冥界に形成された東京都には、都会にしては時代に合わない建造物があった。
 それは、江戸城。
 現実においては皇居外苑に遺構を残すのみとなっているはずのそこは、現代に至っても取り壊されることなくその形を保ち、現存する城として知られていた。
 その理由には、住んでいる者に理由がある。
 そこには、皇族と等しく高貴なる者――江戸幕府が倒れてからも尚続く徳川家の末裔が住んでいた。

 この冥界に作られた偽りの東京では、徳川家の末裔は今も江戸城に住まうことを許されている身だ。
 流石に政治を執り仕切る権限を持ってはいないが、民を愛し、国を想うその姿勢は国民からも人気を博していた。
 そんな徳川家の末裔を、人々は尊敬と親愛を込めて「上様」「将ちゃん」等の愛称で呼び、敬っていた。




§




「上様。お湯加減はいかがでしょうか」
「ああ、ちょうどいい湯だ」

 江戸城に備え付けられた風呂場。
 この城で最も身分の高い者のプライベート温泉として機能しているそこで、彼は湯船に浸かりながら戸の先にいる女中に答える。

「……すまぬ。少しの間、一人になりたい。外してくれぬか」
「かしこまりました」

 女中の足音が遠のいていくのを感じて、彼は一息ついてから夜空を見上げる。

「私は……『生きて』いるのだろうか」

 そう独りごちる彼の名は、徳川茂茂。
 冥界に招かれる以前は、江戸幕府第14代征夷大将軍の地位についていた人物である。
 『生きて』いる。茂茂がそう表現するのは、彼もまた葬者として招かれたからに他ならない。
 京へと渡り、第15代征夷大将軍となった徳川喜喜に対抗しようとした矢先のことだった。
 幼馴染であった友之助の手にかかり――最期はそよの兄であるただの茂茂として、自分は死んだはずなのだ。
 なのに今、気づけば偽りの東京なる土地で、茂茂は「今も続く将軍」という日本の象徴として生きていたことになっている。

「……まだ、私は戦うことを許されているのか?」

 立ち上る湯気を見上げながら、考えに耽る。
 死後の世界で為される、聖杯という願望器を巡る戦いの中に、茂茂はいる。
 戦争を勝ち抜き、この冥界から生還することができるとすれば、志半ばで閉ざされた道をもう一度開くこともできよう。

「……」

 しかし、勝ち抜くということは、他の者の願いを踏みにじるということでもある。
 茂茂の知らぬ世界とはいえ、切実な願いを持っていることは想像に難くないだろう。
 茂茂にはできるだろうか、垂らされた蜘蛛の糸を登ることを。茂茂にはできるだろうか、同じ蜘蛛の糸に登る葬者を蹴落とすことを。


「……そなたらは今、どうしておるのだ?……いや、考えすぎか」

 将軍の地位を追われた自分についてきてくれた者達に思いを馳せる。真撰組。御庭番衆。そして、万事屋。皆、共に死線を潜り抜けた、この上なく頼れるダチ公達だ。
 茂茂が倒れてからの彼らが心配でないと言えば嘘になる。
 だが、信頼はしている。混迷の時代の中でも、彼らは確固たる己を持つ侍だ。
 茂茂はいなくなってしまったが、将軍がいなくともきっと彼らが新たな時代を切り開いてくれるだろう。

「……そよには、すまないことをしたな」

 だが、最も心配なのは実妹のそよだ。
 妹には結果的に、自分を看取る役目を押し付けてしまった。
 最期の時をただの茂茂でいさせてくれた妹の将来が、せめて光あるものであってほしいと願うばかりだ。

「――いかん……長風呂が過ぎてしまったな」

 そうしてしばらく考えていると、女中に外すよう言ってから随分と経つ。
 そろそろ出ないと、また家臣達に心配をかけてしまう。
 そう思いながら、湯船を出た時のことであった。

