◆


 3月◯◯日未明。
 冥奥領域内の再現東京都内のひとつ羽村市が、突如として消滅した。

 マスター権を持つ葬者の脱落に従って、冥界から保護する領域は縮小される。
 生き残った葬者が段々と見慣れていったルールと、その時の光景は違っていた。 
 まず最初に、空から複数の眩い光が到来。
 流星のようなそれは都市の1地区のみの範囲に精確に墜落し、区画ごと跡形もなく消滅させた。
 市内に潜伏していたと思われるマスターも同じく従えるサーヴァント共々蒸発したと思われ、領域の冥界化が侵攻したのはあくまでその事後だ。
 別の視点では冥界の砂地の彼方にそびえ立つ巨塔が確認されており、因果関係が予想されている。


 現在の羽村市があった場所は、奈落の穴としか言いようのない陥没地帯に姿を変えている。
 世の新陳代謝によって溜まる垢の行き着く廃棄孔。 
 冥界と呼ばれるに相応しい黒洞。
 マスターを狙い撃ちした攻撃が過剰に過ぎた為、土地を巻き込んでしまったのか。
 何かの狙いで土地を吹き飛ばして、たまたまそこにいたマスターが巻き込まれてしまったのか。
 答えを知る者はいない。誰も。
 既に冥界に呑まれた領域を好んで調べようとする者もいない。


 宇宙からの侵略者が襲来して来たかのようだと言う、当時の光景を目撃していたマスターは。
 破壊を招いた空に浮かぶ小さな人影に、全身の皮を引き剥がされる程の悪寒と恐怖を覚えていた。
 顔は視ていない。視力の強化は取り止めたから。
 もし少しでも鮮明に姿を目にしてしまえば、本当に全身の肉が吹き飛んでしまうのではないかと思ったから。
 けれど目撃者は想像してしまった。見えないものに妄想力を掻き立てられ、自ら恐怖を助長させてしまった。


 アレはきっと、何も感じていない。
 障害を軽々排除した優越も、敵を滅ぼした喜びも。
 生命が消える行為に、何の意味を感じていない。
 アレは英霊というより一種の兵器。
 引き金を押すだけで設定したポイントを消滅させる無私の装置。
 怪物は殺戮に享楽し、悪魔は人の堕落する過程の様を楽しむが、アレがするのはただ一瞬の墜落。
 生命の蔓延る世界にいてはいけない、否定の化け物だ。


 勝てない。
 宝具を使おうが徒党を組もうが、アレはどうやっても倒せない。
 倒せない理屈、伝承による防御を纏ってるのではない。
 圧倒的な、挑戦の成否を計るのが馬鹿らしくなるぐらいの、単純な力の塊。
 計算は不能(エラー)。勝利という答えに届く道筋がなく、純粋真正に力の差が開きすぎている。

 出来る事はひとつだけだ。
 どうか、あの光が頭上に落ちてこないでくれと。
 毎夜毎に手を握って祈りを捧げるしかない。
 冥界の神ではなく、空にかかる星にでもない、あの忌まわしい兵器を所有する誰かに。


 3日後。
 羽村市の隣に位置する福生市が消滅した。
 それと同時に、冥奥領域がマスター1人分だけ縮小したのを全参加者が確認する。
 消えた葬者が何者だったのか、知る者はもう、誰もいなかった。


 ◆


 闇が在る。

 そこは居場所が杳と知れない、広大な空間だ。
 屋内か。地下か。流れ込む冷えた風は夜気によるものではなく外の熱が遮断されたもの。
 天然の洞窟の静謐さもあれば、人工的に地盤をくり抜いた無機質さもある。
 絶えず聞こえる鼓動、胎動、心音……何かの産声を想起させるのは、巨大な機械類が駆動している証。
 電子の文字盤からの表示以外に照明はないが、ただ暗いのではない。
 空間に質量を感じさせる圧。この世の闇を凝固させた、底を割ってどこまでも沈んでいく、どす黒く染まった塊。
 音でもなく光でもない、物質界には存在しない概念、意思が形を持って闇となっているのだ。
 物理法則より魂が優先される冥界故の仕様か。
 理由は定かでなくとも、闇の濃密な気配は頑としてそこにある。


