やれやれ、
開会式から騒がしいもんだな、この学校は。
???「しょーぶやー!」
どこからか女のにぎやかな声が聞えてきた。
何事だ。
首を回すと、声の主であろう人物を見つけることができた。
遊佐「あそこで仁王立ちしてるのは……誰だ」
中島「あー、きっと三年の武僧先輩だぜ」
競技すら始まっていないのに中島はなぜか包帯だらけだ。
遊佐「ああ、なんだ。あの人はまた誰かに勝負をけしかけてんのか?」
遊佐「まったく、飽きないな武僧先輩は」
中島「まーそう言うなよ遊佐」
中島「それが無邪気でかわいいって言う奴もたくさんいるんだぜ?」
遊佐「ふーん。そんなもんかね」
中島「なーにがあったんだろな……どうせいつものことだろうけど……」
遊佐「気になるんなら直接聞いてくればいいだろ?」
中島「え? そう? やっぱ?」
中島「じゃあオレちょっと先輩んとこ行ってくるわ。こんなチャンスめったにないですからね」
中島「へっへっへ……『口先の魔道士』の異名がうなるぜ」
遊佐「ん、おお、そうか。笑い方がキモいががんばれよ」
中島「えーっと最初の一声は何がいいかな……って、セリフかんじゃったら大変だからな」
中島「ちゃんと唇はぬらしておかないと……ああ、あとは気合を入れるために指を鳴らしておかなきゃな」
中島「さて準備完了!」
中島はべろべろと舌で唇を舐めまわし、手をワキワキさせながら武僧先輩に歩み寄る。
どう見ても変態だった。
中島「武僧先輩、どうしたんスか?」
ポン、と中島がやさしく武僧先輩の肩にふれた瞬間だった。
武僧「てやぁ!」
ブンッ!
と空気を切るゴツい音と共に、武僧先輩のバックハンドブローが中島の顔面に叩き込まれた!
中島「なぜだああぁぁ――!」
俺は今日二回目の発射となるSAN(サヌ。地対空中島。Surface-to-Air-Nakajhima)をぼんやり見ていた。
本日は晴天なり。
時々、中島がふるでしょう。
武僧「あ、しもた。まーたやってもうたわ」
なははは……
と武僧先輩はちょっと困った顔で、でも笑いながら言った。
武僧「あたしったらダメやなー」
武僧「なーんや知らんが体さわられると反射的に反撃してしまうねん」
武僧「これ、なんていうんかね……」
遊佐「……特性?」
武僧「そうや、特性や。あんさんぴったりなことば知ってまんなー」
武僧「……って、だれかと思えば遊佐くんやないか」
遊佐「ちわっす」
俺は軽くあいさつをする。
頭を上げると、俺はざっとその場を見回した。
全部で一,二……三人の女の子が、武僧先輩の前に立ちはだかっていた。
ていうか武僧先輩、何人に勝負けしかけるつもりなんですか。
しかも何だ?
よく見たらそれぞれの
部活動のエースの人たちばかりじゃないか!
ぬぬ。これは穏やかな場面じゃないぞ!
一体どういうことなんだ、武僧都!
武僧「誰が実況しろっちゅった」
ゴスっ!
すかさず武僧先輩の裏拳ツッコミが飛んできた。
遊佐「痛いっスよ武僧先輩……」
武僧「ツッコミは大阪人のたしなみや」
得意げに胸を突き出す武僧先輩。
むむ、どうでもいいがやはりこの人……
乳デカい!
うんうん、やはり爆乳とはこの人のようなものを言うのだろうな。
ありがたや、ありがたや。
遊佐「ていうか先輩ここで何してたんですか?」
遊佐「まさか、この方々全員に勝負を挑もうと?」
武僧「もちろんや。みんなバリスタに出るみたいやからな」
武僧「どうせやから歴戦の猛者をあつめたんや」
武僧「その方がしょーぶのしがいがあるってもんやろ?」
そりゃまぁ、各界の著名な方々でございますから勝負のしがいはあると思いますが……
武僧「そういや遊佐くん。例の話考えてくれた?」
遊佐「うっ……空手部に入部せんか? って話ですか?」
武僧「そうや。遊佐くんはなかなか筋がええ」
武僧「空手なんか感覚でクキャキャ! ってやったったらええねん」
遊佐「……それでいいんですか」
武僧「そうや」
武僧「ボッフーン(レタス)→ギュンギュンギュンギュンギュン(乱撃)→ドカーン!(核熱)」
武僧「……ってのが空手の真髄なんや」
……武道すらかじったことのない、もやしくんの俺でもこれだけは言える。
んなわけがなかろう。
武僧「最初のボッフーンって何なんですか」
武僧「それに心なしか最後何かが爆発したように聞えたんですけど」
ふとした疑問だ。
武僧先輩は腕を組んで真剣に考え込んでいた。
閉じた口からチラッと八重歯が見える。
めずらしい。
武僧先輩にしては思考時間が長いぞ。
武僧「うーんそれはなー」
おお?
