お呼びでなくてもブロン子なんだが?
晶子×杏子
○ 放課後・校舎
(帰宅時に誰に声をかけるか選択肢で選んだ感じのノリで)
よし、今日は晶子と一緒に帰るかな。
教室にはもういない。既に校舎から出てたりして。
俺は急いで荷物をまとめ、教室を飛び出した。
やはり校舎にはいないようだ。晶子の下駄箱を慎重にコッソリ覗いたら上履きが入っていた。
???「何してるんだ?」
俺「うおっ!」
耳元で鳴り響いた美声に驚いて振り向くと、そこにはブロン子さんの美顔があった。ほのかな香水が俺の鼻をくすぐる。
ブロン子さんは俺が開いていた靴入れにある名前を確認し、細い眉をしかめた。
ブロン子「おいィ? お前そんな趣味があったのか?」
俺「あ、いや、これは、違」
嫌な人に嫌なトコを見られてしまった。タイミングが悪すぎるぜ!
ブロン子「♀は強い男に憧れるが、少なくともお前のような人間でないことは確定的に明らか。
そうやって変態ぶっこいてるとマジでかなぐり捨てンぞ?」
愛剣グラットンの柄に、美女のしなやかな手が当てられる。
俺「ちょ、まっ」
――こいつぁ本気だ! あれだ、怒りが有頂天ってやつだ!
俺は急いで駆け出した。剣を構える前に逃げなければ、冗談抜きに殺られる!!
自分の靴入れからスニーカーを取り出し、上履きのまま外へと飛び出した。
ブロン子「ほう、経験が生きたな」
なんて感心する言葉を背にしながら、俺は何とか一命を取り留めたのだった。マジで経験が生きた。
(何度か調子ぶっこいて痛い目にあっている設定)
○ 夕方・帰路
えっと、そうそう、晶子を探してるんだった。
まったく、ブロン子さんと関わるとワケが分からなくなってしまう。
晶子とは途中まで帰路が同じだ。彼女は歩くのが遅いし、急げば追いつくかもしれない。
いやはや、一緒の帰宅を誘うだけでこんなに苦労するとは思わなかった。
???「……」
ん?
曲がり角の先から話し声が聞こえた。
何となくコッソリ覗いてみると、どうやら二人の女学生が談話しているようだ。
ああ、盗み聞きなんてしてるとまたブロン子さんに怒られちゃうかもな。
ええい、ままよ。今日は変態ぶっこきまくってやるぜ!
二人の女学生のうち小柄な方は、どうやらお目当ての子のようだ。
おでこの出っ張りと、何よりその周囲をグルグル回っている狼犬フェンリルが、その少女が晶子であることを示していた。
対して晶子の会話に付き合っている女生徒は……
これは驚きだ。ブロン子さんより少しばかり小さいながらも長身の痩身。小柄な晶子と並んでいるので余計に大きく見える。
髪をわざわざ黒く染めているその少女は、晶子とはまた違う雰囲気の影を持っている杏子だった。
学校では二人が一緒にいる姿を見たことが無いが、実は影を持つもの同士、息が合っているのだろうか。
杏子は中腰になって、正面に来たフェンリルの鼻をつついてみせた。
フェンリルは一旦顔を背けながらも、やがて鼻で杏子の指をつつき返したり、舐めたりしてじゃれ始める。
――それはあからさまな変化ではなかったが、遠目ながらに杏子の表情が少し綻びたように見えた。
いつもの無表情、無感情で近寄りがたい雰囲気からは想像できない変化だ。
杏子「風邪、治ったみたいね」
フェンリルの頭を撫で、立ち上がった杏子は再び無表情に戻っていた。
晶子「あ、
ありがとうございます。杏子さんのおかげで、病気が悪化せずに済みました」
杏子「本当、今度からは気をつけなさい。何かあったら、全て飼い主であるあなたの責任なんだから」
晶子「は、はい……」
晶子は本当に反省しているようで俯(うつむ)いた。
というか、フェンリルは病気してたのか。しょっちゅう会ってるのに全然気づかなかった。
加えて、その病気をどうやら治してあげたらしい杏子って何者なのだ?
杏子「じゃあね。本当は寄り道嫌いなのよね。これきりにして欲しいわ」
無感情というよりも冷ややかな口調で、突き放すように言い放ち、杏子は歩き出す。
そんな彼女に対し、気弱な晶子は恐らく勇気を振り絞って叫んだ。
晶子「あ、杏子さん!」
杏子「ん?」
杏子は不快げに溜息をつきながらも、首だけを振り返らせた。
晶子はカバンの中に手を突っ込み、中から見覚えのある羽根を取り出す。
――フェニックスの尾羽根?
俺に見せてくれた髪留めもしているということは、羽根は複数あるのだろうか。
杏子「何コレ」
晶子「お礼のフェニックスの尾羽根です。これ持ってるといいことがあります!」
杏子「……ふぅん」
尾羽根を受け取り、あらゆる角度から眺めて品定めしている。
杏子「コレ、鳩の羽根じゃない?」
俺が敢えてしなかった質問をあっさりと投げかけられると、晶子は大きくかぶりを振った。
晶子「フェニックスなんです! 不死鳥は居るんですよ。これを持ってるときっと幸せを運んで来てくれます!」
杏子「……そう。ま、どうしても要らないっていうのならもらっておくわ」
心底興味が無さそうだったが、受け取ることにはしたらしい。
杏子は尾羽根をカバンへ無造作にしまい、今度こそ有無を言わさず立ち去った。
晶子「本当にありがとうです!」
感情の見えぬ背中に向けて、その姿が見えなくなるまで、晶子は一心に感謝の言葉を浴びせ続けていた。
そして結局声をかけるタイミングを逃してしまった俺は、さらに晶子が歩き去るのを待ってから、独りで帰路につくのだった。
――というか、俺も尾羽根欲しかったな。
意見など
最終更新:2009年06月03日 10:52