 光の乏しい場所に、液晶モニターの画像がにわかに映し出される。
 上部から幾重ものケーブルで繋がれた大型のモニターには、奈落に続く孔が見える。
 都市一区画ごと陥没した破壊痕。
 地獄に未練がましく蠢くばかりの罪人に施された、天からの鉄槌。
 慈悲の見えない浄化の惨状が画面全体を埋め尽くしている。


「クーックックックック……」


 闇が嗤う。
 喉が酷く嗄れた、臨終する間際にまで老いた男の声だ。
 今にも途絶えそうな枯れ具合とは裏腹に、声にはまだ静かに終わりを待つ潔さとは無縁の、ギラついた生気が漲っている。
 許せない。認めない。消えてなるものか。
 執着という燃料を注ぎ、風前の灯火にありながら決して消えない、いつまでも残り続ける煌きで。
 燃え尽きる寸前の蝋燭が、激しく炎を散らす流星のように盛っている。

 視界が確保できる限界の両目を炯々と。
 丹念に折り畳まれて出来た皺だらけの顔で口の両端を釣り上げて、老人は嗤っている。
 あの場所で起きた消滅を。そこに居合わせた葬者の恐怖と絶望の断末魔を想像して悦に入る。
 他者の苦しみが、自己の喜びが、朽ちゆくこの身を永らえさせる不死の妙薬だというように。

「戻ったよ、マスター」

 闇の中で佇む老人の背に、年若い青年が声と共に姿を現した。
 涼やかな顔に盛り上がった白髪。シャツとジーンズのラフな取り合わせは、いかにも先進都市の繁栄を謳歌する現代人に見える。
 黒と反発する白の印象は、暗窟よりも繁華街の街路をそぞろ歩いてる様が似合っている。
 だがその白は他の一切を塗り潰す拒絶の白。
 どんな色彩にも馴染まず、滲みも濁りもしない。一方的な脱色・除色があるのみ。

 空も虚も描かれていない、これからも描かれない、透明な白紙。

 全てを飲み込む黒か。
 全てを消し去る白か。
 色の違いがあるのみで、この場の闇と青年はまったく同一の意味を抱えていた。

「戻ったか、アーチャー。首尾はどうかね?」
「いま君に見せた通りだよ。補足したサーヴァントは消した。一緒にいたマスター諸共にね」
「そうかそうか、抵抗する術もなく、マヌケに口を開けたまま死んだか。クーックックックッ……!」

 従者の戦果を示すモニターを眺めて再び笑い出す。
 葬者を滅ぼした報告をする度に、この老人は声を上げて歓喜の笑い声を上げる。
 人が死に,消えていく様が、楽しくて仕方がないといった様だ。
 そんなマスターとは対象的に、アーチャーのクラスのサーヴァントの表情は変わらない。
 老人の狂態を憐れむでもなく、怒りを向けているでもない。
 ただ、どうしてそんなに喜んでいるのかと、不思議なものを見る目をしていた。

「マスター。ずっと疑問だったんだけど」
「ん……?」
「どうして、僕の砲撃に日を置いているんだい?」

 召喚された初日から下された命令。
 この日まで律儀に守っていたその内容に、幾度か感じていた疑念を、堪えきれずに口に出した。

「君の心の力は凄まじい。前のパートナーほどの出力じゃないが、持続力がとても高い。そんな体でよくもここまで長持ちするものだよ。
 僕の「右手」も、一日おきといわず毎日使っても余るぐらいだ。その気なら、一日でここの会場全てに撃ち込む事だってできる。
 君はどうやら人を滅ぼす行為に喜びを感じるようだ。そして聖杯だって望んでいる。
 なのにすぐに決着をつけて聖杯を得ようとせず、何日も時間をかけて他の葬者を追い立てるような真似をしている。何故なんだい?」

