橘朔也&ランサー ◆lkOcs49yLc
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人間の死というのは、自由への道において行われる最高のフェスティバルである。
―ディートリッヒ・ボンヘッファーより
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アメリカ、スノーフィールド中央区にある生物研究所。
其処で行われている研究とは、ある未知の古代生物についての解析だった。
今まで誰も行った試しの無い極秘研究で、スノーフィールドと言う目立たない街に研究所を置いたのも、恐らく秘密を隠し通すためであろう。
しかし創設者が資本家なだけあって設備は充実しており、人々が通りかかるこの廊下にはホコリ一つ付いていない。
「済まないな、デートは、また今度にしてくれ。」
研究所の中にある、一つの研究室。
机に本棚、そして幾つかの引き出しと、何処にでも有る平凡かつ清潔な部屋。
其処の角に突っ立った一人の青年が、スマートフォン越しに電話を掛けている。
『また、研究?』
電話のスピーカーからは、面白がっている様な口調な女性の声が聴こえる。
青年はその声を聞き、更に申し訳無さそうな表情を浮かべる。
「ああ、そうなんだ。まだ俺の研究は進んでいない……君ともまた会いたいけれど、どうしても、この研究を終わらせなければならない気がするんだ。」
『……そっか、頑張ってね、研究。私、橘君の事応援しているから。』
「ああ、有難う、そちらこそ、開業医、頑張ってくれ、小夜子。」
『うん、あ、患者さんが来たから、私行かなきゃ、じゃね。』
プツンと、電話が切れる音が出る。
青年、橘朔也はそれを確認した後、スマートフォンの電源ボタンを一押しし、ポケットに仕舞い込んで一息付いた後、机の椅子にドサリと座り込む。
先程まで橘が電話をした相手の名は、深沢小夜子。
大学時代の同期で、スノーフィールドで開業医をやっている女性だ。
共に生物関係の学部を専攻したこともあり、今でもこうして関係が続いている。
スノーフィールドに共に渡ったのも、多分このことが関係している。
しかし、橘にはどうにも心に何か引っかかったものがあった。
これまで橘は、何度も研究を優先して小夜子とのデートを断ってきていた。
その事を度々後悔はしているのだが、何故、自分は後悔を振り切ってまで研究を優先しているのか、それが全く分からなかった。
(何故そうしてまで、俺はこの研究を……?)
橘が行っている研究とは、とある古代生物の解析。
嘗て、この研究所が発見した、幾つもの古代遺跡の中に、カードが挟まった結晶があったそうだ。
そして分かったことは、その13枚のカードが生物に密接に関係している……いや、もしかしたら、進化論すら覆すほどの存在に成りかねないと言う事である。
若年研究者である橘に白羽の矢を立てたのは、そのカードの力をエネルギー源に出来ないかと考えている日本人の科学者だった。
どういう事情があったのかは、橘の知るところではないが。
橘はその科学者の助手では有るが、研究は任されている立場にある。
それ程に己が信頼されている、ということになるのだろう、大変誇らしい話だ。
そう考え、橘は机の引き出しを開き、中にあるボタンを押す。
それと同時に研究室の壁の一部が突然開き、カードの束が入ったケースが出現する。
これは謂わば「隠し扉」だ。
外部の人間に持ち出されないようにと、上司が考えた入れ場所である。
橘は机を立つとケースに向かい、カードの束を取り出す。
カードを全て取り出し、橘はもう一度ケースを閉じようと机に戻ろうとする。
だが、机の椅子に座ろうとした瞬間、橘は、何故か壁から、引き出しが自動的に開くように別の隠し扉が出て来るのを見た。
「どういう事だ!?」
有り得ない。
この研究室に来た時に説明された隠し扉は、一つだけ。
況してや、何もしていないのに開くとなれば、尚更だ。
橘はもう一度机から立ち上がり、其処の壁に向かう。
ケースを覗き込む。
入っているのは、カードケースらしき何かが入った銀色の箱。
「何なんだ、これは……。」
だが、橘はこの道具を知っていた。
これまで、何度触れてきたか分からない代物。
何度腰に付けてきたか分からない「ベルト」。
橘はそれを恐る恐る、振るえた左手で掴み取る。
(そう言えば、何故、小夜子が彼処に……)
不意に頭の中に浮かんだ違和感が、余波の如く橘を襲う。
橘は知っていた。
小夜子が、死んでいたことを。