「ッ!?」

 殺気を感じ、申し分程度に身を隠していたタオルを手放して飛び退く。
 すると茂茂の手から離れたタオルは細切れにされ、糸くず単位に分解された。

「――やはり、葬者だったか」

 茂茂の前に突如として現れたのは、身体のほとんどを黒いローブで隠した、いかにも暗殺者と言わんばかりの風体をした男だった。
 男はローブの底から殺意に溢れた眼を光らせながら茂茂を見る。

「……何者だ」
「言わずとも分かるだろう?その手に刻まれた令呪が何を意味するのか知らぬわけでもあるまい」
「……サーヴァントか。余の命を狩りに来たのだな」
「我がマスターが睨んだ通り……冥界に江戸城の在る理由が貴様だったわけだ」

 男――アサシンは、懐からナイフを取り出す。将軍を暗殺する凶刃だ。
 アサシンと対峙していた茂茂は、すぐさま桶に隠していたクナイをアサシンに向かって投げる。
 幼い頃の伊賀忍者との交流でクナイの投げ方を教わっていただけあり、真っ直ぐにアサシンへと向かっていく。
 丸腰だからと油断していたアサシンは思わずクナイをナイフで払い落すが、その時には茂茂の姿は風呂場からなくなっていた。









「キャアアアアアッ!?」

 女中の悲鳴が江戸城内に木霊する。そこには、ブリーフだけを身に付けてタッタッっと裸足を床に弾ませて全力で走る変質者――否、茂茂の姿があった。
 茂茂はアサシンから逃げる際に服を着る暇もなく、やむを得ずにもっさりとしたブリーフのみを履いて風呂場から退避していたのだ。
 下着姿で城を走り回る男に城の者達は驚愕するのであった。

「フンッ!」

 このまま見られていては不味いと思い、城の窓から飛び降りる。
 幸い高度が高くなかったのと付近に木があったおかげで葉をクッションにして無傷のまま降りることができた。
 そのまま走って塀を超え、公園としても利用されている江戸城の外苑に出る。

「……!」

 背後から風を切る感覚がして、咄嗟にブリーフから取り出したクナイで飛んできたナイフを弾くが、そのクナイも茂茂の手から離れてしまう。
 飛んできた方角を見ると、アサシンとそのマスターらしき男が茂茂を見据えて立っていた。

「へへ……やはり将軍かよぉ。ここに江戸城なんて立ってるのがおかしいと思ってたんだ」
「その様子ではサーヴァントすら召喚していない様子。ましてや下着しかない貴様の装備で何ができる?」

 眼前の主従は、身一つで佇む将軍を見る。
 アサシンとそのマスターは、勝ちを確信したのか口元に笑みを作っていた。
 確かに彼らの言うとおりだ。敵に対して茂茂はマスターの守りもなく、装備もブリーフに隠していたクナイ以外にない。
 そのクナイも先ほどの一撃で弾かれ、手の届かない場所にある。まさに裸一貫と言ってもいい。

「そちの言う通りだな。これではもはや勝負にもならぬだろう」

 状況は絶望的。

「……だが」

 それでも。

「――余は……私は、だからと言って戦うことをやめてはならぬのだ」

 茂茂はここで、諦めるわけにはいかなかった。
 茂茂は知っている。自分のために、命を捨てることも厭わずに戦ってくれた者達を。
 茂茂は覚えている。将軍の家来としてではなく、茂茂の友として自分を守るために身体を張った親愛なるダチ公達を。
 茂茂は目に焼き付けている。己の信念に基づき守るべきものを守ろうとした、誇り高き侍達の姿を。

「今も、ダチ公達は現世で戦っていることだろう。私のために散っていった命もある。それを裏切ることなど……この徳川茂茂には到底できぬ!!」

 茂茂は数多の命を背負っている。今も生きている者達も、死んでいった者達も。
 ここで諦めてしまえば、生者にも死者にも顔向けができない、"茂茂ですらない"ものになってしまう。
 少なくとも、今の茂茂はまだ生きている。生きているということは、抗うことができると
いうことだ。

