのか、だ)

 その場に居なかった者としては、展望台が崩されたという事だけでは震源の『解明』にはならない。
 問題になるのは『誰が』、『何のために』、『どうやって』破壊したのか、だ。
 それが判らないのなら此処に来た意味が無い。

 故に近づいて展望台の成れの果てを調べる必要がある。
 幸いにも他に気配がない。
 調べるなら今がチャンスだ。

 ○

 先ず最初に知りたいことはどうやって展望台が破壊されたのか、だった。
 それがどういった経緯で、誰がやったのかはそこまで大した問題ではない。
 知っておいて損はないという程度の事だ。
 問題はソレを行える『参加者』がいるのかという事だった。

(俺が今まで遭遇した参加者は……)

 エリシャとシュヴァルツの二人。
 だがエリシャの大鎌は単純に手にとって見ても切り裂く為の鎌に見えたし、特別何かとんでもない機能がついている風には思えなかった。
 実際には意思があるのだが、あくまで外面からスペックを見るだけではそこまで見抜くことは出来ないだろう。

(破壊に特化した武器でも使ったか……?)

 可能性が一番高いのはこれだろう。
 自分に渡ったケーブルは殆ど補助仕様の物だが、逆に戦闘特化された武装があるのは容易に想像できる。
 特殊能力なんて代物がつけられているのなら尚更だ。

「…………」

 破壊された展望台の外壁を観察しても、老朽化がそこまで進んでいる訳では無さそうだった。
 寧ろ新品とすら見て取れる。

(まさか、この企画の為にわざわざ立てたってことはねーだろうな……?)

 そんな考えが浮かぶが、直ぐに頭から追い出した。
 何故なら、

(誰か、いる?)

 声が聞こえた。
 その『音質』からして恐らく少女。
 まるで幽霊のようにすすり泣く、太陽が昇る時間には釣り合いがとれない悲しい声が聞こえてくる。

「…………」

 距離は予想以上に近かった。
 瓦礫の壁の向かい側に、『そいつ』はいる。
 気配を感じることは出来なかった。
 否、気配を感じることが出来るはずがなかった。

(もう、生気が殆ど無い)

 半死半生、と言ったところだろうか。
 しくしく、と壊れた人形のように繰り返し泣く元気がある以上、肉体的ではなく精神的に死にかけていると取れるが。

「…………殺せよ」

「……!」

 コチラの存在に気付かれた。
 殆ど距離で言えば近くにいたとはいえ、用心深く動いていたという自負はあった。
 それだけでこの少女は『やりあえる』タイプの参加者だと想定することも出来た。

「私はやりあう気は無い。殺せよ」

 しかし言ってることが解せない。
 いや、それ以前に

(何で俺がコイツの言う事聞かなきゃならんのだ?)

 死にたいなら自分で死ねばいい。
 どんな形であれ他人の言う事をはい、そうですかとは聞きたくない。
 だから興味は沸かなかった。

「『此処』を壊したのは?」

「……私が、やった」

 試しに他の事を聞いてみると、まるで懺悔するかのようにして少女が震えだした。
 その場で蹲り、顔を手で覆ってがたがたと震えだすその光景はある意味とても滑稽に見えたが、同時に危なっかしく見えた。

「なん、で……こんなことに……!」

 少女は酷く自分の行動を後悔しているように見える。
 しかし後悔したところでどうなる?

 後悔すれば戻ってくるのか?
 懺悔をすればその後悔は無くなるのか?
 泣けば何かが許されるのか?
 死ねば『こんな事』が無かったことに出来るのか?

「過ぎた物は戻ってこないよ」

 答えは個人によって変わってくるだろう。
 だが少女の問いかけに答えた青年はそう判断した。

「お前がそこで何時までも蹲っているところで、事実は変わらん。死んだところでも変わるとは思えんが……」

 何処か蔑むように笑ったと同時。
 蹲ったまま動かなかった少女が突然、飛び掛ってきた。

「お前に――――お前なんかに何が判るんだよおおおおおおおおおおおおお!!」

 蹲っていた時に比べたらその表情は激流にも見えた。
 それは此処で何がおきたのかも判らない男に対する怒りのベクトルが起こさせた行動でもある。

「…………」

 しかしカイトは飛び掛ってきた少女の姿を見ても大した驚きを見せずに、その場で突っ立っているだけだった。
 だから避けることはしない。
 上着を思いっきり引っ張られて、そのまま少女の激流に飲まれるだけだ。

「私がもっと上手く感情をコントロールできれば……もっと『強かったら』姉上は死ななくて済んだんだ!」


――――もっと俺が強かったら、皆死なずに済んだんだ!


