少年は走った。走って走って、走りまくった。

「ここまで走ってくりゃ・・・・大丈夫だろ・・・・」

アージェントはエリニュースの前から走り去ってから10分ほど走り続けていた。
方角は当初の目標、病院方面。
普段持たない獲物――姉の刀を持っているお陰で、いつもの倍は疲労しているようだった。

「こんな事ならもっと剣に慣れておくんだったな・・・・」

自分で勝手にコンプレックスを抱いて、勝手に剣の道を離れたのだから、自業自得である。
彼自身、刀を全く使えない訳ではなく、人並み以上には扱えるくらいの腕はある。
だが、刀、剣類を携帯しながらの戦闘に関してはほとんど慣れてはいなかった。

「・・・・・ん?」

走った影響で暴れている心臓を落ちつかせるため、ゆっくり歩いていると、視線の先にに何かが確認できた。
辺りは明るくなってきたとはいえ、あまりよくは見えないが、大きさは人間一人ほど。正確には、少女一人ほど――

――まさか。

少年はゆっくりとした歩みをだんだん速め、気付いたらまた走りだしていた。
殺し合いの最中にゆっくりしているのも愚かしい話だが、自分の思い込みだけで、他人に駆け寄るのもまた、愚かしかった。
だが、彼の予感は、当たっていて欲しくない予感は、見事に的中してしまっていた。
見間違えようもない、赤い髪の小柄な少女。彼の――彼らの、想い人。

「―――セーラッ!!」

駆け寄った彼は少女、セーラを抱き起こし、声をかけた。
こんな場所に相応しくない、似つかわしくない彼女がこんな所で倒れていた。
その事実だけで、彼は完全に取り乱していた。しかし、

「・・・・・んっ・・・・」

セーラは、消え入りそうな声で、しかし、確実に小さい呻き声を上げた。
アージェントはその一言を耳に出来ただけで、安心する事が出来た。
どうやら、意識が無いだけで、息はあるようだ。

「・・・・はぁ、大丈夫、みたいだな」

安堵のため息をつき、ふと周りを見た時、その先にまた、何かを視認した。
今度は成人女性ほどの影。
セーラをその場に放っておくのは気が引けたが、一度その場を離れ、その影を確認しに行った。
歩みはゆっくりと、早く向かおうと思っても足が重く感じられた。
それは、彼の進む道の端々に見える壁や電柱の傷跡、地面に刺さっている包丁の数々・・・
それらが、この場で何が起こっていたのかを物語っているのを感じ取ったからなのかもしれない。

「―――――ッ」

そこに倒れ伏していたのは、元宇宙海賊団アースガルズ総帥『ヘカティリア・ラグナ・アースガルズ』。
つい数分前までセーラを守る為に戦い、そして散って逝った女性だった。
彼がセーラの着けているバンダナベルトと、彼女の着けているバンダナが似ている事に気づくのは、もう少し後だった。

「・・・・くっそ」

死人を見る事は人並み以上ではあると思っていたが、やはり、慣れる事はなかった。
このままにして置くわけにはいかないと思う反面、どうすればいいかの判断に困った。
埋めてあげるにしろ、刀は穴を掘る道具ではないし、素手で掘るには気が遠のくだろう。

「まずは・・・・セーラをどこか安全なところに、だな」

アージェントは死人―カティに手を合わせ、一度セーラの倒れている場所へ向かった。

「・・・そうだ、どっかの家ならスコップの一つでもあるだろ」

他人の家の庭先に死人を埋めるのもかなり気が引けたが、路上に放置するよりはマシだろう・・・
そんな事を考えながらセーラまで近づいて、気付いた。

「・・・・どうやって、運ぶ・・・・?」

普通、人が倒れていたら戸惑うだろうが、安全な場所に移すのが常識だろう。
だが、その相手が意中の相手となると、また違う戸惑いが生まれてくる。
さらに、彼は身なりはこうだが、変に奥手だった。
そんな彼が、想い人(気絶中)をどこかに運ぶ、などと言う行為はかなり勇気がいる行為だった。

「あー・・・・・えーっと・・・すまん」

彼女に謝っているのか、それとも別の誰かに謝っているのか。
誰に謝っているのか自分でも分からないまま、セーラを『お姫様だっこ』の形で抱き上げ、手近な家に入ろうとして――やめた。

「・・・・あの人も、どうにかしないといけないな」

そのまま歩みをカティの方に進め、彼女の伏している場所の近くの家に、お邪魔した。


「・・・・さて、どうしたもんか・・・・」

カティをその民家の庭に埋葬し、家にあった花を添えておいた。
正直、そんな状況でゆっくりしているのは非常に異常であるとは思うのだが、今はそうするしかなかった。

「・・・・・・・・」

セーラはリビングのソファに寝かせ、今では静かに寝息をたてていた。
アージェント自身、この状況自体エマージェンシー以上の何物でもなかった。
想い人が無防備に近くで寝ているとあれば、平常心じゃいられない、度胸が意外と小さい男、アージェント。

何をするともなく、家の中を歩き回っていると、時計が目に入った。
無機質に時を刻む音を聞きながら、規則的に歩みを進める針を見ながら、
もし、あの女性がセーラと関係のある人物だったらどうしようか、とか、
どう、伝えるか、どう――ごまかすか。

そんな事を考えているうちに、時計の針が―――6時を、指した。


【中央 病院南の住宅街/1日目/深夜~早朝】
【アージェンナイト・クロノクル@INACTIVE OF SAFEHOSE】
[状態]:健康 、精神的に穏やかではない
[装備]:黒血刀 月之焔@アスフェルレイト・クロノクル(INACTIVE OF SAFEHOSE)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本・『殺し合い』と言う催し自体に参加する気持ちは現状無し
1 ・セーラを守る
2 ・とある男との合流(一方的)
3 ・戦いになったら何とか避ける
4 ・埋めた女性の事をセーラに聞かれた時、どう答えるか思案中。(真実を伝える?ごまかす?)


(備考)
参戦時期は灰楼杯終了数ヵ月後。

【セーラ@Tower Of Babel】
[状態]:気絶、精神消耗(大)、体力消耗(小)、全身打撲
[装備]:ベルト@走馬闘志(吼えろ走馬堂)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗らず、仲間を集める
1:気絶
2:カティさん、無事でいて・・・


(備考)
小さな傷の手当ては受けてはいるが、本当に一部。


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最終更新:2010年03月31日 23:50