時刻にして3時半。
 白髪の青年の手によって、一人の少女の命が散った。

「がふぅ……っ」

 少女が殺された方法は真後ろから剣を突き刺されたことによる肉体的損傷よりもそれに付加した紫色の炎の方と言えた。
 正確に彼女――――シュヴァルツが事切れたのは少し経ってからのことになるが、その肉体を紫炎が黒焦げにするまでにそんなに時間は必要としないからだ。

(一人の人間に二つの支給品……化け物、か……主……美咲……頼む、無事で……)

 これから数分も経たないうちにシュヴァルツは死亡リストの仲間入りを果たすことになる。
 その原因を作ったのは1日目にして早くも2人を亡き者にしているゲイザーだ。

「…………っ」

 翔也はこの事実を唇を噛締めつつ眺めていた。
 彼はゲイザーが吹っ飛ばされた方に真っ先に向かい、そして彼を抹殺しようと考えていた。
 理由としては彼に支給された武器が元々は自分が使っていたのが一つだが、

(野郎……! 俺と『同じこと』考えてやがった!)

 翔也もまた、『複数の武器』を揃える事でゲームで優位に立とうとしたからだった。
 それ故に真っ先に狙った『第二の装備』は自分自身が愛用してきた手甲だったのだが、

(これで今のアイツはほぼ敵無し状態なわけ、か)

 参加者リストに記載されている和輝や美咲が仮に彼とぶつかったとして生きていられる保障はあるだろうか。

 否。
 今の状況で彼の相手を出来るのはそれこそ『根元から強さのランクが上の連中』だけだろう。
 そもそも支給品が一つ、というルールが有利不利の差をつけてしまっている。

(だが)

 最終的にはそんなゲイザーをも踏み越えていかなければならない。
 生き残る為に。
 そして如月・和輝を自分のこの手で葬る為に、だ。



 ○



 最優先目標はあくまで如月・和輝だ。
 これだけは誰がなんと言おうとも譲れない。
 だが最終的に生き残るためには最低でもあのゲイザーを倒す必要がある。

(シュヴァルツは弱いわけではない。寧ろ、強くなる為に鍛錬を怠っては居なかった)

 そんな彼女があっさりと葬られてしまったのだ。
 何か今よりも強力の武器――――もしくは、

(仲間を集めろ、と?)

 簡単な理屈だ。
 強大な敵が現れた。
 今放っておいたら皆殺されるぞ。
 それなら早いうちに強力な魔人、超人と組んで奴を倒したほうが手っ取り早い。

(…………)

 だが、彼らと組んだその『後』はどうする?
 どう転んでもその後にいるであろう『彼ら』との殺し合いが始まるのは目に見えている。

(この殺し合いの場で味方はいない……っ!)

 今まで味方はいなかった。
 あったとしても信頼関係と言う物は皆無に等しかっただろう。
 今までどうやって和輝を殺してやろうかと考えてきた。
 どうすればもっと強くなれるかを考えなければならなかった。

 自分しかいないからだ。

 しかしこの時点で彼は今までにない焦りを感じていた。
 もしも和輝までがゲイザーと同じように二つ以上の武器――――しかも強力な代物を手に入れていたとしたら。

「…………っ!」

 そこまで考えて、それ以上考えるのをやめた。
 正確に言えば頭が考えることを拒否していた。
 実際は本来支給された装備品は持ち主が死ぬと同時に消えてしまうのだが、それを知っていたとしても目の前で起こった事実から考えられてしまう『想像』は簡単に頭からは離れない。

「くっ……そ!」

 誰に言った訳でもなく、将也はその場で悪態をついた。
 だがその時、

「ん?」

 違和感を感じた。
 何に、と問われれば目の前にある『光景』である。

(何だこの穴は?)

 その辺にある木なのは間違いない。
 しかしこの穴に押し込められた岩は一体なんだろうか。
 自然に考えて岩が木に挟まっているとは考えられない訳だが。

(と、なると)

 誰かが人為的に何かを隠したことになる。
 しかしそれにしてはあまりにも判りやすい。
 これでは中に何かが入ってますと言ってるような物ではないか。

(何が……?)

