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恋と 日記の 詠唱法


○超短編。ほのぼのとした、魔法と恋愛ものです。









○月×日 鮮やかな夕焼けの日

 今日も出来なかった。
 今日も失敗してしまった。
 なんでこんな簡単なことが言えないんだろうって思うわ。たった一言だけなのに言えないなんて情けない。
 周りのみんなは勇気を出してって応援してくれてるのに、臆病な私は先延ばしをするばかり。言い訳の王女様ね、私は。
 友達は『媚薬つかっちゃいなよ~♪ あんたならイチコロだって』なんてひやかして来る。だけど、ぜったいそんなことはしないんだから! 私はそんなことをしないで、彼に気持ちを伝えてみせる。
 ……きっと優柔不断な私に、周りもじれったいんだと思う。だって、そうじゃなかったら、媚薬なんて使うことを薦めたりしないものね。 それに媚薬は高いのよ。
 ―――そんなこんなで、もう一ヶ月も経っちゃってるのよね……
 毎日毎日、顔を見合わせるたびに思いを伝えよう、伝えようってしているんだけど、タイミングを逃して言えずじまい。
 タイミングが悪かったのよ? 言わなかったわけじゃないの。
 しかも今日の授業じゃ、彼ばかりに気を取られて、詠唱のアクセント間違えちゃったし……。爆発したし……
 うぅ……爆発するはずの無い魔法で、爆発させちゃうなんて……、彼にはずかしいところ見せちゃった……もう、私のばかばかばかぁぁああ!!
 先生なんか「芸術は爆発だが、詠唱は違う。スキルなんだ。爆発させるのは美術だけにして欲しいね」って怒られたりもした! 失礼しちゃうわ。今日の失敗は、たまたまで偶然なのよ。未来には立派な魔女になるんです! 先生なんかより、ずぅっと立派な!!
 それに失敗した理由が、『彼のことが頭にはなれなくて失敗しちゃいました』なんていえないわ……
 このままじゃきっとなにも進展しない。いつまでたっても、彼と友達のままで何も変わらない。待ってるだけじゃ何も変わらない。時の変化なんて当てしちゃいけないの。私は変わるのよ―――
 でも今のまんまじゃ、絶対勇気が揺らいじゃうと思う。きっと思いを伝えることなんて出来ないし。
 またぎりぎりのところで先延ばししちゃう。
 だから私は考えたのよ!
 そう、今日の日記は決心のために書いていたんだったわ。いつもの癖で思ったことずらーって書いていたけど、この下からが本番よ。
 私は彼に伝える決心を、ここに書きとめておくんだ。
 決心の気持ちを形に表して、彼にぶつけるのよ。ファイト! 私!!

<光よ。花よ。草木よ。無限の息吹を呼ぶ台地よ。この手の元に、春のかぜを……>

 中等詠唱魔法。スタンダードBランクの魔法。成功したら、手をかざした術者の周りに桜の吹雪 が舞うの。地と風の複合魔法。とっても綺麗で幻想的で、きっと見とれるに違いないわ。それで見入ってる私は彼に思いを伝えるのよ!
 すばらしいプランだわ! 我ながら完璧ね!!
 だから私はやるんだ!
 私いまは初等詠唱魔法しか扱えないけど……、私のランクよりずっと高いけど、得意な属性魔法だし、きっと大丈夫。
 ……大丈夫よね? ああ、失敗して爆発したらどうしよう……緊張してきちゃったじゃない!
 やっぱり書くべきじゃなかったんだわ。もう今日はここまで!
 明日には結果がわかっているはずだから、帰ってきたら一番に書かないと―――


 ―――二十年前の記憶は、私の身体に溶け込み、心に馴染む。同時に暖かな日に当たっているような、なんとも言えない気持にさせた。まるで自分が昔の自分になったかのような感覚。とても懐かしい気持ち。
 とっても懐かしい。若かった頃の恥ずかしい思い出。でもいい思い出。
 きっと回りのみんなは今の私を見て、こんな青春があったなんて、絶対誰も信じてくれないわね。
 だって今は魔法学校の厳しい先生なのだから。
 苦笑いを浮かべつつ乾いた古い羊皮紙を畳み、デスクの私物の引き出しへと仕舞う。
 静まり返った教員室を何気なく見渡した。机が整然と並び、上にはさまざまな教科書が散乱していた。静まり返った部屋には、朝独特の西日が差し込んでいる。
 ちなみに、アレからどうなったかと言うと……あ、やっぱり秘密。小さな頃の話なの。忘れましょう。 それになんだか恥ずかしい。
 いっそのこと暴露してもいいんじゃないのか、なんて気分に浸ってしまう私だったけど、どの道いまはそんな時間はない。もうすぐで授業が始まってしまう。厳しい先生を演じている私は、遅れるわけには行かない。生徒を注意する立場なんだもの当たり前ね。
 手身近な教科書やプリントをまとめる。ついでにペンや、杖を忘れ居て居ないかチェックをする。
 そうそう、もうひとつ大事日課があった。
 デスクの写真に行ってきますという。写真には青年と言い訳女王様がこそばゆそうに写りこんでいた。おたがい大人の姿だけど、何処かぎこちない雰囲気だ。
 日課を終えたところで、猫のように背伸びをする。
 くすりと微笑んで、私は気を取り直して教科書を手に取った。
 そして私は今日へと歩みだす。
 平凡な日々が続いて人は変わっていく。今の教えている生徒も、いつかはいまの私みたいに、過去の思いにふけるなんてことが出てくるのだろうか。そのときはきっと恥ずかしくて、火が出るに違いないわね。
 でもそれで良いと思う。むしろそうであってほしい。だれだって、そのときは必死なのだから。だれだって、そのときは小さいのだから。だれだって、日常の連続で大きくなってゆくのだから。大きくなったとき、小さな自分を振り返られる。自分はあの時小さかったんだって思える。これが一番の成長なのだろうから。
 だから私は授業と言う戦地に赴く。小さな生徒を、少しでも、砂粒のひとつ分でも大きくするために。
 そう、小さい私がやったように、思いにふけって魔法を爆発させることの無いように……



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最終更新:2008年05月24日 08:39
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