「はっ……そうか、俺は……。」
こうして橘は、記憶を取り戻した。
◆ ◆ ◆
「そうだ、俺は確か……。」
自室の机で橘は、これまでの経緯を回想する。
52体のアンデッドが封印されて数年の歳月が経過した。
自分は、アンデッド研究の傍ら、烏丸と共にアンデッドとBOARDの一連の事件の事後処理に取り掛かっていた。
それは、橘が残ったコモンブランクの回収に取り掛かっていた時の事だった。
其処で手にしたのは、何一つ絵が記されていない白いカード。
それを手にしたのが、橘の最後の記憶だった。
「聖杯戦争、か。」
それは橘にも知り得ない物だった。
いや、とても常識的には考えられないものでも有るのだが。
まさか願いが叶う聖遺物が、この月に存在する等。
アンデッドという存在が明かされ、進化論が覆されている事を知っている今なら、少し飲み込める気はするのだが。
「まさか、本当に此奴が役に立つ時が来るとはな。」
橘は、机に置いてあるギャレンバックルを手に取る。
嘗てはアンデッドの研究を兼ねて修復した物だが、実験に使ったことは殆ど無い。
そもそもが、ブレイバックルを研究に使う気になれなかったために修復したと言うことには、橘も気づけない。
不意に、机に有るカードが光る。
橘はそれに感づき、眼を細める。
「来たか。」
カードの光は更に更に増していき、遂にはピカッと閃光弾が炸裂したかのように部屋が真っ白に包まれる。
その輝きに橘も、手で目を覆う。
光が消え去った時に見えたのは、一人の女性。
朱槍を手にし、黒い髪を伸ばした女性は、その美貌と朱い眼を橘に向ける。
「問おう、貴様が私のマスターか。」
◆ ◆ ◆
橘は、この女性と話して分かった事が幾つかあった。
彼女は橘に与えられたサーヴァントであり、クラスはランサー。
ステータスは見たところ申し分ない、当たりだ。
真名はスカサハ。
ケルト神話に登場する影の女王。
「それで、貴様はこれからどうするつもりだ?」
机に両肘を立てている橘に視線を合わせ、ランサー…スカサハは問いただす。
「戦うつもりだ。俺にだって、叶えたい願いは有る。」
橘には、叶えたい願いが有る。
後輩である、
剣崎一真を人間に戻すと言う願いが。
これまで橘は、剣崎の身体を元に戻す為に、何度もアンデッドの身体を知ろうと研究を重ねてきた。
そんな時に参戦することになった、この聖杯戦争。
逃す手はない、参戦して、自分の願いを叶えるまでだ。
「ほう、そうか、それは、例え死を覚悟してでも、叶えたい願いか?」
スカサハは、やや試すような口調で、橘に問う。
橘は、少し俯いた表情を見せるが、直ぐに答えを返す。
「死ぬ覚悟くらいなら出来ているさ、これまで何度も死地を潜り抜けてきたからな。」
そう言って、橘はギャレンバックルを手に取る。
しかし、スカサハが二度に言う言葉は突拍子も無い物だった。
「そうか、ならば一度目の戦いは貴様一人でやってもらう事にするか。」
「……どういう事だ。」
サーヴァントは、サーヴァントで対処すべき物。
ともなれば、マスターはサーヴァントのサポートとして後手に廻るのが当然。
だからこそ、ランサーが言った事は大変驚くべき物である。
「決まっている、言ったな貴様は。これまで何度も死地を潜り抜けてきたと。
ならばその経験を見せつけろと言っただけの話だ。
一度戦ってみろ、戦ってみせろ、それで私のマスターに相応しいか否かが証明される。」
「……。」
これには流石に橘も押し黙る。
橘には、サーヴァントと言う存在がどの様な物かは未だに分からない。
それに一人で戦い、証明してみせろと。
スカサハはそう言っているのだ。
だが、だからといって戦いません、と言う選択肢は通用しない。
もう選択肢は残されていないのだ。
「分かった、戦ってみよう、俺の出来る限りの力で。」
橘はそう言って、ギャレンバックルとカードの束をポケットに仕舞い込む。
何時サーヴァントが来ようとも、臨戦態勢に入り込めるようにと。
「分かった、それでは見せてもらうぞ、お前の力を。」
ランサーはそう言って霊体化し、姿を消した。
橘はフゥと一息つき、机にうつ伏せになる。
彼とて、好き好んで戦う質ではない。
だが、もう踏みとどまることは許されない。
「許してくれ、剣崎。」
人間を辞めて何処かへと去ってしまった後輩の名前を、一度呟く。
もし、剣崎が人間に戻ったら、確実に怒りを示すだろう。
彼はそう言う人だ、一度決めたら最後まで貫く性質だ。
だが、自分や仲間達のように、それを快く思わない人達は沢山いる。