 アーチャーの名の通り、青年は射出と砲撃に高い適正を持っている。
 本来の射程距離で5000km。サーヴァントの制約で範囲を狭まれていても、冥奥領域を隅まで探知して、ピンポイントで狙撃するだけの能力を有している。
 威力の程も既に実証済み。魔力の当ても、自分とマスターの特殊な事情が合わさって、ほぼ無尽蔵に引き出せる。

 客観的な情報の総括として、断言していい。
 自身の能力を以てすれば、今すぐ街全体を砲撃で埋め尽くして、全ての葬者を一斉に滅ぼす事が出来る。
 仮に不意打ちの砲撃を凌いで生き残ってみせた相手がいても、仕留めた相手に応じて領域は一気に狭まるのだから、早期に戦争が終結に向かうのに違いはない。
 砲戦のみがアーチャーの得手ではない。顔を見合わせての近接戦でも遅れを取りはしないだけの性能が自分には備わっている。

 現状、葬者達が仮初の生活に溶け込んでいられるのは、マスターの気まぐれにも思える判断によって保証されているに過ぎないのだ。
 それが青年には解せない。 
 マスターは聖杯を取るべく戦うと宣言しており、敵対者の排除にも積極的な精神の持ち主だ。
 にも関わらずこうして相手に余裕を持たせ、僅かなりとも生き延びる猶予を与えている。
 そこの意図がどうしても、読めない。


「……フン! アーチャーよ……お前も所詮は人形よ。人間サマのこの高尚な感情など理解できんのも無理はない……!」

 鼻を鳴らして、心底からの侮蔑を遠慮なくぶつけられても、それに苛立つ心は持ち合わせてはいない。
 そういうものなのかと、簡潔に納得するのみだ。


「何故こんな事をするのかだと? 人間共を無為に生き永らえさせて勝てる戦いを見過ごすのかだと?
 そんなもの決まっておるだろう───楽しいからだよ」


 心からの狂気を、正気のままに口にする。
 あるいはとうに、正気など吹き飛んでいるのかもしれない。
 こんなにも、壊れた笑顔でいられるのだから。


「ワシはな、人間をただ滅ぼすだけでは、なーんにも楽しくないのだ。
 確かにお前に命じれば、ほとんどの葬者共は死に絶えることだろう。
 だがそれはつまらん。一瞬の死の苦しみなど、奴らには生温い。
 もっと。もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと!
 死んでもなお浅ましく這い回るブタ共には、もっと無様に踊ってもらわればならん!」


 それだけ老人は闇を纏っていた。
 光の無い世界というものを、体現していた。


「一瞬で消え去る大地。それを可能とする存在。
 奴らはまず驚愕するだろう。警戒するだろう。どんな敵かと想像するだろう。
 しかし同じ事が何度も起きて、ふと気づくのだ。自分達は弄ばれてると。
 ワシの指ひとつでいつでも消える命。生きるか死ぬかの決定権をワシに握られてるという事実を、知り、奴らは震え上がる。
 次はいつ落ちてくるのか。どの大地が消し飛ばされるのか。
 そうして顔も知れぬワシに対して、ひれ伏して、許しを請い出す……! クククククーーーーーッッ!!」


 戦略ではなかった。
 考えているのは己の快楽をどれだけ引き出せるか。
 優先するのはどうすれば他者に最大限の苦しみをこの戦争で与えられるか。
 老人の焦点はそこにのみ当てられていた。勝利の計略など、編んですらいなかった。

 徒労を苦にせず、無意味を忘却して妄想に没頭する。
 それこそが明白にして揺るがぬ意味。
 即ち娯楽。
 敵に猶予を与える理由が遊興でしかないと、そう言っている。


「人間?」
「そうとも。ワシこそが人間だ。 これこそが支配者の器だ!
 他者を思いのままに操る快楽。化け物や人形にはない、人間サマの頭脳がなければ味わえんよ……!」
「そんな体で?」


 本当に。
 彼は思ったままの言葉を口にしてみただけだ。
 その老人の姿は、彼が見たどの人間とも違う、むしろ彼の知る魔物という存在にしか思えないものだったから。


 頭部をまるごと覆う、円錐状の容器の蓋。
 中は橙色の液体で満たされ、気泡が浮く中で老人の頭髪と顎髭が揺蕩っている。
 老体を包んだ外殻を支える両脚は無く、浮遊した姿勢はまるで童話に登場する魔法使いじみている。
 容態でいうならば、生命維持装置を限界まで付けた危篤患者も同然。
 もはや生かす為に機械があるのか、機械を動かす為に人を繋いでいるのか分からなくなる。

