と、言うわけで体育祭当日。
色々すっ飛ばしてお昼休みだ。

ましろ「遊佐君。ご希望の品だよ」
遊佐「ああ、ありがとう

この前約束してあったブツ。
恐る恐る蓋を開ける。
中身は……地獄だった。

遊佐「ましろちゃん。この黒いのは?」
ましろ「元コロッケだよ」

元なのか。

遊佐「こっちの焦げの塊は?」
ましろ「元ハンバーグだよ」
遊佐「…………」

とりあえず、ご飯なら間違いは無いだろう。
と、判断して箸をつけてみる。

ざくっ

遊佐「ざくっ!?」
ましろ「MS-06がどうかした?」
遊佐「ご飯がざくってなったんだけど……」
ましろ「仕様です。それでは良い昼食を」

ましろは逃げ出した!

遊佐「え!? ちょっ」

って、はやっ!

遊佐「どうすっかな。これ……」
中島「どうした? 早く食わないと時間なくなるぞ?」
遊佐「あ、中島」
中島「弁当とは珍しいじゃないか」
遊佐「この前ちょっとましろちゃんに頼んでみたんだ」
中島「……死ぬ気か?」
遊佐「まさかこんな事になるなんて夢にも思いませんでした」
中島「いや、俺が言ってんのは……まあ、いい」
遊佐「ん?」
中島「とりあえず何とか処分しろよ。聖に見つかる前に」
聖「私に見つかる前に、何だ?」
遊佐「…………」
中島「…………」

嫌な空気だなぁ。はっはっは。

聖「遊佐。弁当か。うらやましいな」
遊佐「それはどうも、いるか?」
聖「作ってくれた人に失礼だろう? 全部食え」
遊佐「…………」
中島「…………」
聖「どうした? 私に遠慮するな。食え」
遊佐「何かご飯がざくってなったんだけど」
聖「芯が残ってるんだろうな。食え」
遊佐「ハンバーグが炭になってるんだけど」
聖「火を通しすぎたんだろう。食え」
遊佐「おなか壊しそうな匂いがするんだけど」
聖「真心たっぷりなんだろう。食え」
遊佐「…………」
聖「食え」
遊佐「中島! 助けてくれ!」
中島「お前の弁当だろう? 食え」
遊佐「お前まで!?」
中島「多分知らないで頼んだんだろうが、とりあえず食えよ」
遊佐「ああ! 知らなかったさ! ましろちゃんが料理下手とはな!」
中島「ちなみに年数人、その弁当で病院送りになる者が出る」
遊佐「病院かよ!?」
聖「全員私が見届けたぞ」
遊佐「お前が見てるからだろ!?」

威圧されてなければくわんだろ。コレ。
というか食えん。

聖「まあ、仕方ないな」
遊佐「何がだ」
聖「全おかず一口ずつで勘弁してやろう」
中島「聖が優しいだと!?」
聖「馬鹿者。この後のバリスタに欠員が出ては困るだろう」
中島「遊佐は病院送りになったほうが幸せなんじゃないか?」
遊佐「そんな幸せはねえよ!」
中島「まあ、お前がそういうならいいけどな」
聖「それはともかく、食え」
遊佐「分かった。一口ずつだな……」

生きて帰れますように……。
ざくっ。ぱくっ。がりがり……。

遊佐「表面意外ほとんど生米だった……」

口の中が何か粉っぽい。
すでに泣きそうなんだが。

聖「馬鹿な真似をするからだ」
遊佐「くそう……」

黒っぽい何かは炭の味しかしない。

聖「ちなみに、ましろは目玉焼きを作ろうとして水道を爆破した」
遊佐「どうやって!?」
中島「それは俺も気になるが謎だ」

卵焼きっぽい物体をかじってみる。
口の中に広がる卵の欠片は想定内。
だが……。

遊佐「苦い……すごく苦い……」
聖「塩か砂糖を重曹とでも間違えたんじゃないか?」
遊佐「解説どうも……」
中島「飯を食べながらやつれていくとか器用だよな」

うっせーよバカ。

遊佐「ところでさ」
聖「何だ?」
遊佐「ましろちゃんの魅力って、何だと思う?」
聖「は?」
遊佐「ましろちゃんがモテモテな理由だよ」
聖「ふっ、何を言い出すかと思えば・・」
遊佐「ん?」
聖「すべてに決まってるじゃないか」

