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 ――ということで、ホームルームにはしっかりと遅れた。

先生:初日からこれはちょっと困るよ。
俺:ごめんなさい……
 まずは職員室で少し絞られた。でも元々時間が無いから短時間で済んだりもした。

先生:まあなんだ、最初ってのは大事だからな。教室で紹介するときはしっかりしてくれよ。
俺:はい!
 快く答えたものの、そういえば自己紹介の言葉なんて一切考えてなかったぞ! しかし時間は待ってくれない……

 教室前。2日前の教室では無かった喧騒に心がざわつく。ここから新たな学園生活が始まるのだという、期待と不安、緊張。

先生:じゃ、開けるよ。
 先生は俺の心の準備を待たずにドアに手をかけ――

???:お前、シロに何したあぁぁーっ!

俺:……え?

 先ほど竹刀少女に打たれた傷が、突然痛みを思い出した。
俺:ってー……何なんだよ。
???:だから私がそれを聞いてるんじゃないか!
俺:うごっ!

 ……何? これがヴァナ・ディール学園流の挨拶ってわけかい?
俺:いってえええじゃねえかこのヤロウ! 俺が何したってのさ!
???:ああん!? シラきるつもり?
 竹刀少女の件はこちらの過失もあったから仕方ないかも知れないが、今回は何が何やらわからない。

ましろ:もう、聖ちゃんやめてってば! 何度も言ってるけどコレは自分でやったの。転校生クンは関係ないよ!
 コレって何だろう?
 答えはましろの顔にあった。きっと一昨日転んだときに傷を負ったのだろう。ましろの鼻の頭にはバンソーコーが貼ってあった。

『聖ちゃん』 と呼ばれた暴力女学生は、しかしましろの言葉が耳に入っていない様子。
ましろ:もー。

聖:おい転校生、謝るなら今のうちだぞ。私のシロに手ぇ出した罪はそんなモンじゃ消えねぇがな、ちょっとは収まるかもよ!
俺:いや、それ俺じゃないから。
聖:……さらに痛い目を見たいか。
 それが本気の言葉なのだとしたら、さすがに反撃せざるを得まい。

俺:濡れ衣着せる気なら、俺も黙っちゃいないぞ。
 言いながら拳を前へ構える。
聖:なら、仕方ないな。
 聖も拳を握り締め――

先生:こ、こらやめなさい!
 今頃止めても遅いぜ、先生!

俺:かかってきな。
聖:ふ、後悔するなよ。
 って転入早々何やってるんだ俺?
俺&聖:いくぜっ!!!

 ……しかし、俺たちの拳が重なり合うことは無かった。

聖:ちっ、しのぶか。
 今度はなんだろう。ぶつかり合う寸でのところで止まった俺と聖の拳の間には、何やら人のような形をした紙があった。
 紙を持っている手の先――
そこには、いつの間にか不敵な笑みを浮かべる少女が立っていた。しのぶさんというのだろうか。

しのぶ:君たちやりすぎ。これ以上騒ぐなら、寛容な生徒会長様もさすがに黙っておけないから。いい加減にしなよー。
???:まったくだわ。

 さらに、前方の席に座っている、長い黒髪をヘアバンドで止めた女学生が追い討ちをかける。
交差点で俺を叩いた子だ。って同じクラスだったのか!
 一緒に遅刻した身であるためか、少し顔を赤らめながら、なるべくこちらに視線を向けないようにしている様子。

 後で聞いたところによると、『早乙女不二子』 さんという風紀委員らしい。『風紀委員が竹刀を構えたら死を覚悟せい』 ――そう誰かが言っていた。

不二子:まったく、ムネナシはムネの小ささを見習ってもうちょっと大人しくしたらどう?
 むむ、確かに少しだけ、小さ目というか何というか。恐れ多くて口に出しての同意は出来ないけど、確かに聖のおっぱいは小さく見えるぞ。

聖:っ――! 転校生、命拾いしたな。おい不二子! お前もムネムネうるさいんだよ。お前だって似たようなモンじゃないか!
不二子:一緒にしないで。
聖:っっ――!

聖:それとだな。しのぶ! お前3年生じゃねーかよ!
 ……そうだったのか。

聖:ここは2年。2年B組だ。そのホームルームに何でお前がいるんだ?
しのぶ:好奇心。
 あっさりと、そう言い流すしのぶも中々良い神経をしている。

しのぶ:まあいいじゃない。あたしがいなきゃ誰も止められなかったみたいだし。
 ヒラヒラと、指に挟んだ人型の紙切れを揺らしながら得意げにしている。

俺:それ、何ですか。
しのぶ:ああこれ? 『しへーちゃん』 だよ。冷え性に効くお守り。不二子が神社の娘でね、頼めば持ってきてくれるよ。

不二子:それ、あまり広めないでくれる? 本当は売り物なんだけど。
 そして何故か俺が一瞬睨まれた。
俺:……買いに行きます。
しのぶ:え、いいの?