 狂気の顕れ。
 正気の沙汰の外。
 在り示す姿こそは罪の証。
 与えられた罰の痛みに屈し歪み捻れて壊れた、ひとりの科学者の末路だった。


「……そうとも。ワシは人間だ。
 こんな機械の体でもな、ワシはまだ人間なのだよ……!」

 皺と欲望でグチャグチャになっていた顔が、吹き出た憎悪で輪郭すら崩れ出す。
 外も中も、欠片も人間でなくなった者は、己こそが人間だと強く主張した。 

「この体はな……ワシを否定し、戦争の全ての罪を押し付けて宇宙に放逐した人間共の仕業よ……。
 どんなに年老いても、傷ついても、機械の体で再生する、永遠に生き続ける呪いよ……。
 光も、自然も、何も無い暗黒の世界で……死ぬ事も許されない責め苦を負わされたのだ……。
 機械人形の分際で人間に反逆したレプリロイド共との戦争を終わらせた、偉大なるこのワシを!」
「…………」

 恨み節を聞かせるマスターの心中をアーチャーは察せない。
 戦争終結の立役者を豪語しながら、人間の6割と機械の9割を死滅させた最悪の幕を指揮した、真実極刑級の罪人だとしても。
 100年の怠惰が、追放側の政府からも脅威性を忘れ去り、この男の独裁と恐怖政治の台頭を招いた過去を知ろうとも。
 彼が思うものはない。老人の言う通り己は人形だ。
 破綻した理屈も政府の腐敗にも関心はない。
 魔界に住まう魔物を滅ぼす使命を果たす為の自動装置だ。 

「ワシはな、アーチャー。聖杯は欲しいといったが、叶える願いなんてないのだよ。
 ワシの願いは、とうに叶っている。この戦争こそがワシの望みよ。
 死んだ後でも殺し合う人間と人形……最高の破滅のショーだと思わんか!
 そうとも、たかが死んだ程度で苦しみから解放されると思うな! ワシが死んだだけでワシから逃げられると思うな!
 ワシの苦しみはこんなものではない! こんな!!
 死後も魂を磨り潰す戦争こそ、お前たちが辿る地獄に相応しい! お前たちに正しい世界をワシ自ら築いてくれる!!」

 誰に弾劾されようと、世界に顔を背けられようとも。
 朽ちた肉を乗せた棺桶に取り憑いた意志は、人間を自称し続ける。
 その絶対的エゴ。人を人たらしめるイドの究極。恩讐なき怒りと憎しみの廃棄孔。
 ごく一面に限って、男は確かに人間を代表する、「悪」の性の権化だった。


「アーチャー! いやクリア・ノート!!
 これからもお前には働いてもらうぞ。ワシの手足、ワシの欲望の道具としてな。
 そうすればお前が果たせなかった真の滅亡、終わらぬ悪夢を見せてやる!! このワシ……ドクター・バイルがなァ!!」

 堕ちた科学者は呪詛する。
 遥かなる未来、人の手で造り出した心持つ機械を隣人とした時代に生きた男を呪詛する。
 全ての人類に自分と同じ苦しみの歴史を歩かせるに留まらず、死後の安息すら奪おうと冥界に君臨する。

 汝は人間、罪ありき。
 罪状は生誕と繁栄。我を呪いし者共を産み落とした罪深き祖先。
 故に地獄で責め苦を負うべし。死の訪れない牢獄で共に叫喚しようぞ。


 「クク……クヒャーハッハッハッハッハッハッハ!!!」


 狂笑に震える男の背後で。
 神々の黄昏の残骸は呼応する。
 刀身の欠けた剣のオブジェ、機動要塞のコアの機能が蠢動を早める。
 やがて再び世界を紅蓮に染め上げる時を待ちながら。
 暗い地の底で、終末の運命の歯車は、着実に、確実に廻り出していた。


