よつぎサーヴァント◆As6lpa2ikE
戦争に、出会いの話は""つきもの""だ。
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001
白紙のトランプから放たれた眩い光が、室内を余す所なく白に染める。
同時に流れ出た突風は、部屋の中に置かれてあった調度品を何個か吹き飛ばし、耳障りな破壊音を立てた。
いったいそれはどれぐらいの間続いただろうか――ほんの一瞬、あるいは数秒、もしくは数分間続いたかもしれない。
見る者の時間感覚を奪うほどに、現実離れした幻想的な光景を、僕の召喚者(マスター)である魔術師のお姉ちゃんは驚きと期待に満ちた目で見つめていた。
光と突風が一箇所に集まり、人の形を取り始めると、彼女の蒼色の瞳は期待にますます輝く――それはもう、白紙のトランプが放つ光に勝る程にピカピカと。
しかし次の瞬間。
形作られた人型が、小さい子供の物である事に気が付くと、魔術師のお姉ちゃんの顔に――真っ白な光に照らされているにも関わらず――不安の影がさし始めた。
そんな彼女のリアクションを置いてけぼりに、光と風は益々集まり、凝縮し、固体化して行く。
そして、最終的に光と風はこの僕――斧乃木余接を生み出した。
現界を終えた僕は、軽やかに着地する。
床へと足を付けたと同時に、スカートがふわりと浮かんだ。
一部始終を見終えた魔術師のお姉ちゃんは、あり得ない物を見てしまったような顔をしている――いや、これまで起きた現象も十分あり得ない物なんだけれども、彼女は現象の結果にそのような感想を抱いているようだ。
つまり、召喚されたサーヴァントが僕だった事に、魔術師のお姉ちゃんは驚いているのである。
ふむ。
まあ、無理もない。
百戦錬磨の豪傑たる英雄が呼ばれるであろうサーヴァント召喚で、僕のような小さな女の子が出てきたのだ。
ライオンを呼ぼうとしたらチワワがやって来たような物であり、肩透かしを食らって驚き呆れるのは仕方のない事である。
――しかし、だ。
見た目が少女だからって、舐めてもらっちゃあ困る。
これでも僕は、怪異退治の専門家の式神として、いくつもの戦いを経験して来たのだ。
潜り抜けてきた修羅場の数は、そんじょそこらの英霊に匹敵するだろう。
サーヴァントとして呼ばれるに足る実力を自分は持っているという自負が、僕にはあるのだ。
なので、そのような心配顔をされるのは誠に心外なのである。
けれども、その事を声高に主張するような大人気ない行動を、僕はしない。
むしろ、そんな風に必死に主張すれば、僕の姿はますます子供っぽく見え、説得力が薄れてしまう。
だから、これから僕が取るべき行動は、ただ一つ――自己紹介だ。
なんべく簡潔で、なるべく分かりやすく、そしてなるべく威厳に満ちた自己紹介。
それをすれば、魔術師のお姉ちゃんは僕に向けてるイメージを改めるだろう。
ああ、自分は何て愚かな思い込みをしていたのだろうか――そんな風に己を恥じるに違いない。
その時になって、彼女が僕に向かって土下座をし、謝ってきたら……。
まあ、僕は大人だからね。
ハーゲンダッツ五個で許してあげるさ。
召喚されてから僅か数秒の間にそのように考え、僕は方針を定める。
頭の中には既に、完璧な自己紹介が構築されていた。
なあに、下手に趣向を凝らす事はない。
いつも通りのプロフェッショナルらしい自己紹介をしていれば、それだけで魔術師のお姉ちゃんは僕がプロフェッショナルだと理解してくれるだろう。
完璧なイメージを持ちつつ、僕は片手を使って目の横でV字を作り、首を僅かに傾けた。
そして、始める――普段通りの、自己紹介を。
「いえーい。ドールのサーヴァント、斧乃木余接。召喚に応じて参上したよ。これからよろしくね、魔術師のお姉ちゃん。ぴーすぴーす」
僕はキメ顔でそう言った。
あ。しまった、間違えた。
002
「はぁ~」
吐いた息の長さに忠実に書けば、『~』だけで十レスは埋まるであろう程に長い溜息をつき、魔術師のお姉ちゃん――遠坂凛はソファに座って項垂れた。
「召喚されたのが最優のクラス・セイバーではなかった事。これは、まあ、仕方ないわ。
どころか、三騎士でも無く、その代わりに聞いた事もないエクストラクラスがやって来た事。これも、まあ、良しとしましょう。
けどね……それが自己紹介の初っ端から面倒な匂いしかしない少女だったってのは、どういう事よ」
「まあまあ。そう落ち込まないでよ。魔術師のお姉ちゃん。人は誰だって失敗する物さ。正確に言えば、僕は人じゃなくて人形だけど」
「……それは失敗した本人が言う台詞じゃないでしょうが」
遠坂凛は、ジト目で僕を睨め付ける。
「そもそも、出会い頭の印象なんて些細な物だろう? 出番の度にキャラがブレる僕なんて、尚更そうさ」
先程、その印象をどうにか良くしようとしていたのが他ならぬ僕自身であった事を、すっかり忘れた僕だった。
失敗は無かった事にするに限る。
今は別方面からのアプローチをするべきだ。
「マスターの駒になるサーヴァントにとって、最も重要なのは性格じゃない、性能だ。どれだけ強いかって事に、目を向けるべきだと思うんだよ」
「……ふぅん?」
そこでようやく、遠坂凛は僕に対して、感心したような目つきを向けた。