 まさかと思うが、ここに寝床を作って中で誰かが寝ているのではないかと思って岩をどかしたその直後。
 彼は見た。
 中に伸びている状態の赤毛の青年――――ガレッドが入っているのを、だ。

「…………」

 あまりにも急すぎるこの展開。
 そして想定外だった故に彼の思考回路は停止せざるを得なかった。

(何だ? 何故こんなところで男が寝ている? 殺せと誘っているのか……!?)

 あまりにも無防備すぎて逆に殺してくれといってるようなこの状況。
 それが逆に彼を悩ませる結果となった。
 特に先ほどまでの強力な武器、仲間を得るという考えもある。
 ここで安易に殺すというのは下手をすると自分の首を絞めるのではないだろうか。

(だが、何時までも考えてる余裕なんかないぞ……)

 こうしている間にも参加者の中で動きはあるはずだ。
 特にゲイザー。
 あの男が和輝を倒す前に自分が和輝を殺さなければならない。
 故に迷いはすぐに捨てなければならない。

「……っ」

 一旦舌打ち。
 そうした後、翔也はガレッドを無理やり叩き起こした。

「おい、起きろ! そして化け物退治に協力しろ!」




 ○



 ゲーム開始から4時間以上が経過。
 シュヴァルツを葬ってから30分ほど経過した後、ゲイザーは次なる目的地へ向かって歩を進めていた。
 しかしこの広大なゲーム会場で彼の探すものは唯一つだけだった。

(クソむかつくあんにゃろうは何処にいるんだが……)

 武器という面で見れば恐らくこの男が絶対的有利だろう。
 だが彼には翔也と同じく『最終目標』があった。
 嘗て戦い、最終的には屈辱を味合わされた男――――自分と瓜二つの顔を持つ神鷹・カイトである。

(見つけ次第ぶっ殺してやる……!)

 何故彼が自分と同じ顔をしているのか。
 そんな事は問題ではない。
 問題なのは自分が彼を殺すことだ。
 それ故にこのゲームの参加者名簿にこの名前を見つけた時は心が震えた。

「コロシテヤル」

 理性と本能が同時に叫んだ。
 もうこれは確定事項だ。
 誰が何といおうが覆すことはない。
 これがひっくり返るとすれば自分が死んだときだろう。

(探し出して、必ず俺が八つ裂きにしてやる。誰にも譲らねぇ)

 その為には他の殺人者よりも早くカイトを見つけ出さなければならない。
 手っ取り早い方法は彼の『匂い』を辿る事だ。
 身も心も獣になった自分ならそれほど難しいことではない。
 昔からそうやって敵を葬ってきたのだから、今更というものだろう。

 一旦深呼吸。
 そして息を吐いた直後、全神経を己の五感に集中させる。

(気に入らねぇ匂いがする……!)

 だが彼の『標的』の匂いではない。
 しかし手甲とディブレードの更なる扱い方を『覚える』のには丁度いい。
 なら次の獲物はこの『気に入らない匂い』を放ってる奴だ。
 深いダメージを負ってるのか、血の匂いも混じっている。
 これなら誤魔化しも効かずに追う事が出来る。

 幸い、足には自信がある。
 仮にここがサバンナだとしたら、自分はチーターをも徒競争で抜き去って見せよう。



 故に、逃がす気は毛頭なかった。

 ○



 シィルによって逃がされたジーナは民家に隠れた後、ヒメルを何とかして回復させようと必死だった。
 その為に必要になるのは医療道具。
 ヒメルと自分の分を確保せねばならない。

「ぐっ……」

 しかし、ディアナに受けたダメージは余りにも深い。
 民家の引き出しを調べるだけでも体中に痛みが走った。

(この程度で……っ、へこたれている場合ではござらぬ!)

