• 朝=武僧さん、校門で倒れてる。お腹すいたにゃー↓に続く
  • 昼=皆で昼食。舞&都&村崎先輩ー選択肢
  • 放課後=部活ー選択肢
  • 下校(夕)=皆で下校。部活の話。後半しのぶ


●7月17日(火) 校門前 朝

いつものように登校して来ると、なにやら校門前に数人の生徒が群がっていた。
大丈夫ですか?とか誰かが声をかけているのが聞こえた。
どうしたんだろうと生徒の隙間から様子を窺うと、なんと武僧先輩がうつ伏せで倒れていた。

【俺】「先輩!武僧先輩、どうしたんですか!?」
俺は駆け寄り、武僧先輩の肩を揺すると、武僧先輩は軽くうめき声を発した。
どうやら気を失っているだけのようだが……。
周りにいた人に事情を聞いたが、みんな顔を横に振りわからないと言った。

そのうちの一人の女子生徒が遠慮がちに口を開いた。
【生徒】「あの……、小柄な女の子が校舎の方へ走っていくのは見ました」
【俺】「小柄な女の子?」
聞き返すと女子生徒は、はいと答え頷いた。
その子が人を呼びに行ったのだろうか……。
小柄……か。

【都】「うぅ……、遊佐君?」
【俺】「はい、そうです!ここにいます!大丈夫ですか!?」
さっき軽く揺すったおかげか、武僧先輩が気がついた。
とても弱々しい声で俺の名前を呼んだ。
武僧先輩は、俺の名前を呼び続けながら重々しく手を上げる。
俺はその手をしっかりと握り締め、自分の存在を伝えた。

【都】「……遊佐君、あたしは……もう、ダメ……や」
そして、その言葉を最後に武僧先輩の手から力が抜けた。

【俺】「あ、ああぁ!武僧せんぱーーーーい!」
【???】「朝っぱらから、何コントをやっているんだね、君達は」
半ば厭きれた声で、しかし凛とした声がした。
声の主を確認しようと振り返ると、そこには村崎先輩がやはり厭きれた顔をして立っていた。
村崎先輩は大きく一度ため息をつくと、鞄の中を漁り始め、
銀紙に包まれた拳大の物を取り出し、武僧先輩に放り投げた。
それは武僧先輩の頭に当たり、ボスッっと鈍い音を立てて顔の前に転がると、
武僧先輩はその匂いをクンクンと嗅ぎ出した。

【都】「にゃ!」
武僧先輩の目が見開き、握っていた手を振りほどくと銀紙を破きだした。
すると中からお握りが現れ、それに勢い良くかぶりついていた。

【俺】「あの……、村崎先輩。これは?」
【村崎】「ああ。大方、お弁当を作ってる時に摘みはしたが、
     ちゃんと朝食は取れなかったというところだろう。
     たまにあるんだ、気にするな」
村崎先輩は、やれやれともう一度ため息をついた。
武僧先輩はその話を聞いていたようで、「正解!」とお握りを食べながら言った。

村崎先輩は集まっていた生徒に、「君達は1年生かい?彼女なら気にしないでくれ。
安心して教室へ向かってくれ」と事情を説明していた。
なるほど、だからか。
武僧先輩が倒れているのに、気にもしないで通りすぎていく人をちらほら見かけていた。
倒れている理由を知っていたのか。

【村崎】「今年は初か。校門で倒れているのは」
【俺】「そんなにしょっちゅう倒れるわけじゃないんですね」
【村崎】「うむ、流石にな。年に2回3回くらいだ。
     どうだ、都。少しは腹の足しになったか?」
武僧先輩は満面の笑みで、うんと頷いた。

【舞】「みぃ姉ー!食べ物持ってきたよー!」
久々津さんが校舎の方から駆け寄ってきた。
久々津さんの手には、購買部で買って来たと思われる食べ物を持っていた。
そして、武僧先輩の現状を理解すると村崎先輩にその食べ物を差し出した。

