数時間の戦いが終わり、俺はひと時の休息を手に入れた。
まあ、要するに昼休みのことなんだが。
昼飯も先んじて入手しておいた。
平和な昼休みというものだな。
しかし、一人で食べるのは寂しい。
遊佐「ウサギは寂しいと死んじゃうのよ!」
ましろ「ふぇ!?」
隣の席で、のんびりとお昼を用意していたましろちゃんが奇声をあげる。
むしろ、原因は俺の奇声だろうけど。
ましろ「えっと、一緒にお昼にする?」
おずおずと尋ねてくるましろちゃん。
天使と書いてフェア……もといエンジェルだな。
遊佐「はい。お願いします。むしろ是非」
ましろ「あ、あはは」
苦笑いを浮かべてる気がするけど気にしない。
うん。気にしないんだから。
聖「遊佐。どけ。いや、むしろ消えろ」
遊佐「い、いきなり沸くなよ」
後、もう少し優しい言葉をかけてくれ。
聖「ましろにちょっかいを出したらシメるって言っただろうが」
あれ? なんか視界が真っ暗なんですけど……。
遊佐「なんか痛い! 頭がミシミシと痛い!」
聖「それと、ウサギは寂しくても死なないからな?」
遊佐「そうなのか!?」
聖「お前には言ってない」
遊佐「なんかさらに痛くなったんすけど!?」
ましろ「聖ちゃん! 遊佐君の頭がオレンジジュースの素材みたいになってるよ!?」
そ、それってつまり……。
遊佐「アイアンクローかよ!」
聖「ましろ。遊佐でジュースを作っても、毒薬くらいにしかならないと思うぞ?」
遊佐「スルーかよ!」
あ、やばい。そろそろ意識が……。
たすけ……。
ましろ「聖ちゃん。そろそろ離してあげないと死んじゃうよ……」
聖「ましろのためなら前科持ちになろうと平気だぞ」
ましろ「えっと、その……。あ、そろそろ勘弁してあげようよ」
聖「しかし……」
ましろ「ね? お願い」
聖「……分かった」
どさっと放り投げられる俺。
若干朦朧としているけど、ギリギリ意識がもったのはラッキーだな。
ましろ「大丈夫?」
遊佐「多分……」
心配そうだけど、こっちに近寄ろうとしないのは何故?
ましろ「ごめんね。聖ちゃんはたまに……パワフルだから」
パワフルは何か違う気がする。
よし。やっと視界が戻ってきた……。
ああ、なるほど。
近くに来ないのは、聖がこちらを威嚇してるからか。
遊佐「聖。いいじゃないか。昼飯くらい」
とりあえず警戒態勢を取りながら、お父さんみたいな事を言ってみる。
聖「ふしゃーっ!」
蛇みたいな威嚇音を出して俺を牽制する。
取り付く島も無いじゃないか。
ましろ「まあまあ。遊佐君も転校したてで友人も少ないだろうし。ね?」
ましろちゃんナイスフォロー!
何となく胸が痛いのはきっと気のせい。
聖「しかし……」
ましろ「お願い」
子犬の瞳でましろちゃんが聖を見つめる。
聖「……分かった」
さっき解放されたのもコレのおかげだろうか?
聖「妙な真似をしたら窓から放り投げるからな」
眼力だけで人を殺せそうな視線を俺に投げるのはやめてくれないか?
なんて言ったら窓から捨てられるんだろうな。
遊佐「分かったよ」
ここは大人しくしておくのが吉だ。
ましろ「じゃあ、食べようか」
遊佐「うん。ありがとう」
聖「ふんっ」
俺とましろちゃんの間に不機嫌そうに聖が座る。
遊佐「なあ、聖。ちょっと聞いてもいいかな?」
聖「なんだ?」
遊佐「えーっと。何故そこに?」
聖「私はいつもましろと食事を取っているからだが?」
遊佐「ああ。なるほど」
と、言う事は……。
遊佐「3人で食事になるわけかな?」
聖「不本意ながらそうなるな」
遊佐「そうなんだ……」
……さようなら。平和な昼休み。
ましろ「昨日やってたお笑いのテレビ番組……」
聖「初登場の彼はつまらなかったな。出演できたのが不思議だ」
ん?
ましろ「えっと、
部活動とかは……」
聖「最近は少し厳しいな。まあ、時期的に仕方ないのだろうが」
あれ?
