呼吸活動を停止せよ!
――――否!
心臓の鼓動を停止せよ!
――――否!
血液の流れを停止せよ!
――――否!
ラビリンスの国民全ての脳に深く刻み込まれた暗示。
脳という中枢臓器から脊髄を通り、通電電流に乗って全身を駆け巡る指令。
細胞単位にまで行き渡る絶対死の“強制”が弾かれていく。
暗示を超える強力な意思の力が、下される命令を拒む。
否! 否! 否! 否! 否! 否! 否! 否! 否! 否! 否! 否! 否!
まだ――――
まだ――――
まだ――――私は――――望みを果たしていない!!
イースは駆ける。
そこは、深き意識の底。
死の危機に瀕した脳が見せる幻覚。
イメージは闇。深き暗黒。全てを飲み込む滅びの虚空。
描くは螺旋の階段。命を繋ぐ細き糸。
目指すは光。頭上を照らす遠き高み。
イースは駆ける。崩れ落ちる階段よりも、
はやく――――早く――――速く――――疾く!
もう少し――――あと少しで――――届く!
非情にもそこで足元が崩れ落ちる。あきらめず、片手で岩にしがみつく。
それは岩というよりも小さな石。
それも砕け――――剥がれ落ちる。
その石を握り締めたまま――――イースは闇に向かって落下した。
全身を痙攣させながらイースは動く。片手を突き、起き上がろうとする。
虚ろな目の焦点は、どこにも合っていない。見えてもいないのだろう。
口は動けど言葉は発しない。意味のある動きとも思えなかった。
生への恐るべき執着が、動くはずの無い肉体を操る。
右手が懐に伸び、何かを手にした。膝が浮き上がり、立ち上がろうとした。
そして――――そこで力尽き、再び崩れ落ちた。
「ありえない――――こんなことは――――ありえません!」
凄絶な光景。クラインは恐れを成したかのように数歩後ずさる。他の者も、誰も口を挟むことができなかった。
クラインの他に、ただ――――ひとりを残して!
「せつな! 死んじゃダメだよ! 楽しいことはこれからじゃない! お願い、負けないで!!」
ラブは全力で戒めを解こうと暴れた。それは非力で儚い抵抗。それでもサウラーの羽交い絞めをわずかに
緩め、唯一動く右手を精一杯に伸ばして叫んだ。
届くわけは無い。一歩も動けないのに、イースは十数メートルも先。それでも届け! と、力の限り手を
伸ばして呼びかけた。
(せつな! お願い、負けないで!)
闇の底に堕ちていくイースが掴んだ石。それが微かな光を放つ。
その石から、ラブの声が聞こえたような気がした。
そして、上を見上げる。
白い手が伸びてくる。
光の向うから差し伸べられた手がイースを求める。
イースもまた、精一杯に手を伸ばし――――しっかりと掴んだ!
ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドク
ン! ドクン! ドクン!
イースの心臓が規則正しいリズムを刻む。大きく胸が上下して酸素を吸い込む。それが血液に乗って全身
を駆け巡る。
永遠の眠りに付きつつあった、身体中の臓器が正しく機能を再動する。
意識の底で掴んだ石はリンクルン。淡いピンク色の光を放つ。
届いていた――――確かに――――ラブの声はイースに届いていたのだ。
そして、美しいピンク色の輝きを取り戻した唇から“力ある言葉”が紡がれる。
“スイッチ・オーバー”
立ち上がり、手を合わせて――――開く!
