時は七月一四日土曜日、午後二時一五分。
○○市郊外。私立ヴァナ・ディール学園――体育祭。
 この学園の体育祭は、ただの体育祭ではない。
 人々は彼の学園の祭りをこう呼んだ。
『血湧き肉踊る体育祭』
 と。

―― 一年応援席。

久々津「マ、マトンくん……うち、緊張しすぎて今にも蒸発してしまいそうや……」
マトンくん「だっらしないで舞はん! うちの無限ケアルがあるやないか!」
青島「そのバグは想定外。修正すべきです」
椎府「へへ。あたしの不意だまコンボがうなるよぉ……」
弓削「だ、だめです! 勝手にひとをだまし討ちするのは校則違反ですよ!」
コルセール「Oh。Msリカ。ソレハ違いマース。ルールトイウノハ破るタメニアルネ。ナンデモヤッタモンガチデース……ククク」


 一年に一度行われるその祭りの最後を締めくくる爆発的な最強イベント。
 いや、その言い方は間違いだったな。


 ――三年応援席。

しのぶ「みんなー、熱くなりすぎちゃだめよー? 死人が出るからねー」
黒井「あら。そうは言いますが、甲賀さんこそ怪しげな触媒が体操着からはみ出ていますわよ? ふふふ」
音羽「み、みなさん落ち着いてください! 大丈夫ですから、私精一杯がんばりますから!」
村崎「音羽。まずはあなたから落ち着いた方がいい」
武僧「しょーぶやー!」


 誰もが、それをわかっていた。
もはや『あの競技』は体育祭とは別のフィールドにもうけられた一般規格外の『戦争』なのだということを。


 ――二年応援席。

遊佐「ついに来たな」
中島「ああ……いよいよだ」
早乙女「早乙女北辰一刀流開祖が娘、早乙女不二子。父上、どうか先立つ不幸をお許し下さい……」
毛森「不二子ちゃんどっかいっちゃうのー? ふ~じこちゃ~んま~ってくれ~」
晶子「操ちゃん、別にそういうわけじゃないよ……」
聖「ましろ。安心しろ。ましろは必ずこのわたしが護ると誓う。この宝剣、セイブザクイーンにかけて」
ましろ「う、うん。ありがとう聖ちゃん」
杏「バカ姉貴が……うざいんだよ。結局口だけで誰も護れないくせに」
井草「準備はいい? 各員役割の再確認を行うこと。アグレッサーチームとアサルトチームはボクに着いて来るんだよ?」
茜「……」(なぜかニコニコ笑っている……)



 その開幕を、ある者は今か今かと心待ちにし……
またある者は記憶を退行させ、今までの人生を走馬灯のようにながめていた。
息を呑む声が、あちらこちらから聞えた。

 いかん、だめだ。
じっとしていると緊迫するこの空気に飲み込まれてしまいそうだ……
 くそ、気をしっかり持て!
 自分の感覚を信じるんだ!

 応援席、観客席、本部、すべてがシン……と静まり返っている。

ポシュン。

嵐の前の静けさを破る間の抜けた音がほとばしった。
それは一発の打ち上げ花火の音。
あの花火玉がはじけた時、俺たちは学生という守られるべき立場を剥奪され、血で血を争う一匹の野獣となることを強制される。

 打ち上げられた花火玉から出る煙は、空に向かって一直線に伸びていった。
きっと、あの煙は境界線なんだ。
そう。世界には様々な線がある。
俺の頭上で「体育祭」はあの煙の境界線の向こうで終わっていた。
ラジオ体操も、玉入れも、借り物競争も、応援合戦も、クラス対抗百メートルリレーさえも!
すべてあの境界線の向こうで終わった!

 誰かの震える息が直に伝わってきた。
誰だか知らないが、怯えるんじゃない!

抗え!

 そしてその刹那、ついに静寂が断ち切られた!


 ――――ドオオオォォォン!


田中学園長「バリスタの開幕だあぁぁぁ――!」
最終更新:2007年01月19日 02:25