7/20(金)
霞「てい!」
遊佐「ほい」
霞「むー、やっ!」
遊佐「見切った!」
さっと避ける。
霞「うー」
遊佐「うなっても駄目」
霞「ちぇー」
遊佐「俺を狙う理由は何なんだよ……」
霞「別に理由はないけど」
遊佐「じゃあ、止めようよ」
俺はあきれたと斜め上を見上げる。
遊佐「……いい天気だ」
雲ひとつない。
霞「本当だ」
遊佐「もうすぐ夏休みだなぁ」
霞「そうだねー」
遊佐「あのさ……」
俺は思ったことを口にしようとした。
霞「何?」
遊佐「あー、やっぱ何でもない」
ここで思ったことを言うことに俺は踏み切ることはできなかった。
霞「えー、気になるよ」
遊佐「前、前」
自分の使用と思ったことが恥ずかしくて照れ隠し。
霞「はーい」
気づくと一緒に登校が当たり前になっている。
授業中も空の青さと山の緑を見ていた。
遊佐「…………」
なんとなく、あの山にまで行きたくなった。
何故だろうか。
そしてぼーっとしている間に授業が終わった。
さっさと教室を抜け出す。
食堂へ急ぎ足で向かう。
遊佐「今日は二人で食いたいからな」
霞「遊佐君ー」
パンを抱えて待っていた。
遊佐「もう買ってくれてたのか」
霞「うん、はい」
遊佐「この手は何かな」
霞「もちろんお金」
遊佐「……はい」
二人で屋上へ向かう。
ドアを開けるとまぶしかった。
本当に暑いけど、風が吹き抜け、袖を空気が通る。
霞「いい風だね」
霞の髪がゆれ、香りが流れてくる。
遊佐「そうだな」
ドクンッ。
心臓が一つ強く打つ。
遊佐「た、食べようか」
霞「うん」
相変わらず誰も居ない。
遊佐「暑いし、あの日陰のベンチにするか」
霞「賛成ー」
影にはいったベンチに座る。
遊佐「む、ちょっと頭が陽に当たる」
霞「寄ったげる」
遊佐「サンキュ」
霞が寄ってくれたおかげで頭も影に入る。
今日も霞は弁当を作って来ているが、パンも買っている。
遊佐「そういえば、何でいつもパン買ってるの?」
霞「え、あ。うーんとね。実は朝ごはんにしてるの」
少し焦った感じの霞。
遊佐「あー、それいいな。俺もそうしようかな」
でも大したことじゃないと思って何も聞かない。
霞「朝は作るの大変なんだよね」
遊佐「俺の場合作るっていうより買い置きだ」
霞「一人暮らしだもんねー」
遊佐「ああ。でも……」
ふと思えば何で霞が料理することが前提なんだろう。
遊佐「俺も作ろうとは思ったことあるんだけどな。ご飯炊いたりな」
咄嗟に話しを変える。
霞「作れるようになっておいたほうが何かといいと思うよ。健康とか」
遊佐「野菜ジュースくらいは飲んでるんだけどな」
一応健康も気にするようにはしてる。
遊佐「一人の時に倒れたら大変だからな。誰も助けに来てくれず部屋で……」
まぁそんなになるまで無茶は普通はしないだろうから別にいいんだけどさ。
霞「考えすぎだよー」
遊佐「まぁな」
霞が体を伸ばす。
霞「うーん、すごいね」
遊佐「ん?」
霞「何でもないー」
遊佐「……そっか」
俺は空をまた見上げる。
遊佐「何度みてもいい空だ」
少し雲が出ていて、上空では風が吹いているのだろう。雲が流れていくのを二人で見ていた。
教室の前に戻ってきた。
中島「今日も霞ちゃんと二人か?」
遊佐「……まあな」
中島「そうか、まぁがんばれや」
やけに素直じゃないか。
遊佐「どうしたんだ?」
教室へ入る。
中島「ふっ、お前を応援してやることにしたのさ」
遊佐「……お前はよくわからん」
中島「気にするな」
遊佐「……ま、やってみるさ」
ましろ「なるほどー」
中島「と、いうわけだから」
ましろ「うんうん」
遊佐「え? 何が?」
ましろ「わたしも応援してあげるよ!」
そんなガッツポーズまで取らなくても。
遊佐「何で言わなくてもお前らは分かるんだ……」
ましろ「見てたらねー」
中島「分かるよな」
聖「雰囲気で分かる」
遊佐「俺って分かりやすい?」
中島「かなり」
ましろ「それはもう」
聖「残念だが」
遊佐「ショック!」
放課後
霞「それじゃー行こう」
遊佐「おう」
下駄箱で靴を着替える。霞のほうがいつも先に来ている。
遊佐「HR終わるの早いな」
霞「学年では一番かなー」
そういう先生に当たるとラッキーだよな。逆に長い先生もいるけど。
