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【エース三姉妹の設定】
 両親は3年前に事故で他界した。両親の親戚に預けられることになったが、どうしても3人一緒は無理ということで、別々の家族の元に引き取られることになったのだ。
 長女の家は、自宅で酒屋を営んでいた。ときどき店番に出ていたので近所では看板娘と呼ばれるようになる。
 次女の家は、地方公務員の父と専業主婦の母、そして3才年下の息子がいた。
 末っ子の預けられた家庭は父が警察官であった。高校に入学が決まったばかりだというのに、父の海外勤務が決まってしまう。母と共に彼女も行く予定だったが、彼女がどうしても残りたいと打ち明ける。この家の娘夫婦も近所にいるし、姉2人と一緒なら安心だろうということになり、残された家で三姉妹が一緒に暮らすことになったのだった。

【三姉妹の簡単プロフ】
竜:村崎 竜子
 長女。高校三年生。陸上部。運動神経は良いはずなのにどこか抜けてる。でも本人はとってもしっかり者だと信じ込んでいる。料理は得意なはずだが、ときどきとんでも無い味付けを披露する。
暗黒:月島 杏
 次女。元々活発な方ではなかったが、両親の死をきっかけに部屋にこもりがちになる。動物が好きで将来は獣医になりたいと思っているので、勉強をおろそかにはせず、学校に行かないということはなかった。手先は器用で裁縫や料理もそつなくこなす。
侍:早乙女 不二子
 三女。正義感は人一倍強く、深く考える前に行動するタイプ。どこか抜けた長女と考えのつかめない次女には家のことは任せておけない、自分がしっかりしなきゃと考えているが、実は家の中のことはほとんど長女と次女がやってくれていて、家ではダメ親父的な行動が見られる。

【ある朝の風景】
 三姉妹の住む一軒家。今日も穏やかな朝がやってきた。
 ジリジリジリジリ・・・・
 目覚まし時計の音が鳴ったかと思うと、直ぐにその音は止んだ。
 長女の竜子がパジャマのままで部屋から出て来た。少し眠たそうにゆっくりと歩きながら小さなあくびを手で隠す。足取りはしっかりとしていて、階段を静かに一歩一歩下りて行く。
 洗面所にたどり着くと洗濯機の中を確認して、洗剤を入れてスイッチを入れた。直ぐ横にある洗面台で顔を洗い、鏡を見ながら少し曲がった長い髪を整える。そして、自分の笑顔を確認してみる。これが朝の彼女の日課だった。
 竜子は朝日が差すリビングに入るとドリップ式のコーヒーメーカーにスイッチを入れる。毎朝3人分のコーヒーを最初に起きた誰かが作るのだが、ほとんどこれも竜子の仕事になっている。
 基本的には自分のことは自分でやるのが姉妹の約束だ。朝食はそれぞれバラバラに起きるので各自で済ませ、お昼のお弁当は自分であるものを調達する。夕食は当初は当番制だったのだが、奇抜なアイデアを料理に持ち込む長女と八百屋で喧嘩して帰ってくるような三女では落ち着いた食卓はありえないということがわかり、次女がほとんどやっているのだった。そのため、長女の竜子が主に洗濯を担当している。
 竜子の朝ご飯は、お弁当のつまみ食いだった。お弁当箱にご飯を入れて梅干しを中心に据える。これを綺麗に真ん中に納めるととても気分が良い。梅干しを見て少しにやけてしまう竜子だったが、この瞬間になんとなく幸せを感じるのだった。卵焼きを自分で作り、後は食卓の残り物を詰めていく。そうしながら時々おかずをつまんで味見をする。
 朝の部活にでるのでこれだけでは体力的には当然足りないので、お弁当の準備が終わったら食パンを焼いてコーヒーを入れて、本当の朝食を取る。本当はご飯を食べたいんだけど、妹たちのお弁当になるので遠慮しているのだ。
 トースターの音がチンとなって、焼けたパンを取り出していると次女の杏が起きてきた。
杏「おはよう、姉さん」
 やや低音で静かな声だが、口調はとても丁寧だ。彼女は既に制服に着替えていた。パジャマでウロウロするのは嫌いらしく、いつも服を着替えてから降りてくる。朝は少し弱いので、ゆっくりと着替えながら体が目覚めるのを待つのだが、それでも足りないためコーヒーを飲みながら食卓でぼ~っとすることが多い。
竜子「あ、おはよ~。今日は早いじゃない」
 挨拶をしながら竜子はコーヒーカップを2つ用意して、妹の分もコーヒーを注いだ。
杏「昨日早く寝たからかな。目が覚めちゃった」
 そう言うと一口コーヒーを飲んで、まだまどろんでいるかのように、ボーッと姉の手元を見ていた。
竜子「いつも遅くまで勉強してるから、疲れてたんじゃない?」
 カプッとパンをかじりながら少し考える。動きそうにない杏を見て竜子が言う。
竜子「杏、パン焼いて良い?」
杏「うん、ありがとう
 杏は姉のにこやかな顔を見ながら少しだけ微笑んで見せた。学校で冷たい女だと彼女に対して陰口を叩かれていることは竜子も知っていた。しかし、家族に見せるこの笑顔が彼女は好きだった。これが本当の彼女の心なんだと表現の下手な妹へのいとおしい気持ちがこみ上げることもある。竜子は杏と話すとき努めて明るく振る舞うのは、そういう彼女の中から明るい表情を引き出したいがためでもあった。
