死ぬ、間違いなく私は死ぬ。
このゲームで無様に、無慈悲に殺される。
逃げる確率? 無いに等しい。
何故なら目の前に……、

「お前、食材になる準備は出来たか?」

狂ったような笑顔で私を見る食事の神(?)が黒くってバカデカイ大刀で調理をしようと構えていたのだから。

     ◆     ◆     ◆

時を少し遡ろう。逃げたアージェントを追いかけていたエリュース。
速射遠弓 サトゥルヌスを持って走ったせいで、再び空腹が襲ってきてしまい、結局は彼を逃がしてしまった。

「あーもぉー! 最ッ低ッ!!」

地団太を踏みながらエリニュースは己の空腹感に腹を立てた。
その行動拍子が掛かったのか、さらに空腹感が襲い、腹の音が鳴る。

「うぅ、お腹空いた……」

その音を聞いたのか、身体に力が抜けてその場にへたり込んでしまう。
流石に非常食だけでは満腹感が出なかった。
それに加え、殺し合いに乗るような行動を取ってしまえば直ぐ空腹にならないはずがない。

「どっかに食べ物落ちてないかなー……」

涙目になりながらエリニュースはあり得もしない発言もする。
が、それは早くも現実にった。

「? お肉のにおい……」

空腹状態になったのが幸いしたのか、僅かに漂ってくる肉のにおいに反応した。
先ほどまでの落ち込みようと逃げられた怒りはどこへ行ったのやら、彼女の気持ちは嬉々としていた。
エリニュースは直ぐに立ち上がり、においがする方向へと臭覚をフル活用して向かう。

     ◆     ◆     ◆

そして肉のにおいの発信源。

「「ごちそうさまでした」」

手を合わせて食事の終わりのあいさつをした皇帝とヴァネッサ。
調子に乗って10杯ぐらいごはんをおかわりしたのは言うまでもない。特に皇帝が。

「あー、食った食った」

爪楊枝で歯にくっ付いた肉を取りながらご満悦な表情の皇帝。
一応、作ったものは全部食べたのだが、テーブルの上には作りすぎたおにぎりがあった。
今いるヴァネッサとレニーの分、序に自分の分はある程度は持ったが、残りはどうするか迷うところだ。

「さて、飯も食ったことだしそろそろ行動しないとな」
「お前はここを出るのか?」
「いや、ちょいっと武器集め。支給された能力付きの奴はあるにはあるんだけど使いにくい」
「どういうことだ?」
「……理系もので頭を使うから」

文系は得意だけど、と後から言う皇帝。
ガレットとの戦闘後から試しに支給されたアカルの能力を使ってみようとしたが仕組みが分からず、頭の中は理系的な小難しい用語ややり方で結局出来なかった。
用語が分かっていても、実際にそういった知識がなければ意味がないのだ。

「……確かに余り考えてなさそうだ」
「おいこら」
「けどさ、この家に目ぼしいものってあるのか?」
「無視すんなよ。……まぁ根気よく探せば見つかるだろ。ちょっと探索してくる」

若干貶されたことにムッとするが、皇帝はスルーして台所から出て行った。

     ◆     ◆     ◆

「ここね……」

長い時間を掛けてついに肉のにおいの発信源に辿りついたエリニュース。
因みに今の状態は届くか届かないかの位置に餌を置かれ、3日間も顔以外身体を土に埋められて空腹で気が狂った犬の状態だ。
無論、彼女の思考能力は食への執着心からか著しく低下している。

「中に入って恵んでもらう気はないわ、どうせならここでリタイアしてもらう……!」

持っていた弓――サトゥルヌスを構え、その矢の先は皇帝、ヴァネッサ、レニーがいる住宅。
数を撃てば確実に当たる、そして食料は自分のもの。
しかし、思考能力が低下したエリニュースは、このまま多数の矢を放てば食料を台無しにしてしまう恐れがあることに気づいていなかった。
そして、その考えに至らず、矢を放つ。