 ◆


 クリア・ノートは、狂気という言葉とは無縁の身だった。


 魔物を消し、魔界を滅ぼすのは、そうする事が機能だから。
 世界を否定するだけの憎しみがあったわけではない。世界を支配出来る事への優越があったからでもない。
 1000年に1度行われる魔界の王を決める戦いに参加したのも、魔界全ての魔物の魂の生殺与奪を握れる『王の特権』を使う為。
 生まれた時から備わった本能であり生態として、心臓と脳に『滅ぼす』意志が根付いている。いわば呼吸と同じだ。
 息をする行為に、右足を前に出せば左足が次に前に出す行程に、疑問に思ってやめる生き物はいない。
 いるとすればそれは体の損傷であり、脳の異常。修正されるべきバグだ。
 傷は苦痛を生み精神を歪ませて本来のパフォーマンスを損なう。一刻も早い治療の必要がある。

 クリアにはそれがない。
 自分の周囲と違う異質さに疑問を抱いた事はない。いや、異質だという自覚もない。
 命が栄える意味を理解出来ない、愛を知るだけの器がない、それが悲しいとも思わない。
 どこまでも健常(クリア)であり、透明(クリア)。
 自分の本能を理解し、その通りに生き、それが叶う能力も獲得している。
 理想との乖離、現実との摩擦が狂気を呼ぶのだから、正しく存在する者に狂気が訪れる道理はない。


 この老人は、狂っているのだろう。
 ネオ・アルカディア───人間と機械生命体レプリロイドとの戦争が明けた先に築いた人間の理想郷。
 後にイレギュラー戦争、妖精戦争と名付けられる戦争の末期。
 隷属したレプリロイド同士を破壊させ合う戦線を強行し、破滅的な被害をもたらしたバイルは、理想が否定されたばかりか罪人として囚われ、100年の時を生かされた。
 人が1日と生きていけない環境を、人でない体にされて生きた悠久の時間は、老体の精神を異次元の魔物に変えるには十分すぎた。
 もはやバイルの中には憎しみしかない。人間性という孤独の宇宙空間での生存に一切寄与しない要素は一番最初に切り捨てた。
 最初のタガが外れれば、あとはもう雪崩式に全部が壊れる。
 善悪を測る理性。虚実を分ける正気。倫理、道徳、常識正義情愛、要らない荷物(ウェイト)は尽く分離(パージ)させる。
 そうして出来上がったのが、こそげ落ちた体を、怒りと憎悪で肉の補填にした『継ぎ接ぎの怪物(フランケンシュタイン)』。
 自分と共に永遠に苦しみの歴史の中を歩かせる無理心中を図った、生きた災厄へ変生した魔人だ。


 かつて、人間界での魔界の王を決める戦いで。
 人間の知識を知ったクリアは、自身を核兵器になぞらえて生命の自滅の可能性を語ったが。
 まさか人として生まれたものが、こうも自分に近い存在に成れるとは思ってもみなかった。
 生き物とはここまで、同じ種族を滅ぼす為に力を尽くせるものなのかと。
 あんな兵器を無数に造ってしまうぐらいに。

 ラグナロクという、空から敵を砲撃する要塞のコア。
 自分の肉身として吸収していた為に、バイルが冥界に持ち込んでしまった異物。
 動力炉だけで肝心の本体は切り離されているが、まだ何かしらの使い道は見つかるだろうとバイルは踏んでいる。
 それに動くコアのエネルギーを概算しただけでも、ある程度の推量は出来る。
 星を飛び越えた空からの、回避や防御の余地のない殺戮。
 もし全てのパーツが揃っていれば、これは完全体のクリアと比しても見劣りしない破壊を起こす兵器だ。
 それもクリアのような、単一の存在によってでない、集団の総意の下に製造され量産されていたという。