初めて武僧先輩からまともな答えが返ってくるんだろうか。
唾を飲む俺。
しかし、
武僧「よん?」
遊佐「……」
俺は肩を落とした。
遊佐「もういいです……」
武僧「にゃー……」
いいんだ。武僧先輩はこれだからいいんだよ……あはは……
うっ……くぅ……
遊佐「って、なんでそんなことで泣いてるんだよ俺は!」
武僧「にゃー?」
???「ちょっとちょっとー!」
???「何君らだけで話進めちゃってるのよ」
???「ボクたちを置いてかないでよ、置いてかないでよ!」
遊佐「誰だ」
と言ってもこんな変な喋り方するやつなんか一人しかいないんだが。
遊佐「井草。お前その喋り方なんとかなんないのかよ」
遊佐「二回も繰り返さなくてもわかるって」
井草「しょうがないじゃん。ええっと、ええっと」
井草「ほら。遊佐も言ってたでしょ。なんだっけ」
遊佐「……特性?」
井草「そうそれ。これが性(さが)ってやつなんだろうねー」
武僧「そうや。特性っちぅもんはそう簡単に直せるもんやないで」
と言って井草と武僧先輩は豪快に笑った。
なんというか、二人とも元気ハツラツって感じだ。
???「……」
そんな井草たちを凛とした表情で見つめる女の子がいることに気付いた。
村崎龍子先輩。
通称「リューさん」だ。
遊佐「リューさん。こんちゃっす」
長身痩躯なかっこいいお姉さまだ。
その容姿に下級生たちはメロメロだとかなんとか。
村崎「ああ。あの時は世話になったな遊佐君」
村崎「練習の片付けを手伝ってくれて
ありがとう」
遊佐「いえ。当然のことですから」
村崎「そうか。すまないな」
武僧「なんや、遊佐くんはリューちゃんとも知り合いやったんか」
村崎「ああ。色々とあってな」
俺とリューさんは目を合わせると、何となく静かに笑い合った。
遊佐『治安が悪いなんて聞かされたら、先にひとりで帰るなんてできませんよ』
村崎『む、逆に気を遣わせてしまったか』
村崎『これは一本とられたな』
【wikiのリューさんSSからの引用。問題があれば「意見など」にてお願いします】
あの時の会話でも思い出しているのだろう。
早乙女「ほう。遊佐は知り合いの輪が広いのだな。少し意外だぞ」
振り返ると、早乙女不二子が感心したような表情で俺を見ていた。
???「……主人公……なんやから当たり前……やろうが」
遊佐「ん?」
今、どこからか言ってはいけない言葉を聞いた気がするぞ。
見回すと、武僧先輩の後ろから隠れるように様子をうかがう女の子がいることに気付いた。
チラッと見える顔はなぜか真っ赤だ。
確か、久々津舞さんといったか。
とんでもなく恥ずかしがりやな子で、空手部の一年生だったかな。
遊佐「や。久々津さん」
俺が声をかけると、もじもじとまた武僧先輩の陰に隠れてしまった。
が、
遊佐「あれ?」
犬のしっぽのようにひょこひょこと赤い人形が見え隠れしている。
手にすっぽりと人形をかぶせるマペットという人形だ。
いや、久々津さんによれば人形ではなく「親友」らしいけど。
遊佐「おー、マトンくんも元気そうだな。最近調子はどうだい?」
久々津さんに向かって話しかける。
だが、あくまで喋っているのは「マトンくん」なのだ。
マトンくん「ボチボチでんなー。しっかし自分もうらやましいなー」
マトンくん「こんな真昼間っから若いおねーちゃんに囲まれて幸せモンやないか」
またひょこっと人形が出てきた。
マトンくん「両手に花ってレベルやないでー!」
遊佐「相変わらずマトンくんがいるとはっちゃけるなぁ、久々津さんは」
久々津「そ、そないなことあらへんで」
久々津「マトンくんが勝手に盛り上がってるだけや」
久々津「物静かなうちはえらい迷惑かぶってるんやで……」
マトンくん「んなアホな。遊佐はんがおるから自分モジモジモジモジしとるんとちゃうんか?」
マトンくん「遊佐はんは顔だけならえろう男前やからなぁ」
久々津「ちょっとマトンくん! 何言うとるんや!」
遊佐「マウッ!」
マトンくんの頭、もとい久々津の拳が俺の腹に叩き込まれた。
遊佐「な、なぜだ……エゥ」
久々津「マ、マトンくん!」
久々津「そないありえへん話をしたらあかんで……」
久々津「罰としてマトンくんにはお仕置きや……」
遊佐「お、俺の腹はマトンくんへの愛のムチに耐えられるほど丈夫にできてないのですが……ムゥフ」
なぜ俺は体育祭の日にこんなところで悶絶土下座をしているんだ……
っていうかあの状況からなんでこんな展開になってんの!
ありえねえだろ、常識的に考えてさ!
???「――ぁぁぁあああああ」
その時だ。
俺はなぜかフェードインしてくる悲鳴を聞いた。
俺は空を見上げる。
あれ、なんだ。俺の真上に小さく光るものが……
ドップラー効果とともに降ってくるその悲鳴は……
って、あれ、ドップラー効果? まさか、
中島「ああああ遊佐ぁぁぁああオレを受け止めてくれええぇぇぇ!」
遊佐「な、中島ああぁぁ――!」
本日は晴天なり。時々、中島がふるでしょう。