「うおッ!?」
「ほえー?」
「ちょッ! 何やねん!?」

住宅の中から3人の参加者の驚愕に満ちた声が聞こえた。
その声が聞こえなくなるまで、エリニュースは矢を放ち続けた。

     ◆     ◆     ◆

突然の矢の雨に襲われた別室にいる皇帝、台所にいるヴァネッサとレニー。
3人は矢に当たらぬよう、身を低くして矢の雨が止むのを待った。
暫くして矢の雨が止むと、直ぐに行動を起こしたのは皇帝だった。
彼がいる部屋は1階の一人部屋。そこで見つけた木製の黒い大剣を持ち、ヴァネッサとレニーがいる台所へ。

「おい、大丈夫か?」

襲撃者に気づかれないよう、忍び足で辿り着き、小声で2人の安否を確かめる。

「あ、ああ……大丈夫だ怪我はない」
「びっくりしたぁ……」

2人が無事にホッとする皇帝。
が、何気なく床の方を見て一気に思考が停止して、安堵感が一瞬で消えた。

「…………」

彼が見たものは、サトゥルヌスの矢に刺さっている自らが作ったおにぎり。
中身が大量に飛び出ていて、その中で大好きな肉も入っていた。
やがて力なく木製の黒い大剣を引きずるように歩きだす。

「おい、どこに……」

ヴァネッサが尋ねようとすると、ギロリと首だけ後ろに振り向いて彼女を睨みつけた。
蛇に睨まれた蛙のように固まったヴァネッサは何も聞かずに皇帝を行かせた。
そして1つ理解したことがある。

「終わったな、襲撃者……」

     ◆     ◆     ◆

矢を放ち終えたエリニュースは肩で息をして呼吸を整えていた。
取りあえず中にいた参加者は死んだんだろうと勝手に解釈し、中に入ろうとする。
しかし、玄関の扉が物凄い音を上げて壊れたことによってその場に立ち止まる。

「ハァァァァー…………」

獣のような呼吸をしながら1人の参加者――皇帝が力の無い動作でエリニュースの前に玄関から出てきた。
右手には木製の黒い大剣を引きずって。

「あら、死んでなかったの」
「…………」

エリニュースに反応しているのかしていないのか、皇帝は病んでいるような眼で見つめている。
それから逆手に持っていた黒い大剣を順手に持ち直す。
この動作で敵対行動を見なしたエリニュースは持っていたサトゥルヌスを両手で持って構えた。

「恨みはないけど、死んでもらうわ」

それだけ言い、皇帝に向かって駆け出す。
距離は走れば直ぐ届くほど。
ある程度距離が縮まったのを見計らって、エリニュースはサトゥルヌスを振り被り、皇帝目掛けて振り下ろす。

「ふんっ!」

そのタイミングを見計らっていたのか、皇帝は片手で黒い大剣を横薙ぎに振って斬り払いした。
と同時に、木製であるが故に黒い大剣は力の負荷とサトゥルヌスの硬度によって圧し折れてしまう。
斬り払われたエリニュースはバランスを崩してしまい地面に転んでしまった。

「ッ!」

転びはしたが直ぐに起き上がれる体勢だったので立て直そうとするが、そこに皇帝の追い打ちが来る。

「動くな」

左脚を最小限の動作で上げ、思いっきり地面に踏みつける。
すると地面に踏みつけた振動がエリニュースを襲い、そのまま倒れ込んでしまった。

(こいつ、結構戦い慣れている……!)

