◆


「───貴様に問おう」

 その一言は刃の如く冷たく、鋭利に。
 拒絶を認めない絶対の質感を持っていて、否応なしに答えざるを得ない雰囲気をこの部屋に形成していた。


 陽光が差し込む昼時のテラスである。
 瀟洒な景観をしてはいるが豪勢の限りを尽くしたほどではない、やんごとなき身分が隠遁する為の土地。
 椅子に腰かけるのは、白金の髪を結わえる年端もいかない少女。
 闇色のドレスを纏っていなければ少年と見分けがつかない、中性的な、性別の垣根が意味をなさない麗貌。
 色白を越して蒼白の肌、黄土の鉛色の瞳は美しさも相まって、生気のない人形のよう。

 安置される着飾られた死体の印象を払拭するのは、胸の中枢から発露する激烈なる意思だ。
 これは屍に非ず。
 これは人に非ず。
 矮躯に収まった心臓の鼓動は地を震わせ、聞く者の一切の胆を停止させる地の響き。
 意ひとつで国を差配し、臣下の生死を決める爪。顎の牙は逆らう愚者をひと呑みにして、噛み千切る。
 吐息は火炎を纏い、敵対者を有無を言わせず焼き滅ぼす。
 それこそは王者の資質。
 幻想の中にしか存在しない竜の重圧が、蝶よ花よと愛でられる可憐な乙女を暴君に映していた。 

「王とは、何者か」

 龍が問う。

「何を掲げて戦場に臨み兵を率いるのか。
 何を以て民を従え国を栄えさせるのか。
 貴様の王聖を、ここに示すがいい」

 心を守る鎧を薄氷と砕き丸裸にする圧迫面接。
 忖度、媚び諂い、誤魔化し、同調圧力、全て無用。
 僅かでも怯み、その場凌ぎの虚偽を並べる弱腰に王の資格なし。
 聞くに耐えぬ弄言を開く前に、首ごと口を落とすのみ。
 嵐に身を投じるのと同然の無謀。
 段階を踏んだだけでの遠回しな死刑宣告に、果たして応える声があった。


「……導くことだ」


 金の髪。
 悠然の顔。
 少女よりは歳上といえど20を越えたばかりの瑞々しさ。
 王の問答に答えを出してみせるのは、彼もまた王の証左か。
 少なくとも、暴竜を前に臆さず前に進む蛮勇にはまず違いない。

「人は弱く、すぐ欲望に流される。
 己を上回る他者を妬み、恨み、奪う事で晴らそうとする。
 優れた者を認められず、一時の感情で排除したがる。それでいて空いた席に取って代わりたいとも思わない。
 足りないから、満たされないからと、彼らがいれば巡り巡って自分達に利益があるというのに、常に上にいる誰かを攻撃せずにはいられない。
 そんな事をしても、戻るものなど何も無いというのに」

 青年は語る。
 終わりの見えない争乱に疲弊する、青が霞んだ世界を。

「なぜか。それは皆、自分の役割が分からないからだ。
 適性のある職種、相手、居場所……人にはそれぞれに生まれ持った立ち位置がある。使命、運命と言い換えてもいいだろう。
 何を選べば成功するのか。どうすれば幸福になれるのか。
 辿れば必ず報われる『正しき道』の生き方を人は知らない。自分で考え、正解か分からない道を歩むしかなく、そして当たり前に間違える。
 過ちは人を簡単に歪ませる。歪みは苦しみを生み出し、手に持つ凶器の引き金を軽くする。
 失った者は欠けを憎悪で補填して、また再び誰かに穴を穿つ。
 いかに努力しようとも『失敗した人生』の汚名は灌ぎようがない。
 この螺旋を理解してなお、抜け出せないのが彼らの現状だ」

 誰だって努力をしたなら報われたい。
 失敗した理由は自分以外の他にあると押し付けたい。
 苦しんだ分だけの成果、それ以上の結果があって然るべきだ。それすら叶わない道理は間違えている。
 過ちなく、法を尊び、隣人を愛し、健常に生きてきた者にすら、『不慮の事故』は起こり得る。