漆黒の衣が白鳥の如き純白の衣に切り替わる。
心は澄み渡り、痛みは闇の色とともに流れ落ち、疲労は活力に置き換わる。
眩い光を放つ美しき白の闘士。それは――――イースが手にした新しき力。大空を駆ける自由なる翼。
初めて蝶の羽化を見る子供のような顔で、一同はその姿に見惚れた。全世界に等しく君臨する至高の美。
命の輝きの象徴であるかのように。
ありえない。ありえません。うわごとのように震えながら繰り返しクラインがつぶやく。
彼の端末には、一面にERRORの文字が記されていた。
「自力で――――寿命の管理を断ち切ったというのか……」
「イース――――君は――――」
「やった……ね、せつな……」
「美希ちゃん、イースが、せつなさんが」
「ええ、悔しいけど嫉妬しちゃうくらいに綺麗ね、完璧よ」
他の者にもようやく事態が飲み込めたのか、それぞれ口を開く。だが、まだ身体を動かそうとする者はい
なかった。
その隙を突いてイースが動く。手にしたリンクルンをラブに放り投げる。
「ラブ、受け取って!」
「そうは――――させない!」
ラブよりサウラーの方がリーチが長い。何より、身体も自由だった。ラブに届く前にリンクルンを掴む。
そして――――強烈な発光とともにサウラーの体に衝撃が走り抜ける!
「ぐあぁぁぁぁぁぁああ!」
「受け取ったよ、せつな!」
苦痛に苛まれ全身を硬直させるサウラー。拘束から解き放たれたラブがリンクルンを掲げて叫ぶ!
“チェインジ・プリキュア・ビートアップ”
ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたて!――――フレッシュ!――――
“キュア・ピーチ”
伝説の力を身に纏い、不敵にサウラーを見下ろす。
プリキュアのリーダー。始まりの戦士。
最も多くの戦いを潜り抜け、最も多くの敵を退け、最も多くの人々を救った英雄。
大切な友達を殺されかけた怒り。救われた喜び。何もできないまま囚われていた悔しさ。そして、失った
はずの力を再び手にした高揚感。
溢れる想いがピーチの胸を満たす。無限に感じられるほどの力が体中から湧き出してくる。
まだ動けないサウラーに構わず、ピーチはイースに駆けよった。恐る恐る肩に手を触れる。そして、込み
上げる歓喜の想いをぶつけるようにイースを抱きしめた。
イースは少し嬉しそうに、そして、とても恥ずかしそうに顔を赤らめた。そんな場合じゃないでしょ、と
やさしく突き放す。
「せつな、体は大丈夫? 後はあたしたちにまかせて」
「この姿の時はイースと呼んで。私も戦うわ!」
「わかった。行くよ、イース! ベリー! パイン!」
「ええ!」
「オーケー!」
「うん、やろう!」
「「「Let's! プリキュア!」」」
「私はしないわよ」
行くよって、そっちの事なの? 呆れた顔でそっぽを向くイース。その口元から少しだけ笑みがこぼれる。
それを見てピーチも微笑んだ。それは――――久しぶりの明るい笑顔だった。
壮絶な集団戦闘の戦いの火蓋が切って落とされた。
それまで様子を見守っていたウエスターがいち早く反応して動く。イース目がけて襲いかかる。
「オオオォォォ! イース――――!」
「させないっ! あたしが相手よ!」
「邪魔するな! プリキュア!」
「それはこちらのセリフだよ。せつなは幸せになるの! 邪魔しないで!」
イースを庇ってピーチが割り込む。幹部の中で最も戦闘力が高いと言われるウエスターを受け持った。
ウエスターの豪腕から繰り出される圧倒的なパワーを正面から受け止める。両手を重ねて受け止め、そし
て――――押し返す!
バランスを崩したウエスターにピーチの拳が襲いかかる。プリキュア中最大の破壊力を持つキュアピーチ
のパンチ力が炸裂する。
“プリキュア・パンチ” ウエスターのブロックを突き抜けて肉体を捉える。そして打ち抜く!
打撃モーションの完成。巨体を浮かし、後方の壁に叩きつける!