「フン……ブリーフだけの殿様モドキが何を言ってやがる。やれ、アサシン!!」
「来い!たとえ刀がなくともこの将軍の首、簡単に討ち取らせはしない!!」

 茂茂は次に来るアサシンの攻撃に身構え、腰を低く据え出方を伺う。まずは、手放してしまったクナイを拾わなければいけないところだ。
 そして、何かの合図かのように風が揺れ、外苑の草木が震える。アサシンがこの身を狙いに来たかと感覚を研ぎ澄ませるが、眼前の主従は一歩たりとも動いていなかった。
 それどころか、茂茂の方を見て驚愕していた。

「何だ……!?」

 肌を撫でる風は徐々に風圧を増していく。これは、アサシンによるものではない。それとは比べ物にならない何かだ。
 そしてそれは、茂茂の背後で発生している。
 茂茂も、並々ならぬ気配を感じ、敵を前にして思わず振り向いてしまう。
 そのまま、敵と同じように目を見開いてしまった。
 なぜなら、そこに何もないはずの空間が切り裂かれていたのだから。そして、その裂け目からは紫の稲妻が眩く光り広がり、万物を揺るがさんが如き轟音を伴いながら、薙刀を握った女性が堂々とした歩みで出で来たのだ。

「――あなたが、私のマスターですか?」
「そなたは……」

 僅かに雷を纏ったままの女性は、歩みを止めずに茂茂の隣に立つ。紫を基調とした着物を着た、美しい女性だった。
 呆気にとられていた茂茂は、ただ問うた。
 それに、女性は澄み渡るような声を響かせる。

「私はサーヴァントとして召喚に応じた――稲妻幕府の将軍にして雷神です。雷電将軍、とでも名乗っておきましょうか」

 たった今召喚された、徳川茂茂のサーヴァント。それはテイワット大陸における俗世の七執政の一人であり、「永遠」の国・稲妻に雷元素を司る神として君臨していた雷電将軍だった。





「「しょ……」」




「「将軍かよォォォォォォォォォ!!」」




.


 アサシンとそのマスターの驚愕の声が木霊した。

「なんてことだ……こんな時に召喚されちまうなんて……!」
「このまま畳み掛ける!マスターさえ殺ればどうとでもなる!」

 茂茂の召喚した雷電将軍のステータスにアサシンの主従は圧倒されるも、アサシンは慣れないうちに潰そうとすぐさま動き出す。

「すまぬ、召喚して早々だが奴らから襲撃を受けていた。助勢を頼みたい!」
「承知しました」

 雷電将軍は快諾すると、薙刀を軽く振るって茂茂に向かって投げられたナイフを軽々とはたき落とす。
 しかしそれは陽動で、目に捕らえられぬ俊足で茂茂の背後を取ったアサシンが彼を葬ろうとする。

「見えています」

 それを雷電将軍は既に察知しており、位置を入れ替えるように茂茂の手を引いて下がらせ、前に出る勢いのまま薙刀の柄でアサシンの鳩尾を突き大きく怯ませる。

「裁きの雷!」

 そのまま、雷電将軍はアサシンに向けて片手を振るう。
 すると、彼女の手になぞられた空間に裂け目が入り、やがてそれは禍々しい眼を形作って開かれていく。
 神変・悪曜開眼――雷神の権能の一つを展開する元素スキルだ。その証拠に、雷電将軍の髪は雷元素を象徴する色である紫の色に発光していた。

「チッ……令呪によって命ずる!――」

 アサシンの身体はあわや空間に開かれた眼に肉体を押し退けられ、そのまま両断されるところであったが、そのマスターが令呪を使い自身の元に戻したことで難を逃れる。
 そこで茂茂は、アサシンが距離を取ったのを見計らって咄嗟に動き、落ちていたクナイをアサシンに投げつける。
 しかし、彼の投げたクナイはアサシンによってあっけなく弾かれてしまう――が。