 理不尽を味わった者は、道理に沿った報復には走らない。
 必ず同じ理不尽を、顔も知れない誰かに与える事になる。

「この憎しみの連鎖を断つ方法はひとつしかない。
 人類全てが運命を知ればいい。
 遺伝子に刻まれた適性、それぞれに定められた役割に従い生きる事。
 努力は実を結び、成功は約束される。能力を認められる事こそが幸福だ。
 これでもう奪い合う必要はない。敗残という犠牲者はいなくなり、誰もが皆勝利者になれる。
 失敗も挫折もなく、未来を分からぬと恐れずに生きていける」

 人が絵空事と切り捨てるしかなかった理想郷。
 それを真に現世に作る手段は、遺伝子という王を、人それぞれの内に戴く事。

「私はその未来へと導く者。
 流血と分断が繰り返される混沌の歴史を終わらせ、あらゆる不和と憎しみから解き放たれた、平等で平和な社会を作り出す。
 それを成し遂げるには人を超えなければならない。人の思い描く理想は、人の身のままでは叶えられない。
 だからこそ私は人を越えた、最高の調整者(コーディネイター)として生み出された。
 指導者に必要な資質、能力、その全てを備えた者が世界を統治する。少しも瑕疵のない結論だ。
 それが私の生きる意味であり責務、即ち王の道だ」

 自然ならざる手法で造られた存在である事への後ろめたさは一辺も見られない。
 あるのは天命を背負った己への自負。確たる存在理由(レゾンデートル)。

 世界を導くという運命……望まれた事を、望まれるままに。
 欠乏を知らず、故に他者から奪わない。
 喜びしか知らず、故に絶望する事もない。
 各々の役割をこなす管理社会。そこは確かに争いのない、安定と調和に満ちた世界だ。
 それで喪われるものがあるとしても、人命以上に尊いものはない思想は正しく、優れている。
 賢者が数多唱える予言の日。人が平和に暮らせる世界が、間違いの筈がないのだから──────。



「───やはり駄目だな、貴様は」

 断頭台の刃が落ちる音がした。
 竜の口は満開前の唇のように淡く膨らんだ美しさで、だからこそ言葉の酷薄さがより増していた。

「そんな書き割りの台詞で王が務まるものか。
 種の管理と厳選。善き人間のみ残す機構。
 それで集まるのはただの標本だ。人を玩弄するのは神のする事であって王の役目ではない」
「ならば神でも構わないとも。呼ばれ方など重要ではない」

 裁定者の弾劾にも怯みは見せない。
 肘掛けを握る指が強張る以外は。

「……何が不満だという? 争いのない平和な世界はあなたも望んでいる筈だ」
「端的に、温い」

 今や竜の台詞は空気を融かす灼熱を誤認させている。
 対峙する者にしか分からない夢幻の火。討論で打ち負かす最大の武器となる「格」の顕れを。

「徹底した管理。圧制スレスレの統制。
 結構な事だ。もっとやれ。王たるものその程度の独善がなくて務まらん。
 だが貴様は、その独善すら信じていまい。
 自分の考えではなく自分を構成するモノに正しさを任せるのなら、お前自身は何も宿らんただのカラだ。そこらの死霊と大差ない。
 存在の役割だの価値だの語っているが、ようはそれが無くては生きる自由すら許されんと縋っているだけだろう」
「……っ」

 現に、王の容赦ない舌鋒に相手は口を開閉させながらも何も言えず、全身を震わせている。
 無敵を繕っていた仮面がひび割れるような、骨の軋む音。
 やめろ。それ以上は言うな。
 伝わっている筈の無言の思念(うったえ)は、蝿の羽音にも聞こえぬと無視され、王の痛罵は止まらない。

「国も臣下も妻も、王にとっては所有物にすぎん。
 己の生き様を誇るのならば、誰だろうが理想(エゴ)で染め上げて、運命とやらも自在に掌握してみせろ。
 定められた伴侶(おんな)が素直に傅かない? ならば組み伏せてでも契ってしまえばいいだろう。
 それすら拒むようなら、首を晒して見せしめにしてでも周囲に沽券を示せ。それすら出来んで何が理想か。虚仮威しもいいところだな」