【舞】「村崎先輩、有難う御座います!これ、みぃ姉の朝ごはんの代わりに……」
【村崎】「いや、構わない。それより、それも都に与えておけ。
     お握り一つじゃ、昼間で持たんだろうしな」
【舞】「良いんですか?じゃあ、みぃ姉。村崎先輩に感謝して、これもお食べ~」
【都】「ありがとー、リューちゃん!
    あたし先に行っとるでー!」
そう言って久々津さんの持っていた食料を奪うと、校舎の方へ走り去った。

【舞】「はぁー」
珍しく久々津さんがため息をついている。

【村崎】「ははは、子守り役も大変だな」
【俺】「お弁当作るだけの余裕はあったのに、朝食を食べなかったなんて珍しいですね」
【舞】「みぃ姉は基本的に寝坊はせーへん人なんどすが、あいさに寝坊しなはります。
    せやけど、お爺様の朝ごはんも用意せなあかんから、
    お弁当だけはそのついでにしっかり作りなはる」
【村崎】「お昼抜きほど、我々運動部の者が堪えることもなかろう。
     都の場合は、それ以前だが」

【しのぶ】「はいはい、そんなところに突っ立てないで、さっさと教室に行ってねー。
      もうすぐ予鈴がなるよー」
俺達がそんな話をしていたら、甲賀先輩が登校してきた。
予鈴がなるよーって、予鈴ギリギリに登校ですか?生徒会長。

俺達は慌てて教室へ向かった。


●同日 学校中庭 昼

【俺】「朝は何事かと思いましたよ」
お昼休み。
俺は昨日と同じく、久々津さんに連れられて中庭で一緒にお昼を取っていた。
武僧先輩がお弁当を沢山作ってきてくれていたので、
自分のパンをかじりつつ、ご相伴に預かっている。
これだけ余分に作ってきていたのなら、朝に食べれば良かったんじゃなどと思いつつも、
お陰で武僧先輩の手料理に舌鼓を打つ事が出来るのに感謝をしていた。

【都】「にゃはは、恥ずかしい所を見られてしもた~」
【舞】「昔からなんどすえ、お腹が空いて倒れはるんは。
    みぃ姉のお家の道場で、稽古をしなはっとる時も、
    寝坊して朝ごはん抜いた日は必ず倒れはるんよ」
久々津さんは、まったくもう……とうんざりしている。

【都】「にゃはは……」

【???】「ここにいたか」
【舞】「あ、村崎先輩!」
振り返ると村崎先輩が自分のお弁当を抱えて立っていた。
久々津さんが、空いている所をポンポンと叩き、ここへどうぞと促す。
村崎先輩はそれに答え、邪魔するぞと言って座った。

【俺】「こんにちは、村崎先輩」
【村崎】「うむ、こんにちは。
     朝はありがとう、都を心配してくれて」
【俺】「いやはや……、ははは。
    誰だって心配しちゃいますよ、校門で倒れていたら……」
【村崎】「そうだな。都はまわりに心配かけすぎだな」
【都】「……ごめんなさい。
    せや、朝貰ったお握りのお礼に、たんとつまんでや~。
    遊佐君も遠慮せんと、どんどん食べてや。
    男子高校生がパン1個やなんて、寂しすぎるでぇ?
    これ前にも言ったなぁ」
武僧先輩は重箱の一つを取り、俺に勧めてきた。
お礼を言ってから取り皿に取ろうとすると、「そんなちびちび取らんと」と箱ごと押し付けた。
俺は苦笑しながらも、重箱を受け取り、少し遠慮がちにそのまま頂いた。

【村崎】「ははは。
     確かに君は少し細身のようだ。
     きっとこれからも都はお弁当を作ってくれるだろうから、
     それを食べて肉を付けた方が良いな」
【俺】「そんなに細いですかね……」
そういうと、村崎先輩は俺の腕を握り肉付きを確かめ始めた。
プニプニの二の腕を揉むと、ニヤリとする。