「……な――」

 直後、ザシュ、という斬撃音と共にアサシンの首が刎ねられていた。
 茂茂もアサシンのマスターも、呆然としながらその光景を眺めていた。
 消滅していくアサシンの首と胴体の切断面には、紫電の残滓と焦げ跡が残っていた。

「我が手眼の前に逃げ道はありませんよ?」

 雷電将軍の頭上にはあの禍々しい眼が追従しており、アサシンの主従をずっと凝視していた。スキルによって授けられた「雷罰悪曜の眼」の前では、間合いの差など意味をなさなかった。

「あ……ああ……うわあああああっ!!」

 アサシンのマスターは自身のサーヴァントが消滅した事実を受け入れられず、背中を向けて逃げ始める。
 悲鳴を上げながら走り去っていくその後ろ姿は、江戸城外苑の闇の中に消えていった。

「さて……ご無事ですか、マスター?」
「あ、ああ。おかげで無傷で済んだ。助かった……セイバー、でいいのか?」

 襲い来た主従を撃退し、礼を言おうとする茂茂だったが、雷電将軍のステータスを見て戸惑ってしまう。
 そのクラスは、セイバー。しかし、薙刀は剣か槍かで言えば――。

「確かにこの薙刀も私の宝具で愛用の薙刀ですが、本当の宝具は別にあります。ふふ、確かに勘違いされてしまいますね」

 茂茂に微笑みかける雷電将軍。
 その様子は先ほどとは打って変わって、穏やかな様子で語りかけていた。
 例えるならば、戦闘中は先陣を切る凛々しい女武将といった感じだが、今の雷電将軍は桜の似合う温和な和装美人といった感じだ。

「では、改めて。セイバー、真名を雷電影(らいでん えい)。あなたのサーヴァントとして馳せ参じました」
「江戸幕府第14代征夷大将軍、徳川茂茂だ。異国の将軍に巡り合えるとは何とも縁を感じるな。よろしく頼む」

 改めて自己紹介し合う茂茂と、雷電将軍――もとい、雷電影。
 茂茂は、葬者として呼ばれて暫く、ようやく主従になれたのであった。

「あの城が私の今の住居だ。とにかく、あそこに戻ってから今後のことを練るとしよう」
「その、マスター。先ほどから少し気になっていたんですが……」
「どうした?」

 江戸城に戻ろうとする茂茂を、影はまじまじと見つめながら言う。

「どうしてマスターは、ほとんど裸なのでしょうか?その下着は一体何なのでしょうか?」
「……」

 茂茂は、ここに至るまでずっとブリーフ一丁だったことを思い出す。

「……話せば長くなる。将軍家は代々、下着はもっさりブリーフ派だ」
「そうなのですか!?じゃあ先代雷電将軍の眞は……」
「いやそっちの将軍家じゃなくて……」









 冥界の東京で放送されている昼下がりのニュース番組では、茂茂が報道陣に対しコメントする姿が映し出されている。
 最近相次いで発生する痛ましい事件を悔やむという内容で、トピックは『上様、相次ぐ死傷者発生にお悔やみの言葉』というタイトルだ。
 その続きでは、「今日の将ちゃん」というコーナーに移り、日常の何気ない茂茂の様子が放映されていた。

「……どうやら、うまくやれているようだな」

 二十三区某所ビルの屋上で、商業施設の大スクリーンのテレビに映っている自分の姿を眺めながら、茂茂は呟いた。
 江戸城ではいつも纏っている模様の入った装束ではなく、世を忍んで庶民の髪結床や水練を覗きに行った時のような和服と頭巾を身に付けている。

