遊佐「……ふぅ」
店長「今日も霞ちゃん抜きで大変だったね」
遊佐「そうですね」
今日も霞抜きでのバイト。
昨日と同じくかなり忙しかった。
遊佐「このくらい、何とかがんばらないと霞に笑われますね」
店長「ははは、そうかもしれないね」
店の片付けをする。
これだけの疲労感が毎日溜まると思ったら……。
遊佐「辛いだろうな……」
慣れてないせいもあるだろうけど。
これからはもっと霞の手伝いもしよう。それだけの実力はついたはずだ。
店長「そういえば霞ちゃんの
お見舞いに行ったって言ってたね」
遊佐「はい。夏休みも始まりましたし。何より心配でしたから」
本当、ずっと考えてるよな。
店長「それでどんな感じだったんだい」
遊佐「やっぱりまだ調子は良くない感じでした」
まだ寝ていたようだったし。
店長「そうか。もう少し休養だね」
本当にそうだと思う。
遊佐「明日も行ってみようと思います」
店長「そうか、よろしくね」
それから俺は掃除を始めた。
遊佐「では、また明日もお願いします」
店長「こちらこそよろしく頼むよ」
遊佐「はい」
今日も一人か。
隣に霞がいないことが少しさみしい。
遊佐「……」
少し涼しくなった夜の空気を感じる。
遊佐「……ふぅ」
今日は寝心地がよさそうな気がする。
遊佐「霞も……寝ているだろうか」
霞が居る方向の夜空を見上げる。
遊佐「よっしゃ!」
いつもの場所から俺は駆け出す。
遊佐「あれ?」
俺はさっきまでいた場所とは違う場所にいる。
遊佐「……どこだ?」
この感覚は、そう。
遊佐「夢だ」
夢とわかっていても目覚めることは許されない。
遊佐「どこか高いところか」
俺は周りを見渡せることのできる位置に立っている。
霞?「こんばんは」
遊佐「ん?」
隣に霞に似た人が立っている。
遊佐「また、会った。でいいのかな」
霞?「そうだね」
遊佐「変な感じだな」
夢の中で霞に似た人と出会っている。
俺はわかる。これは霞ではないと。
霞?「何が?」
遊佐「俺の夢の中で霞に似ている人が出てくることが、かな」
霞?「夢……とは違うかな」
遊佐「……」
霞?「願いと記憶」
誰の願いで誰の記憶何だ?
遊佐「願い?」
霞?「それはあの子のね」
遊佐「……霞?」
ここに来て思い当たるあの子といえば、それしか思い浮かばない。
霞?「思い出してあげてね」
霞に似た人の体が光る。
遊佐「……くっ」
7/25
遊佐「……ぷは」
俺は夢から現実に帰ってくる。
遊佐「……また、か」
この前も見た。そしてより強く記憶に残っている。
遊佐「…………」
ま、気にしてもしょうがない。
寝る前に映画を見すぎたからな……ごっちゃになったんだろ。
遊佐「起きようかな……」
ベットの中で携帯を掴む。手に力が入らない。
遊佐「……」
手を下にしていたせいだ。
携帯を開ける位は楽勝だけどな。
遊佐「もう十時か」
昨日は寝るのが遅かったからな。
とにかく夏休みしょっぱなからだらだらしてる場合ではないのだ。
遊佐「学生らしく……がんばれ」
誰かを応援してる場合じゃなかった。
宿題でもやるか。少しは真面目にやろうと決めたのだ。
遊佐「中島を馬鹿にしてやる」
動機が不純だった。
遊佐「えーっと」
昨日も通った道を確認しながら歩く。
遊佐「こっちだな」
方向感覚には自信があるつもりだ。
遊佐「うん、合ってるな」
程なくして霞の家の前まで来た。
遊佐「のはいいが……」
インターフォンを押すのが少しためらわれた。
拓也が居ればいいのだが、霞しかいなかった場合。
遊佐「ふむ……」
よく考えたら毎日のようにきたら迷惑なのではないだろうか。
いまさらここまで来て後には引けないのだが。