……参考にならねぇな。

中島「俺がましろちゃんがモテモテの理由を説明してやろう」
遊佐「ほう?」
中島「まずルックスだ。美人というよりカワイイという点で評価が高い」
遊佐「まあ、確かに」
中島「某評価を引用するならAAランク+だ」
遊佐「で? それだけじゃないんだよな?」
中島「もちろんだ」
遊佐「ほう」
中島「一番の理由は人当たりのよさだな」
遊佐「ほうほう」
中島「常に笑顔で成績も良く、困った人が居れば手を差し伸べ、それでいてうっかりさん」
中島「ほぼパーフェクトでありながら、欠点を持っている事によって、親しみやすさを併せ持っている」
遊佐「だから人気がある、と?」
中島「かもし出している優しいオーラが人を引き付ける要因としてもあるだろう」
遊佐「ふむふむ」
中島「何故か困った時に居てくれて癒してくれる存在。それが最初の状況だった」
遊佐「ファンクラブとか無かった頃か」

どうでもいいけどノリノリだな。中島。

中島「ある事件が起きた」
遊佐「事件?」
中島「反ましろ勢力が出来たんだ」
遊佐「というと?」
中島「まあ、女子によるねたみ集団だな。好きな人がましろちゃんを好きだったとかそんなん」
遊佐「ほうほう」
中島「そして陰湿ないじめが始まった」
遊佐「いじめか~」
中島「そして、恩がある人たちによるましろ保護集団が出来上がった」
遊佐「ほう」
中島「保護集団と反勢力との戦いは熾烈を極めた」
中島「で、聖の介入によって戦いは終結した」
遊佐「ほう、聖すごいな」
聖「それほどでもない」
中島「まあ、当事者全員しばきたおしただけだけどな」
遊佐「聖こわいな」
聖「それほどでもない」

褒めてねえよ

中島「で、いじめ集団は解体、蒸発した」
遊佐「保護集団は?」
中島「半分は目的を達したということで解体を主張した」
中島「だが、もう半分は拒否を続けた」
遊佐「?」
中島「まあ、結局解体主張してたものは保護団を離脱していった」
遊佐「じゃあ、残ったのは・・」
中島「ああ、ファンクラブとしていくつも分離して出来上がっていった」
遊佐「へぇ~」
聖「公式の親衛隊はわたししか居ないがな」

それは親衛『隊』なのか?

聖「大体こんなところだ、理解できたか?」
中島「説明したのほとんど俺だけどな」
聖「やかましいっ。埋めるぞゴルァ!」
遊佐「大体分かった」
聖「ならよし、じゃあ、弁当の続きを食え」

くそ。覚えてやがったか。

中島「あ、そろそろ時間だな。装備取りに行かないと」
聖「む、もうそんな時間か」
中島「遊佐。集合場所は覚えているよな?」
遊佐「ああ、大丈夫だ」
聖「じゃあ、後でな」
遊佐「おう」

二人を見送ってから、俺はこっそり弁当を処分した。

…………
……

実行委員「はい。ここにある武器から好きなの選んでくださいね」
遊佐「うーい」

色々立てかけてあるな。
片手剣と盾セットに両手剣。
槍とか棍棒もある。
全部刃にカバーつけてなるべく怪我しないようにしてあるみたいだけど……。
当たったら痛いよな。これ。

実行委員「ここにない武器の使用は禁止ですから、注意してください」
遊佐「バリケードとか作っちゃダメなのかな?」
実行委員「攻撃に使わなければ別に構いませんけど、設置が間に合った例はありませんよ」
遊佐「ふぅん」

きょろきょろしてると、隅っこにダンボール箱が見つかった。

遊佐「あれも武器?」

指差して尋ねる。

実行委員「ええ、一応。ちょっと古いものであまりオススメしませんけど」
遊佐「ふむふむ」

あえてダンボール箱をがさごそしてみる。

当たって安心! ファントムタスラム12個セット 痛くない!
ヒヤヒヤドカン! ボムの腕 12個セット
これぞ忍者! 十字手裏剣 99個セット
お土産名物 木刀
ひんやりさわやか 北極の風 1個