一瞬よろめきながらも、すぐに立ち上がるウエスター。彼がパワーで押し負けるのは生まれて初めての体
験だった。
パワー対パワー。強大な破壊力のぶつけあい。爆音と瓦礫を巻き散らしながら激しい打ち合いが続いた。
「あなたの相手は私よ、サウラー!」
「一度も勝てたことがないのによく言うね!」
長いリーチから繰り出される、サウラーの突きと蹴りのコンビネーション。蹴りの切れはベリーと互角。
しかし、技術はその遥か上をいく。
多彩なフェイント。効果的に組み合わされた打撃と蹴撃。たちまちイースは防戦一方に追い込まれる。
しかし、その表情に焦りはなかった。
ラビリンスの戦士だった時のイースではない。破壊の欲求に突き動かされる戦い方ではない。
自らの意思で完全にコントロールされた力。“負”ではなく“正”の感情で生まれる力。
神経が研ぎ澄まされて集中力が極限に高まる。心は清らかな泉のように澄み渡る。そこに敵の動きを投影する。
見える! 奴の技と――――焦りが!!
「なっ、消えた!」
「こっちよ!」
「なにっ!」
サウラーの右の突きを左に流し、腕を掴んで引き寄せる。その勢いを利用して背後に回る。
イースの渾身の右フックが死角から顔面を打ち抜く。攻守が入れ替わる。
接近戦を嫌がってサウラーがバックステップする。イースはそれを許さず飛び込んだ。後退より前進の方が速い!
リーチの優位が逆転する。
スピード対スピード。攻撃よりも回避重視の戦い。激しいペース争い。チェスの早差しの如き頭脳戦が繰り広げられた。
「荒事は管轄ではありませんが、仕方ありません。お相手いたしましょう」
「相手の力がわからない。一緒にやるわよ、パイン!」
「うん、わかった!」
未知なる敵、クラインとの戦い。二対一の不利な戦況に動揺すら見せない。
ベリーが飛び込む。上段回し蹴りと見せかけて、軸足を折って足払いに切り替える。ベリーの体に重なる
ように迫っていたパインが跳び蹴りを放つ。
“プリキュア・コンビネーションキック” 上下から繰り出す連携攻撃。クラインは不気味な動きで後退
してベリーの足払いから逃れる。襲いかかるパインの蹴り足を掴んで投げ飛ばした。
「そんなっ!」
「きゃあぁぁ!」
重心を一切傾けずに水平に後退する。とても人間の動きとは思えなかった。
パインの跳び蹴りを片手で軽々と受け止める。それはウエスターですら不可能な業だった。細身の老人の
体のどこにそのような力が?
床に叩きつけられたパインの首を掴んで持ち上げる。そして、ギリギリと締めだした。声を上げることも
できず、苦しみのあまりパインは足をバタつかせる。
ベリーの瞳が怒りに蒼く燃える。そう、この男はイースを殺そうとした者。見た目に惑わされていた。
ベリーの闘気の質が切り替わる。殺気に近いオーラを纏う。しなやかな肉体がムチとなってクラインに
襲いかかる。高速の踏み込みから豪快な回し蹴りが炸裂する。
今度こそ直撃し、クラインの体をくの字に曲げて弾き飛ばす。落下してきたパインをベリーは優しく受けとめた。
「もう加減は無しよ。プリキュアの真の力を見せてあげる」
「こほっ、こほっ。わたしも――――負けないんだから!」
想いの強さで戦闘力を変化させる。プリキュアの神秘が真価を発揮する。
知性派のベリーのもう一つの姿。獣の如き俊敏性と闘争心が牙をむく。パインは落ち着いてクラインの攻
撃を見極め、さばいていく。
一心同体の二人のコンビネーションが徐々にクラインを追い詰めていった。
「ウオォォォオオ――――!」
「たあぁぁぁああ――――!」
幾度目かの渾身のパワーとパワーのぶつかりあい。常ならばウエスターに分があったかもしれない。しかし、
気力の充実しているピーチと、動揺を抑えきれないウエスターとではその力関係は逆転していた。
起死回生! 防御を完全に捨てた、相打ち覚悟の拳を繰り出すウエスター。ピーチもまた、それに応えるかのように飛び込む。
重心を深く沈めて紙一重でウエスターの一撃をやりすごす。そして、床を蹴破るかのように強く踏み込み、
拳を真っ直ぐに突き出す。
急激な重心の沈下の反動。上昇エネルギーを水平運動に増幅変換する。衝撃を後ろに逃がさず、その全てを