【村崎】「フフ……。この腕じゃ、舞と腕相撲しても勝てんな」
【俺】「えぇ!?いくらなんでも、久々津さんには勝てますよ!」
【舞】「ほなら、試してみます?」
久々津さんは自信有り気に腕まくりをした。
その腕は、か細く、日焼けもしていないので白く尚更華奢で、見るからに弱々しい。
ふっ、男の俺がこの腕に負けるはずが無い。
村崎先輩はいささか俺を見くびり過ぎだぜ。

【俺】「クックック、確かに御二方に比べれば貧相なのは認めましょう。
    だがしかーーーーし!
    そのか細い腕で俺に勝つなど、あり得ない!」
【都】「にゃはは、言ったな遊佐くーん。
    ほな、あたしが審判するで~?
    そこ寝そべったってやー」
武僧先輩が戦闘態勢を作るように促し、そして俺と久々津さんの手が合わさる。
武僧先輩は双方の手を覆い、戦闘準備を整えた。
俺の手は緊張で手が若干こわばるが、久々津さんはニヤリと余裕の笑みを浮かべていた。
なぜあんなに余裕があるんだ?
なにか秘策でもあるのか……?

【都】「レディー……」
お互いの手がしっかりと握られる。

【都】「ゴー!」
開始の合図と共に一気に押し倒す!
たとえ相手が年下の女の子だとしても、容赦はしない。
大人気ないなんて言わせない。コレが勝負の世界さ!
俺はありったけの力を込めて押していた。
……はず。
なのに、ピクリともしない!?
なぜだ!?
久々津さんの表情は緩い。
こんなのへの河童とでも言うかのように、涼しい顔をしている。
グッと肩に力を入れるが、若干倒れたくらいでそれ以上が難しい。
そのうち力尽きて、また出発点に逆戻りを繰り返す。
俺の体力は徐々に削られ、そしてとうとう拳を地に付けられてしまった。

【舞】「やったー!
    遊佐先輩もまだまだどすなぁ」
久々津さんは力を誇示するように、小さな力瘤を見せ付けた。

【俺】「……そ、そんな馬鹿な。そんな馬鹿な事が……」
【都】「にゃははは、舞の勝ちー!」
【俺】「なぜ!なぜ俺は負けた!?」
【村崎】「ふふっ。少し意地悪が過ぎたかな。
     確かに力では遊佐君の方が勝っている。
     ……が、力の使い方に問題がある」
村崎先輩は不敵な笑みを浮かべ俺に言った。

【村崎】「君は無駄な力を使いすぎているんだ。
     確かに、力で押し切る事も場合によっては可能だろう。
     ……君の力がもう少し強ければの話だが。
     舞はこう見えて、人形遣いをしている。
     何キロもある重たい人形を自由自在に操る事ができるんだ。
     本来は男性が扱う物だから、相当の負担になるだろう」
【俺】「人形……遣い?」
【村崎】「ああ、人形浄瑠璃の人形を操る者の事だ。
     舞は傀儡子の家系で、先祖代々人形浄瑠璃を生業としている」
村崎先輩の説明で、俺はなるほどと頷いた。

【俺】「重い人形を操るには、力の弱い久々津さんにはコツがいると……。
    そしてそれを扱える久々津さんは、それの術を既に体得していて、
    力押しの俺じゃ受け流されちゃうって事ですね」
村崎先輩は満足気に、うむ!と頷いた。

【舞】「あはは……、そんな大げさな物じゃあらしまへんけど。
    でも、遊佐先輩よりは力持ちな自信はありますえ?」

※選択肢

1:「参った。完全に侮っていたよ」=舞 好感度UP
2:「くっ……」=都 好感度UP


※選択1

【俺】「参った。完全に侮っていたよ。
    俺が未熟だった」
久々津さんはニコリと笑い、「自分の愚かさを認めるのが大事どすえ」と言った。
俺に腕相撲で勝った事がうれしいのか、とても満足そうだった。

