生まれてこの方、幾つ物死体を見てきた。
 その内半分以上は自分が作り出した廃棄物だとしても、特に何も思わない。
 もしも自分が『奪われる側』になった場合は、内から湧き出てくる感情を押し殺す。

 そうやって冷徹な機械になる必要があった。

 後ろに自分の『巣』があったからだ。
 だからこの殺し合いの場で身内の名前が呼ばれたとしても、彼に動揺することは許されない。

「…………」

 定期的に放送される殺人ゲームによる犠牲者の報告。
 その中には神鷹・カイトも知ってる名前が幾つかあった。

(やられた順番通りってことは……ゲーム開始で即やられたか、トリガー)

 何時ものように自分の恨みを押し殺す。
 今はその感情をぶつける相手が目の前にいるわけではない。
 だが決して『忘れない』。
 そうやって彼は己の糧として事実を受け止めた。
 否、受け止める以外の選択肢が無かった。

(まだガレッドやカノンの名前が呼ばれていない。あいつ等は生き残ってる!)

 その為には幾つかのステップを踏んでこの殺人ゲーム会場から抜け出さなければならない。
 ステップの中で最も鍵となるポイントはやはり首にある爆弾の存在だった。

(……仕組みを知る必要がある)

 何をやるにも先ず『知る』事が大事だ。
 恐らくそれが最も可能であるのはケーブルが支給品として回ってきた自分だろう。
 機能している首輪は既に解析不可という結果が出ている。
 ならばいかなる場合でも違う首輪を入手し、解析しなければならない。

「おい」

 放送が終わってやや経ったと同時、背後から声をかけられる。

「どうするつもりだ、これから」

 放っておけば勝手に死んでしまいそうなくらいボロボロになってしまったレイチェルだ。
 何とか立とうと懸命に身体を動かす彼女は、目の前にいる男を睨みながら体勢を整えようとする。
 何時襲われても対処できるように、だ。

「取りあえず、移動する」

 しかし彼女の懸念はあっさりと流されてしまった。

「……私を、殺さないのか?」

「安心しろ。俺が殺さなくても時間がたてば誰かが殺してくれる」

 ならば危険を冒して自分が殺す必要は無いと考えた。
 誰かと遭遇して、返り血を見られた場合対処に困る。

(確かに満身創痍のコイツから首輪を奪う事もいいかもしれんが、時間と場所が問題だな)

 放送には新たに出された禁止エリアの詳細もあった。
 地図で言えば丁度『この辺』。
 詰まり、後15分もすればこのエリアに居る奴は死と隣り合わせになってしまう。

(別に刃物が無くても首から首輪を引っこ抜くくらい出来ない訳じゃないが、手間取るとややこしくなる)

 いずれにせよ、15分以内に次の場所を探して移動しなければならない。
 では何処に移動するか、と考えたその時。

「連れてけ」

「何?」

 後ろからレイチェルがそう呼びかけて来た。
 立つのもやっとなその身体で、だ。

「連れてけって言ったんだ。聞こえなかったか……!」

「お前を連れて、俺に何のメリットがある?」

 率直に問うた。
 正直に言って見ただけで足手まといになる可能性が高い。

「見ての通り、私は立つのもやっとだ。まともに歩けない。だからお前に頼んでる」

「答えになってねぇな。悪いが、俺は其処までお人よしじゃねぇぞ」

 言い終えると同時、回れ右。
 すぐにでもこの場から離れるつもりで移動を始めた。

 直後、異変が起こる。

「?」

 既に太陽は昇って早朝といった時間帯。
 この殺し合いの場ですらそれは例外ではない。
 だがその太陽の光が一瞬にして『消えた』。

 何故か?

「ああ、そうだろうさ。お前の目は姉上と同じだ。だから平気で人を殺せる」

 後ろを振り返る。
 すると、其処には先程までいたはずのレイチェルの姿は無く、

「!!!!」

「だから、お前には私のいう事を聞いてもらう!」

 まるで壁のように聳え立つ『巨大ロボ』の姿があった。

「行くぞ大帝! アイツを調教だ!」


 ○


 容姿が全て違う男に『姉上』の影を重ねる。
 それ自体が容易に出来た理由は恐らく、彼と自分が殺してしまったエヴァが同じ意思を宿した目をしていたからだ。

(もう同じ失敗は犯さない!)

