幽世の門 ◆DpgFZhamPE
とてとてとて。
たったったっ。
小さな少女が駆ける。
此処が何処かはわからない。
空を見上げても暗く。
先を見据えても、海のように青い床が拡がっている。
風はない。
音もない。
ただただ、ゆらりゆらりと水面のように揺れる世界が、そこにあった。
「……あら?」
ふと、空を見上げる。
青くはない、雲もない空だけれど、それはもう慣れた。
いつもと違うのは、一つ。
―――流れ星。
流れ星のように光が、一点に向かって動いている。
まるで、何かに導かれるように。
それも一つではない。
十。百。もっと多いかもしれないし、少ないかもしれない。
一目では数えきれないほどの流星が、一つの方向へと向かっていた。
…あまりの綺麗さに、見惚れていた。
あれほど綺麗なものを見たのは、何時振りかしら。
すると。
ひらりひらり、と。
流星の一部が欠け、ひらりひらりと落ちてくる。
とても遅く。まるで、雪のように。
……よく見ると、紙だった。
「これ、見たことがあるわ。
確か、とらんぷ…だったかしら。遊んだことはないけれど。
一枚だけ落とすなんて、可哀想だわ」
これを集めて遊ぶのかしら、と少女は落ちてきたトランプを小さな掌で掴み取り、まじまじと見つめている。
流星を見上げる。
流星たちは、空を流れ、一点へと向かっている。
あの先に行けば、このトランプの持ち主がいるかもしれない。
少女は先を見据える。
この世界の先の先―――電脳空間の先にある、ムーンセル・オートマトンを。
「行ってみましょう?届けてあげたら、きっと喜ぶかもしれないわ」
とてとてとて。
たったったっ。
少女は再び青い床を駆ける。
ムーンセル・オートマトンが作り上げた虚構世界。
異世界の中心―――スノーフィールドへと。
もしかしたら。
友達とか、出来るかもしれないわ、と。
そんな、場違いな考えを抱きながら。
闘争の中心へと、駆けていく。
○ ○
「ちょっ……待って……!!」
「いいえ、待たないわ!今度はキャスターが鬼よ」
ばさり!と。
丸く刈られた草木の影から、少女が勢いよく顔を出す。
身体は草木に隠れているが、頭だけ出ているその姿はまるで雪だるまのよう。
かくれんぼでもいいわ!と満面の笑みで答える少女。
白いドレスは草木にまみれているが、気にもしていないよう。
―――『
ありす』。
白い少女は、そう名乗った。
キャスターをこの場……ムーンセル・オートマトンの虚構世界『スノーフィールド』にて召喚した直後に、彼女はおどおどした様子で、人見知りのようにそう名乗ったのだ。
そして。
目を輝かせ―――"あなた、わたし(ありす)といっしょね"と。
まるで長年の友を見つけたかのように、そう言い放った。
その後は、この通り。
聖杯戦争らしく戦闘に巻き込まれることもなく、あたふたとおにごっこを繰り返している。
子供のエネルギーは無尽蔵だ。
サーヴァントとして現界しているキャスターと言えど、そのテンションにずっと付き合うのは骨が折れる。
「ちょっと……休憩、しよう……お兄さん、疲れた……」
「あら、みっともないわ。……む。でもおにごっこももう何度もやったわ。次はお茶にしましょ」
そう語ると、少女はまるで用意していたかのように地面にシートを拡げティーカップを並べていく。
こんなもの何処から持ってきたのだろうとキャスターは疑問に思ったが、ありすは答えてくれそうにない。
水筒のような筒から、とぽとぽと薄茶の液体が注がれていく。
……紅茶、だろうか。
「キャスターは東洋の人だから緑茶がいいかもしれないけど、今は紅茶しか持ってないの」
「いや、大丈夫だよ。うん、頂くね」
ずず、と口に含む。
……何処から持ってきたものかはわからないが、それなりに美味だった。
こほん。
キャスターは咳払いしながら、ありすを見つめる。
「ちょっと話、いいかな」
「いいわ。たのしいお話なら大歓迎よ」
きらきらと目を輝かせるありす。
こう見ると、十歳前後の少女と何も変わらない。