 クリアの本能、存在意義の役割を、誰しもが持つ欲望が肥大化して代わる代わる継いでいく。
 人間が独自に、新たなクリアを生み出している。
 理不尽や不条理では説明がつかない、そこには一種のシステムめいた構造を感じさせる。
 クリアという機構も、その一部に組み込まれている一部でしかないのだろうか。狂気すらもが、クリアを形作る美しいアートなのか?
 その答えは思考や問答ではなく───この冥界にこそ、ある。

 黒と白の意志。
 異なる思惑で滅亡への道が交わった同士。
 絡み合う二極の螺旋が導く結末は、果たしてどんな景色なのか。
 バイルの隣にいれば、きっと目にできる。答えを知れる。

「それはそれで……面白そうだね────」

 芽生えた期待を小さな愉しみにして、クリアは主の笑い声にもう暫く耳を傾けた。








【CLASS】
 アーチャー

【真名】
 クリア・ノート@金色のガッシュ!!

【ステータス】
筋力B+ 耐久B 敏捷A 魔力A+ 幸運- 宝具EX

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】
対魔力:C
単独行動:EX
 マスター不在でも行動できる。
 ただし呪文や宝具の発動においては、下記スキルによるマスターからのバックアップを必要とする。

【保有スキル】
魔本:EX
 クリア達魔物の子が、魔界の王を決める戦いに参加する時に支給される魔導書。
 魔物が使用する呪文の源であり、本の持ち主となるパートナーの「心の力」を使用して呪文を発動する。
 魔物単体では呪文を使えない為、戦闘ではパートナーとの連携が不可欠。
 クリアの術は「消滅」。物質の消滅と、術の力の消滅の二種類の呪文を使用する。
 サーヴァントとしての召喚においては「マスターの精神力を魔力に変換する炉心」「マスターの精神力を消費して呪文を発動する魔導書」と設定されている。
 魔本は頭部と心臓に続く第三の霊核であり、この本が僅かでも傷ついたらそこから発火し、完全に焼失した時クリアもまた消滅する。

破滅の子:EX
 全ての魔物を滅ぼす為に生まれた存在。魔界が辿るひとつの結末の抑止力。
 クリアにとって魔物を滅ぼす行為は本能であり、その内に愛という概念が入り込む余地はない。
 精神干渉の無効化(干渉するだけの「心」がない、ともいう)、あらゆる攻撃にプラス判定の効果がつく。

気配感知:A+
 最高クラスの気配探知。
 元は最大5000キロ以上の索敵範囲を誇ったが、サーヴァントの身では流石にそこまでは再現されてない。
 それでも都市一個内にある魔力の気配を探り当てる精度。冥界でそれ以上の索敵は必要ない。

力の解放:C→B→A
 クリア・ノートとは彼が所有する最大呪文を発動する為の「器」でもある。
 霊基再臨の度に力は解放され能力が向上するが、同時にクリア自身も力に呑まれ、人格を喪失していく。
 再臨には令呪等、何らかの魔力バックアップが必要。

絶対防壁:B
 自身の霊基を削る事で防御球を作り出す。
 物理に対してはAランク相当、魔力を持った攻撃ではEX級の防御力を発揮する。
 クリアでもこの防壁の生成は困難で、赤子を包める程度の大きさが限界。主に魔本の防護に使われる。

【宝具】
『森羅消滅す光輝の天神(シン・クリア・セウノウス)』
ランク:A++ 種別:対物質・魔術宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:10人
 しんらしょうめつすこうきのてんしん。
 クリアの最大呪文。巨大な精霊の形をした力の化身。
 ラディス系とスプリフォ系、クリアの術の特性を複合されており、物理魔術両面であらゆるものを消滅させる。

『千空翔滅す大いなる翼(シン・クリア・セウノウス・バードレルゴ)』
ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:0~9999(飛行距離) 最大捕捉:30人
 せんりしょうめつすおおいなるつばさ。
 骸骨状の巨鳥を召喚する、自律思考を持った呪文。
 速度は初速で音速を突破し突撃する他、全身が消滅波で出来ており、バードレルゴ自身が徐々に消滅していきながら触れた敵を消滅させる。
 体が小さくなる毎に速度を上げていき、体の一部も分離して射出して対象を追い詰める、いわば特攻兵器。