……ろくなもんないな。
ほとんど投げるものばっかだし。
手裏剣は少し心揺さぶられるが、使いこなせる自信ない。

遊佐「ん?」

箱の奥の方になんかある。

遊佐「ねえ。委員さん。これ良いの?」
実行委員「え? バリスタテープ張ってあればセーフです」

実行委員さんもちょっと不安そうだけど……。
ダンボール箱から出てきた箱。
そこに堂々とあるイラスト。
銃。
怪我をしにくいゴム弾を使用! でも生き物には撃たないでね♪
デラックスカービン。弾99発付き。

遊佐「やっぱり銃は男の憧れだよね!」

等といいながら箱を開ける。
テープが張ってない事を祈る。

遊佐「テープ……張ってある……」
実行委員「あ、あはは……」
遊佐「じゃ、あの……これで……」
実行委員「はい。気をつけてくださいね」
遊佐「うん。なるべく危なくないようにします」

こんなもん使って良いのか? と良心がちょっと痛むけど、強い人多いから遠慮してられないよな。

…………
……

登録を済ませて、中島のところに向かう。
もうみんな集まってるな。

遊佐「お待たせ~」
聖「遅い! 貴様何をとろとろしていた!」
遊佐「いや、掘り出し物を見つけて」
ましろ「掘り出し物?」
遊佐「うん。これ」
中島「おまっ、これはさすがに反則じゃね?」
遊佐「でもほら、シール張ってあるし」
聖「実行委員に確認はしたのか?」
遊佐「ああ、委員の人もちょっとびびってた」
ましろ「それはそうだろうねぇ」
杏「……そろそろ始まる。移動しないと」
遊佐「あ、ああ。そうだな」

ワイワイと校庭に集まる。
何か一瞬人の群れの一部からすごい視線が飛んできた気がする。

進行役「勇者諸君! 今日の目玉! バリスタの時間だ!」

壇上に進行役が現れ、暑苦しいまでのテンションで盛り上げ始めた。
周囲も乗りまくってる。

遊佐「乗り遅れた俺は涙目なんだが」
中島「気にするな。それより」
遊佐「なんだ?」
中島「いやな予感がする。最初は逃げの一手でいこう」
遊佐「まあ、俺はずいぶん前から嫌な予感してたが」
中島「いや、そういうんじゃ。って無駄話してる時間はないな」

珍しく真面目だな。中島。

中島「ルールは覚えてるか?」
遊佐「風船割られたら失格で退場だろ?」
中島「その通りだ。逆に言えば?」
遊佐「風船割られなければ失格にならない。退場にもならない」
中島「つまり、風船さえ割らなければ堂々と相手をど突き倒せる訳だ」
遊佐「嫌な説明だな」
中島「俺の勘だが、お前は今とてつもなく危険だ」
遊佐「え? 何で?」
中島「それを説明する時間はない。ともかく最初は逃げるぞ。どっかの教室にでも陣取ろう」
遊佐「いや、お前。そんなの勝手に決めても」
ましろ「私も賛成だな」

いつの間にかましろちゃんが隣に来てた。

遊佐「ましろちゃんまで?」
聖「私はましろについていくだけだ」

聖、お前は想像してた通りだよ。

杏「問題ない」
五分「分かったゴブ」
遊佐「はぁ、俺だけ反対してもしょうがないな。了解」

何をそんなにみんな警戒してるんだろうね。

進行役「では、5分後バリスタ開始です!」

中島「行くぞ!」

言葉とともに全力で校舎に走り出す中島。

遊佐「ちょっ。待てって!」

みんなで必死で追いかける。
中島が人ごみにまぎれて進むせいで見失わないように必死だ。

ましろ「あうっ」

躓いてこけかけるましろちゃん。

遊佐「大丈夫?」
ましろ「うん」
遊佐「早く中島を追いかけよう」

ましろちゃんの手を取って再び走り出す。

ましろ「ちょっと待って」
遊佐「何?」
ましろ「これ」

ましろちゃんから、手紙を手渡された。
中島から?