130cm前後のその身長も、軽そうなその身体も。
まるで、生きている子供そのものだ。
―――だが、違う。
彼女は、『生きていない』。
霊体に経験のあるキャスターだからこそ、ようやくわかるレベルの違和感。
この少女は―――幽霊"ゴースト"だ。
ムーンセル・オートマトンは死者の介入を許さない。
ムーンセル・オートマトンが観測するのは"今"であり"過去の人間"ではない。
資料として集めた人間も、平行世界等の違いはあれど"生きている人間"か"死ぬ直前の人間"だろう。
…だというのに。
目の前の少女は、如何なる理由か―――地上に肉体が存在しない状況下で、このムーンセルに存在している。
明らかに、異常。
それを、キャスターは聞き出そうとしているのだ。
「ありすちゃん……で、いいかな」
前置きを一つ。
そして、本題へ。
「『聖杯戦争』って知ってる?」
「知らないわ」
即答、だった。
きょとんとした顔で。
何かのゲームかしら、とでも言いたげな顔で。
その後、幾つか質問しても、サーヴァントもマスターも、何も知らないという。
此処に来たのも、ただ目立つ方向に歩いてきただけだと。
「それでも良かったわ。だってキャスターと出会えたんだもの!
あなたはわたし(ありす)といっしょ。
……わたしは、きっと生きていないもの。
うん、何もない。最初から何もない、ぬけがら。
キャスターと、いっしょね」
そう語る彼女の顔は、一差しの影が差す。
……彼女は、死んでいる。
サイバーゴースト。精神だけの、肉体を失った脱け殻。
ああ、と。
キャスターは、理解する。
彼女は、命を燃やすことなく―――孤独に、死んだのだ。
ならば。
この聖杯戦争の中でだけでも、この子と友達でいられたら。
「……わかった。じゃあお兄さんが、守ってあげる。
ありすちゃんが寂しくないように、一緒にいよう」
「ほんと?」
ぱあっと。
ありすの顔が、華開くように笑顔を灯す。
「うん。だから…えっと、いつまでもキャスター、じゃ他人行儀だよね。
俺は、タケル。
―――天空寺タケル。タケル、でいいよ」
「うん。よろしくね、タケル」
キャスターの手を、ありすが握る。
小さな、小さな手だった。
ああ、自分はこの子を守り抜こう。
死んでしまった、泡沫の夢だとしても。
それでも、それを大事に守り抜こうと。
キャスターは胸に決め
―――瞬間。
彼女の記憶が、華咲いた。
灰色の空。
爆撃。進撃。掃討。
その中で、無惨に散っていく命達。
消えていく。
命が、消えていく。
……その中に、ありすはいた。
最早虫の息。どう施しても、救いようがない命。
手を伸ばした。必死に手を伸ばす。
しかし、キャスターの手は届かない。
当たり前だ。これは記憶。
"既に起こってしまった現実"。
キャスターがいくら足掻こうと、変えられるものではない。
―――そして、場面は変わる。
ありすは血液にまみれた格好のまま、担ぎ込まれる。
病院、だろうか。
キャスターには見覚えのない建物だが、傷だらけのありすが運ばれたということは病院なのだろう。
此処で、ありすは死んだのだろうか。
瀕死のありすを囲む医師たちの一人が、呟く。
『…驚いた。この子、魔術回路があるぞ』
此処で死ぬ、なんて。
希望的観測も良いところだった。
地獄は、ここからだ。
無数に繋がれた管。
機械に接続された身体。
小さな身体は、医師―――魔術師たちによって、良いように弄ばれる。
実験。
投薬。
研究。
地獄のような、生きているとはとても言い難い、人としての尊厳を奪われ尽くした環境。
それを、数年間。
数年間もの間、続けられていた。
……もう見ていられない。
涙が溢れてくる。
あまりの非人道的な行為に、怒りを通り越して絶句する。
彼女は、自分のために生きていたのではない。
"誰かの益になるから、生かされていた"。
そして。
数年もの間続けられた無茶な実験の末、ありすは死んだ。
当然の帰結である。
幼き身に耐えられないほどの苦痛と絶望を与えられ続けたのだ。