相手に伝える打撃技。拳は撃鉄。体は銃身。ウエスターを弾丸と化して弾き飛ばした。
恐るべきカウンターの直撃。金属板で強化された壁をぐにゃりと曲げるほど強く叩きつけられる。そして、
ゆっくりと崩れ落ちた。
「メビウス様がお決めになったこと。それ以上のものを、手に入れたつもりかいイース!」
「私はそこまで浮かれていない。望むものは別にあるわ」
常に数手先を読みあう高レベルの戦闘。そして、その主導権をイースは握っていた。
互いに手の内を知り尽くした者同士。決め手の無いまま続く膠着状態。隣でウエスターが倒れたのを見て
サウラーが勝負に出た。
左の突き手で自らのマントを掴んで引き千切る。イースに被せるようにして視界を奪う。そして渾身の右を打ち込んだ。
「ぐっ……。そんな――――!」
「読み勝ちってことでいいのかしらね」
イースは被されたマントに隠れるようにして屈み込んでいた。相手の姿を見失ったのはサウラーも同じこと。
大振りの右の引き手に合わせて懐に飛び込み、跳び膝蹴りを放ったのだ。備えの無い状態でミゾオチに受けたサウラーが膝を折る。
全て、計算通り――――容赦ない追撃が加えられる!
膝を軸足と交差する位置で降ろし体を反転させる。ダンスのステップの応用。キュアベリーが見せた技。
回転加速した強烈な回し蹴りがサウラーの頭部に直撃した。
そして、止めとばかりに放たれる掌打。サウラーは膝を付き、そのまま崩れ落ちた。
「あっちは片が付いたみたいよ。もう観念したらどう?」
「ベリー、この人まだ余裕を残してる。油断しないで!」
「この世界での私の力の解放は認められていません。これを使うしかないようですね」
先ほどからかなりのダメージを与えているはずなのに、一向に弱った様子を見せないクライン。
それに引き換え、ベリーとパインは疲労を隠せないでいた。
戦いは終始押し気味に進めていたはずなのに……。でも、その不気味な戦いももうじき終わる。ピーチと
イースの勝利、これで四対一! ベリーが降伏を促す。
しかし、クラインに動揺は見られなかった。一言つぶやいて球状のアイテムを取り出し、放り投げた。
「お力をお借りしますよ、ノーザ様。ソレワターセよ、姿を現せ!」
緑色の球体が手の平サイズの人型に変化する。ウネウネと動いた後に急成長する。それは巨大な樹木の化け物。
豊富な水分と繊維質の塊。コルク層の積み重ねで守られた本体は、幾重にも重なる装甲を纏っているに等しい。
形成層を覆う樹皮が、更にその防御を完全なものとする。鋼を超える強度だけではなく、撓うような柔軟
性も持ちあわせていた。
幾重にも枝分かれした先から伸びる蔦は、しなやかな柔らかさと弾力を兼ね備える。それは無数の
ムチであり、束縛の戒めとなるのだ。
「なに……これ……」
「いつもの敵と違う。植物のナケワメーケ?」
「ベリー! パイン! これは何?」
「これは……ソレワターセよ!」
イースが簡潔に説明する。最高幹部ノーザのみが生成可能な、不幸のエキスを糧に成長する恐るべき怪物。
その強度はナケワメーケの比ではない。文字通り、“生きている”のだ。ある程度の知能を持ち、単独で
行動することもできる。
植物であるが故に、衝撃に対して高い防御力を持っている。他の触媒を吸収してその特性を取り込む能力も持つ。
名前の通り、奪うことに特化した魔物。
クラインは既に自らの仕事を終えたとばかりに、戦場から下がり様子を見守る。その表情には勝者の余裕
すら感じられた。
悪夢のような戦いが始まった。
ピーチの拳も、ベリーの蹴りも、全くダメージを与えられない。トリプルパンチもキックも、バランスを
崩す程度の役割しか果たさない。
身体的強度もさることながら、恐るべきは俊敏性。樹木の容姿を持ちながら、爬虫類のような動きで駆け回る。
無数の蔦がそれぞれ別の頭脳で操られているかのように、規則性の無い動きで四人を痛めつけた。
そして、囮を買って出ていたイースがついに蔦に囚われる。ギリギリと締め上げられて苦悶の叫び声を上げた。
「イース! ――――みんな、キュアスティックで行くよ!」
「それしか無さそうね」
「うん、わかった」
“届け! 愛のメロディー! キュアスティック、ピーチロッド!”