遊佐「いいな」
霞「うん、早く行けるしね」
遊佐「そうだな」
今思えば霞が急いでバイトに行ってたのはこういう理由だったのだ。
遊佐「二人になって少しは楽になったかな」
霞「ん? 何か言った」
霞は既に外に出ていた。
遊佐「いや、何も」
俺も外に出る。
遊佐「歩いて行こうか」
暑いし、何より急ぐ必要がない。
霞「うん」
もう一人じゃないからな。
遊佐「おーし、今日もがんばるぞ」
霞「わたしもがんばるぞー」
遊佐「ははは」
霞「あはは」
二人でガッツポーズをして笑いあう。
霞「あ、ありゃ」
霞がふらっとなる。
遊佐「お、おい?」
霞「おっとと。足もつれちゃった」
遊佐「気をつけろよ」
霞「はーい」
よく見ると結構汗をかいていた。俺もかなり暑いし汗をかいている。
遊佐「暑い?」
霞「ちょっと、暑いかな」
遊佐「休んでくか?」
コンビニを指差す。
霞「大丈夫。すぐそこだよ」
遊佐「んじゃ早くいって涼むか」
霞「うん」
霞「はー、涼しい」
遊佐「汗が冷たい……」
店長「おいおい、早く着替えないと風邪をひくぞ」
遊佐「そうですね」
霞「そうだね」
とりあえず体を
タオルを借りて拭いてから着替える。のはいいんだけど。
遊佐「……一緒の部屋で着替えるのもなぁ」
霞「いちいち待ってられないよー」
俺は霞に背を向けているから問題無いっちゃ無いんだけど。
遊佐「根本的に間違ってる気がする」
どうせ俺はこんなもんさ……。
霞「ねぇ」
遊佐「どぁ!」
目の前にやってくる霞。
遊佐「お、おい!」
霞「早く着替えちゃおうよ」
遊佐「お前も早く服、服着ろ!」
ちょっと、霞ちゃん、いや呼称が戻ってる。そんなことより。
遊佐「人前でそんな格好するんじゃねー!」
霞「二人しかいないし問題ないと思うんだけどな」
遊佐「大問題だろ!」
うれしいと取っていいのかどうかもうよくわからなかった。
今日の業務はいつものように終わった。のだけれど。
遊佐「……うーん」
俺はレジの前に立っている。
遊佐「ほい、ほいほい」
チーン。
霞「わー、もう完璧だね」
遊佐「だろ?」
今はバイトの仕事の練習中。レジ打ちはほぼマスターしたと思う。
霞「後は注文の取り方と、テーブルの片付けかたと運び方とかだね」
遊佐「そうだな、テーブルでの接客もやんないとな」
霞ほど愛想良くはできないだろうけどな。
遊佐「教えてください」
霞「よーし、それじゃあね」
霞に指導してもらう。
まずテーブルへの案内やらにこの前の復習に加えて色々。
遊佐「何気にやること沢山あるんだな」
霞「慣れちゃえば大丈夫」
遊佐「……早く慣れないとな」
店長「遊佐君は熱心だね」
店長がキッチンを掃除している。
遊佐「まだ何もできませんし、早く役に立てるようにならないと」
店長「何度も言うようだけど、君が来てからは本当助かってるよ」
遊佐「ははは、
ありがとうございます」
霞「そうそう。ほんとだよ?」
遊佐「うん」
霞「よっし、今日はこれでおしまい。掃除掃除」
遊佐「よしきた」
店長「じゃあ、また明日も。二人とも早く帰ってゆっくり休むんだよ」
霞「はーい」
遊佐「はい、お疲れ様でした」
店長「うん」
霞と歩き出す。
遊佐「もう少しで何とか霞の代わりになれるくらいにはなれそうだな」
霞「まだまだだけどね」
遊佐「ぐ、精進します……」
霞「うんうん」
遊佐「でも、二人の時は本当大変だっただろう」
霞「わたしがバイトに入ってから少ししてからすぐ先輩の人やめちゃったからねー」
遊佐「それからずっと二人?」
霞「うん」
遊佐「それはお疲れ様、だな」
霞「おかげで仕事はマスターしたけどね」
遊佐「霞はよく働くなぁ」
霞「うん、そうじゃないとね」
遊佐「そうじゃないと?」
霞「大変だからね……」
時々霞と話していると見せる悲しそうな顔だ。
遊佐「んー、俺が早く助けられるようになるからがんばってくれ」
霞「そうだね、楽しみにしてる」
遊佐「ああ、がんばるぜ」
霞に悲しい顔なんてさせたくない。笑っていて欲しい。
遊佐「よし、それじゃあまたな」
霞「またね!」
手を振りながら霞が走り出す。
遊佐「そんじゃ俺も」
走って部屋まで戻っていった。
最終更新:2007年02月21日 19:55