【舞】「その傲慢さを自覚したら、今日からうちが鍛えたはる。
    覚悟しぃ~、先輩!」
【俺】「……はい、お願いします」

※選択2

【俺】「くっ……」
【都】「遊佐君、悔しいか?」
【俺】「ええ、とても悔しいです……!」
【都】「……力が欲しいか?」
【俺】「ええ、力が欲しいですっ……!」
武僧先輩はニヤリとした。

【都】「ならばくれてやる!
    この世を力で支配せんとする者よ!」
【俺】「……おぉぉ」
女神は俺に微笑む。
その微笑が果たして善なる物なのか、悪しき物なのかはわからない。
しかし、俺は力を……。

【村崎】「何やってるんだ、お前ら」
冷静に突っ込まれた。

【都】「にゃはは!一度言ってみたかったんやー。
    けどな、遊佐君。
    空手部でちゃんと稽古をすれば、しっかり力は付くで~。
    せやから、今日から一緒にがんばろな?」
【俺】「押忍!頑張ります!」
この流れを大人しく見ていた久々津さんは、大きくため息をついてうんざりしていた。



※以下合流

その後、俺達はたわいない世間話をしつつ、楽しい昼食の一時を過ごした。


●同日 グラウンド 放課後(夕方でない)

放課後になりポツポツと用の無い生徒達が下校していく。
俺は今日から部活のため、体操着に着替えて校庭に出た。
今日も日差しが強く、ジリジリと肌を焼く。
部活日和ではあるが、少々暑すぎる陽気でもあった。

活動場所にはまだ誰も来ていなかった。
ぼーっと待っているのも新入りとしてどうなのだろうと思い、
とりあえず思いつく限りの準備運動を行っていた。

【俺】「ふんっ!ふんっ!ふんっ!ふんっ!
    おし、こんなもんだろう」
【しのぶ】「やあ、精が出るじゃないか。
      でも、張り切るのも良いけど、やりすぎはかえって毒だよ」
【俺】「あ、こんにちは、先輩」
下校途中にしては身軽な甲賀先輩がグラウンドの外に立っていた。
暑いのが苦手なのか、少々ダレ気味だ。
まぁ、これだけ暑いなら誰でもダレるか。
先輩は一度手を振ると、そのまま校舎の方へ引き返していった。
途中、村崎先輩と思しき人に鉢合わせると、なにやら話し、耳を塞いでぎゃあぎゃあ喚いている。
村崎先輩のお小言炸裂といった感じだろうか。

【舞】「遊佐先輩。何見てはるんですか?
    今度はしぃ姉の胸どすか?」
【俺】「ああ、甲賀先輩は別に。でも、村崎先輩は良いねぇ……。
    凛として、なんというか美しい。
    って、何言わせるの」
久々津さんはじとーっとした目で、「遊佐先輩が勝手に喋り始めただけどす」と言った。
この会話もパターン化してるなぁ。

※選択肢
1:「最近、久々津さんの苛めにも慣れてきたな、俺」=舞 好感度UP
2:「甲賀先輩と村崎先輩って仲良いの?」=変化無し


※選択1

【俺】「最近、久々津さんの苛めにも慣れて来たな、俺」
【舞】「苛め方がマンネリって事どす?」
【俺】「いや……、そういうことじゃなくて」
【舞】「先輩も変態どすなぁ。女の子に苛められて喜びはって」
久々津さんはそっと俺から目を逸らした。