『万里焼滅す灰塵の重砲(シン・クリア・セウノウス・ザレフェドーラ)』
ランク:A+ 種別:対都市宝具 レンジ:10~999(射程距離) 最大捕捉:500人
 ばんりしょうめつすかいじんのじゅうほう。
 複数砲門を備えた巨大な砲台と、それに乗り込んだ砲手がセットの呪文。
 バードレルゴ同様意思を持ち、砲手の合図で消滅弾を発射する。
 クリアの気配探知・マスターの視界とリンクする事で、対象への超遠距離・超精密砲撃を連射する。
 砲台を台座から切り離し一発切りの爆弾にして射出も可能の他、台座自体も弾にして自ら飛翔する。

 バードレルゴ及びザレフェドーラは、シン・クリア・セウノウスより分かれた力の一部である。
 この二種の宝具を使用できる状況での『森羅消滅す光輝の天神』は使用できず、破壊された力はクリアに還元される。

『神羅生滅す劫力の魔神(シン・クリア・セウノウス)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:100人
 しんらしょうめつすごうりょくのまじん。
 クリア・ノートという器に眠る、消滅の力の源。魔界を滅ぼす意志そのもの。
 『森羅消滅す光輝の天神』が破られ、クリアが戦闘不能になるだけのダメージが受けたのを条件に発動。
 セウノウスとは真逆の、禍々しい魔神像へと変貌する。
 基本出力が大きく上昇し、バードレルゴ、ザレフェドーラの性質も受け継いでおり、全身からの消滅弾、体を分離しての消滅攻撃を発射する。
 この時点でクリアの人格は飲み込まれ核の結晶を守る外殻に成り果て、マスターすら取り込んで心の力の動力炉にして制御不能になる。
 サーヴァントと宝具の関係が逆転する、完全自律式宝具。

【weapon】
 魔本による消滅の呪文。
 素手での戦闘でも最上位の魔物と真っ向から勝負できる。

【人物背景】
 魔界を滅ぼす本能を持って生まれた魔物の子。
 愛なく憎しみなく理由なく全てを破壊する在り方は、ボタンひとつで世界を脅威に曝す兵器に近い。

【サーヴァントとしての願い】
 使命に従い、魔界を滅ぼす。

【マスターへの態度】
 赤子と老人、無垢と邪心、本能と憎悪と、前のパートナーとは真逆の在り方。
 心の力の出力は劣るが、持続力が凄まじい。





【マスター】
 ドクター・バイル@ロックマンゼロ

【マスターとしての願い】
 人間に死後の安息すら許さない、冥府に相応しい地獄を作る。

【能力・技能】
 レプリロイドやサイバーエルフといった機械・電子化が進んだ世界でも優秀な科学者。
 特に一度破壊されたレプリロイドの再生、自分に恭順するよう思考を改造するプログラミングに長ける。

 イレギュラー戦争及び妖精戦争の戦争犯罪者として、生身の体を再生能力を持った機械に押し込まれて無理やりに「生かされて」いる。
 衛星砲の直撃を受けても死ぬ事のない不死性だが、資源のない宇宙船に100年以上幽閉されて来たその精神は、人類とレプリロイドへの憎悪に染まりきっている。

【人物背景】
 滅びを望む者。
 どれだけ機械に改造され、長い年月を生かされても、己は人間だと誇示する、もはや欠片も人間ではない怪物。

 死亡時には宇宙衛星砲台、ラグナロクのコア・レーヴァティンを取り込んだ状態だが、現在はコアは切り離された上でバイルの手元にある。
 コアと合体して戦闘形態になる機能は損壊してるが、動力炉・電算システムの機能は生きている。
 後の世界でライブメタルと呼ばれる新規の動力、その雛形である。

【方針】
 クリアの力をすぐには解放しない。
 時間をかけて追い詰め、全ての葬者を絶望の中で死ぬまで苦しめていく。

【サーヴァントへの態度】
 生粋のイレギュラー。オメガにも等しい最凶の兵器。
 人格を弄れないのは惜しいが、使命には従順なのでひとまずは満足している。

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最終更新:2024年05月14日 20:37