 シィルは自分達の為に犠牲になった。
 本当なら彼女を逃がすはずだったのに、逆に自分たちが彼女に助けられてしまった。
 騎士としてこれ以上情けないことはない。
 本当に守らなければならないものを守れず、逆に助けられてしまうというのは詰まり、己の無力を痛感することに繋がる。

 だがジーナは強かった。
 肉体だけではなく、精神的にも多大なダメージを受けた。
 しかしそれでも彼女は声を出して泣かない。
 奥からこみ上げる激情を堪えて、必死に『耐えていた』。

 しかし、

(ヒメル殿になんと伝えたらいいのでござるか……)

 最大の不安は此処だった。
 恐らくヒメルはあの『一撃』で終わったと感じただろう。
 自分もそう思っていた。
 しかし実際に与えることが出来たダメージは頭から少し血を流した程度で。
 そしてその後、シィルが――――





 ばちっ





「!!!!!!!!!!!!!」

 外からはっきり聞こえるくらい『その音』は響く。
 その音が何なのかまではすぐに理解できなかったが、

(これ、は……?)

 ベランダから僅かに見えた『音』の正体。
 それは迸る電流に他ならなかった。
 外はそろそろ明かりが出てくるので見間違えたのではないかと一瞬思ったが、目の前にハッキリ映っているのでは見間違えようがない。

(外に誰か居るでござるか……!?)

 よりにもよってこんな時に。
 ヒメルも自分もダメージを受けすぎてて戦える状態ではない。
 もしも外に居る何者かがゲームに乗っているのだとしたら、

(絶望的でござる……!)

 電流が見えたということは、相手の支給武器とその能力は『そういうモノ』なのだという事を理解できる。
 しかし外から見えるまでの電流を流している理由は何だろう。
 ジーナは不安と焦りを感じつつも、そう考えていた。





 ○




 電流は無意識の内に流しているのではない。
 ちゃんと意図はある。
 役割をいうのならこれは威嚇だ。
 自分はこういうことが出来て、お前を黒焦げにしてやれるんだぜ、というアピール。

 そしてそれ故に本命のディブレードを察知されない。
 電流が流れていれば自然とディブレードの能力だと『誤解』してしまう。
 それこそがゲイザーの狙いだった。

 地図でいうと北の学校からここに至るまで『匂い』がした。
 この辺をもっと調べればどの民家に逃げ込んだのかは時間の問題だ。
 だが血の匂いがしてるということは、今度の獲物は手負いということだ。

「…………」

 目玉をぎょろり、と回しつつもゲイザーは民家を見る。
 身を隠すとしたらこの民家のどこかだろう。
 血の匂いもこの周辺で途切れている。
 だがもっと匂いを探っていけばそんな事は問題ではなくなる。

(コロシテヤル……)

 見つけ次第殺す。
 逃げよう物なら逃げてみるがいい。
 気配と匂いですぐに見つけて、追いかけてやる。
 何処までも。
 獲物は絶対に逃がさずに殺してやる。




 ○



 ベランダ越しでも敵意の塊のような邪念を察知することが出来る。
 外に居る奴が『ゲームに乗っている』と判断するにはそれだけで十分だった。

(そもそも、平和的な者ならばあんなにバチバチと鳴らす必要はないでござる!)

 傷ついた体で神経をすり減らしつつも、ジーナは医療道具を持ってヒメルの元に駆け寄った。
 この状況で彼女を介抱できるのは自分しかいない。
 だが外に居る殺人鬼の事を考えると、何時までも此処に留まるのは危険だった。

(しかし、このままではヒメル殿が危険なのも明白!)

 それ故に何とかして彼女だけでも守らなければならない。
 しかしどうする?
 既に満身創痍。
 これ以上激しい運動は出来そうにない。
 見つかったらすぐにでも襲い掛かってくる野獣相手にどう立ち向かえばいい……?