竜子「ねぇ、聞いてよ。私ね、夏の大会に代表で出ることになっちゃったのよ。だ~れも高跳びなんてやらないから、私がやるしかなかったのに、いきなり代表何てね」
杏「ふぅん。でも、楽しいって言ってたじゃない」
 笑顔を絶やさない姉を見て、今も楽しそうじゃないと言いたい気持ちであった。
杏「姉さんならなんとかなるわよ」
竜子「もう、杏もみんなと同じこと言うのね。本当にみんな真剣に言ってるのかしら?」
 そう言って唇をとがらしては見たが、直ぐに笑顔に戻る竜子だった。杏にはとてもうらやましい姉であった。わたしも姉のように活発で友達が沢山いる人になれたらいいなという憧れはある。でも、周囲のレッテルをあえて否定するのも疲れるし、自分が気にしなければ何も不安はないのだ。杏は獣医になりたいという夢さえ見失わなければ、きっと幸せになれると信じていた。それまでの全ての不幸は自分への試練だと背負い込んでいまう。責任感の強さが今の彼女には裏目に出ているのだった。

 朝食をかたづけた竜子は洗濯物を取り出して、2階のベランダに干しに行く。
 ジリジリジリジリ、ジリジリジリジリ・・・・
 不二子の部屋から目覚ましの音が聞こえる。
 ガンッ!
 大きな音に驚いて肩をすくめる竜子。干していた洗濯物を落としそうになって慌てて掴み直した。
竜子「また、あの子ったら、目覚まし時計を蹴っ飛ばしたんだわ」
 三女の不二子だけは布団で寝ていた。寝相は悪く、いつも逆さまになっているか、布団の上に居ないことも多い。寝起きも非常に悪いので誰も起こしてはくれないのだった。育ての母も彼女が日本に残ることになって、「やっとあなたを起こしに行かなくて済むわ。もう怪我したくないもの」と喜んでいた。
 洗濯物を干し終わった頃、また大きな音が響いた。
 不二子が部屋から飛び出してバタンと大きな音がして扉が閉まる。続いて雪崩のように階段を駆け下りる。
竜子「あらあら、いつか階段が抜けるわね。ふふふ」
 そう言って自分の想像に笑いがこみ上げるのであった。
 不二子は慌てながら乱雑に顔を洗い、タオルで顔を拭きながらも落ち着かない。再び鏡を見て、ほっぺたを両手でパシパシと叩いた不二子は、鏡の中の自分をにらみ返して気合いを入れる。
不二子「よっし!」
 長い髪を振り乱しながらリビングに駆け込むと、炊飯器の蓋をガバッと開けてた。
 ふと振り返り姉の存在に気が付いた。
不二子「あ、おはよう、杏ねえ!」
 彼女は竜子を竜ねえ、杏を杏ねえと呼んでいた。
 明るい声だったが、荒々しい息づかいと迫力に気圧される杏であった。
 ちょっと不二子の荒々しい息づかいと迫力に気圧される杏であった。
杏「おはよう。今日も元気ね」
不二子「今日は委員会の当番があるのよね。早めに行ってガツンとやらなきゃ」
 不二子は風紀委員の仕事に誇りを持っていた。特に風紀を乱すローラ・コルセールという先輩を目の敵にしているので、今日はその人が来る前に学校へ行きたいのだ。
 お弁当箱にご飯をまんべんなく敷き詰める不二子。
杏「あんた、またご飯だけ持って行くの?」
 あきれる杏。
不二子「ご飯が一番力が出るの!今日は負けられないんだから!」
 朝から気合い十分である。お弁当箱にはいつもより沢山ご飯が入るわけではないので、気持ちでは大盛りなのだ。
杏「ふぅん・・・」
 コーヒーを飲みながらあまり関心がなさそうな杏であった。
 そこに洗濯を終えた竜子が降りてきた。
竜子「おはよう、フ~ちゃん」
不二子「おはよ~!って、またふ~ちゃんって言ったな。学校じゃ絶対だめだからね」
竜子「はいはい、判ってますよぉ。先に洗面所使うわよ」
 竜子はリビングの2人にバイバイと手を振って、髪を整えるために洗面所へと向かった。
不二子「鉄の不二子が、フ~ちゃんじゃ迫力でないでしょ、もう」
 お弁当と箸箱をハンカチで包みながらブツブツと言いながら、唇をとがらせる不二子であった。
 不二子は剣道部にも入っており、その竹刀さばきの豪腕ぶりから鉄の棒を振り回していると言われて、そこから「風紀の鬼、鉄の不二子」などと呼ばれるようになったのだ。しかし、そんな彼女だが、喧嘩で姉二人には勝ったことがない。今も姉二人には一目置いているのは事実だった。
 お弁当の準備が終わると、不二子は部屋に戻って制服に着替える。バッバッとパジャマを飛び散らかす。彼女の部屋はとても女の子の可愛い部屋という雰囲気ではなかった。布団はめくれたままで、脱いだ服があちこちに飛び散らかっている。唯一目を引くのは巨大な熊のぬいぐるみだった。実は彼女はこの熊ちゃんと一緒でないと眠れないのだ。この熊の「くーちゃん」はいつも彼女に抱きしめられて布団に入るのだが、朝には部屋の隅っこにひっくり返っていた。ひどいときには机の上に寝転がっていることもある。
 ガツン!