 神の奇跡、正道の体現者。
 善き騎士道の絢爛な華。十三の円卓の王。アルトリア・ペンドラゴン。
 その異霊(オルタ)である黒いサーヴァントは主である王に対して。 


「そんなだから、オルフェ・ラム・タオ───貴様は自分の女を取られた上に負けたのだ」



 そんな、聖剣よりも酷い、最悪の暴言をぶちまけた。


 ◆ 

 ファウンデーション王国宰相。コーディネイターの進化系である新人種アコード。
 オルフェ・ラム・タオは生涯かつてない衝撃を受けていた。

 言葉にするのも憚れる悪言雑言の数々。
 品よい口から放たれる、悪魔のような呪文の連射。
 怒りのあまり顔面が蒼白になる、という感覚を初めて実体験する。怨敵との殺し合いでもここまで吐き気を催す事はなかったのに。
 母にして女王アウラ、近衛のブラックナイツが見れば同じように青褪めていたことだろう。
 それだけあり得ないのだ。オルフェが言い負かされている、こんな状況は。

 ここまで怒りと屈辱を溜め込んで黙っていられるオルフェではない。
 円卓の騎士を束ねる騎士王といえど、マスターとサーヴァントの関係性ではオルフェの方が風上だ。
 居丈高に迫られたとて引き下がる謂れはない。
 世界の統制者たるアコードの自負にかけて、侮辱には相応の意趣返しで応えてみせる。
 だが例外はある。
 どれだけオルフェが認めず否定して叫ぼうとも───目を逸らす真似は課した主義が許さない。
 一度の勝負で敗北し『能力の差が付いた』現実だけは、変えようがない結果だった。

 そう。オルフェは敗北した。
 生誕から決められていた運命の相手、遺伝子によって最高の相性が確定していたラクス・クラインの裏切り。
 運命に逆らうラクスを皮切りに、オルフェ達ファウンデーションの計画は次第に瓦解していった。
 デスティニープラン……混迷する時代に終止符を打つべく導入された、遺伝子至上社会。
 必要によって生まれる管理社会は、戦争の火種を生み出す感情によって、オルフェの命もろとも否定された。

 認められない。
 理解不能だ。
 愛という概念。人を惑わし不正解の坩堝に落とす最大の要素。
 それをよりによって、自分が結ばれるべき相手が語り、オルフェより劣る別の男に鞍替えして銃を向けるという悪夢。
 オルフェの存在意義、生存理由、行動責務……オルフェのあらゆる根底を覆して、完全否定した上での死。
 敗北の機能が与えられなかった人造の王の、それは初めての「挫折する恐怖」だった。


「……あなたに何が分かる」

 超然として座るセイバーのサーヴァントを睨めつける。
 気が狂いかねない、本当に狂ってしまっているのではないかと疑いを持ちたくなるほど自信を打ち砕かれて。
 なおもオルフェは口を開いた。

「伝説のアーサー王に敬意は表するが、あなたは所詮過去の人間だ。未来の世の様相を知らない」

 常時では考えられないぐらい憔悴した小声でありながら、眼差しに光は消えていない。
『このまま言われっぱなしではいられない』。
 そんな一念が折れる足に最後の力をもたらしていた。
 そこに理屈が挟まれていないのに、オルフェは気づいていない。
 新人類を名乗るには旧く懐かしい、追い詰められた人間が見せる「意地」だった。

「100億を越えた人口の移住先に想像がつくか? 遺伝子操作で生まれた新人類が人権を確立するまでの苦節は?
 そんな世界の争いが、資源を巡る問題でもなく、信仰の違いでもなく、ただ憎しみだけで絶滅の道を進んでいたと信じられるか?」

 新天地を目指し、宇宙に進出し、新たなフロンティアを築いた時代。
 コズミック・イラの歴史は血と戦争の螺旋に囚われていた。
 遺伝子治療に端を発したデザイナーベイビー。改良種たるコーディネイターと自然出産のナチュラルとの深まる角質。
 他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。
 競い、妬み、憎んで、その身を食い合う憎悪の連鎖。
 両勢力の戦争は激化の一途を辿り、落とし所を見失い、どちらが消えるかの絶滅戦争にまで発展しかけた。

 明日を望む者の奮戦で、奇跡的に最後の扉は死守されても、燻る怒りは僅かな切欠で導火線に引火していく。
 もはや何のための憎しみなのか、誰のための怒りだったのかすら忘れられ、怨の一字だけが暴走する。

「愚か者なのだ、誰も彼も。
 平和を叫びながら、憎しみを清算する術を知らない。
 正解を他人に求めているのに、他人を信じようとしない。
 総括して出てきたのも結局は他人任せ、自分たちに都合のいい導き手を欲する始末───その結実が我らだ!」