「随分自信有り気じゃない」
「そりゃあね。僕は強いぜ。相当強い」
そう言って、僕は握った拳を目の前にかざした。
「僕の能力――宝具の名は、『無限の剣製 (アンリミテッド・ブレイドワークス)』」
「アンリミテッド・ブレイドワークス? セイバーでも無いのに剣を使うの?」
「あ。違う違う。言い間違えたよ。僕の宝具の名前は『例外の方が多い規則(アンリミテッド・ルールブック)』だ」
まさか、先程の失敗を取り戻さんと焦っているなんて事は無いだろうけど――僕はそのような言い間違いをしてしまい、すぐさま訂正を行なった。
「この宝具によって、僕は身体の一部を瞬間的に巨大化させる事が出来るんだ。どうだ、凄いだろう?」
僕の顔面の筋肉が動ければ本当にキメ顔を取っていたぐらいには自信満々に、僕は自分の宝具の説明を終えた。
それを受け、遠坂凛はしばらく考え込んだ後、
「身体の一部の巨大化、ね……。
言葉だけじゃ何だか凄くないように聞こえるけど……まあ、あんだけ自信満々に言って置いて、ショボかったなんて事は流石にないでしょう。そうでないと困るわ」
と、何やら色々と失礼な事を呟いた。
ともあれ、僕に対する印象が良くなったのは喜ばしい。
安心感に、僕は胸を撫で下ろす。
マスターとサーヴァント――使う者と仕える者の関係はなるべく良好である方が良いに決まっている。
その後、僕と遠坂凛は、聖杯戦争に対する互いのスタンスや今後の方針について語り合った。
僕が発言する二回に一回ぐらいの頻度で、彼女が奇妙そうな顔をしていたのは、後になっても謎である。
【クラス】
ドール
【真名】
斧乃木余接@物語シリーズ
【属性】
中立・中庸
【ステータス】
筋力- 耐久- 敏捷- 魔力- 幸運- 宝具D
【クラススキル】
人形:A
ニンギョウがニンギョウ。
高ランクの自己改造、戦闘続行を内包したスキル。
既に死んだ少女から生み出した人形の式神であるドールには生命力という概念がなく、それ故に五体をバラバラにされても生存が可能になっている。
バラバラになった部品は、切断面を合わせれば結合し、数分程度で修復可能。
また、身体の部品が欠損したとしても、粘土をこねて作ったそれらしい部品をくっつければ、それで十分補える。
しかし、死体から作られた人形である為火に弱く、火炎系のスキル/宝具に対しては不利に動かざるを得ないであろう。
変容:B
能力値を一定の総合値から状況に応じて振り分け直す、怪異人形ゆえの特殊スキル。
ランクが高い程総合値が高いが、AからA+に上昇させる際には、二ランク分必要となる。
【保有スキル】
単独行動:B
マスター不在でも行動できる。
ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。
ドールのフリーダムな性格が顕現したスキルである。
怪異
ハンター:A(A+)
怪異に対する専門家。
相手のサーヴァントの出自が怪異に関するものであれば、ほんの少しの情報を知るだけで真名の看破に至る事が可能。
数多の怪異を退治して来た逸話から、怪異に属する者に対し、有利に行動する事が出来る。
また、ドールと彼女の本来の主は不死身の怪異専門のハンターであった為、不死身に関するスキルや宝具を持つ相手に、このスキルのランクはカッコ内まで上昇する。
神性:E
ドールは怪異『憑藻神』をベースとした式神であり、また彼女は神社に奉られている本物の神との交流も深い為、低ランクながらこのスキルを有している。
【宝具】
『例外の方が多い規則(アンリミテッド・ルールブック)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大捕捉:10
身体の一部を瞬間的に肥大化させ、相手にぶつけるという非常にシンプルな宝具。
変容スキルによって上昇させた筋力を合わせれば、剣呑な火力を生み出すであろう。
また、脚部を肥大化させた反動で空中移動する『離脱版』という応用法もある。
【人物背景】
見た目は童女な、憑藻神の怪異。
奇抜な髪色と服装をしているが、それに対して表情は一貫して無表情である。
人形である故か周囲の影響を受けやすく、登場するたびにキャラクターがコロコロと変わる。
とは言え、彼女の根本的なキャラクターは尋常ではなくエキセントリックな物となっているので、周りに居る者が彼女に翻弄される事もしばしば。いえ~い。ぴーすぴーす。
【マスター】
遠坂凛@Fate/stay night
【weapon】
初等呪術。
本来物理的破壊力を持たないはずなのだが、高い魔力密度によって、拳銃並みの威力になっている。
宝石の中で魔力を流転させ、本来保存できないはずの魔力をストックしておき、それを解放する事によって、破壊や治癒へと用いる事が出来る。
また、五属性を過不足なく使いこなす事も可能。
遠坂凛は魔術の天才である。
【人物背景】
六代続く魔術師の家系、遠坂の現当主。
『常に優雅たれ』という家訓に則り、学園ではエリートとして振舞っている。
その為、プライドが山のように高い。
参戦時期はアーチャーを召喚する前から。
【マスターとしての願い】
聖杯の獲得
最終更新:2016年12月04日 15:29