「マスターに合わせるよう設定していますから。役割は完璧にこなせますよ」

 茂茂の隣に立つ影は言う。
 テレビに映っているのは、影が道具作成スキルで制作した、人形――茂茂の影武者だ。
 かつて寿命の概念がない人形の制作を研究していた影は人間と見分けのつかない人形を制作でき、さらに後付けの人格も付与できる。
 その人形は茂茂も見たが、どこまでも茂茂と変わらぬ精巧な造りで、外見どころか人の目に付かない部分や精神的な面もほぼ同じだった。

「これで『徳川茂茂はマスターではない』と葬者達も察してくれるといいのだが……」
「戦いが本格化して、それでもなお江戸城に立つマスターの”影”が活動を変えないのであれば、それもあり得るでしょう」

 茂茂がここにいるのは、世間の目を欺くためではなく、江戸城で働く家臣達を聖杯戦争に巻き込まないためだ。
 たとえ仮初めのNPCであろうと、茂茂に尽くしてくれた者達だ。その命を無下に扱いたくはない。
 また、これで役職に縛られることなく活動できる面もあるため、これからは将軍ではなく"ただの茂茂"として聖杯戦争を戦うことができるだろう。

 また、できることなら専守防衛に徹し、同盟を組む可能性も模索していきたいところだ。
 ここで自分に嘘をつき、手段を選ばない修羅となり果ててしまえば、結局のところ戦いから逃げたも同じだ。
 そのまま帰ったとしても、それでは侍として死んだのと何も変わらない。
 志を同じにする葬者達とも、協力して冥界から生還する方策を探っていきたい。
 信念を貫けるのは、茂茂が生きている間だけなのだから。


「……セイバー」
「なんでしょう、マスター?」
「『茂茂』がいい」
「……?」
「『マスター』ではなく、『茂茂』と呼んでほしい」

 茂茂は、今にも蜘蛛の糸が垂れさがって来そうな澄み渡った空を見上げて呟く。

「――セイバーが来てくれてから、改めて私が何を願っているのか考えてみた」

 茂茂の目的は、確かに生還ではある。
 戦うことを決めた理由も、自分のために戦ってくれた者達の尽力を無かったことにしないためだ。
 だがそれは、茂茂が背負った願いだ。茂茂自身がなぜ生きたいのか、その答えは出ていなかった。

「サーヴァントとマスター、従者と主君。聖杯戦争では、確かにサーヴァントがマスターのために剣を振るうのだろう。だが私が生前に見た者達は、少なくとも私の"サーヴァント"ではなかった。
 彼らは、あくまで友のために戦っていたのだ。彼らにマスターがいるとすれば――己の心の中に持つ、美しいと思える自分の在り方であろう」

 なぜ生きたいのか。
 影が自分のために武器を振るう姿を見て、影が自身をマスターと呼ぶのを見て、少しだけ分かった気がする。

「セイバー。サーヴァントではなく、私の"ダチ公"になってくれないか。ダチ公のために、その剣を振るってほしい。そなたの心にある主君のための侍でいてほしい」
「ダチ公……とは?」
「一言で言えば、友のことだ」

――茂茂がいい。そう呼び合える時代に、再び会おう。

「私は、生きたいのだ。ダチ公達に茂茂と呼ばれる時代を、共に生きてみたいのだ」

 今も心に残るダチ公達に思いを馳せながら、茂茂は言った。

「ダチ公、ですか。ふふ……いい響きですね。嫌いではないです」

 影は茂茂と、その背後に連なる侍達を見据える。
 その者達の心の放つ輝きは、かつて目の当たりにした光景に似ていた。
 旅人との戦いで見た、人々の願いの輝きが旅人に力を与えた景色を、影は英霊となった今でも覚えている。
 きっと、侍達が己が心に持つ主君とは、彼らの「願い」に通ずるのだろう。

