帰り道。となりには聖がいる。話を切り出せないのか聖は黙っている。ここは俺から切り出すことにしよう。
遊佐「んで、話ってやっぱ杏のことだろ?」
聖「そう。あんな頼みごとしておいて、黙っておくのは駄目かと思って、知らせておきたい事があったから」
遊佐「おう。それで?」
聖「あの子の右手首見たことある?」
遊佐「右手首? あー、そう言われるといつも両腕に何か巻いてるよな」
聖「実は、昔あの子、ちょっと事件があってね。親と、喧嘩しちゃって。それで……」
非常に言いづらそうだ。右手首? 手首がどうかしたって? 俺は背中に冷や汗を感じた。まさかそんな話あるだろうか? 大体そんな話が現実にあったのか? テレビで見たことはあっても実感の無い空疎な話であって。
聖「あの子、リストカット……した。それも、今まで何回も……」
遊佐「リストカットって、それって、自殺……ってことか?」
聖「いえ、医者の話によると自殺の線は薄いって。リストカットって、自傷行為っていうのに含まれるらしいのだけど、反復的に何度も繰り返す場合は自殺とはちがうらしい……」
遊佐「でもよ、それって……。俺にはよくわからないけどよ」
聖「色々原因はあるらしい。現実逃避、周囲に気づいてもらいたい、その痛みで自分が救われると思う。あの子、きっと誰かに助けてもらいたいのよ」
遊佐「……」
聖「私が助けたいと思った。けど、できなかった。いや、できないのよ」
遊佐「……なんでだ?」
聖「その原因には私も大いに関わってるから···。私が助けようとして近づいてもあの子は助からない。だから私じゃ駄目なの」
遊佐「それで、俺か?」
聖「本当に悪いと思ってる……。でも頼れるの遊佐しか居なかった。ごめん。私卑怯だった……」
遊佐「……いや、正直さ。まだ実感わかないし、リストカットっていわれても全然わからないけどよ。でも、でもさ」
俺は聖の方を向いて力強く言った。
遊佐「それを聞いて、俺どうすればいいかわかんねえけど、ますますほっとけねえよあいつのこと!」
聖は驚いた顔をした。
聖「こんなこと聞いても、遊佐はあの子を助けてくれるの?」
遊佐「あいつのいいところひとつだけ知った。でもよ、それだけじゃない。あいつのいいところもっとあるはずなんだよ。でも、何があったかわかんねえけど……、あいつ、今の自分が嫌いなんだよ。何かを隠そうとして演じてる。無理してる。だからさ、少しでもその痛みを取り除いてやりたい」
聖「……。やっぱり遊佐はやさしい」
いつもの強気な語気はなく、どこかやわらかい感じで目じりに涙を溜めて俺の方を見た。
遊佐「……だからほっとけねーだけだ」
それから何となくしゃべることもできずに帰路を歩いた。
遊佐「んじゃ、こっちだからよ」
昨日杏とも別れた場所。
聖「本当に
ありがとう遊佐」
遊佐「おう、そんな重要な話してくれて、ありがとうだな俺も」
晩飯を済ませて杏の事を考え続けた。
俺は自分の部屋のベットに寝転んでさらに考える。リストカット、か。
あの杏がリストカットをやっている。頭では分かっていてもまだ実感が沸かない。
遊佐「あー、リストカットって言われてもわからんしここは調べてみるか」
俺はパソコンを立ち上げてリストカットについて調べることにした。
遊佐「少しは手がかりになるだろうからな……」
リストカットについて調べて分かったことは
·精神の不安定から発生する
·自分を嫌悪する
·常習化する
·他人から孤立した孤立意識
·回復できる
あたりだ。つまり杏に当てはめると
·普段から精神が不安定な事情があった
·自分を嫌悪するあたりはわからん。
·聖の言ってたある事件で常習化した
·他人から孤立した孤立意識故ぐれた?
·周囲の環境により回復する···か。
難しいな、別に俺は精神科医でも何でもない。他人の心を完璧にわかるのは不可能だ。なら俺にできることを考えてみることにした。
うーん。
別に特別なことじゃなくていいんじゃないだろうか。今日みたいに少しずつ話していけば。むしろ急に特別なことをしようとして怪しまれたら駄目だろう。
遊佐「よし、いつも通りでいこう」
7/12(木)
眠い。眠すぎる。今日は一人で教室まできた。
杏はいないようだ。まぁ仕方ないな。
そのとき横を通り過ぎていく人影があった。
遊佐「うぉ!びびった。杏かよ」
杏「……何だ?」
遊佐「いや杏が居ないなーとおもってぼーっとしてるところを急に通ったからびびったんだよ」
杏「そう」
すたすたと席に向かっていく。
遊佐「まぁまて挨拶くらいさせろ。おはようさん!」
俺はぐっと親指を立てた。それを見て杏は一言
杏「馬鹿か?」
俺も馬鹿だと思います……。
杏「ふぅ……」
あ、ため息をつきやがりましたよ···。そして目をつぶって一言、
杏「おはよう。これでいいのか?」
意外だ。意外すぎる。普通に挨拶が返って来ましたよ。
遊佐「おう、それでいいんだよ」
杏はまたため息をついて窓のほうを見つめていた。
遊佐「んじゃまた昼休みパン買ってくるわ。昨日のでいい?」
杏「好きにすれば?」
俺はその一言がうれしかった。
最終更新:2007年02月19日 22:54