瞳からはとっくの昔に希望が消え失せ。
肉体が耐えられず、死滅した。
……幸か不幸か。
彼女の精神は、まだ生きていた。
接続された機械を通り、彼女の精神は肉体を離れ、インターネットへと飛び立つ。
これが、始まり。
長いさ迷いの果てにムーンセルへと辿り着く、その序章。
あらゆる尊厳を奪われた少女の成れの果て―――それが、サイバーゴーストのありすだった。
○ ○
「…ないてるの?」
意識が現実へと帰って来た瞬間に掛けられた言葉は、それだった。
ふと、自分の頬に手を当てる。
……頬が、濡れている。
俺は、泣いていたのか。
キャスターのスキル『命の限り』を通して見た記憶は酷いものだった。
これが、現実としてあっていいものなのか。
……怒りが込み上がる。
これは、許していいことではない。
目の前のありすを、強く抱き締める。
強く。強く。
身体は、こんなにも小さい。
こんなにも小さい、のに。
「いたいわ、キャスター」
苦笑したように、ありすが呟く。
ああ。
自分は、この小さな命を―――再び、生きることの幸せを教えてあげたい。
「大丈夫」
「俺が、絶対に何とかしてみせる」
「絶対に、もう一度、楽しく生きられるように―――」
その先の言葉は、空気に消えた。
自分が、この子に呼ばれた理由が、今わかった。
助けるためだ。
自分は―――この子ために、命を燃やすべく呼ばれたのだ。
ゴースト。
ありすと同じ、幽霊。
幽き戦士は、そのために、もう一度立ち上がった。
【出展】仮面ライダーゴースト
【CLASS】キャスター
【真名】天空寺タケル
【属性】秩序・善
【ステータス】
筋力D 耐久C 俊敏B 魔力A 幸運A 宝具A+
【クラス別スキル】
陣地作成:C
魔術師として自らに有利な陣地な陣地、小規模な「工房」を作成可能。
彼の場合は、「大天空寺」を作成する。
しかし、彼にとってその空間にて鎮座するだけで魔力が微少に回復する、と言った小さな利点しか得られない。
道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成可能。
彼の場合は、後述の宝具から特定のアイテムを制作可能。
【保有スキル】
変身:A
文字通り変身する。
キャスターの場合、降霊魔術に似た技術にて己を強化する。
英雄降霊:A
戦士として英雄と心を繋ぎ、その力を借り受けた証。
後述の宝具を用い、座へと接続し英雄の魂を降霊させ纏った場合、その英雄の技術を完全に模倣することができる。
そして同ランクまでの真名看破スキルを得る。
単独霊体:C
生前、彼は生きながらにして霊体だった。
つまり、生きていた頃から擬似的なサーヴァントなのだ。
故にサーヴァントとしての行動に関する魔力消費を減らし、霊体の修復を早めることができる。
激闘の果てに生身の身体を取り戻したため幾らかスキルがランクダウンしている。
命の限り:EX
命、燃やすぜ。
彼は戦士である限り、人間の可能性を信じる限り、歩みを止めることはない。
同ランクまでの戦闘続行を得て、他人の感情に干渉し魂を接続、記憶を見たり己の願いを魂へ直接繋ぐ能力を持つ。
このスキルのおかげで彼の言葉は言葉としての形より大きな力を持ち、相手に己の言葉を信じさせることができる。
【宝具】
『開眼セシ幽キ腰布(ゴーストドライバー)』
ランク:D 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
異界の存在、不滅の存在への対抗策として作られた宝具。
魂やエネルギーを物質へと変換し、鎧を作る。
この宝具により作られた物質は対不死・不滅。そして対異界の存在への特効を得る。
キャスタークラスでは己に英雄を降霊させるための出力源として機能する。
瞬間的に魔力を増幅させる『オメガドライブ』の使用により、擬似的な真名解放を可能。
道具作成スキルにより、ガンガンセイバーやゴーストガジェットを産み出すことができる。