先ほど自分がやった行動を後悔するエリニュース。
しかし、この後さらに後悔することを彼女は知らない。

「おい」

威圧感のある声にエリニュースはビクッと身体を硬直させる。
そして恐る恐る顔を上げると、そこには無表情でどこか殺気を帯びた皇帝が、折れた黒い大剣を担いで仁王立ちしていた。

「俺さぁ……、食べ物で好き嫌い結構あるんだよ」

突然発した言葉に彼女はキョトンとする。
何言ってるの?と言いかけたが、皇帝の威圧感によって言えなかった。

「でもな、そんな俺でも粗末にだけはしないようにしてんだよ。嫌いな物は他の奴にやったりしてさ」

構わず皇帝は話続ける。

「言っている意味分かるか?って、分からねぇよな。まぁ、何が言いたいのかって言うと……」

徐々に表情が怒気を帯びながら歪んでいく。さらに身体から殺気が滲み出ている。

「食べ物を粗末にすんじゃねぇぇッ!!」

咆哮。同時に折れていた黒い大剣が再生していく。
否、無意識のうちにナノミスト調合能力を使用して生成したのだ。
皇帝の仲間で黒い大刀を軽々と振う異世界・インペリアル最強の侍、刀耀 凰火の愛刀――斬神刀(ざんかんとう)の再現を。
どうやったのかは本人ですら分からない、唯一つ言えることは、斬神刀の構造はアカルがやるようなナノミスト調合の構造ではないということだ。
そして、それが明らかになるはまだ先のことである。

「ひっ!」

皇帝の咆哮によって、エリニュースは彼に対する恐怖心を抱いてしまった。
それが真っ先に現れたのは顔。次に身体の震え。
今さらながら彼女は住宅に矢を放ったことを後悔する。

「さて……」

皇帝の表情が先ほどの怒りの表情から段々、狂ったような笑顔の表情に変化する。
最早発狂したと断言しても良いだろう。

「お前、食材になる準備は出来たか?」

斬神刀をエリニュースの首に添えて死刑宣告を言い渡した。
終わった……、とエリニュースは自身の死を覚悟する。

「と、その前に調理場に行かないとなぁ」

思い出したかのように皇帝は彼女の首から刃を離し、開いた手で彼女の服の襟を掴んだ。
そしてそのまま彼女を引きずるように住宅の中へと戻る。
調理場と聞かされ、イコール死刑台へ連行という方程式を浮かばせたエリニュースは死の恐怖に耐えきれず、叫んだ。

「は、離しなさいよ! 私なんか食べても美味しくないわよ!?」
「心○と血○ 隠し味には肉○を~♪ 真っ白な○を墓場に捨てましょう~♪」
「ちょ!? 何その歌!? 怖すぎるわうよ!? 誰か助けてぇぇー!!」

そして庭に誰もいなくなった。
教訓:食べ物の恨みは怖すぎる。

【北 病院付近の住宅街 深夜】

【皇帝@理由の無い日記】
[状態]:発狂
[装備]:緑色のグローブ@誰かの館(瀬戸アカル)
[道具]:ナノミスト調合能力で作った斬神刀(支給品一式は家の中)
[思考・状況]
(基本):ゲームぶっ壊す
1:武器探し
2:自分が作ったおにぎりを滅茶苦茶にされてご立腹し発狂する
3:能力使用。ただし、どうやったかは不明
4:エリニュースを食材にするために台所へ

【ヴァネッサ@T.C UnionRiver】
[状態]:普通
[装備]:一応装備している
[道具]:支給品一式+皇帝が作ったおにぎり各種
[思考・状況]
基本:不明
1:エリニュースの襲撃にあう

【レニー@T.C UnionRiver】
[状態]:普通
[装備]:一応装備している
[道具]:支給品一式+皇帝が作ったおにぎり各種
[思考・状況]
基本:不明
1:エリニュースの襲撃にあう

【エリニュース・レブナント@LunaLowe-ルーナレーヴェ-】
[状態]:空腹+恐怖
[装備]:速射遠弓@織夢(INACTIVE OF SEFEHOUSE)
[道具]:支給品一式(食料以外)
[思考・状況]
基本:ゲームに勝ち残り、『侵略』を叶える
1:アージェントに逃げられてご立腹
2:肉のにおいがした方へ向かって襲撃
3:皇帝の怒りを買ってしまい食材と化してしまう寸前


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最終更新:2010年04月01日 18:17