 標的の男は相対した感想として、強い。
 今の自分が戦ったとしたら勝てる確立は限りなく0に近いだろう。

 だが大帝を使った場合はどうだろう。
 その一撃は展望台すら破壊し、果てにはエヴァすら消し去ってしまった。
 この男が『何を』出来るのかは知らない。
 だが大帝のパワーで脅しを利かせる位は出来るはずだ。
 それさえ出来れば、後はこの男に『手伝ってもらえる』。

 そう考えた。

「…………」

 標的の男は真下からこちらをじ、と見つめている。
 だがその表情は笑ってはいない。
 そして同時に、怯えてもいなかった。

(すんげぇポーカーフェイスだなぁ)

 自分の表情を見せない。
 単に鈍いだけなのか、それとも冷静になることに馴れているのか。

「どっちでもいい。やるぞ大帝!」

 その命に応じ、大帝が拳を振り上げる。
 だがソレと同時。

「!」

 男が動いた。
 しかもその速度はレイチェルの目から見ても、

(速い!)

 仮に自分が五体満足でも捕まえられるか怪しいといったレベル。
 だが騎士として鍛え上げた彼女に『そう思わせた』身体能力を有しているという事は詰まり、

(逃げられる!)

 エヴァとカイトがそれぞれ大帝と対峙している時、二人には決定的な違いがあった。
 それは展望台という限られた場所で戦いを強いられたことと、そうでないことである。
 しかもカイトはレイチェルの目から見ても非常にすばしっこかった。
 脅しを利かせるつもりで加減をしていると、そのまま逃げられてしまう可能性が出てくる。

(でも、狙いが――――!)

 大帝の拳は、その巨体の腕という事もあり強大だ。
 現に展望台はたったの一撃で破壊されてしまった。
 しかし人を殺さないように加減して、尚且つ素早く動くカイトを捕まえようとなると狙いが定まらない。

 だが、それは普通に捕まえるなら、の話だ。

 すばしっこくて中々捕まえれそうに無いのならその足を止めてしまえばいい。
 例えば、『足場を揺らしてみる』とか。

「叩け、大帝!」

 その命令を実行に移すために、大帝は拳を大きく振り上げる。

「!」

 その行動を見て目を見開いたのは、それに対峙しているカイトだ。
 どう見ても『大きく振り上げすぎている』。
 まるで標的なんか気にしていないかのような腕の振り上げ方である。

「そうきたか」

 鉄拳が大地に振り下ろされるまさにその瞬間。
 カイトは足を止めた。

 ○


 二度目の激震が展望台跡地に響き渡る。
 だがそれは地震ではなく、あくまで『人為的に作り出された』災害だった。

 大帝が地面を抉った跡は一言で表すと小さなクレーターを生み、周囲の大地を軽く『裏返してしまう』のには十分な威力があった。
 無論、巻き込まれたら周囲の人間は只ではすまない。

 しかし唯一巻き込まれる可能性のあった男はこの災害から逃れていた。

「やるな!」

 レイチェルから送られた言葉にカイトは視線を向ける。
 彼女は今、大帝の右肩の上からこちらを見ていた。

「まさかジャンプで大帝の後ろ側まで回りこんでくるとは思わなかったぞ」

「偶に本業をサーカスにするべきかと思うくらいさ」

 単純に跳躍で大帝の一撃をかわし、尚且つ抉られる大地から離れる。
 確実に人間離れした行動をこの男はやらかした。

(……行けるかも知れない)

 動きを見て大体判った。
 この男は今の自分には無い物を持っている。
 抜群の身体能力の高さという、今の自分に最も欲しい『武器』だ。

 だからこそ思う。

(コイツを味方につければ、ここからの逆転も出来るかもしれない)

