7/22(日)

遊佐「……ん」
朝日がまぶしい。
遊佐「朝か……」
遊佐「ふぁあぁ」
今日は日曜日。
遊佐「バイトも休みだし……ゆっくりしよっと」
もう一度ねよっと……。
遊佐「うーん……」
遊佐「……眠れない」
何か目がさえて眠れないな。
遊佐「起きるか……」
服を着替えて……っと。
特にすることもなくテレビを見ていたが、それもつまらなくなった。
遊佐「暇だし少し街をうろつくかなぁ」

遊佐「で、どこに行くかって訳なんだけど……」
何も考えずに適当にうろうろしていたわけなんだけど。
遊佐「ポロゴまで来てしまった」
うーん、もちろん今日は休みだけどな。
店長「あれ、遊佐君じゃないか」
遊佐「あ、松下さん」
裏口から店長が出来た。
店長「どうしたんだい。今日は休みだよ」
店長が笑顔で話しかけてくる。
遊佐「うろうろしてたら、つい来てしまいました」
俺はすこし髪を掻きながら言う。
店長「ははは」
遊佐「松下さんは?」
店長「僕はこのあたりに住んでいるからね。時々やってきて掃除したりしているんだ」
家の方向を指差してくれる。
なるほど、あっちにあるのか。
そういえばあっちはあんまり行った事ないな。
遊佐「なるほど。それでしたら手伝いますよ?」
店長「ありがとう。もう終わったから大丈夫だよ」
遊佐「そうでしたか。今度機会があったら是非」
店長「その時はよろしくたのむよ。そうだ、せっかくだから少し話していくかい」
遊佐「そうですね……。よかったらお願いします」
店長は店を開ける
遊佐「休みはなんだかひっそりしていますね」
俺は誰もいない部屋を見渡す。
店長「ははは。そうだね」
店長がイスに座る。
店長「それでどうだい? アルバイトは」
再び笑顔で俺に聞いてくる。
この人はいつでも笑顔で話しかけてくれる。
遊佐「はい。なかなか楽しいです」
俺の率直な感想。
店長「どんなところが楽しいかな」
遊佐「そうですね……。自分で働いてお金をもらうというか稼ぐってことが新鮮でした。今まで経験の無いことですから」
店長「なるほどね」
店長がうなずく。
遊佐「それに、霞がいるから楽しいですね……」
少し恥ずかしいけどこれも本音だ。
店長「ははは、それはそうかもしれないね。あの娘は本当に明るくていい子だ」
遊佐「本当にそう思います」
店長「あの子が居ると居ないじゃ店の雰囲気がずいぶん違う」
店を二人で見渡す。いつもこの場所に霞がいるんだ。
遊佐「俺も、分かる気がします」
そして俺もこの店で働いているんだ。
店長「そういえば、昨日は調子が悪かったようだったけど、心配だね」
遊佐「昨日の帰り道無茶はするなって言っておいたんですけどね」
店長「そうか。ありがとう」
店長がうれしそうな顔をする。
遊佐「へ? あ、いえ」
俺は礼を言われたので少し驚いて抜けた返事をしてしまった。
俺は出されたコーヒーを一口飲む。
店長「ところで、あの娘とはどうやって出会ったんだい。学年が違うようだけど」
遊佐「あ、それはですね、恥ずかしい話なんですが……」
遊佐「実は遅刻しそうで走ってたときに、同じ状況で走ってきた霞とぶつかりそうになって」
よく考えるとすごくありそうでない話しだよな……。
店長「それはまったく霞ちゃんらしいね」
店長が笑う。
遊佐「その後学校でまた会って俺の友達、あーこの前来てたあの男と一緒にご飯食べたりして仲良く」
俺はその情景を思い出した。最近は二人で屋上で食べたりもしているしな。
店長「しかし、仲良くなるのがいきなりだね。流石霞ちゃんの持ち前の明るさ、とでも言うのかな」
遊佐「確かに始めて会ったのにのにそんな雰囲気を感じさせませんでした」
店長「それがあの娘の良い所だよ」
その言葉を言った店長が今日で一番いい笑顔を見せた。

遊佐「結局終始霞の話で終わりましたね」
ずっと霞の話をしていた二人。
店長「確かにそうだね」
遊佐「それじゃあ失礼します」
店長「ああ、また明日よろしくね」
遊佐「はい」
店長は結局最後まで笑顔だった。
俺は店を後にして家に帰った。

遊佐「それにしても、喫茶店に行ったばかりか霞の話ばかりで終わったな」
家のベットの上でごろごろ。
それだけあの場所にとって霞の存在が大きいということかな。
遊佐「それだけじゃない、けどな」
俺は布団を被る。
遊佐「ではお休みなさい」