不二子「いたっ!もう!」
 起きがけに蹴飛ばした目覚まし時計が足下に転がっていて足をぶつけたのだ。
 竜子も階段を上がって自室に戻った。脱いだパジャマを丁寧に畳みながら制服に着替える。整えられたベッドの上に、綺麗にパジャマを置く。
 不二子がまた、荒らしのように部屋を飛び出し、階段を駆け下りる。ダンッダンッ!いくつか段を飛び降りて、洗面所へ向かった。
 竜子も学校の鞄と部活の着替えを入れた鞄を手に部屋を出る。
 ドオン!
 大きな音が家中に響いた。今日一番の音量だった。
 杏がリビングから顔を出す。不二子もブラッシングをしながらやってきた。玄関脇に竜子が尻餅を着いていた。
竜子「あいたたたたぁ」
 お尻をさすりながらヨロヨロと立ち上がる。
不二子「何やってんの?」
竜子「えっ、ちょっと飛び降りてみたら、転んじゃった」
 恥ずかしそうに顔を赤らめ、下駄箱で体を支えながら腰やお尻をさすっていた。
杏「まったく、子どもなんだから」
 コーヒーをまたチビチビ飲みながらあきれたてリビングに戻る杏。
不二子「上に飛ぶのはできても、飛び降りるのはまだまだね」
 不二子もそう言い残して洗面所に戻った。
竜子「もう!ちょっとは心配してくれも良いじゃない。ホントに痛いんだからぁ」
不二子「竜ねえ!昨日も失敗だったでしょ!」
 追い打ちをかける声が飛んできた。
竜子「はい、はい。もう良いわよぉ。部活行ってくるからねぇ」
 竜子は靴を履くと、まだお尻をさすりながら家を出て行った。さすが陸上部、走って学校へ向かうのだった。
 コーヒーを飲み終えた杏は洗い物を済ませると廊下に出て洗面所に向かって声をかける。
杏「フ~ちゃん、私は部屋に戻るからね。静かにしてよ」
不二子「はいはい。もう出かけるから勉強の邪魔はしませんよ」
 階段を上りながらフッと笑顔になる杏であった。もちろん、早起きしても自室に戻って勉強をするのだった。
 不二子にとっては、勉強を教えてくれる優しい姉でもあった。宿題の大半は杏の力に頼っているかもしれない。それでも嫌な顔せず、自分の勉強の手を止めてでも教えてくれるのである。だから決して勉強ばかりしているからと姉を揶揄するようなことはしないのだった。
 杏が自室に入ってしばらくすると、またバタバタと足音がする。
不二子「ああ、もう。鞄持って降りたら良かった」
 大きな独り言を言いながら階段を駆け上がり、部屋から鞄を取り出す。
不二子「ごめ~ん!行って来る~!」
 杏に騒いだことを謝りつつ、更に大きな音を立てながら階段を下りていく不二子。玄関でパッパと靴を履くと、玄関脇に置いてあった竹刀袋を掴んで家を飛び出した。
 ダダダダダッと遠のく足音が机に向かった杏にも聞こえた。
 杏の部屋は普段から真っ暗だった。勉強に集中したいからと雨戸を開けることはほとんどなかった。
 部屋の小さな明かりと、机の上の蛍光灯の明かりを付けてイスに座っている。机の上には常に数冊の参考書が積まれている。
 杏は学校に行く時間に目覚ましをセットし直す。
 蛍光灯の近くに置かれた写真立てを杏は手に取った。亡き父と母、そして幼い姉妹たちと5人で遊園地へ行ったときの記念写真である。それを見ながら小さくうなずき、気合いを入れているようだ。
 問題集を開くとあとは黙々と勉強に励むのだった。
最終更新:2007年01月28日 16:12