あの神社の階段の前に来ていた。
遊佐「やっと、ここまで来たんだな」
距離的にも、時間的にも。
遊佐「よっし、上るぞ」
一段ずつ、しっかり踏みながら。
霞「三十四、三十五……」
霞は段数を数えながら。
遊佐「……ついた」
そう、ついこの間も訪れた場所。
霞「ついたね」
遊佐「確か……ここから、だよな」
確かめるように。
霞「うん」
あのときよりも背は高くなっている。
霞「大丈夫?」
遊佐「余裕。よっと」
手すりを踏み台にして木へ登る。
遊佐「霞はどうだ?」
霞「大丈夫ー」
案外同じように上って来る霞。
案外、というか普通……か。
遊佐「……ここか」
俺は木から下りて屋根に下りる。
軋む屋根の音は俺を不安にさせる。
遊佐「……」
大丈夫、そう簡単には穴はあかない……と思う。
霞「えい!」
遊佐「げっ」
霞が飛び降りてきた!
遊佐「ばっ!」
とっさに霞を受け止める。
遊佐「っ!」
霞「とっとっと」
……セーフ。
遊佐「なんとか、大丈夫みたいだな」
霞「何が?」
遊佐「屋根……穴あきそうなんだよ」
霞「あらら」
流石にもう誰も手入れしてないっていう外見だしな。
遊佐「あんまり激しく動かない方がいいと、思う」
霞「わかった」
遊佐「そーっとな」
俺たちが来た階段の方へゆっくりと移動する。
遊佐「……」
ここだ。
今日も見た場所。
霞「ついたね」
遊佐「ああ」
そうだ。ついたんだ。
何年間も、訪れなかったこの場所に。
遊佐「座るか?」
霞「そうしよ」
そこに、座る。
正直危ない場所だよな……なんて思いながら。
遊佐「ふぅ……一息つけるな」
風が吹いている。
隣にいる霞の髪が揺れる。
その影が気になったりしながら、二人で沈黙。
今日の、予定……その二。行くか……。
遊佐「あのさ、この前病院で見たんだけどさ」
霞「……」
遊佐「あのお守り。今、持ってる、よな?」
霞「うん、あるよ」
遊佐「貸してくれ……」
霞「はい」
ポケットから取りだしたそれは。
遊佐「……はは。俺もガキだったんだなぁ」
間違ってるからな……。
遊佐「開けてもいい?」
霞「いいよ」
遊佐「……あった」
そこには二文字、"やく"と、かかれた紙が。
その左側は破かれていてる。
俺もポケットから取り出す。
霞「あ……」
それは、お守り。
遊佐「開けるぞ」
俺のお守りも、開けられた。
遊佐「……」
一枚、紙を取り出す。そこにはまた二文字
"そく"と。
そして右側は破かれている。
遊佐「……やっと"やくそく"守れたな」
遊佐「ずっと待たせて悪かった」
霞「守ってくれたからいいよ」
遊佐「そっか……」
これで、二つ目。
遊佐「そのお守りも俺が確か持ってきたんだよな」
おじいちゃんに頼みこんで買ってもらった……はず。
霞「これ書いたのも遊佐君だったね」
遊佐「ああ」
ひらがなってところが、また昔のことなんだと思う。
遊佐「何で、合格祈願なんだろうな……」
我ながら、アホだったと思う。
霞「そこはしょうがないよ」
あはは、っと二人で笑う。
その時一つ、二つと破裂音が聞こえてくる。
始まりを知らせる花火だろう。
遊佐「もうそろそろ、始まりそうだな」
霞「始まるね」
遊佐「よーっし、それじゃ見るか!」
霞「おー」
本格的に夜がやってきた。
花火が上がりだした。
久しぶりの、こっちの花火大会。
遊佐「……」
霞「たまやー」
遊佐「かぎやー」
二人でまた見ようって"やくそく"
遊佐「……あのさ霞」
霞「……」
遊佐「霞!」
霞「あ、何?」
遊佐「目、つぶってくれないか?」
花火の音が大きい。
霞「え? 何?」
遊佐「目、つぶってくれ!」
霞「……うん!」
これが、三つ目……。
手を握る……。
目の前には霞の顔。
遊佐「好きだ……」
今別れていた、二人の道が一つになる。
霞「……ん」
ありがとう、霞。
やっと、思い出せたから。
もう、大丈夫だから。
霞「……んは」
唇が離れる、と同時に。
霞「もう、離さないよ」
遊佐「ああ、離れないし、離れたくない」
霞「……うん!」
最終更新:2007年05月10日 02:09