不二子:あら、今回はいいのに。じゃあ待ってるわね。
 白々しく言って、今度こそ満足げに退場する不二子。

しのぶ:まあ正しい選択だったかもね。校則に忠実な風紀委員だから、下手に目をつけられると厄介だし。
 ということは、どうやらこれ以上の騒動は回避できたようだ。

 結局何の自己紹介も出来ないまま、ホームルームの終了を告げるチャイムが鳴ってしまった。とにかく冤罪によるイザコザも一旦幕を閉じそうだ。

先生:む、むう。まあ、そういうことで、転校生の遊佐洲彬君だ。1時間目が始まるまで適当に馴染ませてあげてくれ。

 なんという投げやりな先生! この先生にしてこの生徒アリって感じだぜ。
聖:なんだ?
俺:ん? 何でもないよ。

先生:じゃあそういうことで。
 そして先生は何もしないまま立ち去ってしまった。

 ……いやしかし、すごいクラスに転入してしまったな。

しのぶ:ま、そんな感じでさ、自分の家だと思って仲良くしてね。あたしは『甲賀しのぶ』 よろしく。
俺:は、はい。よろしくお願いします。
しのぶ:あともうひとつ――
 しのぶは咳払いを挟んで言葉を続ける。

しのぶ:あの最初に蹴りかかった子。『月島聖』 ってんだけど、ましろにゾッコンラブなのよ。特にましろに言い寄ろうとする男には容赦しないから、あの子のことは諦めた方が得策ってこと。わかった?
俺:は、はあ。

 なるほど。それでましろの鼻の傷のことで無駄に激しく怒っていたのか。
聖:変なこと吹き込むなよ。
しのぶ:だいじょーぶよ。
聖:絶対だぞ。

しのぶ:……って感じで、それ以外はカワイイ子なんだけどね。
俺:ゾッコンはいいけど、冤罪はやめて欲しいな。
しのぶ:あはは。
 ……いや、被害者としてはあまり笑い事ではない。

しのぶ:それで、机の場所はわかってる?
俺:それはバッチリですよ。先週確認済みです。
 初対面で客人みたいなものだし、さらに1年上の先輩とあってはとりあえず丁寧語だ。聖みたいな無礼な奴は例外だけど。

しのぶ:オッケー。まずは荷物なんとかしなきゃね。てことで、あたしゃそろそろ退場するわ。ばいびー。
 微妙に死語っぽい言い回しで別れを告げ、『しへーちゃん』を持った生徒会長は教室を出た。

 そうだ。学園へは遊びに来たわけではない。1時間目の準備もしなくてはならない。
 俺の席は後方、窓際から2つ目の辺りにある。授業中に内職(他ごと)するのに都合が良さそうな位置だ。

 実は前方(否最前列)の席も、「後方よりも先生に当てられにくい」という俺理論の元では、喋る以外の内職に適していて好きなのだが。まあ欲を言って最前列になどなってしまったら目も当てられない。贅沢は言うまい。

 問題を片付けてくれたしのぶに心の中で例を言い、荷物を手に自分の席へ向かう。唯一の空席なので――いや、空席は二つあった。

 誰か欠席しているのだろうか、対面できないのは残念である。と思いながら窓際に視線を移すと――

???:ひゃほーい!

 小柄の日焼けした少女が、校庭の木から木へと飛び移っている姿が見えた。
 ……な、何、今の?

 ……気を取り直して椅子を引くと、右隣の少年が声をかけてきた。
???:あいつは『毛森操』 通称ケモリン。まあ、見たまんまの天然児だから気にするな。
 と言われても、あんなのアリなのか?

???:そいでオレは『中島蔵人』 通称なんとなく『クラウド』 だ。
 読みは変わらないので、文字の世界でなければわからない通称……変なのが多いな。

???:私は『井草千里』 だよだよー。物騒な揉め事があれば手貸すから気軽に気軽に相談してね!
 しかし先ほどの物騒な揉め事には、手も足も口も出してこなかったぞ。
俺:……よろしく。

 周囲のクラスメイトからも次々と自己紹介を受けるが、さすがに名前は覚えきれない。まずは隣接してる人の名前から覚えるかな。
 右の寝ぼけ眼を擦っている少年がクラウド。正面に千里。それで左は……そういえば、まだ自己紹介されてないぞ。

???:……
 内気な子なのだろうか、俯いてモジモジしながら一言も話そうとはしない。

俺:あの、よろしく。
???:……(モゾモゾ)
 声をかけたらさらに俯いてしまった。それともお辞儀のつもりだったのだろうか。

蔵人:ああ、そういう子だから気にしなくてもいいよ。
 いやいや、さっきの野生児といい、それじゃあクラスメイト的に問題だろう。
 なんて心配している場合ではなかった。授業の準備準備と。

蔵人:最初はついていけないかも知れんけど、今度ノート貸してやるよ。
千里:クラウドのノート、穴だらけだけどね。
蔵人:うっせぇ。
俺:……ありがとう

 ノートの件は、何となく真面目に勉強してそうなましろにでもお願いしてみよう。……聖がいないときに。

生徒たち:「先生来た!」「もうついたのか!」「はやい!」「きた!授業きた!」「1時間目の授業きた!」「これで寝つる!」
 ……なんじゃこりゃ。まあとにかく、暗号のような奇妙な言い回しで先生到来の伝令が教室中に渡る。

蔵人:うは、早いな。
千里:座れ座れー!

 ――そんな感じで色々ありながらも、初日の朝はそれなりに無難にクリアできた気がしたのだった。
最終更新:2007年01月22日 23:24