 自由に動けない自分が、他人よりも自由に身動きできるこの男に協力してもらうことでこのハンデを無くす事が出来るかもしれない。
 そうすればこれから襲い掛かってくるであろう襲撃者を回避しつつ、元の場所に帰れる可能性も高い。
 生き残る可能性が上がるからだ。

(でも、素直にコイツが聞いてくれるかどうか……)

 現時点での最大の問題点がソレだ。
 エヴァもそうだったが、この男は自分とは違う考え方を持って行動を起こしている。
 その為なら他の参加者を平気で殺すだろう。
 それは己の騎士道に反する行為だった。

「おい、お前!」

「?」

 だが、何もしないよりはいい。
 まともな交渉なんてやった事は無いが、お互いのメリットを考えれば向こうも納得してくれる筈だ。
 そう信じたい。

「私情を挟んでるのは百の承知だ。でも、私は帰らなきゃならない!」

「さっきまで死にたがってたくせによく言うぜ」

 男は片手を挙げて構える。
 彼は大帝に素手で挑むつもりだった。

「私は碌に動き回ることができない。そしてお前は碌な武器を持っていない。違うか!?」

「……!」

 図星だった。
 素手で立ち向かっているからこそ、バレる要素ではある。

「協力してくれ! 寧ろお前としても私としてもメリットはあるはずだ!」

 確かに、魅力はある。
 巨大ロボという力強い戦力。
 今、ケーブルなんて代物しかない状態では確かに破壊力のある武器が欲しいとは思う。
 少なくとも似たような支給品を引き当てた相手と戦う場合には、だ。

 そして同時に、向こうは自分という『足』を確保する。
 これで大帝というデカブツをわざわざ出す必要も無くなる。
 完全にフォローできるとまでは言えないかも知れないが、体中がボロボロな状態でも移動を行うことができる。

「俺のカードとお前のカードが釣り合ってる、と?」

「悪い条件じゃないと思う。ただし、殺しは避ける。その方がお前だって動き易い筈だ」

 殺しはなし。
 確かに『やる』か『やらないか』なら後者の方が楽でいい。
 現にさっきレイチェルをどう『処理』しようかと考えた時、自分は楽に済むであろう後者を選んだ。
 しかしソレはあくまでこのボロボロの少女が脅威になると思わなかったから。

 しかし少女の考え方は甘い。
 虫唾が走るほど、甘すぎる。

 少なくとも、カイトはそう思った。

 この6時間でゲーム脱落者は既に10名。
 その中では身内であるトリガーが含まれているどころか、自分の知る中では相当な実力を秘めていると思っていたリメイカー、リットといった名前も含まれている。
 逆に言えばソレは、『そんな連中を殺せる奴が乗った』という事を意味していた。

「……ガキめ」

「!」

 思わず口からそんな言葉が漏れた。
 既にゲーム全体の流れは殺すか殺されるかの2択になっている。
 ゲームから抜け出す方法を考える参加者もいるかもしれないが、それにしたって考え方が甘い。

「もうゲーム全体での『元実力者達』が殺され始めている。その馬鹿みてぇなパワーロボ出したらそいつ等に見つかるのがオチだ」

 それに、

「火の粉は消す。もう二度と発火しないように」

 言い終えたと同時。
 レイチェルの視界にいる神鷹・カイトの姿が『ブレた』。

「!?」

 来る。

 直感的にそう感じて大帝の腕を動かそうとする。
 だが意識でそこまで理解しているのと同時、

(な、何だコイツ――――!?)