何より、あの時自分が倒れていなければ、あの時自分が変身できていればと言う後悔もある。
だからこそ、自分は戦わなければならない。
それが例え、自分の我儘だとしても。
◆ ◆ ◆
その日の夜、橘は夢を見た。
夢に出てきたのは、昼間に橘が契約したランサーだった。
彼女は殺した。
戦士も、魔物も、神さえも。
殺し続けていく内に、ランサーもまた、魔物に近い物を持ち始め―
遂には、影の国に幽閉されてしまった。
彼女は、死ぬことが出来なくなってしまったのだった。
橘は知っている。
果てしない戦いの末に、人間であることを捨て去ってしまった仲間を。
死ぬことさえ出来ない身体で、運命と戦い続けている彼を。
(剣崎……お前は今、何処にいる……)
【クラス名】ランサー
【出典】Fate/Grand Order
【性別】女
【真名】スカサハ
【属性】中立・善
【パラメータ】筋力B 耐久A 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具A+
【クラス別スキル】
対魔力:A
魔力に対する耐性。
現代の魔術師では凡そ傷を付けられない。
【保有スキル】
魔境の智憲:A+
人を超え、神を殺し、世界の外側に身を置くが故に得た深淵の知恵。
英雄が独自に所有するものを除いたほぼ全てのスキルを、B~Aランクの習熟度で発揮可能。
また、彼女が真に英雄と認めた相手にのみ、スキルを授けることもできる。
戦闘時によく彼女が使用するスキルは「千里眼」による戦闘状況の予知。
原初のルーン:A
ケルトに伝わりしルーン魔術。
その原点たる魔術を彼女は習得している。
大量の英霊の力を借りて戦うなど、その力は計り知れない。
神殺し:B
元よりは魔女でありながら、神霊をも殺す力を手に入れた証。
神性スキルを持つサーヴァントに対し補正が掛かる。
【宝具】
「突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ・オルタナティヴ)」
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:5~40 最大捕捉:50人
ランサーが生み出した呪いの朱槍、ゲイ・ボルク。
この槍は大英雄クーフーリンが操った事で知られているが、この槍はその同型にして一段階前の物。
ゲイ・ボルグは対象を刺し穿つ事で因果を捻じ曲げる死棘の槍となり、突き穿つことで恐ろしいほどの火力を放つ投擲槍となる。
この宝具は、その2つの絶技を同時に放つ攻撃で、その一撃を回避できるものなど到底存在しないだろう。
また、ランサーはこの槍を複数召喚することが可能で、刺し穿ち、突き穿つ2つの絶技を二本の槍でこなせる他、上空に複数の槍を召喚し敵にぶつけることも可能。
「死溢るる魔境への門(ゲート・オブ・スカイ)」
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:2~50 最大捕捉:200人
世界とは断絶された魔境にして異境。
世界の外側たる「影の国」へと通じる巨大な「門」を一時的に召喚。
自らの支配領域である「影の国」へ、効果範囲内に存在するあらゆる生物を吸い込んでしまう。
魔力と幸運判定に失敗すると即死。スカサハが認めない者は「影の国」へと命を有したまま立ち入ることができない。
【人物背景】
ケルト神話に登場する、影の国の女王。
大英雄クーフーリンを一流の戦士にまで育て上げた張本人で、彼女自身も恐るべき武技を誇る。
クーフーリンからは「遠坂凛も裸足で逃げ出すほど」のスパルタとして恐れられているが、諦めずに頑張って指導を受ければ誰だって一流の戦士。
人の才能を見抜く優れた洞察力の持ち主で、一度素質を見極めた人間を鍛えずにはいられない気質で、面倒見も良い。
クールな印象を受けるが、やはり他のケルト人と同様にサイヤ人気質の戦闘狂。
彼女自身は英霊の座には至っておらず、未だ影の国で誰かに殺してもらうことを望み続けている。
しかしこの特例の聖杯戦争においては死んだ英霊として扱われ、サーヴァントとして現界することが許されている。
【聖杯にかける願い】
存分に力を振るい、他者の力を知り、そして死ぬ。
【マスター名】橘朔也
【出典】仮面ライダー剣
【性別】男
【参戦経緯】
アンデッド一連の事件の事後処理の最中にトランプを手にした。
【Weapon】
「ギャレンバックル」
人類基盤史研究所「BOARD」が開発したライダーシステム第一号。
アンデッドの力を封じた「ラウズカード」の力を引き出すためのツール。