 目の前で己の激情を訴える少女の姿が、何時かの『誰か』と重なって見えた。
 あれは確か誰だったか――――

(ああ、そっか)

 なんで気付かなかったんだろう。
 大して興味がないくせに自然とこの少女の相手をしてしまった理由は、

(少しだけ俺と同じだからなのかもしれない……ほんの少しだけ)

 何か大切な者を失った時に生じる激動。
 それはもううんざりするほど身に染みている。

「……そうだな。もっと強かったらきっと『そんな事』にはならなかった」

 それは何時かの自分が行き着いた答え。
 しかしだからこそ少女と過去の自分の姿が多少なりとも重なったのだろう。

「慰めのつもりか……お前なんかに私の気持ちが――――」

「判るよ」

 だからこそ即答も出来た。
 話の流れからして彼女は『姉上』と言う大切な物を失ってしまったのだと言う事が理解できた。
 それも恐らく、自分が何かをしてしまったせいで。
 故に後悔の念は強い。
 思い出しただけで泣きたくなる。
 押しつぶされてしまいそうに、なってしまう。


 上着を掴んでいた両手を軽く引き剥がされた後、目の前に居た男は回れ右。
 そのままこちらに目も向けずにすたすたと歩き出した。
 まるでこちらに顔を見せまいとするかのように、だ。

「もっと上手くやれれば。もっと強かったら。きっとそれは間違いじゃない」

 でも、

「お前はいいよな。メソメソしている余裕があるんだから」

「…………!」

 一番の『立場』。
 このゲームに巻き込まれた以上、自分の下の者は責任を持って保護し、そして逃がさなければならない。
 その為にはどんな手段だって取る。

「姉上……?」

「?」

 そういう決意が彼の背中から見て取れた。
 そしてその何処か冷徹なオーラは、展望台で相対した自分の姉とも重なって見える。
 しかしそれはあくまで少しだけ同じに見えただけ。
 彼とエヴァは別人だ。

「いや、ごめん。こっちの事」

「そうか」

 幸いにも男はそれ以上何も言わない。
 ただ、背中越しなので表情は見えないのだが。

「ありがとう。少し落ち着いた」

「そりゃよかった」

 また上着伸びたらどうしようかと思った、とぼやきながらもカイトは周辺の瓦礫を調べる。
 所々に肉片が散らばっていたり、瓦礫があったりするだけで他にめぼしい物は見つからない。
 せめて死体でも転がっていればそこから首輪を回収したのだが、これだけバラバラだと探すのも難しい。

(……我ながらガラでもないことしたもんだ)

 殺してくれと言うレイチェルの訴えをそのまま聞いていれば良かったのかも知れない。
 そうすれば当初の目的の一つである首輪の回収は達成された訳だが。

(他にできそうなことは……まあ、ないか)

 武器が無い以上、レイチェルと無駄な争いをする気は起きない。
 それに彼女は精神的に多少元気を取り戻しているとは言え、肉体的なダメージは未だ大きい。
 放っておいても何時かやられるのは目に見えている。
 自分が今、彼女を殺す必要は無い。

(待ち合わせまでまだ時間はある。地図の南周辺をもう少し歩いてみてもいいかもしれんが……)

 そこまで考えた時だった。


 ビッ―――――――――!


 耳を劈くような電子音が、その場に響いた。
 その衝撃はまるで電流が身体を駆け巡るかのよう。
 こんな激しい『モノ』から意識を遠ざけろ言うのは不可能だろう。
 例え熟睡していたとしても一発で意識が覚めてしまう目覚まし時計のようなものだと思う。

「…………っ」

 その電子音が聞こえたのは彼だけではなかった。
 近くにいたレイチェルも無意識の内に周囲に注意を配っている。

『あー、あー。テステス』

 すると、何処からか若干ノイズが入り混じりながらも声が聞こえてきた。
 カイトとレイチェルはその場で声のする場所をしきりに探すが、

(スピーカーらしき物は見当たらない……!?)

 だが声が聞こえるということは音の発信源が必ず何処かにあるはずだ。
 それが見当たらないということは、

「…………こいつ、か」

 音声の発信源。
 少しノイズに注意して音のする方向に注意を向ければすぐにわかることだった。

 参加者全員に強制的に付けられた首輪。
 どういうメカニズムなのかは知らないが、首輪にはこういう『一方的な連絡手段』があるようだ。
 恐らくは完全な受信用だろうが。

『えー、それでは第一回中間放送を始めたいと思う』

 ゲーム開始から6時間。
 それは此処までの間に脱落した者達が発表され、そして残りの者がどう動くかが問われる時間だった。



【展望台跡 レイチェル@T.C UnionRiver】
[状態]:全身打撲、足に切り傷、精神的に錯乱状態(小)
[装備]:大帝@リレッド(だれかや!)
[道具]:展望台が破壊された際失う(自分の道具を使って名簿等を確認するのは不可能)
[思考・状況]
基本:本能を抑えつつ、ゲームには乗りたくない
1、カイトと遭遇。精神的にやや落ち着く
2、身体のダメージは深く、激しい運動は制限される
3、他の姉妹と合流したいが、合わせる顔が無い
4、殺戮衝動を抑えきる自信を失う
5、これからどうしよう……


【展望台跡 カイト@紫色の月光】
[状態]:頭部と右腕にダメージ
[装備]:ケーブル@トーイ(だれかや!)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:ゲームからの脱出を図る。エリシャと協力体勢
1、レイチェルと遭遇。昔の自分の面影と重なる
2、首輪の解除をしたい
3、ケーブル以外での首輪の解析をしたい
4、爆弾に関して幾つか考察
5、目的達成の為なら殺人実行も躊躇わない
6、昼の12時に映画館へ行く


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年02月04日 00:04