 戦慄した。
 エヴァと相対したときに味わったものとはまた別の恐怖。

 簡単に表現するならソレは『未知との遭遇』に等しかった。

 カイトが動き度に空気が切り裂かれ、大地に旋風が走り、その身に圧倒的な殺意をぶつけられる。
 こんな『相手が動くだけで感じる戦慄』は経験したことが無かった。

 蒼龍騎士団としての主な活動は、主を守ることだ。
 その為に迎撃される対象は主に格下が多い。
 人間が蚊を見かけたら叩き落すような、そんな感覚だ。
 しかしそんな害虫を駆除する騎士活動では相手にした事の無い肉食動物が、どんどん迫ってくる。
 一気に加速して、大地を蹴り、巨大な大帝のボディを次々によじ登っていき、近づいてくる。
 その動作一つ一つに、まるでモンスター映画に出てくる未知の生命体を髣髴とさせるモノを感じた。

 一重に同じような志を持っているエヴァとカイトの圧倒的な違い。

 それはレイチェルを『教育するつもり』か『消す』つもりかという違いだった。

(に、逃げなきゃ……)

 何処に?
 圧倒的な殺意を真正面から受け止める形になったレイチェルはそこに気付く。
 今の自分は大帝の肩の上だ。
 しかも体中ボロボロでまともに動けやしない。


 逃げ場なんて、何処にも無い――――


(コロ、サレル――――?)

 直感的に、そう感じた。
 意識がブラックアウトする。
 ソレと同時、素早い動きを捉えようとしていた大帝の動きが完全に停止した。

(取った!)

 その状態を確認すると、カイトは真っ直ぐレイチェルの首を狙いに行く。
 例え武器を没収されていても、その指だけで何人も葬ってきた。
 それ故に、今度も確実に葬るつもりでいた。


 ○


 ――――障害になりそうな人物ならば、即排除です。今回のこの男は、不運だったと言わざるを得ないですが


 どうして姉上はあんな事言ったんだろうって、最初は思ってた。
 でも本当に、一番に望んでたことはこのゲームから自分たちが脱出することで。
 その為に邪魔になる連中は排除しなければならなかった。
 例えば、ゲームに乗った殺人者や、企画をした灰楼。
 彼らを倒さなければこのゲーム内での安息は無い。
 それは誰もが判る簡単な方程式だ。


 ――――お前はいいよな。メソメソしている余裕があるんだから


 ゲーム会場で出会った男からは、そんな事を言われた。
 だって仕方が無いじゃないか。
 人がどんどん死んでいって、自分が騎士であることすら忘れてしまうそうな悲しいことが起きた。
 哀しみと苦しみで、消えてしまいたいと始めて思った。
 でも、ソイツと言葉を交わして多少楽になったのもまた事実だった。
 姉上がなんで『あんな事』したのか、何となくわかったから。
 どんなに変わっても姉上は自分たちのことを第一に考えていてくれたんだって、理解したから。


 でも御免なさい。
 御免なさい姉上、主、そして妹たち。


 私がふがいないせいで姉上は死んじゃいました。
 私が強くないから姉上は潰れちゃいました。
 私が未熟だったせいで、姉上を殺しました。

 妹たちはどんな目で私を見るだろう。
 アステリアさんたちはもう私に笑いかけることは無いかもしれない。
 本当に大事なものを、私は自分の手で握りつぶした。

 私に騎士を名乗る資格は、ない――――



 ――――レイチェル


 姉、上?


 ――――何時までもダダを捏ねないで、ちゃんと主の下に帰るんですよ?


 背中から心地よい温もりが広がってくる。
 まるで誰かが背中から包み込んでくれるような、そんな温もりだ。


 ――――いいですか? 私が居なくなったらお前が妹たちを纏め上げてアステリアさん達を無事にこのゲームから脱出させるんです。出来ますね。


 ……私に、出来るかなぁ


 ――――やるしかないでしょう? もうレイチェル以外に私の代わりを務めれる者はいませんから。それに、


 そんなにボロボロでも、新しい血を見たら自然と身体は動くでしょう?




 指の爪先がレイチェルの皮膚に突き刺さるのと大帝が急に動き出したのはほぼ同時だった。

「!」

 右肩の上に上ってきた外敵の駆除の為、大帝の腕が加速する。
 その勢いは最初に自分を捕まえようとした動きとは比べ物にならない物だった。

 それ故にカイトは一気にレイチェル殺害を試みる。
 コンマ1秒の勝負だ。
 大帝の手が届く前に彼女の首を体から切り離すことが出来れば、自動的に大帝も動きを停止する。

 そう睨んでいた。

「うああああああああああああああああああああああああ!!」

「!?」

 レイチェルの目が見開かれると同時、いきなり腕に噛み付いてきた。
 首からの出血を物ともしない動きに若干の戸惑いを覚えるカイトだが、

(にゃろ、ボロボロな身体でも俺の腕一本を全力でガードにかかりやがった!)