7/23(月)
遊佐「……」
うーん。
遊佐「来ない」
おかしいな。
珍しく霞が襲ってこない。つまり通学路で出会わなかった。
遊佐「熱だしたかな」
俺は後ろを振り返る。もし熱ならゆっくり休んでいるんだろう。
一人で下駄箱へ。
中島「遊佐」
遊佐「あん?」
靴を履き替えていると中島がやってきた。
中島「今日は珍しく一人だったみたいだな」
遊佐「ああ。もしかしたら霞熱だして休んでいるのかもしれない」
中島「へぇ。そりゃ遊佐も心配だな」
中島が肩に手を乗せてくる。
遊佐「まぁな。まあ時々はゆっくり休めばいいさ」
俺はその手をどける。
中島「確かにそれのほうがいいだろうな」
中島と一緒に教室へ向かう。
中島「ところで、お前さ。結局どうなの?」
少しにやけていやがる。
遊佐「どうなのって何がよ」
中島「霞ちゃんと」
遊佐「いや、まだ何ともない」
実際何ともない……よな?
中島「そりゃつまらんな」
遊佐「つまらなくて悪かったな」
つまらんという顔をされてもな……。
中島「ま、応援してるから相談しろよな」
ぐっと親指を立てる中島。
遊佐「……」
中島「何か反応してくれないと俺も寂しい」
遊佐「……」
中島「もしもーし」
遊佐「……」
中島「おーい」
遊佐「え? 何?」
中島「……」
俺の勝ちだな。
遊佐「冗談だ。何かあったら相談するよ」
中島「しくしく」
遊佐「擬音を声で出すな」
手の甲でつっこんでおいた。

今日は終業式だ。明日から夏休みというわけだ。
中島「いつも思うけど、体育館でやる意味あんのか」
遊佐「形式ってやつだ」
俺も放送でやっても同じだと思うが。
中島「暑いんだよな……」
遊佐「ん、中島わるい先行ってくれ」
中島「あ、おぃ!」
人ごみに流されていく中島。
あの遠くに見える姿はいつもの元気は無いけど。
遊佐「おーい、霞?」
霞「ん? あ、遊佐君」
こっちに気付いたようだ。俺は駆け寄る。
遊佐「朝会わなかったから熱出して休んでるのかと思った。って顔赤いぞ」
俺は顔を覗き込む。
霞「え、そうかな」
遊佐「ん」
俺は手を額に当ててやる。
遊佐「うわー、こりゃ熱あるぞ。体調が悪い時は休めって言ったろ」
わざわざ終業式にはでなくてもいいだろうに。
霞「あはは……」
苦笑いをする霞
遊佐「たくっ。無理すんなって。ほら」
俺は霞の向きを変える。
霞「ん?」
遊佐「保健室へ行くの」
霞「いーよぉ」
拒否する霞。
遊佐「駄目だ」
このままだと良くない。強制的にでも連れて行く。
霞「むー」
うなる声がする。
遊佐「ほら、これ以上体調悪くなったら嫌だろ。今のうちに治すの」
霞「んー」
それでも嫌がる霞。
遊佐「あのな……たくっ」
俺は背中を押して霞を保健室へ本当に強制的に連れて行くことにする。
途中で観念したようだった。
霞は何故か休むことを拒んでいたが、理由はよくわからなかった。
遊佐「失礼します」
保健室へついた。
遊佐「こいつ、熱があるみたいなんで診てもらえますか」
実際計ると結構熱があった。
遊佐「やっぱりか……。帰る?」
何となくこの様子だと予想がつくけど。
霞「んー、帰らない」
やっぱりか。
遊佐「……しょうがないな。終業式終わるまでここで寝て、その後俺が家まで送る。どう?」
保健室の先生はここで寝ることを許可はしてくれている。
霞「……そうする」
しぶしぶ了承したが終業式は寝て休むというのは拒否しなかった。やはり辛かったのだろう。
遊佐「んじゃ、また放課後来るから。寝てろよ?」
俺は念を押す。
霞「うん。ありがとう」
俺に笑顔を向けてくれる
遊佐「それじゃあ俺は教室へ戻るわ」
霞「またね」
遊佐「ああ。失礼しました」
保健室を出る。

遊佐「悪かった」
中島「まぁ、構わないんだが……」
教室に帰ってきて中島にあやまる。
中島「何かあったのか」
流石に聞かれるか。
遊佐「実は霞が熱を出しながら学校に来てたから保健室へ連れて行ってた」
正直に言う。
中島「結局来てたのか。なるほど。ポイントアップだな」
遊佐「……そうか?」
大したことでもないと思うけど。
中島「そういうもんじゃね?」
遊佐「……狙ったわけじゃないぞ?」
中島「わーってるよ」
遊佐「たくっ。熱があるなら学校休めばいいのにな……」
俺は席にすわる、
中島「俺なら仮病を使っても休みたいと思ってるぜ。しかも終業式だぜ?」
そんなすがすがしい顔をされても。
遊佐「さすが駄目人間」
俺は肩を叩いて褒めてやる。
中島「それほどでもないぞ」
遊佐「いや、それほどでもある」
中島「いやいや」
遊佐「……ま、いいや。お前が駄目人間でも」
中島「見捨てないでください」
机に額をつけられても。
遊佐「夏休みの宿題がんばらないとなぁ」
窓の外の空を見上げる。
中島「駄目人間の仲間入りしようぜ」
遊佐「……」
中島「遊佐ぁー」
駄目人間にはなりたくないしな。
最終更新:2007年03月07日 00:48