 アコードが生まれたのは人の愚かさ故だった。
 数々の超能力。精神感応術。
 万能の戦士を求めたのも、人間性を偏重・排除された在り方を至高としたのも、人に人は統べられない諦観でしかない。

 自分達に出来ないのだから、出来るものを作ればいい───。
 合理的な、だが決して他人に移譲してはいけない最低限の権利を受け取ったオルフェは疑いなく施工した。
 情報を集め、国を興し外交で辣腕を振るい、軍備を溜め、秘密裏に手足となる勢力の取り込んでいった。

 着実に計画が進みどれだけ成果を挙げても、能力があるのだから当然のこと。
 生の苦しみを味わう事はないが、全身が躍動するような喜びもない。
 起きるのは当たり前ばかりで、従って期待も失望もしない。
 万事滞りなく運ぶ、ディスティニープランが目指す凪の心を得て……しかし稀に、自分の行いを疑う時がある。
 一瞬の気の迷いで終わる程度だが、足場固めで政界の社交場に顔を出す度に、うっすらと思考に霞がかかるのだ。


 自分は───こんなものを導かなくてはいけないのか?
 こんな愚者(にんげん)───本当に救えるのか?


 天頂に立む役割に足る能力を持ち合わせた少年は、その視点も誰にも共有できない。
 眼に映る言葉と心の裏腹。目先の欲望だけに飛びつき、足を引っ張り合う、醜さに自覚のない俗物。
 予想していた。とうに承知の既知の醜悪だ。その浅薄を是正させる事こそがアコードの志なのだから。
 だが……幾らなんでもそれはない、と踏んだ一線を軽々と踏み躙る様を延々と見せられ、人類の底値は更新される度に、オルフェの熱は次第に冷えていくのに気付いた。

 人間に期待は持てない。
 使命は捨てられない。
 ならば自分を上位種に立たせ、他を劣等種と見下す以外に、役割への熱意を保つ手段はなかった。
 人の心は要らない。感傷は効率を落とす不純物に過ぎない。
 母を名乗る女王の指から伸びる糸に繋がれていても、逆らう意思は持たなかった。
 唯一の期待……未だ出会わぬ運命の人も、ナチュラルと同じ世迷い言を吐いて拒絶された。

 それでも───それでも、辞めるわけにはいかなかった。
 死に際に至っても、使命を放棄する機能は動かなかった
 オルフェの生は既に自分だけのものではない。その時代の人類の未来を双肩に背負っている。
 失敗したでは許されない。何を代償にしても、この滅びを解消しなくてはいけないと、強く自縛するのだ。  

「人が生まれる限り必ず傍にあり、決して自分を裏切らないもの。
 これだけは疑う事のできない、絶対の標がなくては人が真に平和を作れる日は来ない。
 望まれて生まれた。世界が望んだのだ。それを否定して、どうして生きていけるという……!?
 本当はあなたも分かっている筈だ。 私と同じ、役割の為に生まれた王であるあなたなら!」

 胸を裂く怒りと悲しみ。
 愛するべき存在を奪われた幻肢痛が、白紙の無欠に疵を穢す。

 祝福のために生まれた男が隠していた世界への怒りの吐露は、正しさしか知らなかった王の失墜なのか。
 あるいは───違う世界で開講した、相似した同胞に理解を求める訴えなのだろうか。


「……役割、か。懐かしいものを思い出させてくれたが、助言が欲しいなら相手を間違えているぞ」

 過去を覗かれた不快さに眉を顰ませても、アルトリアが激昂を露わにはせず、彼方の日に視線を遠くする。

「私は確かに国を救う役割を欲した父と魔術師どもの企みによって生み落とされた。
 だが父の思惑など知らんし、あのろくでもない魔術師の企みもどうでもよい。青い方の私でもそこは変わらんだろう」

 オルタナティブ、生前の英雄を通常とは反転した属性で出力する特殊な霊基のアルトリアは、自分の過去が他人の記憶のように映っている。 
 今の彼女にとっての治世は非情の秩序。
 騎士王の暗黒面……アルトリアが外に漏らす事のなかった"怒り"を体現してる。
 "あり得た可能性"という陽炎が受肉したifの存在。幻想に仮想を重ねた空想でしかない。