カテゴリーAをスロットに装填し、腰に当てることでオリハルコンエレメントと呼ばれるカード型のベルトが巻き付く。
グリップを引けば、バックル内に分解されている「ギャレンアーマー」を纏うことが可能となる。
ラウズカード自体は神秘の塊だが、ギャレンアーマーは科学の産物なのでラウズカードの力を纏わなければ霊核にダメージを与えられない。
バックルは一度カテゴリーKとの戦いで破損したはずだが、アンデッドの研究のついでに一度修復している。
「醒銃ギャレンラウザー」
ギャレンアーマーに付属する拳銃型アイテム。
ラウズカードのホルダーの役割も兼ねており、取り出したカードをリーダーにスライドすることで「ラウズ」することが可能。
ギャレンアーマーにラウズカードの力を宿せば、ギャレンは神秘を纏う。
「ラウズカード」
一万年前に封印された52の始祖、アンデッド、それらが封印されたトランプ状のカード。
その中でも「ダイヤスート」に位置する13枚のアンデッドのカードを橘は所持している。
「ラウズアブゾーバー」
カテゴリーQの吸収力を媒介にして、アーマーにラウズカードの力を融合させることを目的としたガントレット。
カテゴリーQを装填することで起動、ラウズカードをラウズすることでそのカードの力を吸収し、そのアンデッドの力を最大限にまで引き出すことが可能となる。
因みに橘は宿敵、ピーコックアンデッドの飛翔能力と融合係数上昇能力を有した「ジャックフォーム」に変身することに使うのが主。
現在はカテゴリーKのカードも有るため、キングフォームになることも出来る。
【能力・技能】
BOARDの研究者としての技能を持っており、アンデッドの研究を行っていることも有り生物学には人一倍詳しい。
ライダーとして戦闘訓練を受けており、時速150kmで飛んでくるボールに書かれている数字を読むことが出来る。
訓練と長い経験によりCランク相当の「心眼(真)」を有しており、本気を出せばノーマル形態で上級アンデッドと互角に渡り合うほどの爆発力を見せつける。
【人物背景】
人類基盤史研究所「BOARD」の若き研究員。
ある日広瀬義人が引き起こした事故によりアンデッドが復活し、その際烏丸啓が提唱したライダーシステムの第一資格者となる。
戦闘時においての優れた判断力に関しては後輩ライダーの剣崎一真に「やっぱ一流だよな」と尊敬されるほどである。
しかし、戦いへの恐怖心に煽られ身体に異常をきたし、「ライダーシステムの不備のせいだ」と考えBOARDを本当に裏切る。
カードを封印しまくれば恐怖心が抑えられるとか考えてカード集めに必死になっていた時、カテゴリーJこと伊坂と出会う。
そして彼が隠し持っていた「シュトルケスナ―藻」とかという大昔の麻薬モズクに手をつけ、実質的に伊坂の傀儡になる。
しかし、大学時代の同期である深沢小夜子との別れを切っ掛けに恐怖心を克服、彼女との思い出についてブツクサ言いながら伊坂に怒りのキックをぶつける。
その後はバックルを捨て戦線を離脱するが、先輩研究員である桐生豪の暴走を切っ掛けにまた復活。
それからは剣崎達とともにアンデッド退治に専念していく中で、アンデッドは徐々に数を減らしていく。
しかし、その中で明かされたのは、仲間であった相川始が滅びのキーであったこと。
だが橘は、カテゴリーKとの戦いでバックルと仮面を破壊され水落、烏丸に助けられる。
そして滅びは始まり、ジョーカーは暴走していく。
滅びは止まったが、代わりに剣崎は皆の元から姿を消した。
橘は、剣崎を人間に戻すべく、今も尚研究を続けている。
クールかつ生真面目で文武両道、なのだが、どうしようもなく頼りない。
恐怖心を克服したかと思えば力を証明するとか言って暴れ出すわ、素質で後輩に負けて無意識に負の感情を覚えるわで情けない立ち回りが目立つ。
上城睦月にライダーシステムの基礎訓練をレクチャーした際、戦い方にケチを付けた所を逃げ出され結果的に彼の暴走の一端を担ったりしている。
しかし、いざという時の爆発力は恐ろしいもので、剣崎や始が苦戦した相手を基本形態で倒したりとやる時はやる人。
天然な一面も有り、上述の伊坂や広瀬義人に騙されている他、劇場版でも信用しちゃいけない人を信用している。
【聖杯にかける願い】
剣崎を人間に戻す。
【方針】
参戦派だが、マスターを殺めることには躊躇が有る。
スカサハは橘の実力を初戦で見極める、と言っていましたが、その結果に関しては各書き手様にお任せします。
最終更新:2017年01月10日 18:34