手紙「遊佐へ。とりあえず西校舎に向かえ、そこからは自分で考えろ」

どういう意味だ?
とりあえず警告に従っておくか。

遊佐「分かった」

ましろちゃんに頷いて見せ、中島を除く俺たちは西校舎階段に向かった。

遊佐「なんかがらんとしてるな」
聖「まあ、西校舎は割りと遠いから、主戦場にはならないしな」
遊佐「生き残りを狙う連中くらいか」
聖「だが、主戦場で生き残ったような相手に生き残りを狙う意味はあまり無い」
遊佐「それならドサクサで強いのを潰すほうが良い。か」
聖「腕に覚えのあるやつなら、主戦場で戦うほうを好むだろうしな」
遊佐「確かに」
ましろ「何年も繰り返されてきた歴史だから、結局ここはほとんど使われなくなったんだよ」
遊佐「そうなんだ」

ひとしきり感心していると、不意にスピーカーから進行役の声が響き渡った。

進行役「それではバリスタスタートです! レッセ・アレ!」

と、同時にパーンっと景気の良い音が鳴り響いた。

五部「な、なにをするゴブ!?」

いきなり、ましろちゃんが、五部の風船を叩き割ったのだ。

ましろ「これで五部君は失格だね。退場だよ」

にこにこと微笑みながらひどい事をいう。
あの聖も驚きを隠せないようだ。

ましろ「五部君。いけないよ?」
遊佐「え? 何が?」

五部は沈黙を保っている。

ましろ「五部君はわかってるよね?」

ぎりっと歯軋りの音がした。

五部「遊佐! てめぇの命を狙ってる奴は他のクラスからも大量に投入されている!」
遊佐「へ?」
五部「てめぇを最初に殴るのは俺の予定だったが、他の奴らが俺の代わりにお前をぶちのめしてくれるぜ!」

突然の五部のキレっぷりに俺はぽかんとしていた。
というか語尾のゴブはどうした?

杏「うるさい」
五部「ゴブァ!?」

鋭いボディが五部に食い込み沈黙させた。

聖「ああ。なるほど」

ぽんっと手を打って何かに納得する聖。

聖「つまり、遊佐を抹殺したいと思ってたのは私だけではなかったようだ」
遊佐「物騒な事いうなよ」
杏「あながちそうでもない」
遊佐「杏までそういうのか」
杏「要するに、男の嫉妬」
遊佐「なんで!?」
聖「ましろに馴れ馴れしいからじゃないか?」

うっ。
馴れ馴れしいかったかなぁ。

ましろ「わたしは気にしてないよ」

ああ、にこにこと微笑んでくれるましろちゃん。
なるほど、この笑顔を独占している(ように見える)と嫉妬の一つや二つ買いそうだ。

聖「とりあえず、中島が時間稼ぎしてくれてる間に対策を練るか」
杏「彼を生贄に出したら?」
聖「それは良いアイデアだな」

俺を指差して物騒な事を言う杏。
聖も頷くんじゃない。

遊佐「勘弁してくれ。下手したら殺されるぞ」
ましろ「そうだよ。これはもうバリスタじゃないよ」

ましろちゃんが珍しくむっとした様子で言う。

聖「確かに、学校行事を私情で使うとは不届きだな」
杏「ましろに任せる」

杏が聖みたいな事言った!

聖「それに屈するのもシャクだし、ましろの意思を尊重するぞ」
遊佐「ありがとう二人とも」
聖「勘違いするな。お前の身などどうでも良い」

つめてーな。

生徒A「居たぞ!」
生徒B[逃がすな! 遊佐を捕らえろ!」

うげ、見つかった!?