 けれど、変わらぬものはある。
 真逆に見えるのは表層だけ。
 根本に在るものは、消える事なく残っている。


「王とは国を動かす装置と同一だ。
 異民族の侵攻に怯える民は強き王を求め、戦場を駆ける騎士は優れた統率者に従う。
 それさえ出来ていれば誰も王を追求せんし、軍も政も完璧にこなす存在を同じ人間だとは思わん。
 完成された理想の王に人の心も、理解も不要だ。ああ、こうして語ればそれなりに貴様に通じているのが。
 違うのはひとつだ。私は選び、貴様は選ばなかった。
 それだけの、違う結末を迎えた唯一つの差異(りゆう)だ」

 黒き王が脳裏に思い描いたその情景を、オルフェは見通せない。
 彼女の闇は深すぎて、闇の中に沈む心はか細くも、決して失われない輝きに満ちていた。

「それは、何だ」
「自分で考えろ。子供でもあるまいに」

 言われてから、ここに来て初めてオルフェは、今までの行いの浅はかさを自覚した。
 他人に導きを尋ねるなど、まるでナチュラルの蒙昧さではないか。
 遥か空に広がる星を追いかけるような、それこそ子供じみた純粋さが自身から出てきた事に意外性を感じている。

「このまま退屈で死ぬようならとっとと斬って本格的に寝入るつもりだったが……ようやくこの世界で剣を取る理由が出来たな。
 ああ、貴様にそんな気概はもうないのか。今すぐ何もかも捨てて楽になるか? 構わぬ、自由を許すぞ。
 境界の外に一歩でも出れば簡単に死霊へ落ちるもよいし、特別に我が剣でてやってもいい」
「あなたは……聖杯に望む願いがないのか……」
「いつまでも腑抜けの負け犬の泣き言を聞くよりはマシという話だ。さあ、選べ」

 ───喉元に剣の切っ先を突きつけられるイメージ。
 王の気分次第ですぐにでも想像は実体化し、オルフェの頸動脈を断つだろう。

 煽られているのは明らかだ。
 神経を逆撫でする、苛立たせるばかりのにやけ面。
 これがモビルスーツを挟んだコクピットの中でないのが口惜しい。
 ここに専用機(カルラ)さえあれば今までの減らず口をいったいどれだけ噤ませられたのか。
 しかし今求められるのは力でなく言葉だ。
 暴虐の竜を従えるに足る鞭と鞍、即ち聖杯を望む遺志。
 挑発もオルフェにそれを言わせるお膳立てだ。

「私を……あまり舐めるなよ、従僕が!」

 売られた喧嘩を買う。アコードにあるまじき野蛮な表現だが今回ばかりは正しい。
 自分の存在を否定するものに怒るのは、生命の基本原理だ。
 勝たなければならない。敗北は認められない。
 戦争は元より、この暴君にこそ負けられない。
 オルフェ・ラム・タオは勝利者の器なのだという証明を、自身のサーヴァントに認めさせる。
 常識が通用しない未知の戦いの形式だろうと順応してみせる。この身は人の水準の極みを破るアコードなれば。

「私の宣言は言った通りだ。何も変わらない。
 理想の成就、定められた使命の完遂。
 許されぬ失敗を奇跡をもって拭い去り、今度こそデスティニープランの敷かれた世界を築き、人類未踏の平和を実現して見せる!
 誰に理解されなくても構わない。私は私の生まれた意味を疑わない。 たとえ私に誰も従わなくととも───!」



 ─私は知っているから……─ 



「たとえ……誰に……理解されないとしても……!」 

 剣が引き抜かれる。
 選定の時は今ここに。
 少年は生まれて初めて、大切なものの為に、痛みを伴う決断を選んだ。

「……いいだろう。人形よりは上等になった答えだ」

 殺気を取り下げる。
 龍は心躍らせる。
 未熟な王が泥のついた膝を立てる姿をとても面白いと。
 待ち受ける波乱と困難を確信し、どこまで性根を叩き直せるかと楽しみにして、ずっと後回しにしていた言葉を告げた。

「契約は交わされた。これより我が剣は貴様と共にあり、我が命運は貴様と共にある。
 呪いに堕ちたる竜の剣、されど立ち塞がる敵を尽く粉砕する力。
 せいぜい上手く使ってみせろ。願わくば、末永くな」  