遊佐「まぁ、深く考えたら負けだ」
俺は思い切ってインターフォンを押す。
霞「はーい」
お? 霞の声がした。
ドアが開かれる。
霞「あ、遊佐君。来てくれたんだ」
少し元気そうな霞が出てくる。パジャマ姿だけど。
遊佐「ああ、そうだぞ」
俺は買ってきたアイスを持ち上げた。
霞「アイス」
遊佐「冷たくていいかなと」
溶けていそうな気もするけど。
霞「うん、
ありがとう」
家に上がらせてもらう。
遊佐「お邪魔します」
霞「どうぞ」
遊佐「体調はどう?」
霞「大分良くなったよ」
遊佐「おう、よかったな。でもまたぶり返すかもしれないからな」
霞「そうかな?」
遊佐「ああ、だからもう少し休むんだぞ」
霞「うーん、わかった」
珍しく早い了承を得た。
部屋に到着する。一瞬ここでもためらったが、いまさらなのかもしれないと思った。
遊佐「弟は?」
霞「うん、出かけた」
病気の姉ちゃんを置いて出かけてしまったのか。
遊佐「ま、仕方ないか……」
拓也だって色々あるだろうし。
霞「そうそう」
ま、これだけ元気そうになってれば大丈夫かな。
遊佐「アイス食うか」
霞「そうしよー」
遊佐「どっちがいい?」
二種類買ってきた。霞の好みを知らないからな。
霞「それじゃあ右」
遊佐「はいよ」
一緒にもらった木のスプーンを渡す。
霞「これで食べるとおいしく感じるよね」
遊佐「わからんでもない」
気分の問題かもしれないが。
だけど気分というのは大きいものだ。
霞「んー」
溶けかけていたアイスは木のスプーンでも十分すくえた。
おいしそうに食べる霞の姿が微笑ましい。
霞「ん?」
スプーンを咥えたままの霞が俺の視線に気付いたようだ。
遊佐「おいしそうに食べるなと思って」
霞「おいひーひょ」
遊佐「そりゃよかった」
俺も一口食べる。
冷たくておいしかった。
その後しばらく話をしたが、バイトの時間が迫ってきた。
霞「ごめんね」
遊佐「いや、俺的には休んでくれた方が気分が楽だ」
霞「むー?」
遊佐「早く治してくれた方がうれしいってこと」
霞「はーい」
実際まだ少し熱があったのだ。今日も休むように言ったわけだ。
遊佐「それじゃあな」
霞「うん、またね」
俺は玄関を出る。
影と日差しの部分がくっきり浮かび上がっている。
いかにも夏、というべき空気。
だけど昨日よりは涼しい気がした。
遊佐「今日もがんばれそうだ」
俺は心も晴れていた。
少し早めに今日はついた。
店長「遊佐君、こんにちは」
遊佐「どうも、今日は早めにきました」
店長に霞の様子を伝えるということもあってそうしようと昨日思ったのだ。
店長「行って来たのかい?」
遊佐「はい、元気そうになってました」
俺は今日の霞の様子を思い浮かべながらそう言った。
店長「そうか、それはよかった」
店長がうれしそうな顔をする。本当に霞は店長に好かれていると思う。
遊佐「でも大事を取って今日も休むよう言ったんですが、すいません」
店長「いやいや、私もそうしてくれたほうがいいと思うよ」
かくして今日もバイトは松下さんと二人だった。
が、三日目ともなると俺も少しは要領を得て作業は楽になっていった。
遊佐「いらっしゃいませ」
だが、客足は少し減った気がする。やはり霞効果だろうか。
そして今日も閉店時刻まで乗り切った。
二人で客足の話をする。
遊佐「霞、効果ですかね」
店長「遊佐君もそう思うかい」
遊佐「……ですね」
店長「ははは」
遊佐「では」
店長「おつかれさま」
そして今日は店から家まで走って帰ることにした。
理由は気分が良かったからだ。清々しいというのだろうか。
最終更新:2007年03月11日 18:09