「茂茂。あなたの国の侍は、皆強い者達ばかりのようですね。喪うものがあっても、己を見失わず歩みを止めない――彼らなら、「永遠」を紡いでいくのも不可能ではないのかもしれません」
「ならば、セイバーの国の民もきっと強い侍なのだろうな。それも、一国の神の考えを変えるほどに」
「……知っているのですね」
「ああ、先日の夢で垣間見た。……セイバーが多くの親しき者と死別したことも」

 影は失うものの大きさを恐れて、塞ぎこんでいた時期がある。
 先代雷神である姉や数多くの友人、大勢の稲妻の民の死――大切にしていたものが時を経るごとに「摩耗」していくことを痛感し、不変の「永遠」を追求すると心に決めたはずだったのに。
 影が人形の研究に身をやつし、一心浄土に閉じこもっている間にも人々は変わり続けていた。そして、鎖国や目狩り令を敷いた状況にあっても、民の願いの星々は眩いほどに光り輝いていた。
 影は認めざるを得なくなったのだ。無想ではなく、姉の見た「夢想」を。
 人間の「願い」を生じさせる原動力が、刹那を紡いで未来へと進んでいくこともまた、一種の「永遠」なのだと。

「茂茂は怖くないのですか?時が経てば経つほど、失うものは多くなっていきます。とりわけ聖杯戦争のような戦場であれば、一瞬にして崩れ去ることもあり得るでしょう。自分の命ですら例外ではありません」
「勿論のこと怖いさ。だが、それ以上に楽しみでならないのだ。夢にまで見た未来が現実になる、その時が」
「そのためにも、現実から目を逸らさず、進むことも止めないと」
「ああ。未来の私の国で、"ただの茂茂"としてダチ公と笑い合える日が来るのなら」

 それを聞いて、影は笑みを零した。

「……分かりました。――茂茂。ダチ公の雷電影として、あなたと共に戦いましょう」

 影は茂茂の願いと夢想の強さをその霊基に感じ取りながら、誓う。
 サーヴァントである前に、一人の友人として茂茂のために戦うのも、悪くないと思った。










 余談だが、江戸城周辺にパンツ一丁の変質者が出没したとの情報が寄せられ、注意喚起が為されたのは、また別のお話。

【CLASS】
セイバー

【真名】
雷電影@原神

【ステータス】
筋力A 耐久B 敏捷B 魔力EX 幸運C 宝具EX

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。

騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
俗世の七執政(雷):EX
バアルゼブル。テイワットにおける俗世の七執政が一柱であり、「永遠」の国・稲妻を治める雷を司る雷神。
稲妻幕府の頂点である「雷電将軍」として稲妻に君臨しており、その権能は嵐で国を閉ざすことすら可能にする。稲妻の民からは絶大な信仰と信頼を寄せられていた。
その神性の所以たるスキルで、Aランク相当のカリスマ、魔力放出(雷)およびA++ランク相当の神性スキルを内包している他、雷に由来する能力をすべて無効化する。
単に稲妻を治めていただけでなく、稲妻の武術および鍛冶技術の開祖でもあり、稲妻の歴史において欠かせない存在である。

無窮の武練:A+
あらゆる稲妻の武術における源流であり、ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。

道具作成:C+
魔力を帯びた器具を作成できる。
雷電影の場合、鍛冶に特化しており、武器・防具類および人形の作成以外は最低限にとどまる。
彼女の制作した人形は独自の自我を持ち、姿形も模した人物と変わりない。影武者として運用可能。

神変・悪曜開眼:A
種別:対人奥義 最大捕捉:5人
雷神の権能の一。
雷電影の意識空間「一心浄土」の一角を展開、自身と味方に雷罰悪曜の眼を授け、眷属に加護を与え敵に雷罰を下すことができる。
その性質上、雷罰悪曜の眼が届く範囲であれば雷による斬撃が自動で入る上に、
味方にサーヴァントがいれば消費する魔力の量に応じて、そのサーヴァントの宝具のランクを上昇させる。