 冥府の空の下。
 黒騎士(ブラックナイト)は戦いの誓いを結び。
 もうひとつの新たなる剣は舞い降りた。 









【CLASS】
 セイバー

【真名】
 アルトリア・ペンドラゴン〔オルタ〕@Fate/grand order

【属性】
 秩序・悪

【ステータス】
 筋力A 耐久A 敏捷D 魔力A++ 幸運C 宝具A++

【クラス別スキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
 …闇属性に染まっている為、対魔力が低下している。

騎乗:―
 騎乗スキルは失われている。バイクぐらいなら自前で乗れる。

【固有スキル】
直感:B → 宵闇の星:A
 戦闘時に常に自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。
 常に凶暴性を抑えている為、直感が鈍っている。

魔力放出:A → 魔力放出(逆鱗):A+
 膨大な魔力はセイバーが意識せずとも、濃霧となって体を覆う。
 黒い甲冑と魔力の余波によって、防御力が格段に向上している。

カリスマ:E
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において自軍の能力を向上させる。
 統率力こそ上がるものの、兵の士気は極度に減少する。

 アーサー王はカムランの戦いの後、伝説の秘島アヴァロンで眠りにつき復活の時を待つという。
 冥界の一種の幽界であるアヴァロンの王との親和性から、スキルが強化されている。

【宝具】
『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
 黒い極光の剣。
 エクスカリバーは所有者の魔力を変換する増幅器である為、黒化したセイバーの聖剣の光も、同じように黒色となっている。
 湖の妖精にヴィヴィアンとモリガンが共存するように、この聖剣も善悪両方の属性を持つようだ。 
 真名解放にはモルガンとつけなくても発動する。モルガン(異聞帯)はキレた。

【weapon】
 エクスカリバー

【人物背景】
 円卓の騎士王アーサー王、その別側面。
 暴君の性質が前面に押し出されてるが、本質と理想は元の姿と変わりない。ジャンクフード悪食王。もっきゅもっきゅ。
 マスターとの親和性でいえば通常霊基の方が性質は近いが、冥界という過酷な環境での適応、
 オルフェの精神状態に感応してオルタ霊基での召喚となった。

【サーヴァントとしての願い】
 オルフェの黒騎士(ブラックナイト)として、真の勝利をもたらす。

【マスターへの態度】
 モルガンに支配されアーサー王の役目を負わされギネヴィアを奪い取られたモードレッドのような奴。イヤミか貴様ッッッ。
 温室育ちのお坊ちゃんに容赦なくスパルタ境域を叩き込む。
 至らぬ弟子を鍛える師匠のようで、不肖の弟を教育する姉のような姿勢。




【マスター】
 オルフェ・ラム・タオ@ガンダムSEED FREEDOM

【マスターとしての願い】
 己の役割を取り戻す。

【能力・技能】
 遺伝子操作により高い能力を獲得したコーディネイター、そこから発展した進化系「アコード」の筆頭。
 あらゆる方面に最高の才能を発揮し、初めての分野でも僅かな時間で習得する。
 オルフェは宰相の立場から、特に政治・軍事面に伸ばされている。

 アコードに共通する能力に精神感応がある。
 テレパシーでの会話、思考の読み取り、精神操作を用いる。
 思考を読む際は言葉でなくイメージになって浮かび上がる。相手の考えてる内容によっては思わぬ動揺を招く事も。

【人物背景】
 ユーラシア連邦から独立した新興国家、ファウンデーション王国宰相。
 争いに満ちたコズミック・イラを統制するディスティニープランを主導する新生コーディネイター「アコード」。
 ラクス・クラインと共に世界を導くと運命を望まれて生まれた存在。
 その全てを失った、ひとりの男。ひとつの命。

【方針】
 バックがいない以上、野蛮だが自ら前に出て敵を倒す。
 冥界では強さ以外に、存在価値を証明できないのだから。

【サーヴァントへの態度】
 目的のために、必要だからと生み出された、別の世界のある種の同胞。
 自分と同じ、役割に徹した装置でありながら、なぜあの最期に後悔を抱いていないのか、疑問に思っている。
 通常霊基ならともかく、オルタ霊基が相手だと終始言い負かされっぱなし。
 聖杯戦争と同等に、この黒王に勝つ事もオルフェの定めた命題である。

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最終更新:2024年05月05日 16:00