ましろ「遊佐君は好き嫌いとか……」
遊佐「まあ、いちお……」
聖「私は主に魚介類というかカニが好きだぞ」
いやいやいや。
遊佐「ちょっとまて!」
聖「何だ? 騒々しいな」
遊佐「俺への会話をシャットアウトするなよ!」
聖「被害妄想じゃないか? 暗い男だな」
遊佐「明らかに事実じゃないか。最後のとか名指しだったぞ?」
聖「私は聞こえなかったが?」
ましろ「あ、あはは……」
ましろちゃんが乾いた笑いをしている。
ひょっとして……。
遊佐「ましろちゃん。まさかいつものこと?」
ましろ「うん。まあ……。そうなるねぇ」
むしろ諦めの表情を浮かべるましろちゃん。
遊佐「…………」
聖「どうした?」
遊佐「ひどい。あまりにもひどい」
オーバーアクション気味に頭をかかえる。
聖「ふっ。尻尾を巻いて逃げ帰るがいい」
対する聖は勝ち誇った表情だ。
が、知ったことではない。
遊佐「ましろちゃんがかわいそうだろうが!」
聖「何!?」
驚愕する聖。
遊佐「何だよその過保護……いや! いじめは!」
聖「いじめだと!?」
遊佐「聖。お前はましろちゃんに人並みの学園生活すら送らせないつもりか!」
聖「何を言う! 私はましろのためだけに生活しているんだぞ!?」
ましろ「いや、それはちょっと……」
遊佐「ばかやろう!」
聖「なっ!?」
遊佐「聞け! ましろちゃんが将来、学生時代の懐かしい恋物語を友人と話したとしよう!」
聖「そ、そんな話は……」
遊佐「その時! ましろちゃんは変な女友達のせいで一つもそういう話が無かった事になる!」
聖「変だと!?」
遊佐「そして! ましろちゃんは友人に百合の人の烙印を押され! 友人は消えていき!」
ずびしっと聖を指差す。
遊佐「引きこもりがちになり! いずれ社会に対応できなくなってしまうぞ!」
ましろ「いや、それもさすがに……」
聖「そ、そんな馬鹿なっ」
遊佐「その上原因だったお前は、携帯からも消され、二度と連絡を取らなくなるんだ」
聖「うぐぅっ」
衝撃を受けたように後ずさる聖。
聖「い、いや。遊佐! それは仮定の話だろう!」
何とか踏みとどまって聖が反撃する。
遊佐「でもさぁ。あんまりガチガチに過保護にしても良くないと思うんだよ」
聖「って、急にテンションを戻すんじゃない!」
遊佐「だから、恋愛とか騙されそうになるまでは自由にしてあげるべきじゃね?」
聖「む、むぅ……」
遊佐「まあ、聖がしたいようにすればいいかもだけどさ? ましろちゃんの人生な訳だし?」
聖「そう……だな……」
心なしかショボンとした様子で弁当箱を箸でつつく聖。
遊佐「いや、誰かを守ろうとするのは中々できる事じゃないさ」
聖「そ、そうか?」
遊佐「まあ、少し加減して、ほどほどに頑張ったほうが良いと思うぞ」
聖「そうだな。うん」
ふっ。
勝った!
ましろ「遊佐君。すごいねぇ……」
遊佐「俺の秘密の特技の一つ。流嚥下だ」
ましろ「良く分からないけどかっこいいね」
遊佐「ふっ。だろう?」
ちなみに何をしたかというと……。
まず、場の空気。つまり流れを一気に飲み込んで、急転させ、相手のペースを乱す。
そして、相手を何となく納得させる技だ。
ノリが良い相手でないと通じないのが難点だが。
実はついさっき名づけたのは秘密な。
遊佐「うん。聖が実はノリの良い性格でよかった」
聖「遊佐よ! 私はこれからもましろを守るぞ!」
ましろ「あ、うん。ありがと」
何となく一件落着だな。
遊佐「ところで聖」
聖「何だ?」
遊佐「いつ俺の名前を覚えたんだ?」
ましろ「というと?」
遊佐「いや、一番最初の頃は代名詞とか転校生とか呼ばれてた気がするし?」
ましろ「聖ちゃんは照れ屋だからね」
……似合わねーな。
遊佐「じゃあ、親しくなると遊佐君とか遊佐っちとか呼んでくれるのか?」
聖「は? 何馬鹿なことを言ってるんだ?」
……ですよねー。
遊佐「まあ、それはともかく」
聖「ん?」
1.これからよろしくな
2.一緒にましろちゃんを見守っていこうぜ
1選択時(聖好感度+1
2選択時(変化無し
――――――選択分岐なし
聖「絶対いやだ」
遊佐「何で!?」
聖「お前は危険だと私の勘が告げている」
遊佐「おいおい……」
やっぱり頑固なんだな。
ましろ「ところで二人とも」
遊佐&聖「ん?」
ましろ「後5分くらいでお昼終わるけど、ご飯食べなくていいの?」
遊佐&聖「なっ!」
本当だ。時間残ってねえ!
い、いそがねばっ。
ましろ「息ぴったりだねぇ」
急いで食事すると、みんな似たような感じになると思うけど……。
って、ましろちゃんだけ食べ終わってる!?
俺らが掛け合いをしてる間に静かに食べてたのか!!
ましろ「良く噛まないとだよ」
にこにこと母親みたいな事をいうましろちゃん。
だが、俺たちは言葉を発する時間も惜しく昼飯をかきこむ。
何か嬉しそうに微笑んでいる、ましろちゃんの一人勝ちに思えた。
最終更新:2008年10月03日 03:29