【宝具】
『草薙の稲光』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:10
影が普段より使用する紫電を帯びた薙刀。
武器威力に対してこの宝具を使用した際の魔力消費は格段に少なく、魔力の変換効率が抜群に良い。
たとえマスターの魔力が心許ない状態でも、魔力放出(雷)で強化した上で十全の能力を発揮できるだろう。
その武器種から、ランサーと勘違いされることが多い。

『夢想の一心』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:1000
「無想」を捨て、人々の「夢想」を背負うようになった雷電影の切り札たる愛刀。
影自身と、影に託した味方全員の願いの力の総量が強ければ強いほど、その威力が増していく。
そして諸願百目の願力を尽くし繰り出される『夢想の一太刀』は、すべての呪詛を切り裂く必殺の太刀となるであろう。
さらに願力の蓄積した夢想の一心は振るたびに味方に活力の源たる魔力を還元し、願いを叶える原動力となる。
厳密には元々は影のものではなく、影の姉である雷電眞が神威を用いて創造した刀。
眞の死後、影の手に渡ってからは数多くの敵を切り伏せる刀となった。
かつて影は摩耗を避けるべく、自分の神体をに制御させ、自身の意識は夢想の一心に宿して数百年間一心浄土で瞑想していた過去を持つ。

【weapon】
『草薙の稲光』
『夢想の一心』

【人物背景】
雷電影(らいでん えい)。
「永遠」の国稲妻を統べる、現雷神にして永遠を追求する神。武神の側面もあり、雷電将軍、御建鳴神主尊大御所とも呼称される。
その正体は先代雷神であり双子の姉でもある雷電眞(らいでん まこと)の影武者で、眞の死亡によりその地位を極秘裏に継承した。
先代雷神や数々の同胞を喪ったことをきっかけに摩耗を恐れ、不変の永遠を追求するようになっていった。
しかし、旅人との戦いや交流を経て、人々の願いの輝きを垣間見たことで、時が移り変わり儚き瞬間が紡がれていく中に新たな永遠を見出した。

セイバーの他にもランサー、キャスターの適性があり、ランサーの場合は夢想の一心の威力が抑えられる代わりに目狩り令による宝具封印が可能になり、キャスターで召喚された場合は人形制作に特化した性能になる。
かつて影は悠久の時の中で摩耗していくことへの懸念から、寿命の限界を超えて稲妻を永遠に庇護するために人形を制作していた。
最終的に影自身の神体を基に自律人形を制作し、「一心浄土」に閉じこもる影に代わって稲妻の統治や防衛システムを担わせていた。
他方、その研究の過程で生まれた試作品の人形からは、拗れた感情を抱かれている。

【サーヴァントとしての願い】
マスター茂茂のサーヴァントではなく、「ダチ公」として共に戦う。

【マスターへの態度】
同志でありダチ公。


【マスター】
徳川茂茂@銀魂

【マスターとしての願い】
生還し、ダチ公に茂茂と呼ばれる時代を生きる

【能力・技能】
  • 江戸幕府第14代征夷大将軍
傀儡政権とはいえ江戸幕府征夷大将軍であり、「将軍」の名に恥じないカリスマと、国と民を想う心を持っている。

  • クナイ
御庭番衆に身を寄せていた時にクナイの投げ方を教わっており、その精度も高い。

【人物背景】
江戸幕府第14代征夷大将軍。将軍のため、通称は「将ちゃん」。
自身の暗殺未遂に端を発する動乱で将軍の座を追われながら生き抜き、ダチ公達と名前で呼び合える時代での再開を約束するも、
京にて幼馴染の毒針の手にかかり、妹の前でただの茂茂として静かに息を引き取った。

【方針】
専守防衛に徹し、可能であれば同盟の道も模索する。

【サーヴァントへの態度】
ダチ公であり一人の侍。

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最終更新:2024年05月28日 23:28