 噛み付き、そして予想だにしなかったボロボロな身体での『パワー』。
 しかもこの腕――――義手はエリシャ戦もあり、『ガタついていた』。

(くっ、思ってたよりもがたつきやがる! 歯ぁ頑丈すぎだろ。ワニかコイツ!?)

 事実上、口とボロボロの身体で押さえにかかってきている。
 それならもう一本の腕で切り落とせばいい話ではあるのだが、

「!」

 大帝の腕がもう、すぐ其処まで来ている。
 義手は自分の意思で切り離しは出来ない。
 戦いの途中で外れたりしないように、くっつけてもらったからだ。
 だがその義手は今、レイチェルによって固定されてしまっている。

 今度は自分が逃げれない。

 だが、

「負けねぇええええええええええええええええええええええ!!」

 ハゲタカが吼えると同時。
 彼は残された生身の腕で大帝の拳をガードにかかる。

 否。

 拳一本。
 残されたその武器で大帝と『ぶつかり合う』つもりだった。
 誰がどう見ても馬力が違いすぎて勝負ならないこの戦い。

 何故彼はそうしようとしたか。
 だって彼は現実主義だった筈だろう?
 何でこんな無謀な勝負に自分から立ち向かう?

(何で――――?)

 興奮で再び己の血に中てられたレイチェルは、おぼろげに覚えているあるビジョンと今の光景が重なって見えた。
 『あの光景』はガードで違いはあるが、その影は見間違うことも無い。

(姉、上――――?)

 理解したと同時に頭がクリアになる。


 自分が先頭に立たなければならない。
 『一番』として。
 エヴァはその立場を全て自分に譲ってきた。

 でも彼は?
 もし彼の後ろにある大事な『モノ』が自分と同じように託せるモノじゃなくて、本当に自分しかいないとしたら。

 他に信じられるものが無かったとしたら――――?

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 口でくわてていた手刀を思わず離し、彼女も絶叫する。
 目の前に居る奴は命を狙ってきた奴だ。
 でも『姉上と同じ目』をしているこの男がこのまま行く末路を、ただ黙って見ることを、彼女の本能が許さなかった。


 ○


 少女が力なくその場でうな垂れると同時、大帝の姿は消えた。
 無事に着地し、その状況に思わず面食らったのがカイトだったが、

「できない……できないよぉ」

 消えてしまいそうな声でそう呟く少女の声が、やけに耳に届く。

「騎士として、やっぱりこんな事間違ってるよ……自分たちだけ生き残れば良いなんて、そんなの違うよ」

 再び地面に叩きつけられ、全身打撲。
 今度こそ自力で立ち上がれることは無い。
 次の手を出せば確実に首が飛ぶことになるだろう。
 だが、少女はこれから殺されることに恐怖しているのではない。
 そんなの一目見ればすぐ判った。

「皆に白い目で見られても……姉上の期待を裏切っちゃうかもしれないけど……それでも違うよ」

「…………」

 片手を押さえつつ、カイトがレイチェルを見下す。
 今、彼女の命は彼の手に委ねられている。
 今度こそ殺そうものなら確実に殺される。

「……お前のいう事も一理あるよ。私はガキさ、でもガキみたいな理想を叶える事だっていいじゃねぇか」

「……その巨大ロボ使って適当に暴れてたら勝てたかもしれねぇぞ。そうして優勝だって狙えたんじゃねぇのか?」

「それは、私の騎士道が許さない……!」

 今にも死にそうな、小さな体。
 しかし訴えかけてくる瞳には大きな力が宿っていた。

「あくまで『騎士道』、か。俺とは合いそうにねぇや」

「いいよ、それでも。私の騎士道なんだから」

 それもそうか、と納得しながらカイトは空いている腕を少女に伸ばす。
 その身に受けて理解している。
 この腕は武器が支給されてなくても立派な凶器だ。
 振り下ろされたら自分はすぐさま真っ二つになってしまうだろう。

(さようなら、皆――――!)