【俺】「ちょ……、ちがっ……!」
俺が慌てて弁明しようとすると、クスクスと笑い出し「冗談どす」と軽く俺の背中を叩いた。

ああ、なんだろう。このほのぼのした雰囲気。
やっぱり、俺が久々津さん自体に慣れて来ているんだろうか。
それとも久々津さんが俺に慣れて来たのだろうか。

どちらにしても良い事だと思う、うん。
これから一緒に部活をしていく仲間だし、仲良くなれるときになって損はないさ。

【舞】「……何、一人でニヤニヤしてはるんどす?気色わる」
【俺】「なんでもないよ」

※選択2

【俺】「甲賀先輩と村崎先輩って仲良いの?」
【舞】「急にどうしなはった?」
久々津さんは首を傾げた。

【俺】「いや、アレ見てたらなんとなく仲良いのかなって。
    漠然と思っただけだよ」
【舞】「しぃ姉とみぃ姉と村崎先輩はとても仲良いどすえ。
    でも、逆に言えば……」
【俺】「……逆に言えば?」
久々津さんは首を横に振り、「なんでも無いどす」と言った。
その言葉と顔には、はっきりと拒絶が現れていた。
しかし、すぐにいつもの久々津さんの顔に戻り、村崎先輩と甲賀先輩の関係を教えてくれた。
とりあえず、仲が良いのは話を聞いてよくわかったが、
それよりもさっきの久々津さんの反応の方が気になって、
もはや俺がした質問なんてどうでもよくなっていた。


※以下合流

【都】「お待たせ~。さっそく始めよか」
【俺&舞】「お願いします!」
武僧先輩も集合し、今日から3人になった部活が始まる。
俺はバシッと両頬を叩いて気合を入れた。

【都】「遊佐君、気合入っとるなぁ。ええで~?」
【俺】「うっす!空手部に入ったからには、強くなりたいですから!」
【都】「にゃはは!せやな!
    ほなら、まずは準備運動をしっかりして、
    その後は基礎体力作りやで~」
【俺】「基礎体力作り……?」
【舞】「当たり前どす。どんな事にも土台が必要なんどすえ?
    それがしっかりせんと、なんも出来ひん。
    みっちり鍛えられておくれやすー。きひひ」
久々津さんが不気味に微笑む。
運動不足な俺は相当の覚悟で挑む必要がありそうだ……。

柔軟などの準備運動をして十分に体をほぐし、
ついでに正しい柔軟の仕方も教わった。
ちゃんとした柔軟をしておかないと、体を痛めてしまうらしい事を知った。
そして、基礎体力作りの一環として、まずはマラソンから始める。
学校の周りを走るという極普通に体力作りとして行われるものだが、
やはり走ることが一番手っ取り早いんだそうだ。
俺は走りきれなかったがな。

徐々に慣れる。と武僧先輩はやさしく言ってくれたが、
相変わらず久々津さんは冷たく、この程度も走りきれないんどすか~?と嫌味ったらしく絡んでくる。
構うだけの体力は当然無く、適当にあしらうと不満全開で不貞腐れた。

【舞】「つまんな~い」
【俺】「……勘弁してください」
【都】「にゃははは……。舞、今日は堪忍したってや~。
    本格的にやったのは初めてなんやし」
久々津さんの機嫌は直らないが、まあ今日は我慢してもらおう。
俺も我慢するから。

【都】「ちょっと休憩したら、筋力トレーニングをするでー」
【俺&舞】「はーい!」


●同日 グラウンド 放課後(夕方)

【俺】「うぐ……」
この日は殆ど基礎体力トレーニングで浪費した。
その結果、俺の体はぼろぼろになり、久々津さんの精神攻撃で心もぼろぼろ。
心はともかく、体はバリスタを乗り切った事で、多少自信があったのだが……。
考えが甘かったと言わざるを得ない。
俺はグラウンド端の芝生で、大の字で倒れていた。

【都】「にゃはは!まぁ、気落ちせんと、最初はこんなもんやで。
    舞だって……ふがっ!」
久々津さんは両手で武僧先輩の口を押さえた。
しかし、もう遅い。その先は用意に想像出来る。