しかしライダーのクラスではないため、マシンゴーストライカーの召喚は不可能。
また、キャスタークラスならば英霊の魂が籠められた聖遺物から『開キ繋グ英雄眼球(ゴーストアイコン)』を産み出すことが可能である。
『開キ繋グ英雄眼球(ゴーストアイコン)』
ランク:B 種別:対霊宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
座へと接続し、対応した英雄の魂の一部を己へと降霊・変化させ纏うための、眼球を模した宝具。
逸話では十五の英雄を従えたと言われているが、その規格外の能力はサーヴァントとしての霊基では再現しきれないため、召喚前に選んだ六つと、基本である『オレ』のみの『開キ繋グ英雄眼球』しか持ってこれなかった。
今回はキャスタークラスであるため、所持しているのは
オレ・エジソン・ニュートン・ベンケイ・ヒミコ・ベートーベンである。
それぞれ対応したスキルや能力を獲得可能。
ライダークラスの場合、更に扱える『開キ繋グ英雄眼球(ゴーストアイコン)』は増え、更に『闘魂』を含めた十の数を持ち召喚されるという。
『生命燃ヤシ果タス可能性(ムゲンゴーストアイコン)』
ランク:A+ 種別:対人類悪宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
光のゴースト。
人間の無限の可能性を一点に集約した
、言わば『人類が産み出した人類に仇なす者への最終防衛』。
喜怒哀楽。愛、信念、勇気。
七つの感情を宿したゴーストの最終形態である。
人間の産み出す可能性の集大成であり、人類という存在がもたらす希望そのもの。
瞬間的な霊体化が可能であり、粒子化や瞬間的な高速移動が可能。
人類を脅かす者への特効能力があり、ステータスの筋力・耐久・俊敏を2ランクずつアップさせる。
【人物背景】
「明るく呑気で無鉄砲だが、自分が信じたことは曲げない、気持ちが真っ直ぐな青年」。
基本的には心優しく温厚な性格だが、自身が死を経験している為に「命」に関わる事柄については真剣に向き合っている。
その為、目的達成の為なら人の命を平気で弄ぶ眼魔や自分の命を簡単に捨てようとする人間に対しては怒りを露わにしている。
加えて、自分の命に関わるゴーストアイコン入手についても、他人を犠牲にしない事を第一にしている。
上記の様に偉人や英雄に対して憧れを抱いており、彼らを「命を燃やしきった人物」とみなして尊敬している。
偉人に関する知識は人並み以上にあり、エジソンの有名な言葉が意味を間違えて伝えられていることや、ゴエモン魂からねずみ小僧と因縁があると言われても石川五右衛門とねずみ小僧では活躍した時期が違うと指摘して嘘だと白状させたりしている。
また、死んで霊体となった自分の能力や偉人に関わる事柄をド忘れして慌てふためく等おっちょこちょいな一面も持ち合わせている。
【サーヴァントとしての願い】
ありすを、人間として生き返らせる。
他のマスターを殺すつもりはないが、サーヴァントだけを座へと帰らせるつもり。
【出展】
Fate/EXTRA
【マスター】
ありす
【参戦方法】
サイバーゴーストとしてさ迷う内に招かれた、異物。
電脳空間において、スノーフィールドへと導かれる魂達からトランプを手に入れた。
【人物背景】
さあ、あそびましょ。
焼かれた人型。
管に繋がれた人形。
解剖された、肉体。
片方を失った双子。
傾いた天秤。
真ん中で裂かれた果物。
それが、わたし。
でも、寂しくないわ。
だって、キャスターがいるもの。
あなたもわたしと同じ。
幽霊。
いいわ、いいわ。
あたしだけのあたしじゃないのが残念だけれども。
それでも、時間一杯、遊びましょう?
【weapon】
【能力・技能】
【マスターとしての願い】
? ないわ。
強いていうなら、みんなで遊びたい。
キャスターも一緒に遊んでくれるから、さびしくないわ。
【方針】
遊ぶ。
最終更新:2016年12月20日 10:43