聖「数が多いな。逃げるぞ」
遊佐「あ、ああ」

全力で走る。
何しろつかまったら何をされるか分からない。

ましろ「杏ちゃん」
杏「ん?」
ましろ「あのね。ごにょごにょ」

走りながら杏に耳打ちするましろちゃん。
器用だ。

杏「分かった」

こくりと頷く杏。
なんかやたら物分り良いな。

ましろ「階段のぼろう!」
遊佐「了解!」

一気に駆け上る。
二階を通過したとき、杏がそばのパイプで立ち止まり何かしている。

遊佐「杏!?」
ましろ「良いから急いで!」
遊佐「え? でも……」

せかされるままに走りながらちらりと後ろを振り返る。
パイプに毛糸?をくくりつけ反対側で杏が待機している。

ましろ「簡単なトラップだよ」
遊佐「な、なるほど」

確か、直接攻撃でなければ、基本的にオールオッケーなんだったっけ。

うしろの方で悲鳴の群れが聞こえる。
一緒に風船が割れる音も。
杏の武器は鎌だったから、あれは威圧感あるだろうなぁ。

ましろ「とりあえずこの教室に入ろう」

ましろちゃんに先導されるまま部屋に入る。

ましろ「よいしょっと」

扉のスライド部分に机を差し込んでカギ状態にするましろちゃん。
いつもからは想像できないくらい手際良いな。

ましろ「このままだとそのうち追い詰められちゃうね」
聖「そうだな……」
遊佐「中島と杏が頑張ってくれただろうから、ある程度減ったと思いたいけどね」

重い沈黙。

ましろ「そうだ」
遊佐「名案でもあった?」
ましろ「一人ずつやっつけよう」
聖「ふむ。どうやってだ?」
ましろ「まず、扉をこうする」

片方の扉をちょっとだけ開くように、机を調整するましろちゃん。

ましろ「後は入った瞬間ぽかりと」
遊佐「なるほど」

人一人が横向きで通れるギリギリだから、
よっぽどすごい人じゃないと、これは超えられまい。

聖「念のため退路も確保しておきたいところだな」
遊佐「うーん。窓からかなぁ」

こっそり窓を開けてみる。

遊佐「あ、ちょうど2階が下にある」
ましろ「ぬかりなし! だよ」

えへんと胸を張るましろちゃん。

遊佐「今日のましろちゃんはいつもの数倍すごく見えるね」
聖「確かに、私も少し驚いた」
ましろ「色々頑張って調べたんだよ」
遊佐「健気なええ子やのぅ」

うう、涙で視界が緩むぜ。

遊佐「ありがとう。ましろちゃん」

ぎゅっと手を握り感涙する俺。

聖「だから、ましろに触るなと言っている」

ハイキックが飛んできた。

遊佐「いや、すまん。感動のあまりつい」
聖「あまり調子に乗っていると裏世界で、もとい、お前を連中に差し出すからな」
遊佐「それは勘弁してくれ」
生徒C「遊佐ぁぁぁぁぁ!覚悟ぉぉぉぉ!」

ごんっ

突入してきた生徒をましろちゃんが殴り倒す。
ちなみにましろちゃんの武器はトゲトゲの付いたハンマーだ。
トゲトゲの部分は布と綿で作られてるけど、痛そうだなぁ。

ましろ「二人とも、気を抜いてると危ないよ?」
聖「ああ、すまない」

聖がいつの間にか完成していた机の牢屋に生徒を放り込む。
俺、出番ねぇな。

生徒「遊佐ぁぁぁぁぁ!死ねぇぇぇぇぇ!」

がんっ

生徒「俺たちの天使を返せぇぇぇぇぇ!」

ごんっ

生徒「お前さえいなければぁぁぁぁぁ!」

どかっ

生徒「よくもジーンをぉぉぉぉぉぉぉ!」

べしっ

生徒「ましろちゃん。らぁぁぁぁぁぁぶっ!」

どげしっ ばきばきっ

…………
……

聖「はぁはぁ。大分……。減らしたと思うんだが……」
遊佐「そう……だな……げほっ」

机で作られた牢屋の中には、20人以上の生徒がぶち込まれている。
下の方とか生きてるかちょっと不安だ。

ましろ「そろそろ……ここも危ないかもね……」

ましろちゃんもぐったりとした様子だ。
なんだかんだで俺と聖より撃墜数が多い。
まあ、俺と聖が要らない掛け合いしてたせいだが。

聖「正面からの突撃が無くなったな……」
遊佐「相手もいい加減、無駄な突撃はやめるだろ……」
ましろ「じゃあ、無駄じゃない突撃……あっ」

不意にましろちゃんが立ち上がった。

ましろ「二人とも、急いで窓閉めて!」

ましろちゃんが駆け出そうとした瞬間。窓から数人の生徒が乱入してきた。
俺たちを扇状に囲むとリーダーっぽい生徒が一歩前に出てきた
なるほど、扉の外には別働隊を用意してあるわけか。

