遊佐「あー、たまらんね」
俺は両手を広げながら晶子に話す。
晶子「何がです?」
遊佐「この夜が来そうな感じが」
晶子「え?」
遊佐「何か部活やったなー、って感じがあるんだよな」
晶子「そうなんですか」
遊佐「正確には部活じゃないし、実際はこんな体験は初めてに近いんだけどな」
どっちかというと、小学生の時なんかに友達と遊んだあと帰る暗くなった道という雰囲気だろうか。
晶子「なんとなく、わかるような気がします」
遊佐「だよな?」
遊佐「夕方ってのは何か落ち着かせる効果でもあるんだろうか」
火照った体が落ち着く気がする。
晶子「どうでしょうか……」
晶子「でも、私。好きです。この雰囲気が」
遊佐「俺も好きだ」
そして分かれ道。
遊佐「それじゃあな」
晶子「はい、お疲れ様でした」
遊佐「ああ、がんばるからなっ」
びっと親指を立ててみる。
晶子「あはは」
これだけで明日も早起きして頑張ろうという気力が湧いてくる。
遊佐「また明日朝な」
晶子「はい」
では、帰るとしよう。

遊佐「早く寝るんだ、と思っていたが」
少し遅くなってしまった。
遊佐「まずい、まずいぞ」
これは気合いを入れて! 正座をして!
ネジ調節する。
遊佐「頼むぜ目覚まし」
そして携帯もセットしておこう。

遊佐「……」
耳の奥に響いてくる音は何だ?
まてよ、何か引っかかる気がする。
今まで何度かこの状況を感じたことがある。
遊佐「……っ!」
ばん!!
遊佐「目覚めろぉお!」
よし、何とか布団から離れることに成功した!
次は目を覚ます一撃必殺……!
それは……!
遊佐「シャワーだ!」
しかも冷水!
遊佐「いやっほぉおおうい!」
………………。
目が覚めたけど、何だか俺変だった……。
晶子に会いたいからな……。
遊佐「うわっ!」
布団へ頭を突っ込む。
遊佐「……い、いかん」
また寝てしまうぞ。
もう家を出てしまおう。そうしたら寝ずに済む。

晶子「おはようございます」
遊佐「よっ」
今日もフェンリル君と一緒だ。
そのまま晶子の家はフェンリル君を送り、
朝から木刀を振り回し、
ホームルームを迎える。
が、今日の睡眠不足がたたってるのか少し眠い。
寝ていないような格好をしながら、寝ようと試みるのだが。
眠れん……。
諦めて俺は机に突っ伏すことにする。筋肉痛の腕はたらして
顔だけ机につけながら。出っ張った骨が当たって少し痛い。
…………。
遊佐「はっ」
気づけば昼休憩寸前の時間だ。微妙に断片的にだが何度か起きた記憶がある。
証拠に教材が変わっているし。
しかし寝すぎてしまったな。
それにしても一回も起こされた記憶はない、か?
小さく体を伸ばすとすこしスッキリした。
チャイムまであと四分ってところか。
どうせなら後四分寝ていればよかった。
ま、申し訳なさ程度には教科書を見ることにする。
それにしても、一回寝出したら寝すぎだな……。

中島「夢見る少年」
遊佐「んな?」
中島「今日はどうするんだ?」
遊佐「もちろん、頼む」
中島「また昼飯食ってからでいいか?」
遊佐「ああ」
さて……。
遊佐「晶子、今日も……いや」
晶子「どうしました?」
遊佐「寝すぎたせいか食欲が沸かない」
食べ物の事を考えると急に胃が落ち着かない気分になった。
晶子「大丈夫ですか?」
遊佐「ああ。晶子は弁当か?」
晶子「はい」
遊佐「それじゃあ、今日は教室にしよう。俺は今日はやめとく」
そういって前の席のイスが空いてるようなので借りることにする。
そして窓の方をなんとなく向いて考える。
何だろうか。今日も外は暑いのは間違いないのだろうが、そんな気がしない。
遊佐「相変わらず小さいのな」
体が小さい分それで足りるのだろうけど。
晶子「私にはこれくらいで丁度ですから」
その通りだと思う。
だが、よく考えると何か引っかかる。
食事が体重に比例するのだろうか? 晶子の体重の1.8倍が俺の体重だとすると
晶子の1.8倍ほどを俺は食べるとなる。が、明らかにそれでは俺は足らない。
ということは食いすぎ?
などと無駄な思案をしつつ、比例しないのだろうなという結論に至った。

遊佐「そんじゃ今日もよろしく頼む」
中島「へいへい。汗臭くなっちまうのはしょうがねえな」
遊佐「それはすまんな」
確かにそれは一理あるのだが……。
中島「そんじゃいくぜ!」
遊佐「ばっ」
中島が打ってきたのを俺の額の上で咄嗟に受ける。
中島「ぼーっとすんじゃねえぞ!」
遊佐「今日は、おっと。俺が受け手、か」
中島「責めてばかりじゃ勝てないんだぜ!」
遊佐「今日の、お前のおっとぉ。セリフは正論ばかりだな」
中島「やけに冷静だな!」
遊佐「まーな」
中島「おらおら!」
遊佐「間違っても当てんなよ。生身なんだから」
中島「保障は、できん!」
くそ、無茶苦茶に打ち込んできやがる。だが、そろそろ……。
中島「……はぁはぁ」
遊佐「だろうな」
疲れるだろ。こんな暑いのだから。
中島「何で、お前は汗かいてないんだ……」
遊佐「汗? そりゃお前ほどは動いてないしな」
中島「全然かいてないじゃねえか」
遊佐「あん?」
つーっと額を指でなぞってみる。
遊佐「本当だな」
確かにほとんど汗が出ていない。
遊佐「これってまずいかね」
晶子「どうしたんですか?」
遊佐「ああ、しょう、こ?」
ぐらっと世界が回る。この時々感じることのある感覚は。
遊佐「あー、やばい。眩暈」
俺は気持ち悪さに膝をつく。
晶子「大丈夫ですか!?」
世界が右に回っている感じはするのに全くそんなことはない気持ち悪い感覚。
吐き気がする。
遊佐「こういうときってどうするんだっけ」
中島「さっさと影に移動するぞほら」
中島が支えてくれる。うわ、汗で濡れてる。
中島「神契さんは濡れタオルとか用意して。今日もタオルあるんだろ?」
晶子「は、はい!」
遊佐「うぉぉお、すまんな……」
中島「ダウン早すぎ」
遊佐「確かに……ってか、冷静だなお前も」
中島「昔に俺もなったことあるからな」
遊佐「なるほど……」
本格的に俺は、運動不足のようで。
なんとか木陰まで運ばれてベルトを緩めたりなんやら。
遊佐「あ”ー」
冷めた右腕を目に当てつけてそんな声が勝手に出る。
晶子「タオルです」
遊佐「悪いなー」
顔へべちょりと。
遊佐「う”ーきくー」
あーこれはたまらんぜ……。
中島「落ち着いたら保健室直行だな」
遊佐「あ”ーそうするー」
最終更新:2007年06月20日 21:26