「…………刀がなければ拙者は何もできんのでござろうか」

 問いかけの先に答えてくれる者は誰も居ない。
 だが呟かずにはいられなかった。
 蒼龍騎士団の名をかたりつつも、何も出来なかった。

 圧倒的に実力差のある相手。
 だがそんな相手でも守るべき物があるからこその騎士なのだ。
 それなのに守れなかった。
 守られてしまった。
 戦う力を持ってるはずの自分たちが、守られてしまった。

 それは何故だろう。

 愛用の刀を持ってないからか?
 自分が無力だからか?
 それとも相手が強すぎたからか?

「…………否」

 動かすのも精一杯の体。
 しかしそれでもやれることはある筈だ。
 外の殺人鬼はまだこちらに近づいてこない。
 それならば、

「ヒメル殿」

 気絶しながらも『可能性』を見出せた彼女を守ってみせる。
 自分の全てを賭けて。

「拙者、必ずやヒメル殿を守り通してみせるでござる。だから、ヒメル殿も目が覚めたら守り通して欲しいでござる」

 何を、とは言わない。
 それは彼女自身が一番判っている筈だから。

「白騎、夜皇。拙者は刀使いであるが故、クロードより下手糞でござる。しかしこのような拙者でも、やらねばならぬ時があるでござる」

 妹の武器を確認しつつ、再びジーナは呟く。
 その光景はどこかお祈りでもしているかのようにさえ見えた。

(拙者、意地を通して見せるでござる!)

 だが決意は固い。
 その想いの大きさが今の彼女の最大の武器にして、心の支えになっていた。

 しかし時刻にして大凡5時50分。
 後10分で第一回の中間放送が始まる。
 その時に発表されるだろう死亡者の名前を聞いた時、彼女の心は果たして持つのだろうか。
 既に姉のエヴァは死に、シィルもこの5分後にディアナに殺される。
 その事実を突きつけられた時こそが、ジーナにとって最大の試練なのかもしれない。







【東 学校の南 民家3階/1日目/深夜】

【ヒメル=シュナイド@Vulneris draco equitis・basii virginis】
[状態]:顔面出血(鼻血)・疲労(極大)・全身打撲・精神疲労(大)・気絶
[装備]:勇神(T.C UnionRiver@レイチェル)  & 騎士甲冑
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:弱者を護る、ゲームには乗らない
1:ディアナさんに・・・勝った・・・!
2:兄さん・・・
3:殺し合いに乗った人間の無力化
4:弱者の保護をする
5:仲間と合流したい
6:首輪の解除・ゲームからの脱出案を練る





【ジーナ@T.C UnionRiver】
[状態]:刀不所持による不安・顎損傷・吐血(大)・疲労(極大)・全身打撲・腹部内蔵損傷
[装備]:白騎(びゃっき)・夜皇(やこう)(T.C UnionRiver@クロード)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:ヒメル殿を守るでござる
2:外の敵を何としてでもやり過ごして見せるでござる
3:シィル殿……
4:ボロボロでも出来る限りの事をするでござる。
5:出来れば刀が欲しいでござるぅ……





【ゲイザー@紫色の月光】
[状態]:後頭部にダメージ
[装備]:手甲(翔也@キボゼツ)、ディブレード(斎@ガタ荘)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:ゲームに乗り、支給品の力をテストしつつカイト抹殺
1、ディブレード解禁。装備が二つ
2、カイト最優先
3、参加者を見つけたら支給品のテスト名目で殺す
4、一人も逃がさねぇぞ……!




【北 トンネル付近の森/1日目/深夜】

【翔也@キボゼツ】
[状態]:健康
[装備]:ブレスレット(アージェント@IOS)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:和輝抹殺
1、ゲイザーに危機感を覚える
2、能力の更なる把握と応用を考え始める
3、和輝どこいったん?
4、もう手段を選んではいられない……!
5、ガレッドと遭遇。叩き起こして協力を(不器用ながら)求める



【ガレッド・バスタード@紫色の月光】
[状態]:気絶
[装備]:美咲のリボン(美咲@キボゼツ)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本・カイトを探し、合流すること。
1、しまっちゃおうおじさんという名の皇帝によって大木の穴にしまわれる。
2、気絶状態だが、翔也に発見される。


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最終更新:2010年03月31日 23:48