リーダー格「遊佐。見つけたぞ」
遊佐「お前ら、いい加減しつこすぎだろう……」
リーダー格「お前がしつこく抵抗するからだ」
遊佐「大体、お前ら何なんだよ?」
リーダー格「我々か?」

ふふっと笑うとリーダー格の生徒はどんっと胸を張った。

リーダー格「ましろちゃんを遠くから見守って我慢しよう友の会だ!」
遊佐「なげーよ!」

要するにファンクラブみたいなもんなのな。

リーダー格「本当は親衛隊にしたかったんだがな」

言ってちらりと聖を見る。

聖「ああ。お前は」

ぽんっと手を打って納得する聖。
本日2回目だな。

聖「親衛隊に入りたいと泣きながら頼んできた。あの鳥山か」
遊佐「知り合いなのか?」
聖「いや、知ってのとおり親衛隊は女人専用なのだが、しつこく頼んできてな。軽く泣かした」
遊佐「軽くって?」
聖「とりあえずコンボを叩き込んだ後、校庭の木に逆さ吊りにしといた」
遊佐「ひどいなオイ」
聖「翌日から、何故か鳥山はコウモリ君と呼ばれてたな」
遊佐「明らかにお前のせいだろうが」
鳥山「それを言うな!」

あ、涙目になってる。
思い出したくないんだろうなぁ。

鳥山「とにかく、遊佐を引き渡してくれれば、お前にも危害は加えない」

にもって、最初からましろちゃんに危害加えない予定なんだな。
うむ、良い心がけだ。

聖「ふむ。こういうときの返事は、そうだ。遊佐がしたな」
遊佐「ん?」
聖「だ が 断 る」

どーんっと背景に擬音を背負ってきっぱりと言い切る聖。
カッコイイよ聖。惚れそうだ。

聖「キモイからやめろ」

俺の心読むなよ。
あとキモイ言うな。

鳥山「何故だ!? お前も遊佐のことは鬱陶しく思っているはずだ!」
聖「それとこれとは別だ。お前は学校行事を汚し、私情に活用しようとした」
鳥山「バリスタでなければ問題になるからな。それがどうした?」
聖「さらに多数で以っての非道を計画した。ゆえに私はそれを許さない」
鳥山「馬鹿な奴め。では、ここで死ね」

目がこえーよおい。

遊佐「どうでもいいけど鳥山君? セリフが悪役だな」
鳥山「この日のために色々練習したからな」

む、無駄な練習を……。

聖「遊佐」

小声でこっちに呼びかける聖。

遊佐「なんだ?」
聖「私が時間を稼ぐ、その間に逃げろ」
遊佐「おいおい。外は多分まだ敵がいるぞ」
聖「幸い連中はお前の武器が何か確認していないはずだ」
遊佐「あ、そういえば」

懐に仕舞ってそれから一回も使ってなかったな。

聖「それで威嚇しながら逃げればなんとかなるだろう」
遊佐「でも、お前は?」
聖「こいつらを倒したら合流するさ」
遊佐「……分かった」

聖から男らしいまでの決意を感じ取り、俺も腹をくくる。

聖「行くぞ」
遊佐「おう」

すーっと息を吸う。

ましろ「突撃!」
遊佐「なんでましろちゃんが!?」

ついうっかりつっこみを入れてしまったが、準備していた体はすでに扉に走り出していた。
扉を制限してた机はいつの間にか解除されていた。
不思議に思いましろちゃんを見ると、にっこりと微笑んでくる。
今日のましろちゃんはすごい!

聖「とりゃああああああ!」

背中から聖の叫び声が聞こえる。
聖の決意を背に、扉から外に俺たちは躍り出た。
最終更新:2009年02月22日 23:11