“響け! 希望のリズム! キュアスティック、ベリーソード!”
“癒せ! 祈りのハーモニー! キュアスティック、パインフルート!”
“悪いの、悪いの、飛んで行け! プリキュア!”
“ラブ・サンシャイン”
“エスポワール・シャワー”
“ヒーリング・ブレア”
“フレーッシュ!!”
重なった三つの力が、巨大な光の奔流となってソレワターセに襲いかかる。
ソレワターセは無数の枝を盾のように前面に押し出して、そのエネルギーを受け止めた。
イースは開放されて脱出に成功する。ピーチが安堵の表情を浮かべた。
後は――――この敵を浄化するだけ!
必勝の自信を持って放った技。これまですべての敵を浄化してきた無敗の技。あの、ナキサケーベですら!
それが――――通じない? 三人の表情が苦しそうに歪む。
ここで倒せなければ、もう後が無い。持てる全ての力をエネルギーに変えて押し切ろうとする。
しかし、ソレワターセは更なる安定感で受けきった。
そして――――押し返される。
技が散らされ――――その一部を弾き返された。
自ら生み出した巨大な力の反動を受けて、それぞれが背後の壁に叩きつけられる。
「ピーチ!!」
「そんな……キュアスティックが通じないなんて」
「こんなの相手に、どうすればいいの……」
「もう――――力が入らない」
悲痛な叫び声を上げ、ピーチに駆け寄るイース。彼女の戦士としての本能は、この戦いに勝ち目が
無いことを見抜いていた。
どうすればいい? どうすればこの状況を打破できる?
考えてふと可笑しくなった。もともと自分は何のためにここに来たのかを思い出す。
ラブの笑顔と幸せを守りたい。ただ――――それだけだったはずだ。
その妨げとなるものの全てを排除する。そのためにここに戻ってきた。
一つは目の前の敵。一つはクライン。一つは不幸のゲージ。そして、最後の一つは――――
イースはラブに、ベリーに、パインに語りかける。その余りにも穏やかな表情に三人は状況すら忘れて見惚れた。
「聞いて、ピーチ、ベリー、パイン。今からここを爆破するわ。ゲージが壊れれば館は跡形も無く消滅する
はず。その前に逃げて」
「待って! せつなも一緒に!」
「そうよ、一緒に逃げましょう」
「一緒に行こう!」
「そうは行きませんよ、イース!」
高みの見物を決め込んでいたクラインがこちらに向かってくる。イースは不敵に笑ってスイッチを放り投げた。
そして起こる爆音と地響き。連鎖するかのようにどんどん大きく激しくなっていく。
「残念だったわね、クライン。もう手遅れよ。お前は私と一緒に死ぬがいい」
「おのれ! イース!」
「せつなっ! ダメだよ、一緒じゃなきゃ!」
「せつなっ!」
「せつなさん!」
「早く逃げて! ゲージは最後に爆発するわ。そうなったら逃げ切れない。もう時間が無いの!」
最後はやっぱりせつなか。そう思って苦笑する。
でも、その響きは以前のようなイースであることへの拒絶ではないように感じた。
仲間として、友達として認めてもらえた。そんな証しのような気がして悪くなかった。
クラインは姿をくらました。立場上、自分だけ逃げられるはずがない。恐らくゲージの間に向かったのだろう。