【俺】「久々津さんも通った道か。
    俺はスタートを出遅れただけだ。
    すぐに追いついてやるぜ!」
【舞】「むむむ」
久々津さんは顔をしかめると、一瞬敵意をむき出しにしたが、
すぐに目を細め俺を見下ろし「やれるものならやってみろ」と言い放った。

【舞】「遊佐先輩が追いかけてきゃーはるなら、
    その分遠くまで逃げれば良いだけどす」
【俺】「久々津さんが頑張った速度の倍で追いかければ良いだけさ」
双方にらみ合い、バチバチと火花が飛ぶ。

【都】「にゃはは……。遊佐君、舞の良いライバルになったってやー?」
【俺】「任せてください!ライバルどころかすぐに追い抜きますよ!?」
【舞】「その強がりがどこまで持つか、楽しみにしとりますえ?きひひひ」

グラウンドが茜色に染まる。
全ての部活動は片づけを始めていて、学校は眠りにつく準備をしていた。
俺達は後片付けを既に終え、今日も一緒に下校する。


●同日 帰り道 夕方

帰り道は今後の部活の事や基礎の重要性について話し合った。
どうやったら久々津さんに勝てるかという話もしたが、結局さっきと同じ事の繰り返し。
双方一歩も譲らず、決着がつかずに罵り合い。
仲が良いのか悪いのかと、武僧先輩がちょっぴり困っていたのを見て、
「みぃ姉が困ってるのを見るのが楽しい」と久々津さんは笑った。

【都】「ほな、また明日なぁー」
【舞】「遊佐先輩、また明日~。絶対負けへんよー」
【俺】「お疲れ様でした、武僧先輩!
    久々津さん、俺はマジだぜ?やる時はやる男だ!」
それを聞いて二人は笑う。
そして、俺も笑った。
ちょっぴり悪戯好きの女の子と、時々?失敗するけどシッカリ者の先輩との
楽しく穏やかでのんびりとした生活が始まるのを感じた。
上手くやっていけそうな気がする。

俺達は互いに手を振り、それぞれの帰路についた。


●同日 帰り道2 夕方

相変わらず蝉の声がヤンヤンガヤガヤと大合唱を続けている。
そんなに大きな声で鳴くから、体力を使い果たし寿命が短くなるんじゃないか?
と、疑問に思いつつも、夕暮れ時になっても治まらない暑さで思考は続かない。

【俺】「なんか急に寂しくなったな」
【???】「なら、あたしが慰めてあげようか?」
声をした方を振り向くと、また甲賀先輩が立っていた。

【俺】「だから、突然声かけないでくださいよ。ビックリします」
【しのぶ】「あははは!ごめんごめん!
      いやー、なんかぶつくさ言ってたからさ。
      相変わらず独り言が多いねぇ、あんたは」
【俺】「久々津さんにも指摘されました。
    そういえば、以前に武僧先輩にも……」
【しのぶ】「だろうね。気がつけば、ブツブツ何か言ってるよ。きしょ!」
甲賀先輩は露骨に嫌そうな顔をして、俺をからかった。

【俺】「昨日もそうでしたけど、甲賀先輩の家ってこっちの方なんですか?」
【しのぶ】「ううん、違うよ。たまたま用があっただけ。
      その用事も済んだし、今から帰るところさ。
      んじゃ、そういうことで。バイバイ」
【俺】「あ、はい。お疲れ様でした……」
甲賀先輩は昨日同様に、マイペースに帰っていった。

【俺】「用って、この辺に何かあったかな。まあ……、どうでもいいか」


●同日 自宅自室 夜

今日は疲れた……。
これを毎日続けるとなると、大変だな。
自分の身が滅ぶのが先か、体力がついて慣れるのが先か。
どちらにしても、頑張らないとな。

けど、あの時感じた疎外感に似た不安は消えた気がする。
彼女達の輪に入れたって事なんだろうか。

まあいいや、とりあえず今は……寝よう。
最終更新:2009年03月22日 20:56