 目をつぶる。
 せめて出来るだけ痛みを感じないために体中の力を思いっきり抜いて、楽に死のう。



 と、そんな時だ。



 ぐいっ


「え?」

 身体を持ち上げられた。
 服の一部分を引っ張られて、ぷらんと持ち上げられる形。
 持ち上げた張本人――――カイトは無愛想な顔できょとん、としているこちらの顔をのぞいてくる。

「ったく、本当にこのゲームのガキは碌なのがいねぇな。親の面拝見したいもんだ」

「な、え――――?」

 てっきりこのまま殺されるかと思ったレイチェルは、全く予想だにしない展開で呆気に取られている。

「……ちょっと俺も腕の修理がしたい。お前の方は病院でいいか?」

「え、あ――――うん」

 思わず頷いてしまう。
 一体どういう展開なのだコレは?

「……殺すと思ったか?」

「……思った。ていうか、死んだと思った」

 まともに動きそうな身体を片手一本で担ぐ形でカイトがレイチェルに問う。
 それに応えるレイチェルの反応を見て、彼は『だろうな』と答えた。

「負けたよ。俺の、負けだ」

「え?」

 いきなり負けを認められた。
 本当に思っても見ない展開だった。

「どんな形であれ、俺はお前に命を拾われた。それを忘れる俺でもない」

「…………」

 意外だった。
 もっとゲームに食い込んで、殺しに来ると思っていた。
 その為に手段を選ばない奴なんだと、そう感じていた。
 いや、事実手段を選ぶつもりは無いだろう。
 簡単に言い直すのなら――――このゲーム会場で、恩義、義理と言ったものを感じる事が出来る奴なのだとは思わなかった。

「じゃ、じゃあ……」

「ゲームが終わるまでの間だけだ。協力してやる」

 少しだけ希望が見えてきた。
 本当に、ほんの少しだけの小さな希望。

 姉を失い、身体はボロボロで全てを失いかけた。
 でも強力な味方を得ることはできた。
 幾つ物不安要素は残っている。

 だが、何とかなるかもしれない。
 そんな気がしてきた。

「私、蒼龍騎士団のレイチェル。お前は?」

「……好きに呼べば良い。名簿では神鷹・カイトで載ってるが」

「じゃあカイト! カイトか! うん、宜しくな!」

「……何でボロボロの癖して嬉しそうなんだテメー」



 ――――姉上、私が失ったものは多いです。
 でも、この暗闇のゲーム会場で少しだけ光が見えた気がします。
 私のやり方は確かに、姉上や彼から見たら甘いのかもしれません。
 しかし、もう少しだけダダを捏ねさせて下さい。

 私のこのやり方できっと、主の下に帰って見せますから――――!





【展望台跡 レイチェル@T.C UnionRiver】
[状態]:全身打撲、足に切り傷、首に切り傷
[装備]:大帝@リレッド(だれかや!)
[道具]:展望台が破壊された際失う(自分の道具を使って名簿等を確認するのは不可能)
[思考・状況]
基本:ゲームに乗らず、脱出を図る
1、カイトと協力体制に。
2、身体のダメージは深く、激しい運動は制限される
3、精神的にやや吹っ切れる
4、病院へ向かう


【展望台跡 カイト@紫色の月光】
[状態]:頭部と右腕にダメージ
[装備]:ケーブル@トーイ(だれかや!)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:ゲームからの脱出を図る。エリシャとは別にレイチェルとも協力体勢
1、レイチェルと協力。
2、首輪の解除をしたい
3、ケーブル以外での首輪の解析をしたい
4、爆弾に関して幾つか考察
5、目的達成の為なら殺人実行も躊躇わない
6、昼の12時に映画館へ行く
7、病院へ移動
8、腕の修理を行いたい

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最終更新:2011年03月02日 02:25