だが、今から爆弾を探して解除など間に合うはずもない。奴の存在は無視していいと判断した。
全員を逃がすまいとソレワターセが蔦を伸ばして襲ってくる。イースは最後の仕事に取りかかった。
ソレワターセの足止めをして三人を避難させる。ゲージのエネルギーが溢れれば、ソレワターセも吸収し
きれず消滅するだろう。
(さようなら、ラブ)
倒さなくていい。ダメージも与えなくていい。ただ、注意を引いて時間を稼げばいいだけ。
イースはソレワターセの懐に飛び込んだ。一撃だけ加えて逃げる。そのイースを捕えようと左右から蔦が襲いかかる。
しかし、それはイースには届かなかった。本体が大きく後ろに弾け飛ぶ!
“トリプル・プリキュア・キック”
「なっ……。お前達、何をしている! もう間に合わなくなる!」
「せつな一人置いて行けないよ。一緒に倒して逃げよう」
「馬鹿な、もう間に合わないくらいだ。ベリー! パイン! 力づくでもピーチを連れて行け!」
「お断りよ、あなたが一緒でなきゃね」
「うん、もうせつなさんは仲間だもの」
「馬鹿な……。そんな、馬鹿な……」
怒りのあまり、口調がイースに戻っていた。嬉しいなんて感じる余裕はなかった。絶望で目の前が真っ暗
になる。もう――――間に合わない。
不幸のエネルギーの恐ろしさを話しておくべきだった。爆弾の威力などしれている。真に恐ろしいのは
それによって零れ出るモノなのに。
そして、これまでに無いほど大きな爆発が起こる。これは――――ゲージの間の爆弾!
「だめっ! もう――――間に合わない!」
その時、パインの懐から赤い光が発生した。それは球状となって四人を包み込む。
そして――――四人の姿はその部屋から消失した。
攻撃を再開しようとしていたソレワターセと、気を失ったままのウエスターとサウラーだけを残して――――
「どうにか、間に合ったようですね」
結局、設置場所が特定できず爆弾は全て起爆してしまった。しかし、不幸のゲージは無傷だった。
ノーザから預かっていた予備のソレワターセの実を開放して、ゲージを支柱に見立ててまとわり付かせたのだ。
爆弾はゲージの間以外はそれほど強力なものではなかった。壁も床もボロボロだが、肝心な設備のある部
屋は全て金属で覆われている。
地下にしか設置されていなかったらしく、地上の建物にはそれほど大きな被害も出てなかった。
「責任は、ウエスターとサウラーに取っていただかなければなりませんね」
別室に残されたソレワターセも苗に戻した。イースのプロテクトなどクラインには児戯に等しい。館の隠
蔽モードを起動させて異空間に隠す。
だが、完全な修復には時間がかかりそうだった。
一通りの作業を終えると、クラインは本国へと戻っていった。
メビウス様に、なんと報告したものか。――――頭を悩ませながら。
ウエスターとサウラーは、目が覚めると黙々と改修作業に付いた。それが最優先命令だったからだ。
敗れた悔しさ。そして、仲間を失った喪失感。
ウエスターは怒りの余り、直したばかりの機器を一つ破壊してサウラーに睨まれた。
その手には、クラインの持っていた苗の一つ。ソレワターセが握られていた。
最終更新:2011年01月27日 01:19